番宣

 映画の番宣として主役と敵のライバル役、

 そしてヒロインが出ることになった。

 

 今回はバラエティー番組だ。

 芸人さんとも絡みがある。


(本当に有名になったもんだよ)


 女性だったら、こんな風にもてはやされたのだろうか。

(いや、もっと早くに枕営業をさせられていたのかもな)


 前世の女性では、枕営業の話は入ってこなかった。


 女性は良くも悪くも商品扱いされるだからだ。


 若い時はちやほやされ丁寧に扱われる代わりに

 年齢が上がるにつれてぞんざいに扱われがちだ。


(ときにその扱いは男性でさえ同情するものがある)


 商品は選択権を持たない。

 反抗するような人ならば知らせない方が扱いやすい。


(失礼な話だが、それをわかって女性は入ってくるのだろう)

 意識的にか、無意識的にかはわからないが。


 しかし、男性に生まれてみて、活躍すればするほどに

 あれやこれの話が入ってくる。


(こんなにも多いものなのか)

 

 事務所のスキャンダルが発覚したことで

 業界自体はだいぶ落ち着いたものの、

 まだまだ裏で話はあるのだろう。


 働きやすい環境にしてくれている社長に感謝しかない。


「芸人さんのノリは苦手だな」

 渋い顔がバッグミラーに移っているのだろう。

 運転席から注意される。

「表に出さないでくださいね」

 マネージャー補佐から厳しい指摘をいただく。

「わかっている」

「今日は魚のお弁当だそうですよ、頑張ってください」

「このテレビ局のお弁当はおいしいんだよな」

 嫌な仕事でも食事が好きなものだと乗り切れるものである。


 そして今回はひとりではない分、心強い。


「行きますよ~」

「遅いですよ、佐々木君」

 こうして、

 主役級の二人とともに現場に入っていったのだった。


 ☆☆☆


「やっと終わったぁ」

 長丁場だった。2時間分の収録をしてきた。

 今は、すべてが終わり車で揺られている最中である。


 収録内容とはバラエティー番組特有の企画でドラマにちなんだゲームをした。

 俳優チームと芸人チームに分かれて対決だった。

「番組ですから」

 ゲームで負けてしまったから仕方ない。

「ワサビ目いっぱい入れた寿司を食べる羽目になるわ、殴られるわ」

「お疲れさまでした」


「やっぱり年下に殴られるのは気分いいものじゃないな」

「そういうゲームですから」


「確かにな」

 平岩さんはガサゴソと助手席付近を弄っている。

「今の番組、ゴールデンタイムに流れるようですね」

「情けない姿をさらしてしまった……」

「三枚目で売っているから大丈夫ではないかと」

「番宣は成功でいいよな」

「はい。もちろんです」


「ならよかった」


「これから、事務所に向かいます」

「なんで?」


「これから忘年会ですよ」

 そう。映画がクランクアップしたらもう年の瀬だ。


 だから事務所総出で忘年会というわけである。

 これまでも日程が合えば参加していたが、去年は参加できなかった。


(社長が発案だろうから変な写真は撮られないだろうけれど、大丈夫なのかな)


 いつも険しい表情を受けべる平岩さんも今日は上機嫌だ。


 マネージャー補佐の業務は性に合わず、ストレスがたまるのだろう。

(どこまでも運転手だからお酒飲めないんだよな)


 平岩さんには観光地までドライブしてもらうのが、

 一番のストレス発散になるのだと思う。

「平岩さん、今度ドライブに行かれてはどうですか?」


「そうしますとも。

 次の休みには家内とドライブの約束をしているので、

 変なトラブルは起こさないでくださいね」

 ドライブは彼の中で決定しているようだ。


「わかった」

 言うまでもなく、休日に呼び出された件を根に持っている。

「問題は起こしませんよ」


 これからスーツに着替えてもうひと仕事だ。

 酒が少しなら窘めるかもしれない。


「楽しめそうだ」

「羽目を外しすぎるのは」

「「厳禁」」

 2人声をそろえてここにはいないマネージャーの口癖を言う。

「では参りましょう」

 事務所の専用駐車場へと止めることになった。


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