ライバルの行方

 古巣の事務所の事件はマスコミ各社も大々的に報道した。

 マネージャーはこれからの影響を心配している。


「佐々木君の評判に傷がつかないといいんですけれど」

「多少週刊誌で触れられるかもしれませんが、大丈夫ですよ。

 ほんの少しだけSNSで騒がれるぐらいですよ」


 確かにSNSで心配の声が上がっている。


『佐々木さんは何も知らないよね』

『知ってそうにない』

『やっぱり移籍しておいて正解だったね』

『知っているわけないじゃない。もう何年も前のことなんだし』

『知っているとか、ありえないって』


 ありえないには少々傷つくが、

 正直仕事が忙しくてそういう話には関われなかった。


 当たらずとも遠からずな現状をファンも

 知っていると思うと少々情けなくもある。


「マネージャー、神宮寺って何をしているのかご存じですか」

「あなたと同時期に売れていた子でしょ? 

 スキャンダル以降、話は聞かないわね」


「やっぱりそうですか」

 ドライバーの平岩さんが口を開く。

 平岩さんはマネージャー補佐として、

 よくついてくるようになった。


「僭越ながら、私は知っています」

「え? 本当ですか?」

「ええ。ドライバー仲間です」

 ドライバーとして勤務しているらしく、

 話をすることもあるのだという。


「ハル事務所にいるとか」

「聞いたことのない事務所名だな」

「声優専門の事務所らしいので、知名度はないのだとか。

 まだ役者をやりたいと思って運転の業界でバイトしているのだとか」


 確かに運転士不足解消のために融通を聞かせる会社も出てきているようだ。


 それならば、きちんと両立できるはずだ。


 事務所の知名度がないなら名前を聞かないのも当たり前だ。


「元気ならそれでいいですよ」


 ☆☆☆

 噂をした翌日に、共演した収録現場で一緒だった子と話題になった。


 前にもクロデミ―賞で一緒になった子だ。

(確か名前は――華原ゆいだったか)

「神宮寺君って同じ時期に入りましたよね」


「ええ」


「今うちの事務所に移籍話があって、

 このドラマが終わったら移籍するんですって」


「そうなんですね。色々あって連絡取れなくって」

 写真を撮られた彼女と結婚してからも頑張っているらしい。


(またキャラかぶるかねぇ)

 もう既婚になったのだから比較はされないだろうか。

 ライバルはちゃっかりこの業界の近くにはいた。


 ☆☆☆


 端役として彼と一緒に出ることになった。

「もう先輩ですから敬語で話しますね」


「そうか。共演している時は一緒に作品を作る仲間だから

 敬語はやめてほしいな」


「わかりました。では、共演している期間だけ」


「神宮寺は、主力はなんなんだ?」

 なんとなく気まずそうな顔をしている。

「強いているなら声優ですかね。写真を撮られてからというもの、

 姿を現す仕事はできなくなりまして」


 敬語はやめてほしいといったのに、やめるつもりはないようだ。

「すごいじゃないですか。

 クロデミ―賞を受賞だなんて。

 今回の作品も力作になるんじゃないかってスタッフも話していますよ」

「神宮寺も移籍すrんだろ」

「このドラマの出来が良ければという話をもらっています」

「そうか。うまくいくといいな」

「はい」

(やはり後ろ姿が似ている。キャラかぶりするかもな)

 視聴率は良いかもしれない。

 しかし、俺のこの人気は独身でスキャンダルがないから

 というもの理解している。


(いつまでこのキャラでいるかなぁ。

 30過ぎたら既婚の方がうけがいいんだろうな)


 周囲の人気を気にする自分は、

 やはり一般人からかけ離れてしまったようだ。


 色々な経験をお互いにしてきたからこそ、共演が楽しみだ。

 できることをやるだけだ。


 今回のドラマは夜放送される。


 神宮寺の配役と敵対して、こちらが勝つというストーリーだった。

 きちんと役を全うできるように台本を読み込んでいく。


「はい、本番始まります」

「今、行きます」

 今度は完全にプロとしてライバルに向かい合う。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る