古巣の事件

 クロデミ―賞を受賞してからというもの、

 メディアへの露出がとても増えてきている。

 

 映画ももちろんのこと、主演俳優として注目されている。


 いつの間にか、事務所の出世頭になっていた。

 

 こんなにも注目を浴びることになるとは思わず、

 かなり話題になったらしい。

 

 新聞にもSNSにもトレンドとして大々的に載るようになった。

(ありえないほどに注目されているな。これがバズるというやつか)

 

 ドラマや映画の撮影をしたりや宣伝したりとバタバタしているうちに 

 移籍から2年がたとうとしていた。


「ん? 社長から電話? 珍し」


『君、前の事務所と連絡を取り合ってはいないだろうね』

 珍しく慌てているようで、すごく早口になっている。


「取り合ってはいないですね。

 前に連絡が来たのはこの事務所に入って三か月ぐらいだったかな。

 それからは連絡もしていませんし、とりあってもいませんよ」


『君の会社の社長と社員が逮捕されるそうなんだ』


「えっ? 誰です?」


『荻野社長と安藤という社員だ。

 売春での逮捕だそうだ。君は知らないんだね』


「はい。まったく」


『よかったよ。これで私は堂々と身の潔白を話せる』

「はい。心配には及びません」

『事務所含め家宅捜索出そうだ」

「そうなんですね」


『君にも事情を聞かれるかもしれない。その時は素直に答えてくれたまえ』

「そんなときはこないと思いますけれども」


 これからもその調子で頼むと言い残して

 社長の電話は切れてしまった。


 根回しとかいろいろ忙しいらしい。

 売春とは未成年の子を斡旋していたようだ。


 安藤先輩ならやりかねないから、

 庇えないのが痛い。


「やめてからずいぶん経つのに事情聴取とかありえないでしょ」


 と思っていたら警察から事情聴取に応じてほしいと電話が来た。

「警察署に行くんですか」


「確認を各所に取っておりまして、ぜひご協力いただきたくご連絡いたしました」

 丁寧に案内される。

 しかし、今はドラマの撮影をしている。


 マネージャーにも目配せをして調べてもらう。


「えっと、3週間後の水曜なら空いていますが」

「よろしく頼みます。お忙しいとは思うのですが、ご足労下さい」

「はい」


 ☆☆☆


 警察署に行ってみると、新人の部類なのだろう好青年が対応してくれた。

 警察に入って3年未満という感じはあった。

 

 簡単に素性と関係性をきかれ、

 以前のことをなるべく詳しく話すように言われる。


「前の記憶なのでどこまで続いていたのかわからないですけど、

 安藤先輩はよく女の子の飲み会をセッティングしてましたね。

 勿論そこにいたのはどこも事務所に入っていて18歳以上だとは思います」


「そうですか。未成年の方もいたということは?」


「それは……わからないですね。

 先輩ということもありましたし言及したことはありません」


「ほかにも知っていそうな方をご存じですか?」


「社長のことは分かりませんが、

 安藤先輩と同期の方なら何か知っているのではないでしょうか」


「そうでしたか。情報ありがとうございます。

 お伺いしたがったのは以上です。

 ご協力ありがとうございます!」


 敬礼をされ、低調に送ってくれたが、不満はある。


(これで一か月ぶりの休みはパーだ。帰って寝よう)


 移動するにも人目が気になるので、

 また送迎してもらうことにした。


 平岩さんには、後日何かおごっておこう。

 これでまたしばらく休日はないのだ。


(荻野社長が逮捕となると、会社はきっと解体だよなぁ。

 有望株を引き入れる抗争があるだろうな)

 

 引き入れたい奴はライバルくらいなものだが、

 あれからどうしたものか。

 この業界で名前を聞かなくなって久しい。

 

 引退したのだろうか。

(まぁ、もう連絡手段もないしな)

 

 謹慎とともに連絡先をかえたようで

 こちらからのコンタクトができないのだった。


(他に誰かいるのかねぇ)

 考えても行動できないことを

 ツラツラと思いながら車に揺られていた。


 

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