対策後

 マネージャーから連絡が来たのは2週間後のこと。

「長い休みもこれで終わりだといいな」

 長い休みを満喫して漫画やゲームも一通り満足するまででやり切った。


 事務所に向かうとマネージャーと社長がいた。

 社長が難しい顔をしながら話し始めた。


「君の魅力を過小評価していた。

 これからは送り迎えをしようと思う。

 その分、自由に飲みはできなくなるが。

 変な言いがかりは減るし、きちんとストーカーまがいのファンからも

 身を守れるだろう」


(付け焼刃かもしれないが、実際にできることはこのくらいだよな)


「わかりました。

 事務所の信頼できる先輩と後輩で

 自宅で飲みができればいいかと思います」


 マネージャーはほっとした表情で口を開く。


「助かるわ。

 正直言ってこんなことは初めてだから

 これといった対策を設けるのに時間がかかったわ。申し訳ありません」


「いいえ、こちらとしても有意義な時間を過ごせましたのでお気遣いなく」


「では、運転手の平岩。マネージャーは私で担当させていただきます」


「運転手の平岩です。何なりとお申し付けください」


 執事のような風貌の平岩さんだ。丁寧で優しい印象を受けた。


「さてと、あとは効果があるかわからないけれども、

 WEBで注意喚起するくらいか」


「これはやってみないとわかりませんよね」


 社長とマネージャーが話しているので肯定してみる。


「確かに。やってみる価値はあるかと思います」


 その日はこれで解散になった。


 事務所の招集があった翌日、

 事務所のホームページでファンへ向けて

 『ストーカーまがいの行為は俳優本人の負担になっている。

 遠くの方から見守ってくれると幸いです』という文言を掲載したのだ。


 この掲示を見た俺は思わずつぶやいてしまう。

「ネットの効果はすごいな」


 ネットでストーカー対策をしてくれてから

 被害は沈静化している。


 事務所がネットを使って俺に限らず、

 ストーカーまがいのことはやめるように言ってくれたのも効果的だったが、

 SNSでファンが動いてくれたのも大きい。


 応援している人が活動しにくくならないように呼びかけしてくれたのだ。

『そんなことするなんてファン失格』

『節度ある行動をしないと推せなくなっちゃう』


 これには社長もマネージャーも驚いている。


 ☆☆☆

 移動中の車の中で、最近の効果を話してくれるマネージャー。


「こんな効果もあるのね」


「俺のファンだから素行がいいって効果はあるかと思いますんで、

 他の人へも同様にいくかどうかはわかりませんよ」


「そうね。佐々木君は素朴な感じだものね。肝に銘じておくわ」

 ここで、平岩さんが話に加わる。

「運転手アリは変わらず継続ですかな?」


「そうね。一応運転手の契約期間のうちはこのままでいきましょう」

「さようですか。ああ、今日から撮影でしたね」


「ええ。しばらくは地方への撮影だそうよ。

 運転手兼マネージャーとしても頼んだわよ」


 今回はマネージャーは事務所の周辺からは離れられない。

 社長の秘書も兼ねているから当然といえば当然だ。


「運転手はともかくマネージャーとしては最低限しか動きませんので」

「わかりました。自分で何とかします」


「二人とも何かあったら連絡して頂戴ね」


「圏外な場所でなければいいんですが」

「確かに。それでは」


 ☆☆☆


 今回の作品でクロデミーショーにノミネートしてもらうかどうか

 決まる大切なものだ。

 

 監督も気合が入りまくりだ。

 

 これからの撮影が大変そうだ。

「気合を入れていくぞ」

 

 俺ら主演の役者にとっても監督にとっても

 評価の別れるものだから必然的に熱も入るし

 細かいNGも見逃さない。


「もう一度だ」

(ヒットするように祈るしかないな)


 これでそれほど人気がなかったら監督の評判を落とすことになりかねない。


(しかし強風の中、外で薄着で待機はやめてほしいよな。

 もっと有名になったら待遇を変えてほしいな。……寒い)


 これは共演者みんなが思っていたことだろう。


 かくして過酷な日々が幕を開けたのだった。


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