第17話 エゴサーチ

 休みの命令が出てから、半日以上寝てしまった。

 これまで働き詰めだったから、

 自宅の布団の上で横になるなんてとても久しぶりだ。


 いつも自宅の玄関先で気絶するように寝ていたり、

 廊下で力尽きてしまって寝てしまったりしている。


 柔らかい布団で寝ることができて

 幾分かスッキリした頭で考えられるようにはなってきた。


 コーヒーを飲みながら状況を整理していく。

「俺は落ち度はないはずだ」


 不満と怒りがわいてきた。

 ただ必死に演技をしていただけなのに。

 

 どうして謹慎に近い処遇になっているのだろうか。

 SNSでの評判はどうなっているのだろう。


 すぐに自分の名前を検索欄に入れて、検索にかける。


『主演なんてすごいじゃないか』

『応援している』

『あの演技はかっこいい』

『もうガチ恋しちゃう』

『事務所がどこだろうと演技を極めてくれたらそれでいいんじゃないか』

『そうそう。ファンとしては元気に芝居してくれる方が何倍もうれしい』

 などなど恋愛につながりそうな言葉もあるが、

 批判は少なくなって賞賛のほうが全体的に多くなっていた。


「半年ぐらいで評価が変わるもんか」


 ライバルがいたときには批判的な声も多かったが、ネットでは掌返しがすごい。

「脇役に降格させてもらって様子を見ようか」


 このまま主演路線では何かとストーカー被害にあいそうで

 男といえど、若干怖い。

(こういう時女子ならどうしていただろう?)


 転生前の記憶も年齢とともに忘れ始めている。


 こんなストーカーレベルのことなんてよくあったはずだったのに。

 詳細な防衛方法を忘れている。


 きちんと佐々木隆太としての人生を歩んでいる。


(これからは過去ではなく自分で判断していかないといけないってわけか)


 転生前のアイドル時代では自衛策をとっていたのだろうが、


 男となった今では別の対策が必要だということだろう。


 今の法律では女性に悲鳴をあげられたら男性側が不利になる風潮がある。


 過去からすれば幾分かましになってはいるが、

 それでも訴えられたら不利になる。


 鍛えた身体があるから無理矢理には連れ込まれたり暴行されたりはないが、

 犯罪をしているといわれるとそうなのかもとなってしまうだろう。


 周りの風潮とは怖いものだ。

 今の事務所なら疑われてもかばってくれる人たちがいる。

 それでも今回みたいに共演者を通じてつなぎを取ろうとすると分が悪くなる。


(どーしたもんかね)

 結局、酒の席で気を付けること。

 交友関係をよくしていくことしかないのだった。


(先輩は頼りになりそうな人がいるから次は後輩かな。

 少しでも安全性を高めていかないと)


 マネージャーさんはとっつきにくいけれどもしっかりと仕事をしてくれる。


『今後の安全性の確保のために後輩とも面識を持ちたいので謹慎明けたら事務所の後輩を紹介してください。よろしくお願いいたします』


 メールで丁寧に伺いを立てて、何度も何度も見返して問題がないか考える。


 意を決して送れたのは休日の夜20時。

 メールを送るにはギリギリの時間だ。


 送ってすぐにピコンと返信が来た。


「早すぎじゃん」


「わかりました。後輩とも引き合わせましょう。

 平川さんからあなたには一切のおち度はないと聞いています。


 しばらくは不便になるかとは思いますが、

 社長の許可が下り次第また活動していただきたいので

 その準備を進めておいてください」



 平川さんがフォローに入ってくれたらしい。非常に助かる。


「はい」

 短い了承の返事を送りまた休みモードに切り替える。


「そういえば漫画見てなかったんだよな。これを機にたくさん読もう」

 コンビニで新刊だけは買っていたから、

 部屋のそこかしこに集めている漫画が積んである。


 それにゲームの最新作も出ている。

 今までは身体を作ることや色恋の対策で手を出す暇もなかった。

「よし」

 今まで仕事でいっぱいだったからしばらくは退屈せずに済みそうだ。

 久々の趣味にふけったのだった。

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