第15話目標

 新しいこの事務所ではギチギチに目標を設定している。

 何かアイテムを発売したらその売り上げからドラマの視聴率まで報告される。


(こんなに厳密に把握するもんか。そんなもんか)

 今までの会社が緩かったのかもしれない。

「定期的に会社の報告会に出てもらいます」

「はい」

「目標も設定してもらいますので」

「目標とは?」

「自分自身に対してのノルマです。

 宣言して行動するのとしないのでは結果に違いが出ると思われますので」

「そんなものですか」

「はい」

 マネージャーの西原さんは淡々と受け答えをしてくる。


 今まで何だかんだキャーキャーと黄色い声援を受けてきたので

 ここまで冷静な女性の声はなんだか新鮮だ。


「これは偏見かもしれませんが、あの会社から来た人もいるにはいたようですね。

 すぐに女性問題を起こして退社しています。

 あなたも今後同じような道をたどらないようにほかの方とは

 違って厳しく動向を監視いたします」


「仕方ないですね。

 あの会社で生き残るには色恋の話は必須だったんですよ。

 俺はそれが嫌でやめたんで」


「なら、しっかりと結果を出していただきませんと」


「どれぐらいなら結果を出したといえるんでしょうね」


「そうですね。この事務所で勤続10年とかでしょうかね」

「10年は長いですね。それぐらいしっかりと成果を出せばいいんでしょ」


「はい。まずは大河ドラマの成功を祈っております」

「そうですね。しっかりと主役を演じますよ」

「その覚悟があるようでよかったです」


 これまでの撮影現場でもさらにハードなスケジュールをしていた。


(こんなにもハードなのか。やつれるぞ。こんなスケジュール)


 不満も不安もあるが、きちんとこなしていかないといけないなと思う。

 それからの数カ月は過酷だった。


 睡眠時間も少なくてフラフラになりながらもスケジュールをこなしていく。

「これで最後か」


 ラストシーンを無事に撮り終え安堵する。まずは一段落。

 寝たい。


 フラフラになっている俺を迎えに来たのは西原さんだ。


「クランクアップの祝いがありますが、

 あなたの健康状態を見ると休息のほうが大切かと。

 明日に回しておきますので寝てください」


「ありがとうございます。助かります」


 アクションの撮影もできるだけスタント無しで撮る監督だ。

 かなり体を鍛えている俺に白羽の矢が立ったわけだが

 それでもアクション多数の主演はきつい。

 

 そして朝も夜も関係なくシーンの再現度にもこだわる監督だから

 リテイクは何度でもある。


 撮影現場から車で家まで送ってもらった。


 西原さんはとても運転が上手で途中で寝てしまった。

「佐々木さん、起きてください」

「ああ、すみません、寝てしまっていたようです」


「寝るのは自宅に戻ってからにしてほしかったです。

 明日の夕方迎えに参りますので」

「わかりました。よろしくお願いいたします」

 この日は疲れが溜まっていたのか、ぐっすりと眠る事ができた。


 ☆☆☆


 監督からたくさんの指摘ももらったシーンを夢に見た。こだわりの強い人だから何度も何度もやり直す。リテイクは30を超えた。一番大切なシーンだった。

「何をやっているんだお前は」

「すみません」

 あわてて謝罪する俺はもう監督に頭が上がらなかった。

 「こんなに続くならお前はクビだ!!」


 ☆☆☆

「夢か……」

 リアルすぎる夢だった。

 時間は午後3時

 これから西原さんが迎えに来るんだろう。

「よかった。夢で」

 シーンの撮影でミスをして怒られたのは本当だ。

 しかしクビにしてやるというのはなかった。

 現実でなくて本当に良かった。

 安堵しなから、身支度を整えて西原さんの迎えを待った。

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