第13話 定まった憧れの人

「よし、これで女性問題は解決だな」

 結局、前世の自分と、もう一人本命の女性を作っておいた。

 

 もちろんぱっと見でタイプは同じにしている。


 これなら、どの世代に言い寄られても逃げ切ることができるはずだ。


 前回の失敗を踏まえて、

 生きている方に言い寄られた場合は前世の自分のことを言えば問題ないはずだ。


 このように新たな憧れの女性を選出をして、これからの目標も決めなおした。


 社長や先輩の様々な思惑はあるだろうけれど、負けないプランを作れたと思う。

 30歳までアイドルのような歌手活動して、

 アイドル業は引退してその後は俳優として渋く老いていきたい。


 しっかりと自分の目標を決めた。誰にも負けられない俺の人生だと。


 胸を張って終わりが迎えられるように神様に願ってこの世にいるのだから。

 

 


 まぁ、人生の中で女性問題は出てくるだろうけれども。

 人気を落としてもやっていけるようにコアなファンを今からつけていくしかない。


(さすがに30過ぎから一般企業には戻れまい)


 仕方ない。


 今、現状からは戻れそうにはないのだから任される仕事を

 一生懸命こなしていくことしかできないだろう。


 男性であろうとも全力でアイドルや歌手や俳優としての仕事をこなしていこう。

 今日も事務所へと出勤する。


「おはよ。今日も調子いいみたいだな」


「はい。映画の撮影が終わりまして。

 昨日はお休みいただけてゆっくりできましたので」


「お前、近頃頑張りすぎじゃねーの」


「え? いえいえ全然ですよ」


「そういうの、うちにはいらないんだよねぇ。どっかいってくんない?」

「いえいえ。先輩の下で学ぶことがまだまだたくさんありますので」

「ふーん。つまんな」


(この先輩は中学生なのか)


 どうやらライバルをハニートラップにはめたのも、

 俺を女性に囲ませるのも若手が気に食わないからの嫌がらせらしい。

(この事務所にはあまり長居しない方がいいようだな)


 社長までこの信念ではないらしいことが救いだが、

 嫌がらせをしてきている先輩はもうベテランの域に来ている。

 いつ経営に首を突っ込んでもいいくらいだ。


(俺も飲み会で接客だけをしていたわけではない。

 きちんとスカウトも3社くらいからされている)


 きっと先輩たちは思ってもいないだろう。

 若手俳優がどれだけ世間から人気があるかを。

 いや、過去に知っているからこそ嫉妬するのかもしれないが、

 今現在の事務所に居座る必要はないのだ。


 先輩たちが若手をハニートラップで追い落とすものだから、

 ほかの事務所からの評判は色恋をしている事務所になっている。


 色恋にうつつの抜かす人が多く、スキャンダルとなって世に出るためだろう。


 ゆえに飲み会でも「そんな会社にいつまでいるの?」と聞かれることも多い。


(そろそろ決めどきかな)


 目星のついている会社と打ち合わせをしなくては。



 ☆☆☆


 呼び出しに応じてくれたのは悩んていた1社のうち、1番有名な社長さんだ。

「ようこそ、お越しくださいました」

「いい場所を用意してくださった。この料亭は今後、使わせていただきたい」

 個室で立地もいいから商談にもってこいなのだ。壁も厚いので内緒話に最適だ。


「呼び出したのは、移籍のことですかな?」

「――話が早くて助かります。移籍の条件は何かございますか?」


「いいや。君が望むのならばすぐにでも移籍できるようにしよう」


「そんなにあっけなく決めてしまっていいものですか?」


「いいや。君の噂はかねがね聞いているからね。

 今の会社には君はもったいないかなと思っていたのさ」


「ありがとうございます。できれば、御社で活躍出ればと思っておりますが」


「いいぞ。では移籍するようにしておこう。契約書はあとで送っておくよ」


「ありがとうございます」


 ホトホトとやり手の社長は帰っていった。


 やり手の会社の社長は察することもできるし、損得の見極めが早い。

 これからもしっかりリスクマネジメントを行っていかないと

 あっさりと契約終了になってしまうだろう。


 (これからはより慎重に行動しなければ生活できなくなるな。

 酒は飲まないようにしよう)


 固く誓って店を後にした。



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