第11話 ハニートラップ
ライバルの無期謹慎が正式に決まった。
それからというもの所属の事務所主催の飲み会が多くなった気がする。
ドラマでの顔合わせの夜から映画のクランクアップの夜まで
なぜだか飲み会や懇談会・懇親会が多くなった。
(春だからか?)
季節がらなのか女性たちの動きは一層派手になったというべきか。
どうやら事務所が熱愛を起こしたいのだと思う。
グラドルやアイドル系よりも演技派女優が入ったメンバー構成が多い。
もちろん既婚が多いのだが、少数ながら独身もいる。
(できれば共演した女優とってことか。
面倒なことだ。いつか結婚でも命じられるのか)
現代においてはそんな権限はないが、怖いことだ。
(俺が純愛したらプラマイゼロのイメージの事務所になるからってことかな)
現状では売れっ子の枠から逃れることもできず、
一般ではろくに使える資格も取れていない。
短期間で簡単に取れるもので就職に足るものはなかなかない。
(この状況で恋愛沙汰に発展させるわけにはいかない)
だが、こちらの思惑に反して催し物があり、そのたびに女性に囲まれる。
(こんどの幹事は事務所の先輩か)
容易に断ることもできない。
先輩自身も有名女優との売名行為でのし上がったと有名な人物だ。
(ただただ若いだけの俺なんかをどう利用しようっていうのか)
「好きな女優さんっていらっしゃるんですか?」
「うん、いるね」
「えー。おしえてくださいよぉ~」
「ごめんね。仕事だからまた今度」
早々に抜け出してきたがこの言い訳もいつまで続くか。
「おい」
幹事のご登場だ。
「黙ってたら盛り上がんないじゃん。ちゃんと女の子の相手してよ」
「また今度しますよ。ああいう子苦手なんですよ」
「はぁ? かわいい子ばっかりだったろ」
「男に色目つかってくるっていうか、金でしか男を見てないっていうか」
「はぁー。わっかんねー。可愛ければ何でもいいじゃん」
「先輩のかわいい系統違うんですって」
ここは素直に折れるべきところだが、いかんせんこちらの身の安全にも関わる。
そう簡単には折れられない。
言い合いになってきたところでその場にいたやつが仲裁に入ってくれる。
「そうですよ。こいつには憧れの人がいるんですって」
「はぁ?」
「ああ、かわいくて清純で。でももう既婚なんですよね。残念だぁ」
「ふーん。じゃあ、今度の飲み会に来させてやるよ」
いつでも権力を誇示したい人物はいるようだ。
☆☆☆
「今回の飲み会は大物だぞ」
「はぁ、何ですかその触れ込み。早く寝たいっす」
「お前のあこがれの人が来るってよ」
「まさか」
どれだけ売れっ子だと思っているのか。
本人がそこにいた。
(まさか本当にくるとは)
「こんにちは。今日は呼ばれてきたのだけれどこちらでよろしかったかしら」
「はい。新人が会いたいって騒いじゃって」
「まぁ。ふふ。嬉しいわ」
清楚系で売っているとはいってもやはり芸能界で生きている人だった。
ぎらつく視線は若い体を値踏みするようだ。
(金が目当てではないとすると体目的なのかもしれない。やっぱりこんな人なんだな。がっかりだ)
失望はしたもののやはり楽しまなせないといけない。
長い夜になりそうだった。
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