第9話 仕事の影響

 ライバルの謹慎中には続々と俺への仕事が入ってきた。

 頑張った仕事の先には誉め言葉が待っていた。

『見かけによらず誠実だ』

『知っているころよりもおしゃれになってきている』

『彼よりも使いやすいな』

 

(こんなに自分を見てくれる人たちがいるんだ)

 もちろん代役という話だから

 こんなイメージではなかったという批判もあったにはあった。

『彼の方が断然かっこいいに決まっている。代役なんて務まらないわよ』

『ほんとそれな。スキャンダル起こしたって彼の方が上だし』

 SNSに並ぶライベルへの擁護と俺への非難。


 傷つくこともあるけれどもそれでも求められることが楽しかったりもする。

(謹慎している時にはこれでいいけれども、

 復帰してきたらまた仕事が落ち着くんだろうな)


 ライバルの謹慎期間は半年と発表された。

 世間が忘れるようになるまでの栄華だ。しっかりと仕事をしないとな。


 そうして仕事をしているうちにイケメン俳優といわれるようになり、

 かっこいいランキングや演技のうまいランキング上位に入るようになってきた。

(こんな予定ではなかったんだが)

 俺の所属の社長から直々に褒められることもあった。

「よくやっているな。これからもライバルに負けないように努力してくれよ」

「はい」

(最初は仲良しと知って売っておいて。

 それができなくなるとライバル同士にするとか怖い業界だな)


 にこやかに褒める会話もどこまでが真実なのか疑わしくなる。

 各種ランキングにのるようになってから

 あからさまに女性に好かれることが増えてきた。


 打ち上げに行った飲みの席でのことである。

 なぜか共演した男性たちとは離れて座ることになり、

 共演した女優たちが周りを取り囲む。

(完全に男の思考だったならウハウハなんだろうな。この状況)

 いかんせん女性の記憶を持っているがゆえに冷めた見方になるのであった。


「鍛えてらっしゃるんですね。本当に素敵ですぅ~」

「ありがとう。これからも頑張るよ」


「えー。もうかえっちゃうんですかぁ。もっと一緒にいたいなぁ」

「……明日も仕事がありますのでこれで」

「えー。ケチな人ー」


 ハニートラップとなるものが俺を襲っているように感じられる。

(神宮寺もこんな風に誘惑されたんだろうな)


 転生した女子の目線がなければ、

 健全な男性としてはコロッとホテルに消えたくなる気持ちもわからないではない。


(まぁ、俺はひとりの運命の人に出会えたらそれでいいわけだけど)

 そんなに悠長なことも言っていられないのが芸能界なんだろう。


 スキャンダラスなことはせずに

「憧れの人」を作れればあんまり面倒なことには

 巻き込まれないのかもしれない。


 帰りのタクシーに揺られながら考えていた。

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