第5話 精神崩壊を救ってくれた物事

 だんだんと嫉妬心を隠す余裕がなくなってくる。

 

 スケジュールを管理している事務所が

『仲の良い双子のような俳優』として売り出しているからだ。 


 毎日自分に言い聞かせている。

 平常心を保つように。


 前世からの記憶があることも精神崩壊しない要因だろう。

 自分が望んできたのだから、いくらつらくても死を意識することはない。


 SNSの批判。

 それでもつらい時はつらいもの

「ショックが大きすぎて、仕事をするのがツラい」

 そんな時にふと脳裏によみがえった会いたい相手。

 今まで、転生の時に振り返るまいと思っていた転生前の友人。


 

 前世によく一緒に過ごしていた彼女。

 どれぐらい前なのかとか怖くて調べる気になれなかった。

 やっと、新聞で検索しても見る気になった。 

 自分が追悼されている記事。

 どうやら15年位前のことになるようだ。

 そして、彼女のことを調べていくうちに、彼女の人となりがまた分かった。

 彼女は業界内で一番に心配し、追悼してくれた人だ。


 もう60代半ばだが、まだ裏方としてかかわってくれている。

 気休めにしか過ぎないが、連絡を取ってみることにした。


 もちろん、前世の女優としてではなく、

 高校生男子がなぜ連絡を取ってくるのかわからないだろう。

 当然困惑顔のカノジョ。

「なんで、わたしに?」

「業界内で、性格いいと聞きまして」

「そういってくれるなんて嬉しいわ」

(橘由美)

 良い年の取り方をしているようだ。

「会えてうれしいです」

 向こうはこちらのことを何も知らない。

 だから、顔がみれただけで、話ができたことだけでうれしい。


 5分くらい話した後、聞いてみた。

「また、つらくなったら顔見に来てもいいですか?」

「私なんかでよければ。応援しているわ」

「ありがとうございます」

 

 数分の邂逅。

 だったけれど、心が救われた。

 やはり男で友達を作るのは慣れていない。

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