第4話俳優としてとアイドルとして

 本日から、養成所に入ることになった。

 おかしい。俳優養成所に応募したはずだ。


「ああ、アイドル志望の子だね。うん聞いていたよ。

 やっぱりルックスがいいと違うね」


(そんな話、聞いてません)


 アイドルとして人前に立つとはきいていない。


「さぁ、決め顔して」


(そんなものない。転生前はあったけれど。男でも決め顔って必要なんだ)


「それって必要なんですか?」


「もちろん。女の子を魅了するには必須の技術よ」


「はぁ、そうですか」


 いままでやってきたことの成果ができる場面だ。大丈夫だ。

 自分を信じて、やってみる。


 でもその時の流行りというのがある。


 それに対応できるのか不安である。


「あ、神宮寺くん。こちら、今日から入る佐々木ささき君。

 彼は半年先に事務所に入っているんだ。

 年も近いし、色々教えてあげてよ」


「わかりました」

「佐々木です。色々教えてください。よろしくおねがいします」

神宮寺正人じんぐうじ まさとです。今度もよろしくお願いします」


 おなじ年、ルックスが似ている。

 周りの人もそう思ったらしく、雑談交じりに話していく。

「君たちってどことなく雰囲気似ているよね」

「そうそう。二卵性双生児って感じ」

「いや。そんなには似てないんじゃないかな」

「そうそう」

 似ているといわれた時からものすごく嫉妬心が燃え上がる。

(こんなに嫉妬心があるなんて女の時以上かもしれないわ)

 今までライバルなんて意識したことがなかった。


 前世でも、今までの17年間でも。


  前世では、女子の市場がたくさんあるからであり、

  役割もキレイも、かわいさの種類も色々だった。


 神宮寺とはそれ以来、おしえてもらう先輩でもあり、

 同じように扱われるライバルでもあった。

 どんな現場でも比べられる。


 ルックスは同程度。

 歌唱力では俺の方が上。

 演技力では神宮寺の方が評価が高い。

 周囲の評判も同程度。


 だから、どちらの仕事も降られるし、

 何かあったときの代役としてスケジュールのキープがおこっている。


(こんなに嫌だって思うけれど、仕事のためだもの。

 笑顔を心がけないと。こんな気持ちでいるのがばれてしまう)

 笑顔で接してきたつもりだった。

 ある楽屋でのこと。

「ニコニコしているけど、ほんとは俺のこと気に食わないだろ」

「――そんなことないですよ」


 一応先輩にあたるから、敬語でしゃべっている。

 正人はそんなこと気にするなって言っているけれど、

 やっぱりこういうことはきちんとしていたいんだ。


「ふぅん。なんとなくわかるんだよな。

 否定するならそれでもいいんだ」


 どこか冷めた目をしている神宮寺。

 そんな気遣いをする彼に、また嫉妬心が出てくる。


(なんでこんなに感情が乱されるんだ。

 嫉妬なんてらしくない。そんな大人の対応ができるのがむかつく)


 鼻につく。その表現に尽きる。



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