五日目:「線香花火」『線香花火だった』
ぱちぱちと音を立て、静かになって落ちる。
人生の終わりのようだった。
◆
潮時だという自覚があったので、どのコミュニティからも離れた。
最後にこうして誰もいない公園で一人、線香花火をやっている。
引退するには若すぎるが、引退をしたのだ。
日に日に物価は上がり、出ていく金が多くなる。
収入より支出の方が多くて、やがて来る終わりに怯える。
そんな日々が嫌になって、引退することにした。
何を?
「線香花火」を。
生まれて、燃えて、静かになって、落ちる。それが「線香花火」。
燃えた時期なんてあったっけ、と考える。
あったのかもしれない。例えば学生時代とか?
さあ。
いずれにせよ、俺は多くを背負いすぎたのだと思う。
同じものを背負った奴等はことごとくいなくなった。耐えられなかったのだろう。
遠くにいる■は幸せに暮らしているらしい。罪を忘れているらしい。
愚かだ。
俺が愚かなのかもしれないし、■が愚かなのかもしれない。
きっと何もかも愚かだったのだ。
今更取り返しもつかない。
花火はぱちぱちと燃える。
色々なことを思い出す。
雪、海、山、太陽。
それらは全て、過去のことだ。
ここには生ぬるい夜とバケツと、燃える線香花火しかない。
何もかもが遠くて、別の人間の記憶のようだ。
それでも「終わり」は来るのだから、そのように。
最後の花火が尽きたら、引退しよう。
また、火をつける。
花火は燃える。
涙も出ない。
どこでどう間違えたのか、いくら考えても答えは出ないし、それなら考えない方がずっとましだったのだろう。
明日の世界に俺はいない。
線香花火だった。
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