第34話 重なった幸運
セレストの配慮で、リリアとレギウスは別室で仮眠をとらせてもらった。
少し寝たことで、なんとか動けるくらいの体力が回復。一刻も早く家に帰りたくてうずうずしていると、食事の用意と共に、ユリウス皇太子が謝辞を述べにやって来た。
事態の収集に追われているようで、流石に疲労の色が濃かったが、リリアを見た途端笑顔が溢れ出る。
「リリア嬢! またしてもお手柄でしたね。私を、王家を救ってくれてありがとうございました。昏睡状態の者達も、順次目を覚ましています。みんな助かりました。追って国王より褒章を。何か希望があれば考えておいてくださいね」
そう言って抱きつかんばかりに言えば、レギウスがギリギリのところでリリアをひっぱって事なきを得る。
「おっと、残念」
そう言って悪戯っぽく笑ったユリウス。
「今回は相棒君も大活躍だったようですね。ありがとう」
そう言って、レギウスにも労いの言葉を言った。
「別に、相棒ですから」
そう言って『相棒』を強調したレギウス。「あなた様も無事で何よりでした」
と珍しくユリウスを気遣う言葉を続けた。
ちょっと驚いたように目を見張ったユリウスも、次の瞬間優しい眼差しになる。
「ああ、ありがとう」
そのまましばらくレギウスを見つめてから、リリアに戻る。
「セレスト鑑定士長が、あなたのことをベタ褒めでしたよ。是非宮廷に来て欲しいと言ってました。私の見る目は間違っていませんでしたね。お見事でした」
「いえ、そんな。これは私の力と言うよりは、皆さんが頑張られたからです。後、色々な幸運が重なったことも」
「おっと、こんな大変な事態だと言うのに、幸運なこともあったのですか?」
「ええ」
「今後の参考に聞かせていただけますか?」
「わかりました」
そう言ってみんなでソファに腰を落とす。
「まず、このアズライルムの主は、本当は心根の優しい人だったことです」
そう言って、アルガンの境遇を詳しく話した。これは過去にヴァンドール王国内で起ったことでもあり、二度と同じようなことが起こらないように、対策を講じて欲しいと言う願いも込めて。
じっくりと聞き入っていたユリウス皇太子は、納得したように頷くと「国王陛下にもお話しておきます」と答えた。
「師弟関係と言うのは、なかなか
「流石、ユリウス様ですわ。よろしくお願いします」
リリアに褒められて頬を緩めるユリウス。だが、レギウスの鋭い視線に気づいて、咳ばらいをして誤魔化した。
「ゴホン。で、他にも幸運があったのですよね」
「はい。もう一つは、セレスト様とアレス様が、早くから石に入られて浄化を続けていてくださったこと。引き寄せられる悪意を一定量に抑えてくださっていたからこそ、石の魔力が制御できていたのだと思います」
「なるほど。二人の活躍がなければ、とっくに魔力が爆発していたと言うことですね。彼らにももう一度お礼を言っておきます」
「それからもう一つ」
そう言ってリリアはユリウスを真っ直ぐに見つめた。
「ユリウス様がトリガーとならなかったこと」
「どういう意味ですか?」
きょとんとしたユリウスに、リリアはちょっと笑いながら話す。
「ユリウス様、今回の三人の御令嬢と、直接目を合わせる機会は無かったのでは無いですか?」
「そう、ですね。多分」
「それが幸いしたのです」
そこへレギウスが口を挟む。
「今回の仕掛け人はあなたを当てにしていたんです。あのアズライルムは碧色の瞳に恐れを抱いていました。つまり、碧色の瞳を見た途端に魔力が発動して悪意を集めてしまうようになる。本来なら、このパーティはあなたの花嫁探しパーティ。きっと彼女たちとも踊る機会があるはずと。そして、貴方の瞳に反応したアズライルムが魔力を発動する予定だった」
「なんと。私の目の色がトリガーだと」
「はい。でも、ユリウス様はどのご令嬢とも踊られなかった。だから、別の碧色の瞳をお持ちの方のせいで先にトリガーがひかれたんです」
「魔力発動は結局起こってしまったわけですね。結果は変わらなかったわけか」
リリアの言葉に、「はぁ」とため息をついた。
「いいえ。結果は大いに違いました」
「?」
「同じ碧色の瞳でも、他の方とユリウス様では魔力量に大きな違いがあったからです」
「確かに、王家の者は他の人より魔力の量が多いが、それが結果を左右したと言うことなのですか?」
「はい。魔力量の多いユリウス様がトリガーとなっていたら、あの石は恐らくその瞬間最悪の石へと変貌していたと思います。多分、会場の皆様を狂気に陥れるくらい危険な石に」
「そう言うことか!」
ユリウスはようやく合点がいったように膝をポンと叩いた。
「私の魔力量で発動したら、一気に威力が最大になっていたと言うことか。今回の首謀者は相当に狡猾で恐ろしいヤツに違いない。くそっ!」
「私もそう思います。ですから、ユリウス様がトリガーにならなくて本当に良かったです」
厳しい顔でギリリと唇を噛んでいたユリウスが、ふっとリリアを見つめて慌てた様に表情を和らげた。
「怖がらせてしまいましたね。すみません」
そう言うと、いつものお茶目な笑顔にすり替える。
「これで証明ができました。私がダンスを拒否するのは国のためになると。大臣どもにしっかりと言っておきましょう。まあ、これに懲りてしばらくくだらないパーティーはあきらめると思いますが」
そう言ってウィンクをした。
「やっぱ、逃げ回っていたんだ」
ぼそりと呟くレギウス。
「当然」
と胸を張ったユリウスは、徐にリリアの手を取ると口づけた。
「あ、あの……」
「リリア嬢。お疲れのところ申し訳ございませんでした。もう一度ゆっくりとお休みください。なんなら、このまま宮廷に引っ越してきても」
「あ、ありがとうございます。でも、私、そろそろ魔法石店に帰りたいのですが」
「なんとツレナイ……わかりました。後ほどエールリック総隊長に護衛を頼みますので、今しばらくこちらにて待っていてください」
名残惜しそうにしながら立ち上がる。
「もっとお話ししていたいのですが、先ほどのことを皆に伝える必要もありますし、これにて失礼します。どうか、無理をしないように」
そう言って足早に立ち去って行った。
「ふう。やっと帰った」
ソファに踏ん反り返ったレギウスを見て、リリアが笑い出す。
「お忙しそうね。これからが大変そう。ウォルシェ国との緊張関係を上手く回避しなければいけないでしょうし。戦争にならないといいんだけど」
「だな」
しばらく、その場で待っていたが、エールリック総隊長は現れなかった。
「やっぱり忙しそうよね。申し訳ないから、そろそろ帰ろうかしら。馬車だけ用意してもらえれば後は問題ないし」
「まあ、我が家でないとゆっくり休めないって言うのは本音だな」
リリアがちょろちょろと廊下を覗くと、衛兵が外に待機していた。
「あの、そろそろ帰りたいんですけれど」
そう言って声をかければ、慌てて手配を始めてくれた。
「エールリック総隊長も直ぐに追いかけますとのことでした。どうぞ、先に馬車にお乗りください」
宮廷を辞したのは、だいぶ日が傾いてからだった。
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