第2話 心理テスト
「80階建てのビルがあります。先輩たちは今、そのビルのエレベーターの中にいます。いま、14階です。エレベーターが動き出しました。上か下かどっちかに行きます。そしてエレベーターの扉が開きました。さてそこは何階だったでしょうか。4から70の間の数字で答えてください」
「15階」
きれいにハモった。だが、せっかく「ハッピーアイスクリーム」で奢らせるチャンスだったのに、俺も美晴も後輩どもの騒ぎように唖然としてしまい、タイミングを逃した。
「この心理テストはぁ、答えた人が初めてエッチするときの年齢を表しています。おめでとうございまーす! やったじゃないですか先輩、あしたヤれますよぉ」
「テメェらふざけんなよ」
最初からなんかおかしいなと思っていたんだ。エレベーターの14階から上か下へ行くっていう設定が怪しかった。なのについ答えてしまったのは、横にいるゴリラ女のせい。こいつが真面目な顔で聴いてたから。
美晴はただでさえ類人猿似の顔をシワくちゃに歪めて横目で俺をにらんでいた。
「んだよ」
「きも」
こっちだってテメエなんざ願い下げだボォケ。と抗議しようとしたところで顧問がやって来た。俺たちはいそいそと防具を着け、竹刀を持って二列に並んだ。
「かかり稽古、はじめ」
俺の号令で練習再開。うるさいセミの声が、竹刀が打ち合う音とかけ声で遠くなる。
部活上がりの帰り道は、ただでさえクタクタで言葉少なになりがちだが、この日は後輩どもの「心理テスト(笑)」のせいで、俺も美晴も余計に無口だった。コンビニに寄って、ガリガリくんを買い、食いながら歩く。学校を出るときにも後輩どもからめちゃくちゃ茶化されて腹が立ったが、家が隣同士なので嫌でも帰り道は一緒になる。
「ねえ」
唐突に美晴が口を開いた。
「なんだよ」
俺はぎくりとして立ち止まった。美晴はそんな俺の前に立ちふさがって言った。
「明日さ、私、誕生日なんだよね」
「知ってるよ。だから?」
「でも明日も親、夜勤だし」
「だから?」
「だから、」
続く言葉を無視したことを、俺は今でも後悔している。
寝て起きたら外が大変な騒ぎだった。パトランプの赤い光がカーテンの隙間からリビングに入ってくる。まだ外は暗いのにざわざわと人の声がうるさい。
『明日さ、私、誕生日なんだよね』
『知ってるよ。だから?』
『でも明日も親、夜勤だし』
『だから?』
『だから、怖くて』
最近、ここいら辺に不審者が出るって噂だった。でも美晴は剣道部の中でも誰よりも強いし、俺よりずっと強いし、県大会で準優勝したくらいだし、平気だろと思った。家が近いからって一緒に帰らなくたっていいくらいだと思っていた。
明日の帰りにはプレゼントくらいくれてやろうと思ってたのに、なぜ。
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