第2話

3  ανω(アノー)【上】


 モックルの大地の加護の力によって、機械に絡んだ植物の動きは止まっていた。 

 俺はナイフを蔦を切りながら、再度砲塔の中を見て、他に物が無いか確認した。

 緊急用の麻で出来た袋があり、紐を解いて中を覗くと、ロープや毛布、ペットボトルの経口水や、干し肉があった。

 ひと昔前の文明と、機械の国の現代をちぐはぐに繋げたようで、違和感がある。

 砲塔から出て、俺は見つけ出したロープで兵士の手足を拘束した。

 荒っぽい手法だが、話を聞き出すべきだろう。

 トトが声を掛けて来た。

「ジン、暗くなる前に寝床を見つけましょう」

「そうだな」

 ぽつりと頬に冷たいものが打った。

 雫。

 俺は曇り出す空を見上げた。


 モックルに案内されて、山の高所にある洞窟に入った。

 トトは寒さでぶるぶる震えていた。サーモグラフィーを誤魔化すために川に入ったからずぶ濡れだった。

 緊急用の袋には、ライターも入っていた。

 俺は松ぼっくりやふさふさした杉の葉、枝を拾ってきて、井の形に積み重ねて、そこに火をつけた。

 洞窟が明るくなり、暖かな火柱が立ち昇る。

 トトは小さく歓声を上げた。

「すごい!何ですか?その機械は」

「ライター。中に擦ると発火する金属が入っていて、親指で押すと小さな歯車が回って金属を擦って発火するんだ」

「へえ」

 俺たちは服の裾を絞って出来るだけ水分を落としてから火に近づいて身体を温めた。

 俺はトトの一族に貸してもらっていた毛皮のベストを脱いでトトに着せる。緊急用の袋の中にあった毛布をくるくると巻いてやった。

「ジンは?」

「俺は平気だよ」

 トトは眉を八の字にして、コクリと頭を下げた。

「ごめんなさい」

「気にしないで」

 トトは毛布を取って、俺の身体にも巻き付けようとしてくるが、長さが足りない。

 俺は笑った。

「いいから」

 トトはムキになって俺を毛布の内側に入れようとしてくる。

 俺は思いついて言った。

「精霊さん、ちょっと失礼するよ」

 俺はトトを後ろから抱くように座り直した。

 俺はトトにくっついて、俺の身体ごと毛布を巻いた。

「精霊扱いしないで下さい」

「分かったよ精霊さん」

 トトが振り返ってぷっと怒る。

 余った毛布の先で、トトの頭に生えた羊の角を拭いた。

 トトはぶるぶると首を振って笑う。

「くすぐったいです」

「角にも神経あるんだな」

 たわいない話をしていると、ザー、と雨が降って来た。

 森の香りが濃く漂う。

 風が消え、熱が篭って逆に小さな洞窟内は暖まってきた。身体も随分温まってきて、トトの顔色も良くなって俺は安心した。

「大丈夫?」

「はい。もう温かいです」

 ペットボトルの経口水や、干し肉を出す。

「何か持ってる物、ちぐはぐ何だよな。機械の国の物もあるし。トトって中立の国のスイズ出身だっけ、ペットボトルは知ってる?」

「ペットボトルは知っていますよ。スイズの北部は森が広がっていますが、中央は魔法の国と機械の国の貿易箇所ともなっているので、けっこう都会です」

「なるほど。都会にも行くんだ?」

「はい。近くを通りかかったら、私は秘密で遊びに行っていました」

「悪い子だな」

「えへへ」

 トトは羊の角を搔く。

「精霊さん達は人を助けるのが仕事なんだよな?行き当たりばったりで助けてるの?」

「一族に伝わる占いがあります。オシシがそれを使って空気の澱みを見て場所へ向かいます」

「ふぅん」

 分けた干し肉を食べて、交代で水を飲んだ。

 トトは言った。

「今日分の血を飲んで下さい」

「分かった」

 トトが背を向けて上衣を脱ぐ。

 前回は動揺していたが、俺も覚悟が決まって落ち着いていた。

 ふいにトトの背中、腰に近い場所が視界に入り、俺は二度見した。


 ανω(アノー)


「トト、腰にある、このアザは?」

「ああ、それは昔からありました」

「これ、古代文字だよ《上》って意味だ」

「そうなんですか?あんまり考えたことはなかったです。ほら、人間にも生まれた時はお尻にあざがあるでしょう?似たようなものです」

「でも、こんなハッキリ‥」

 先程のアリステラ(左)を思い出す。

 トトは俺が遠慮していると勘違いしたのか、俺の手からナイフを抜き取り、自身で肩口に当てた。傷口から、みるみる白い血が隆起するように溢れて、流れ始める。

「ジン、早く」

 俺は命の源に口付ける。

 濃厚な血の味がする。鉄だけでなく、ほんのりと甘い。舌に絡んで食道を通り、胃に滴る。

 少しすると血は固まって止まった。

 トトが服を着る。

 不思議な痣の事も忘れ、俺はいたたまれなくて謝った。

「ごめんな」

「謝らないで下さい。私は大丈夫です」

 俺は決意を固めて言った。

「絶対に呪いを解く設計図、見つけるから」

 トトは小さく笑って俺を見る。

「一緒に探すんじゃないんですか?」

「そうだな」

 俺頷いたその時、炎の灯りの中に不自然な影が映り込んだ。

 男の声が響いた。

「オン」

 考えるより先に身体が動いていた。

 トトを庇って押し倒す。

 パン、という発砲音。頭のすぐ上を何かが掠める。

 顔を上げると、洞窟の壁に氷柱(つらら)が突き刺さっていた。

 振り返ると、男は縄を解いており、小型のナイフを閃かせて、襲い掛かってくる。

 俺は腰のホルダーから銃を引き抜いて、構えた。

 トトが悲痛な声を上げる。

「ジン!ダメ!」

 銃口を男に向けたまま、俺は周囲に素早く視線を走らせる。 

 魔法で消費された白紙が一枚落ちている。

 他にも設計図を持っている可能性が高い。

 だが、どこに?

 男はナイフと杖を持っていて両手が塞がっている。

 魔法の起動の条件は四つ。

《設計図に触れる事》

《杖を対象に向ける事》

《オンと唱える事》

《一分以内に描いた設計図である事》

 俺は魔法について最低限の事をオシシから聞いただけだ。

 男はなぜか裸足だった。

 縄から抜け出す時に脱いだとしてもおかしくないが、違和感がある。

 もしかして、設計図に触れるのは、手じゃなくても良いのか?

 例えば、足。

 麻の袋、非常用の物資が入っていた袋に目が付いた。

 よく見ると、下から紙がはみ出ている。

 俺は確信して、非常袋を銃で打った。

 男は悔しげに歯を噛むと、ナイフを投擲した。俺は横に跳んでそれを躱す。男はその隙に、ポケットから新たな設計図を取り出す。

「オン」

 男は俺では無く、トトに向けて鋭利な氷柱を発砲した。

 俺は同時に引き金を引いた。

 俺の発砲した銃弾は、氷柱に衝突し、氷柱を打ち砕く。もう一発発砲し、俺は男の腕を打った。

 男は呻いて腕を押さえ、持っていたナイフは手からこぼれ落ちた。

 俺は男の手首と襟を掴み、地面に押さえ付けて拘束する。再び身体にロープを巻き付け、服もナイフで切り、脱いであった靴も確認する。

 ブーツの裏側が二重底になっていて、小さいナイフを隠し持っていたようだ。

 俺は男を見てたずねた。

「何故連撃しなかった?三連撃で氷柱を撃たれたら避け切れなかったのに」

 男は小さくため息をついて、言った。

「光から物質の転換は難しい。俺は上手く起動出来る自信が無かった。設計図も歪んでいたしな。だからナイフで警戒させて、片手から注意を離した隙に仕留めようと思った」

「靴底に隠していたナイフで縄を切れるものなのか?」

「訓練を積んでいる。足を動かして近くの非常袋の下に挟み込んだ」

「氷結魔法は、氷柱を発砲することも出来るのか。俺が知っているのは冷凍放射だ」

「魔法っていうのは《光から事象に転換する長さ》で効果が変わってくる。光を短く発すれば氷柱になる。長く発すれば冷凍放射のようになる」

「どうして色々教えてくれるんだ?」

「お前達を生かすことは、俺達の目標を達するために必要だと、さっき分かったからだ」

「どういう意味だ?」

 男は言った。

「お前たちは、この戦争が何を争っているのか知っているか?」

「領土争いじゃないのか?」

「その根底にあるのは、機械と魔法の至上主義だ。人間は同じ価値観じゃないと、気が済まないのさ。機械と魔法の両方を受け入れられない。だから俺達は、全てを受け入れられる平和な世界にしようとしている」

 第三勢力。

 機械と魔法両方の共存を望む革命軍。

 だが、答えを出すには早計すぎる。

 俺は問うた。

「タマオアイの爆弾は、お前達の仕業なのか?」

「さぁな」

「何故一人で機械に乗っていた?何をしていた」

「お前たちを探していた。タマオアイの生き残りは、南東へ向かったと、仲間から連絡があったからな」

 その時、血飛沫が上がった。

 目の前の男は、頭部から血を流して、死んでいる。

 殺された。

 いっぱく遅れ、俺は洞窟の外を見た。

 スナイパーか?

 俺たちを探しているのか?

 だが、俺達を撃つ隙は幾らでもあったはずだ。

 生捕り?

 だが何のために?

 グゥィィィという機械独特のエンジン音と高い駆動音がする。

 俺はトトを抱き、男の亡骸を傾けて盾にして伏せた。

 このままでは動けない。

 男を肉盾にして逃げるか?

 ちらりとトトを見ると、ぎゅっと目を瞑って震えていた。

「大丈夫、俺が絶対守るから」

「‥うん」

 俺は振り返り、状況を確認する。

 火の消えた薪、非常袋、ライター、毛布、懐中電灯、携帯食料、水、男の亡骸。

 俺は毛布を手に取った。

 紙に鉛筆で設計図を書こうとしたが、すぐ上から機械の駆動音が聞こえた。そんな余裕は無い。

 のっそりと、機械の砲塔が洞穴に顔を出した。

 目玉のように、砲塔に付けられたレンズが大きくなる。

 俺は薪に使った枝で、地面に浮遊魔法の設計図を描いた。

 賭けだった。

 実は、俺は紙を使わない魔法も練習していた。

 この様な状況は絶対にあると想定していた。

 呼吸を整え、手のブレを抑えながら、素早く二重丸の中に三角形を描く。

 設計図に触れ、毛布に枝の先を向けた。

「オン!」

 蒼い光が放出し、毛布に直撃する。

 ゆっくりと毛布が浮かんだ。くしゃくしゃだったものが、平たく伸び、俺はトトを抱えて飛び乗った。

「しっかり掴まれ!」

「はい!」

 毛布は予想以上のスピードで発進し、洞窟を覗いた砲塔から放たれる赤いレーザー光線を回転しながら華麗に掻い潜った。伸ばされた機械の脚をすり抜けて夜空へ舞い上がる。

 ゴウ、と風が耳の中を流れる。

 夜空の星々がくるくると回って万華鏡のように煌めいた。

 予想よりも遥かに多くの機械が森に控えていて背筋が凍る。流星群のように、赤いレーザーが飛んで来て、左右に揺れながら勘で躱し、降下して木々に姿を隠しながら低空飛行した。

 その時、並走するように、モックルが隣を走ってきた。

 モックルは何かを喋りかけるように鳴く。

「ガルルゥル」

 トトが俺に言う。

「付いてきてだって」

「了解」

 木々の間を縫う様に飛び、とにかくモックルに引き離されないように集中する。

 川が現れて、ずっと上流を目指す。

 小さな滝があり、モックルはその中に突っ込んだ。

「嘘だろ‥トト、しっかりしがみ付け!」

「はいっ」

 助走を付けて、突っ込む。

 中は狭い洞窟になっていた。身体を伏せて、暗闇の中で閃くモックルの白い毛皮を追う。

 少しずつ道が上向き、最終的に星空が見えた。

 モックルは三つ目を開眼し、強靭な脚力と地霊の加護で壁を左右に蹴りながら登る。

 俺も角度を変えて、突き進む。

 ふっと出て、俺たちは息を呑んだ。

 山の麓だ。

 小さく電車の線路と切り開かれた小さな村が見下ろせる。

 振り返っても機械の姿は無く、山の裾によって俺達の姿は隠されていた。

 トトが言う。

「撒いたかな」

「どうだろう」

 モックルがハァハァ、と荒い息を吐く。

 その時、雨がぽつりぽつりと降り出した。

 俺は逃走中に考えていた今後の方針があったが、雨が最後の決め手になった。

 トトとモックルに考えていた作戦を話した。



   ー


 

 黒いローブを羽織った男は、スナイパーライフルを投げ捨て、踏み付けた。

「皮肉なものですね」

 白いローブを着た女性が男の隣に立って言う。

 その女性の手は、肌色では無かった。

 機械と同じ、金属製。

 二又のフックだった。

 女性の名前をミローディア、男の名をミゲルといった。

 ミローディアは声を荒げた。

「どうして殺してしまったんですか!」

「さあ」

 ミゲルは、白い液体の入ったグラスを自身の口へ傾けて飲み干す。

 ミローディアはミゲルに向き合って言った。

「爆弾も止(や)めると言ってたのに、どうして嘘をついたんですか?私に隠れて、何をしているんですか!」

 ミゲルは無視を貫く。

 ミローディアは視線を落とした。

「どうして‥あなたは変わってしまったんですか‥私の話を聴いてください」

「泣くな」

「悲しいです。人の命を何だと思っているんですか」

「未来への投資だ。最終的に人は死者が減る」

「そんな未来、見えません」

 ミゲルは無視して言う。

「あの人間で間違いない」

「ミゲル‥」

「アイツの話によれば、一人は子供の精霊。もう一人は、機械の国出身の、大人になりかけの青年。魔法の筋が良い。先程も、浮遊魔法とはいえ、直描きで魔法を起動させた。お前も見ただろう?」

「さっき着いたばかりですし、私は人殺しの道具は持ちません」

「そうか、賢明だな。精霊はさておき、青年はタマオアイから生き残った。古代の悪魔を飼っているのは間違いない」

「‥‥」

「痣(アザ)は確認していないが、古代の悪魔は自らの願望を叶えるために宿主に指示を出す。それが無意識で死線を回避する事になる。タマオアイは超高熱の爆弾に過ぎず、古代の悪魔に憑かれた人間をあぶり出す為の道具だ」

「生存者が出ただけ、とも言えるんじゃないですか?それに、精霊の血を飲んでいるなら、生き延びてもおかしくない」

「それなら傷は治り、満足しているはずだ。満足いく結果じゃないから、二人は南東へ旅に出た、そう奴は言った」

「‥‥もうやめましょう」

 ミゲルは杖をミローディアの首に突き付けた。

「これ以上俺の計画を否定するならば、お前も許してはおけない。いや、このままお前は死んでも良いというのか?計画を果たさなければ、死ぬと説明したはずだが」

「‥‥死んでも良いです。これ以上死者を出すなら」

 ミゲルは言う。

「呪いというのは便利だな。血を飲む口実と解呪を理由に誘導できる」

 自分が見たのは、青年と兵士が戦っている場所からだ。

 その間に何があったのか、どうやって戦いが始まったのかは気になるが、あいつは抑えられてから明らかに口を滑らせていたので、殺した。

 ミゲルはローブをたくし上げ、左腕を掲げる。

 左腕には痣があった。


 αριστερά(アリステラ)


 細かな雪が降ってきた。

「もうやめましょう」

「‥」

「不毛です。私たちは銃を無くす未来よりも多く、人を殺してしまっています。もうやめましょう」

「お前も分かっているだろう。だからこそ、止められないのだ」

 ミゲルはローブを脱ぎ、ミローディアの肩に掛けようとするが、ミローディアはその手を払い、機内に戻って行った。

 ミゲルは一人考える。

 機械の国と魔法の国は昔から対立していた。

 自分は魔法の国に住んでいた。

 ある日、強盗が入り、機械の国から輸入した銃で自分の家族は殺された。自分は急所を打たれず生き残った。

 銃を作った機械の国が許せなかった。

 魔法でも人は死ぬ。

 それは分かっている。

 たまたま銃だった。

 だが、これがあるばかりに、父と母、妹は死んだのだ。

 機械は《無くても良い物》だ。

 車もそうだ。便利な道具は簡単に人を殺す。

 機械の方が効率が良いという事実も、とても腹立たしい。

 さらに「便利だ」と魔法を捨てて、機械を受け入れたがる人間の方が多い世界が忌々(いまいま)しい。

 感情ばかりが急いているのは分かっている。

 だが、自分には目標があった。

 最終的に、この世界から機械を無くす。

 これは自分がやるべき事、自分しか為せない事なのだ。

 排除したい。

 だが、自分の欲望が目的と食い違い始めているのは理解している。

 |左(アリステラ)のせいか。

 否。自分の弱さか。

 仲間を殺してしまったのは、そのせいだろう。

 ミゲルは首を振る。

 迷えば喰われる。

 青年に寄生しているのが、右(デクシア)か、上(アノー)かは分からないが、夢に前進したのは大きい。

 その為にはどんな犠牲も、この身でさえも、破滅を許そう。



   ー



 モックルに乗って走り続けるのは現実的ではないと思った。

 俺は言った。

「だから、貨物列車に乗り込む」

「えっ!?」

 トトが目を大きくする。

「乗っていれば距離稼げるし、トトもモックルも疲れているだろ。今はあいつらから離れる事が第一だと思う。俺達がモックルに乗っている事はバレているし、先回りされている可能性もある。モックルとは一度ここでお別れだ」

「待ってください!私、縮小の魔法を知っています。それでモックルを小さくして、一緒に旅をしたいです」

「そんな事できるの?」

「一度試したことはあります、ね、モックル?」

「グウァル」

 モックルが吠える。

 トトは上衣の内ポケットから、くしゃくしゃになった紙と鉛筆を取り出す。紙を広げ、正方形の中に丸を描いて、手を触れ、杖でモックルを指す。

「オン!」

 何も起きない。

 トトがガックリと肩を落とした。

 俺は鉛筆を逆さにして、トトの描いた四角の中の丸を真似て、地面に同じ設計図を描いた。

「オン」

 鉛筆の先をモックルに向けると、青い光がふわりと発生して、モックルを包み込み、みるみる内にモックルは小さくなって、子犬のようになった。

 トトの胸に小さくなったモックルが飛び込む。

 トトはモックルに顔をすりすりした。

「モックル~可愛いね。よしよし」

 モックルはトトにとっての精神安定剤でもあるようだ。トトはまだ10代だ、長旅では心のケアも大切にしていかなければならないか。


 俺達は雨に打たれながら、麓から下山した。

 貨物列車がどのくらいの間隔で来るのか、俺は知らない。

 だが、機械の国まで丸一日かかり、翌朝、店頭に並ぶ前に商品が到着する事を考えると、通りかかる可能性は高い気がした。

 正夢を見た時と同じような、漠然とした勘だったが、だからこそ信じるに値すると思った。

「来た!」

 トトが言う。

「そういえば、どうやって忍び込むんですか?」

 俺は殺された兵士から奪った勲章バッジを内ポケットから取り出した。裏の針金の部分に力を入れて、真っすぐに伸ばしてある。

「最後尾の車両に飛び乗る」

 トトは考えて、首を傾げた。

「…んん?」

「機械の国の中央部じゃ電車だけど、そこを出ると田舎すぎて電線も整備されていないから、遠出はまだ汽車、蒸気機関車なんだ。貨物列車を先頭で引くのは汽車だけど、止まる時にブレーキの力が足りないから、減速する時に最後尾の車両で手動ブレーキをかけていた事があった。今はブレーキ技術は発達して空気を利用して全部の車両にブレーキがかかるようになっているけど、名残(なごり)で人の乗れるスペースが残ってる。それに乗る」

「な、なるほど、なるほどですぅ」

 トトが頷く。分かって無さそうだ。

 田舎の道で、電車と公道を分ける柵は無い。

 線路の目の前で待機した。

「絨毯の浮遊魔法で並走しながら少しずつ加速を遅めてスッと横から乗る」

「了解です!頑張って下さい」

「ああ」

 出来る。俺なら出来る。

 そしてその時、遠くで汽笛が聞こえた。

 予感が的中した。

「オン!」

 設計図を踏み、毛布を浮遊させて三人(トトはモックルを服の中にすっぽりと収まっている)を乗せる。ズシリと重くなるのが、鉛筆を通して感じられる。

 毛布のコントロール方法は、言葉にできない、というか、俺自身もよく分かっていない。ただ、心の赴くまま、そっちに飛ぶ、という気持ちで動かしているだけの事で、正直ここまではまぐれに等しい。

 俺はトトが振り落とされないようき、前にトトを乗せて、毛布を掴んだ。

 俺の不安を感じ取ったのか、トトが言った。

「ジンは天才的ですよ!昨日今日で出来る話じゃありません!大丈夫です。ジンならできます」

「ありがとう。やってみるよ」

 遠くに汽車が見えてくる。ゆっくりと、俺は毛布を前進し、加速させていく。

 俺雨もあって、視界が悪い。

 寒い。

 俺は前傾し、風の抵抗を出来るだけ減らす。

 勘だけで、ぐんぐん加速させる。

 振り向くと最後尾がすぐ後ろにある。

「行くぞ!」 

 横から絨毯ごと飛び乗る。 

 後ろの手摺に捕まって、何とか勢いを相殺した。

 降り立つとタンタン、と床を踏む音が響く。

 俺はトトを片腕で抱き止めながら、右手で底に鍵穴のある南京錠の開錠に着手した。

 鍵穴からバッジの裏の針金を差し込む。こんな泥棒まがいな事をしたのは子供の時以来だ。シリンダー錠は中に縦のピンがあり、全部のピンを決まった長さに揃えると開く。

 カチッと鍵が開くような感覚があり、錠が外れた。俺はそれを胸ポケットに保管し、かんぬきを外して扉を開けた。

「入って!」

 中は、床に木箱が敷き詰められていた。

 だが、木箱の上には人が乗れる座っていられる位のスペースがある。

 俺はトトを木箱の上に乗せた。

 俺はかんぬきを抱えたまま、内側から引っ張って扉を閉める。

 シリンダー錠で内側から鍵を通して、カチッと鍵を施錠する。扉の間は隙間があり、かんぬきはそこまで厚くなく、横から通して指の力だけで縦にして元通りに引き下ろす。

 ガチャン、と音がしてかんぬきが収まる。

「はぁ‥」

 良かった。

 俺も息をついて、木箱の上に乗り上がる。

 鉄の硬い編みで木箱全体が縛られているから、ズレたりしないし安心だ。

 ガタンガタン、ゴォォオーーと揺れる。モックルがトトの胸から出てきて、体を横たえた。三つ目を閉じた。

 トトも横に寝転んで、優しくモックルの頭を撫でた。

 やっぱり皆んな疲れている。一度休息が取れる場所に行かないとな。

 奴らはどこまで俺達を追いかけてくるだろうか。

 考えていると、くぅ〜、とお腹の鳴る音がした。

 トトが恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 モックルが顔を俺に向けて、鼻を木箱の上に近づけた。フスフス、と鼻で吸って、俺に木箱を示した。

「これ?」

 思い切って木箱の蓋を開けると、中にコリンが山盛りに入っていた。

「果物は基本的に、数じゃなくて重量で値段が決まってる。キロ単位だし‥‥全ての木箱のコリンを一つずつ取るくらいなら大丈夫だと思う。誤差の範囲だ」

 みんなでコリンを食べた。

 噛んだ瞬間、酸っぱくて甘味がある果汁が口内に溢れる。

 水分補給にもなって、俺達は気力が回復してきた。

 トトがたずねる。

「この汽車は何処に行くのでしょうか」

「わからない。けど、北端の駅に行った時は大きな駅は無かったし、同じ線路だから、このまま機械の国の中央部に行くんじゃ無いかな。とりあえず、トトとモックルは寝てていいよ。俺が見ておくから」

 すぅすぅ寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。

 モックルも三つ目を全て閉じて静かに寝ていた。

 朝陽が昇ってくると、二人が目覚めた。

「ジン、寝て下さい。何かあったら起こします」

 交代で眠った。

 夢を見た。

 


 大きな噴水がある。

 太陽の煌めきを受けて、水飛沫が黄金色に輝く。

 背景には大きな赤レンガの建物。

 シーンが切り替わる。

 木と紙の匂い。本棚。

 大きな図書館にいた。

 天井が高く、見上げると本棚が塔のように高く積まれている。中央に螺旋状の階段があって、図書館は地下まで続いている。

 俺は気付けば、階段を降りていた。

 最下層に降りて、本棚の間を突き進む。最奥の壁に、草原に浮かぶ気球の絵がある。その絵を持ち上げて退かし、空いた壁に指で文字を描く。


 τετράγωνον


 ガコン、と音が鳴り、真下の床が上に凸(つくば)む。持ち上げると、地下へと続く階段がある。降りていくと、空色のファンシーな扉がある。鍵はかかっていない。

 ノブを回して中に入ると、人形で埋め尽くされた部屋がある。足の踏み場もないほど、あらゆる人形がぎっしりと詰まっている。クマの人形、ウサギの人形、少女の人形、だがそのどれもが腹を切り裂かれて中の綿が飛び出ていた。

 一番大きなクマのぬいぐるみを退かすと、床に小さなドアがある。取手を引いて開けると、地下へと続く梯子がある。

 梯子を降りると、石室のような場所がある。

 中心には、巨大な機械がある。

 禍々しい。

 人間の背骨のような形状。

 脚が百足(むかで)のように付いている。

 今はとぐろを巻くように、静かに眠っている。

 地面には、何か文字が彫られている。



  τετράγωνον δημιουργία



 俺は飛び起きた。

「《正方形の設計図》‥‥」

 δημιουργία(ズィミウルギア)は《設計図》 τετράγωνον(テトラゴーノン)は《正方形》


 トトの背中にあったανω(アノー)《上》という文字。

 男の手帳にあった、αριστερά(アリステラ)《左》


 呪いと関係があるのか?

 トトが俺を覗き込む。

「大丈夫ですか?」

「今、夢を見たんだ。夢で見た場所が現実にあるかどうか、確かめたい」

「どんな場所ですか?」

「まず、大きな噴水がある。地面にはレンガが埋まってて、公園みたいに綺麗な場所なんだ。奥には大きな赤レンガの建物があって‥地下のある大きな図書館がある」

 トトが息を膝を叩いて言った。

「それ、スイズの魔法学校です!」

「そうなのか!」

「はい、赤レンガに大きな噴水、スイズ国内で地下まで続く、最大の図書館が併設されている事で有名です!」

「そうか。地下室に何か秘密の本がある。古代文字で、《四角形の設計図》って書いてあった。もしかしたら、呪いに関係あるかもしれない。実際に行って確認したい」

 その時、ガタン、と大きく音がして汽車が失速した。

 俺達は息を潜めて外の様子を伺った。

 急に線路が分かれて、方向転換したようだ。

 急停止。

 後ろしか見えないので、前方に何があるのか、どういう状況かはわからない。

 今更とんでもない博打だと自覚する。

 最悪コリンを捨てて箱の中に入るというのもあるが、証拠は残るし、万が一見つかれば強盗犯で追われる人数が増えるだけだ。

 外から声が聞こえた。

「8車両目からはスイズ行きだ」

「了解です」

 ジョイントが外れて、スイズ行きの貨物に合体されるのが分かる。

 俺は思わず呟いた。

「‥マジかよ」

 スイズ行きの貨物に合体されたなら、このまま乗っていれば目的地の、スイズに辿り着く。

 トトが囁いた。

「何だか不気味ですね」

「‥そうだな。でも‥行くしかない」

 トトは微妙な顔をして、言った。

「スイズ中央魔法学校の図書館を利用できるのは学生と卒業生だけです」

「そうなのか。じゃあ、入るには受験しなきゃいけないのか?」

「でも、超難関で合格できるのは千人に一人って言われています。世界でも上位に入る、優秀な魔法学校なんです」

「たぶん問題ないと思う。機械技師(マシンメイル)になる時、かなり勉強したから」

 トトは首を振る。

「天才しか受からないって言われています。現実的じゃないですよ」

「やってみなきゃ分からないよ。入学試験っていつ?」

「たぶん二月です」

「ちょうど二週間後か。やってみたい。挑戦してダメだったら別の方法を考えるよ」

 俺がハッキリ言うと、トトは呆れた風に笑って肩を竦めた。

「ジンって結構自信家なんですね」

 俺も笑って返した。

「自信が無いより良いだろ」

 


 扉は指一本分くらい隙間がある。そこから指を出してかんぬきを浮かせると、隙間が広くなって外を見る事が出来た。

 しばらく何も無い荒野が続いていたが、草が増え、赤煉瓦で作られた家々がぽつぽつと現れ始める。

 もう陽は傾いて、世界はオレンジ色に染まっていた。

 トトが言う。

「駅まで近いと思います」

「そうだな」

 トトは赤い頭巾を頭に被り、巻き角を隠す。

 小さくなったモックルは、トトの服の中にすっぽり入って襟からひょこりと顔を出した。

 電車は速度を落とし、枝分かれした線路に進んでいく。再び暗い倉庫の中に入った。

 人の声はしない。荷物を下ろす人間はまだ来ていないのかもしれない。今がチャンスだ。

 鍵は開けてある。思い切ってかんぬきを上に開け、扉を開く。出てから直ぐにかんぬきを閉め、元通りに鍵をかける。

 何度も練習していたので五秒で出来た。倉庫を出る。線路を渡り、駅のホームの裏から様子を見た。

 駅構内は広くて、とても混雑していた。中折れハットを被ったスーツ姿の男性、子連れの女性、薄汚い格好の旅商人。

 人で溢れかえっている。

 このままじゃ轢かれる。

 俺は言った。

「線路を走って、小さな階段を上がって、ホームに乗り込む」

「えぇ!」

「これだけ人がいたら何とかなるさ。モックル、このリンゴの皮を上から落として気を引いてくれ」

「そんなので何とかなるんですか!?」

「頼んだ」

 駅のホームは丸く弧を描くようにレンガの壁があるだけで天井は無い。

 モックルは先程剥いて残しておいたりんごの皮を咥えるとリスのように器用に壁をのぼっていき、りんごの皮をひょいと落とした。

 りんごの皮が降って来て、みんなが驚き、悲鳴が上がった。全体にどよめきが走ったタイミングで、俺たちは短い階段を上り、ホームに駆け込んだ。

 ちらりと視線を寄越した人間もいたが、俺たちが平然と歩いていくと、気のせいか、という風に視線を外した。りんごの皮に人が集まっている。

「やだー、悪趣味な悪戯ね」

 本当にな。

 俺たちは胸を撫で下ろす。

 駅から外に出ると、赤茶色の可愛らしい街が広がっていた。

 カフェやパン屋、レストラン、色とりどりの花が並ぶ花屋。洋服やお菓子の店。白い壁に赤茶色の屋根の造りが、街の景観を明るくオシャレに見せている。

 機械と魔法の国が戦争をしていたのが嘘のように平和に見えた。

「思っていたよりも都会だし、人が多いな」

「物流があって栄えているんです」

「なるほど。トトはここにも旅をしにきたのか?」

「いいえ、基本的にテントの張れる場所にしか行きません。オシシの占いに従って人を助ける場所に移動します」

「そうなのか」

「はい。ここの中央部では、人のフリをして出掛けていました。バレた時、お父さんとお母さんに凄く怒られたのを覚えています」

「そりゃそうだ」

 そういえば、トトの両親を知らない。

 トトはテントでもずっと一人で居たし、両親は旅をしていないのだろうか。それとも‥

 その時、女性の叫び声がした。

 いっぱく遅れて、男の怒号が飛ぶ。

 パンパン、という銃声。

 交差点の角を曲がり、ニット帽を目深に被った男が走ってくる。右手には拳銃が握られている。

 ちょうど鉢合わせた。

 出会い頭、相手の男が発砲してきた。

 俺はトトとモックルを庇って前に出、衝撃を覚悟したが、飛んできた銃弾は横から割り入った、光り輝く赤い一閃によって打ち砕かれた。

 火花のように火炎を散らしながら銃弾は焼き焦げて消失し、塵だけが漂う。

 魔法か?

 後ろを振り返ろうとしたが、パン、という銃声が上から響いた。

 建物の上から撃たれている!?  

 二人いる!

 ほぼ同時に紙の束を叩きつけたような音が、前方で発生。

 地面に着弾、同時に俺の目の前で銅褐色の弾丸が破裂する。

 咄嗟にしゃがみ、トトを抱きしめるように庇ったが、破裂した金属片が身体の数カ所に刺さり、痺れるような痛みが走った。

 右肩から指先に伝って、黒い液体がタイルの上に滴り落ちた。

 黒い。

 何だこれ。血液じゃないのか?

 右腕から引き摺られるように俺は地面に崩れ落ちた。

「ジン!」

「大丈夫だ」

 地面に滴り落ちた黒い血は芋虫のように蠢いている。

 俺の身体に何が起こっているんだ。

 そうか、これが呪いなのか?

 いつ上から再び撃たれても良いように、俺は左手でトトを抱き寄せた。

 真正面に居る、ニット帽の男は銃を装填して、銃口を周囲に向け、最終的に俺に銃を突き付けて叫んだ。

「魔法と機械は同等であるべきだ!機械を規制するな!」

「落ち着け。ここは中立国だぞ」

「煩い!」

 まともな話し合いは出来そうに無い。

 激昂したニット帽の男が引き金を引くよりも早く、赤髪の男が前に出た。

「オン」

 設計図の書かれた紙がぺらりと風に乗って舞う。

 三角の中に三重丸が描かれている。それが魔法の起動と同時に消えた。

 男の伸ばしたペン先から赤い光が迸り、ニット帽の男が持った銃に衝突した。

 ドライアイスのように凍った白い煙が巻き上がる。

《冷凍魔法》

 ニット帽の男の手を部分的に凍らせた。

「痛っ痛い‥‥うあ、あぁ」

 手を凍らせた事で男は武器を持たなくなる。赤髪の男はニット帽の男を地面に素早く押さえこんで拘束した。

 俺は、地面に血で設計図を描いていた。

 このままでは屋上の人間から発砲を受ける。

 最速かつ、正確に。

 三角の中に三重丸。

 素早く左手で図を押さえ、最小限の動きで右手を真っ直ぐ掲げて唱えた。

「オン」

 《冷凍魔法》

 冷気が爆発した。指先から蒼い光が迸る。

 真っ白な煙の中を青い光が一直線に飛翔して行った。

 乾いた銃声が乱発する。

 絶対零度の青い光線は蛇のように波打って銃弾を飲み込むと、渦を巻いて突き進んだ。屋上から発砲していた男に直撃する寸前で、赤い光が割り入り、青い光線の一部を遮った。

 爆発するように白い冷気が散乱し、上空は何も見えなくなる。

 男を拘束している赤髪の男が俺を見て言った。

「お前‥‥殺す気かよ」

「‥‥いや、加減が出来なかった」

「加減?」

「初めて冷凍魔法を使ったんだ。俺が知っているのは浮遊魔法と爆発魔法だけで、でもどちらも使えないし、困っていたら君の設計図が見えたから」

「使ってみたのか?しかも、血の直書きで」

「血の直書き?」

「お前、魔法を誰に教わった?」

「ちゃんと習っていた訳じゃない」

「だろうな」

 冷気が晴れると、建物の屋上付近全体が凍りついているのが見えた。波立って、ぶ厚い氷が覆っていた。

 俺は息を詰める。

 ここまでしようとは思っていなかった。

 男は‥‥氷に埋もれて何処にいるのかも分からなかった。

 赤髪の男が言う。

「俺が、男が居た場所を局所的に火炎魔法で温度を下げた。身動きが取れずに捕獲できているだろう」

「‥そうか、良かった」

 パトカーが停車し、警察官が降りてくる。

 騒ぎが収まると同時に、俺達も事情聴取のためにパトカーに乗せられて、警察署へ連行された。

 赤髪の男の隣に座る。

 赤髪の男は若く見えた。

 俺と同じ、20歳くらいにだろうか。

 この男が居なければ、今頃俺が犯人になっていたかと思うと、肝が冷えた。あとで礼を言わなければ。

 警察署に着いてから、赤髪の男は警察官に封をされた手紙を出して言った。

「スイズ中央部魔法学校への推薦状だ。俺は受験にスイズへ来て、その道中、なんか銃をぶっ放してる奴がいて捕まえようとした。そうしたら、犯人が逃げている間、こいつが襲われて、捕獲を手伝ってくれた。以上だ。マンションを凍らせた奴に関しては、俺の手元が狂ってやりすぎただけだ」

 警察官は推薦状を確認し、目を大きくしたあと、ほかの警察官と何かを話す。

 赤髪の男は言った。

「俺の名前は、アロイ・カムパネラ。別に表彰状とか報奨金は要らねぇ。間に合っている。俺が頼みたいのは、今すぐ解放してくれって事だ。忙しいんだ」

「そうは言ってもですね‥」

「カムパネラ家を知らないのか?正当な魔法使いの血統の家だ。取り敢えずこの手紙の番号に電話してみろ。金を出す。話の流れはそちらの考えで同意する。良いじゃ無いか、一般人が協力したという事で。凍ったマンションも俺が魔法で溶かした。何の問題もねぇだろ」

 赤髪の男には、人を促すような力があった。

 人情に訴えるような、温かみ、とでも言うのだろうか。

 シン、と沈黙が落ちる。

 男は手を組み、テーブルに乗り出して静かに訴えかけた。

「俺は今、大事な時期なんだ。分かってくれ」

 赤髪の男の真剣な眼差しを受けた警察官たちは、顔を見合わせたあと、部屋を出て行った。

 少しして、バッジを付けた偉い人間がやってきた。アロイに書類へのサインを求めてから、帰っても良いと全員に許可が降りた。


 俺はアロイに頭を下げた。

「ありがとう。本当に助かった」

「お前と話したい」

 俺は顔を上げてアロイを見る。

 流石にそこまでは見逃してはくれないようだ。

 アロイは俺を睨んで言った。

「そこまでの力が野放しになっているのは危険だ。お前、人を殺しかけたのを分かっているのか?」

「分かってる」

「分かってねぇな。全身が凍り付いたら死ぬんだぜ?息出来ないし、急激な超低温でショック死だ。俺も魔法使いの資格は持ってねぇけど、見過ごす訳にはいかねぇ。へんな黒い血についても説明しろ」

 俺は考えて答えた。

「話せない。俺たちと関わらない方が良い」

「格好付けているつもりか?」

「ヤバい奴らに追われている。お前も俺たちに関われば、殺されるかもしれないぞ」

「カムパネラ家は代々魔法使いを生む優秀な家系だ。俺もその一人。殺されはしないさ」

 あのスナイパーで殺された男は、俺達に秘密を喋っていた。口封じという点で見れば、奴らも人を殺して回れば足は着くだろうし、望んでいないだろう。

 それにアロイは強い。

「少なくとも、お前には魔法について説明しなきゃならないことがある。同じことが起きた時、人殺しになりたくないだろ?加減の仕方、なぜあそこまで冷凍魔法が強化されたかについて、聞きたくないか?」

 俺は足を止めた。

 トトと視線を交わす。

 魔法は今後、状況を切り抜ける上で重要なファクターとなるだろう。

 俺はたずねる。

「どうして優しくしてくれるんだ?」

「魔法使いとして、魔法使いが人を殺すことを容認できないからだ」

 付いて来い、と言われ、俺たちはアロイに案内された。

 小道に隣接するように赤茶色のお洒落な住宅が建っていて、奥に、質素な木造の二階建ての家があった。

 アロイが言った。

「スイズに来る時はいつも泊まってる場所だ。カムパネラ家の経営してる宿で隠れ家的な場所なんだ。行く場所もないなら泊まっていけ。そんな小さい子を野宿させるなんて、信じられねぇ」

「ありがとう」

「お前の為じゃない。この子の為だ。お前は最低だ、どんな関係なんだ」

「精霊と人間の関係だよ」

「は?」

「本当だ。また後で詳しく話す」

「‥意味が分からねぇ」

 ぼやきながらアロイが木の扉を押すと、ドアベルがチリンと鳴った。

 ウッドな優しい香りがする。

 可憐なオルゴールの曲が流れていた。

 長机に妙齢の女性が座って編み物をしていた。

 羽ペンと紙が置いてある。

 女性は俺たちを見ると、ニコリと笑って言った。

「いらっしゃい」

 アロイは慣れた風に女性に話しかけた。

「部屋、ニつ空いてる?」

「あら、お友達?」

「ちげーよ」

「うふふ、アロイ坊ちゃんに友達だなんて」

「だから違うって言ってるだろ」

 俺も女性に挨拶をして、名前をサインする。

 部屋の鍵を二つ受け取る。

 こんな状況でも、わざわざ女性と男性で部屋を分けてくれるなんて、良い所の育ちなんだな。坊ちゃん、と言われていたから、御子息なのは間違いなさそうだ。

「トト、鍵は自分で管理できる?」

「はい!」

 トトは多分、機械の国で考えると小学校三、四年生くらいか?落とし物忘れ物が一番多い時期だった気がする。

「モックル、トトを見ていてくれ」

 モックルがゆっくり瞬きをして俺を見返した。

 トトが言う。

「任せておけ、ですって」

「そうか」

 それから、女将さんとアロイに改めて礼を言った。

 本当に幸運に恵まれている。

 これで、トトもモックルも、休む事が出来る。モックルとトトはすぐに宿が気に入って、暖炉の前のロビーのソファーでくつろぎ出した。

 宿屋は女将さんの家と隣接していて、女将さんがご飯を分けてくれた。

「すみません、ありがとうございます」

「いいのよ〜。アロイ坊ちゃんにも食べて貰う予定だったのよ。人数が増えて坊ちゃんも喜んでます」

「喜んでねぇ!」

 ロビーのテーブルで俺達はご飯を食べた。

「‥で、お前と、その精霊の関係は?」

「長くなるよ。部屋で話そう」

 俺とアロイは椅子に座って対面した。

 窓の外はキラキラと灯りが光っている。2階から見えるのは、車のライトか。

 俺は何気なく言った。

「今日の男は機械を規制してるって言ってたけれど、車もあるし、道もよく整備されているよな。支離滅裂なんだけど」

「今は機械の国と魔法の国がやり合っているからな。今日の男は魔法の国の人間だ」

「え、そうだったのか」

「スイズの中の魔法の国の人間と何か揉め事があったんだろうな。魔法の国の中でも、機械を受け入れたい人間とそうでない人間が対立していたりする。機械が来てから魔法の国は銃の事故が発生するようになったし、機械そのものを憎む人間も多い。若者は、便利な機械を受け入れられない年配の人を揶揄う人達も多くて、小さな紛争も起きるくらいさ」

「知らなかった。機械のせいで、魔法の国は統制が乱れているのか」

「向こう千年は続く課題になりそうだ。機械との付き合いっていうのは。で、早く話をしろ」

 俺は今まであった事を掻い摘んで話した。

「タマオアイなんて、聞いた事ないぞ」

「そうか」

「大体、それどこ情報だよ。見ず知らずの爺さんの話、信じる方が馬鹿だろ」

「まぁ、そうだけど」

「ていうか、お前、あの血は何だ」

「分からない。気付いたらああなってた。もしかしたら爆撃後から黒い血になっていたのかもしれない。それこそ呪いの影響かもしれない」

「あーもー意味分からんな。止めだ、頭がこんがらがってくる。取り敢えずお前には最低限のことを教える」

「頼む」

「血で描く設計図は基本的に使っちゃダメなんだよ」

「どうして」

「魔法が強化されるから。お前は元々の素質に加えて血の強化が入り、お前の得意な冷凍魔法だったから、初めて使っただけでも、あの威力になった」

「冷凍魔法は初めて使った。得意不得意も分からない」

 アロイは腕組みして、背凭れに背を預けた。

「まず実践の魔法について教える」

「頼む」

「お前の魔法の属性は《青》だからだ。青属性は冷凍魔法の威力が強く出る」

「青?」

「魔法を使う時、光が発生するだろう?赤、青、緑、黄色、桃、白、黒があると言われてる。それぞれ得意な魔法がある。青属性は冷凍魔法や暗示系の魔法に特化している」

「へぇ。そういうのがあるのか。アロイは赤属性?」

「そうだ。火炎魔法と強化魔法が強くなる」

「他の色は?」

「自分で調べろ、魔法の本にはどこにも書いてある基本的で且つ重要なものだ。本屋に行け」

 俺は言った。

「本屋、付き合ってくれないか?おすすめの本、教えてくれよ」

「は?嫌だ面倒くせぇ」

「頼むよ」

 アロイは大きくため息をついた。


 アロイはとても良いやつだった。

 俺はスイズの夜の街に繰り出し、本屋まで案内してもらった。ついでに他の店も教えてもらった。

「六角レンチみたいな、工具を売ってる場所あるか?」

「あぁ。そういうのならそっちの交差点を真っ直ぐ行った所に‥‥」

 色々教えてもらった。

「ありがとう」

「ちょうどペン切らしてただけだ。お前の為じゃない」

「そうか、ありがとう」

 本屋を見て回った。スイズには、小さな本屋が点在していて、一つ一つを巡る。

「スイズの人間はみんな優しくてノリが良い。値引いてくれる店員もいる。無一文なお前には、ここがオススメだ‥っていうか、俺の金で買うんじゃないだろうな」

「買わないよ。覚える」

「は?」

「暗記は得意なんだ」

 中は本棚がズラリと並んでいて、表紙がカラフルな大小さまざまな本が綺麗に積まれていた。

 機械の国は内容重視で表紙もあってないような物なので、俺は心底驚いた。娯楽の本が多いのも特徴だ。

 アロイが一冊の本を差し出してくる。

「これが基本的なこと書かれているやつだ」

「ありがとう」

 「スイズ中央魔法学校」の問題集を渡され、本を開く。


 一次試験    筆記。魔法の設計図、コード

 二次試験    実技


 俺は目次を二度見した。

「‥‥実技があるのか」

「そりゃあな」


 俺は他の本も立ち読みした。

 「魔法の礎(いしずえ)と発展魔法の秘密」


 魔法は大まかに全部で6種類に分かれます。


 ・浮遊魔法   ・爆発魔法

 ・火炎魔法   ・強化魔法

 ・冷凍魔法   ・暗示魔法


 俺はふとたずねた。

「なぁ、幻影魔法って無いか?こう、幻を見せる感じの」

「あぁ。あるぜ。幻影魔法は暗示魔法に分類される。広範囲でリアルな暗示は幻影を見せる事になるだろ」

「なるほど」

 やはり、あの四本脚の機械の群れは幻影だった可能性が高い。

 アロイは言う。

「基本的に、魔法学校に行かなきゃ上級魔法は扱えない。だから普通の本屋でも取り扱っていないのさ」

「そうなのか」

「不満そうだな」

「いや、奥が深いと思ってさ」


 これらの魔法の強弱や、タイミングを変える事で基礎魔法でも魔法に種類が生まれます。

 光のエネルギーから物質に戻すタイミングが重要です。


 例 冷凍魔法 短いと「氷柱」

        長いと「冷凍放射」

   火炎魔法 短い 「火炎球」

        長い 「火炎放射」

 

 実際の試験の問題もパラパラとめくって読んだ。

 閉店時間になって本屋を追い出された。

 アロイは居なくなっていた。

 先に帰ったらしい。

 


 翌朝、俺はアロイに少しのお金を借りて、スイズの街へ向かった。ペンチと六角レンチ、ドライバーを購入して、他にも修理に必要かもしれない道具を買い込んだ。

 《何でも修理屋》《機械技師資格有》《なおします》の看板を掲げて各地を練り歩く。

 すれ違い様に男性が声を掛けてきた。

 少し意地悪そうに、カバンから腕時計を取り出して俺に見せた。

「昨日から動かなくて困ってる。電池を取り替えてもダメなんだ。どこが悪いかも分からない」

「見せてもらっても良いですか?」

「いいけど、それだけで分かるものか?」

「中を開けて見ても良いですか?」

「いいけど壊すなよ」

「もちろんです」

 ドライバーを使って中を開き、部品を解体して中を見た。

 俺は言う。

「内部にゴミと埃が溜まっているせいで、部品同士が上手く噛み合わなくなっています。これが動作不良の原因ですね」

「ゴミと錆?俺は丁寧に使ってきたぞ」

「腕時計は汗なども鯖の原因になるんです。ステンレスでも錆びます。何年使っていますか?」

「5年くらいだ」

「そうなんですね。一度サビができると、他の部分も侵食しやすくなってしまうんです。30分で直せますが、いかがいたしましょう?」

「直せるのか?」

「はい」

 俺がハッキリ言うと、男は笑った。

「やってみてくれ」

「分かりました」

「君は機械の国からきたのか?」

「はい。お金が無いのでこうして練り歩いています」

「そうか、頑張れ」

 スイズの人達は本当にノリが良くて、明るい。

「ありがとうございます」

 お酢を染み込ませたブラシで磨く。

「おいおい、大丈夫なのか?」

「はい。大丈夫ですよ、見てて下さい」

 綺麗になったものを返した。

 男性はおぉ!と大袈裟に喜んでくれた。

「何でサビが落ちたんだ?」

「錆というのは、酸素がくっついた状態なんです。お酢は酸素を切り離す性質があるんですよ。それを利用しています。リューズの隙間‥リューズっていうのはここの部分ですね。メタルベルトやバックルの部分の錆も落としてみました」

「サンキューな」

「いえ。直せて良かったです」

「これ大事な時計なんだ。助かったよ」

 スイズの人は優しい。

 少し多めに代金をくれた。

 

 公園に行くと、小さな女の子がやって来て、プラスチックのシャベルを見せた。

 掬う部分が大きく欠けてしまっている。

 女の子は欠片の部分をシャベルに乗せて差し出した。

「なおちて」

「いいよ。ちょっと待ってて」

 シャベルを水で洗った後、接着剤で欠片をくっ付ける。接着した上から重曹を振りかけ、プラスチックに使われる特殊な接着剤を更に落とす。それを繰り返して、山盛りにして強度を上げる。最後に軽くヤスリを掛けて、赤色の塗装を細筆で塗った。

 女の子の所へ持っていく。

「どう?」

「ありがちょ」

 女の子は受け取り、帰って行った。

 俺がそろそろ行こうかと立ち上がると、女の子を抱いたお母さんがやって来て言った。

「あの、このスコップ、直して下さったんですか?」

「そうです。あ、でも代金は良いですよ。簡単だったので」

「そんな訳にはいきません」

 お代を頂くと、話を聞きつけた他の人たちも集まってきた。子供たちが無遠慮に壊れたおもちゃを積み上げる。

 おもちゃを順番に直し、さらにその腕の良さを認めてくれた大人も物を持ってきた。

 陽が暮れる頃にはある程度のお金が溜まり、俺はアロイにお金を返して、女将さんと宿代の交渉をした。

 

 トトが宿のキッチンを借りて夕飯を作ってくれていて、ロビーにみんなが集まった。

 アロイとモックルも、良い匂いを嗅ぎつけて二階から降りてくる。

 アロイが言う。

「俺にも食わせろ」

 トトが「おあがり下さい」と丁寧に答える。

 トトのご飯をテーブルに乗せるのを手伝って、みんなで手を合わせた。

「いただきます」

 こんもりした丸い肉団子の上に厚いチーズが乗っていた。隣に皮付きのジャガイモと、ニンジン、目玉焼きが添えられている。

 肉汁が口内で噴き出る。柔らかくて美味しい。

「凄い柔らかい。肉じゃ無いみたい」

「乾燥したパンの粉と卵を使っています。肉と相性が良くて、まとまりやすくなるんです」

「へえ。初めて食べた」

「バング、という料理です。宿の奥さんに教わりました。ソースはニンニクと刻んだオニオンを煮込んだものですよ」

 食べ終えて、俺は今日の戦果をトトに報告し、アロイに借りたお金と利息分を返した。

 アロイが言う。

「お前、凄いな」

「ありがとう。でもスイズの人たちが優しかった。そのおかげだ」

「部屋は何日まで交渉したんだ?」

「受験の日まで。また修理屋はして代金は払うけど、承諾してくれた。優しい人だな」

「女将さんはイケメンに弱いからな」

「俺のこと?」

「他に誰がいるんだ」

「初めて言われた」

「嘘つけ」

「本当だよ。ありがとう。それから資本金もありがとう。改めて、アロイには感謝してる」

「別に良いよ、金は増えて返ってきたし、お前が優秀な人間だってわかってきたからな」

「受けた恩は出来るだけ返したい。頼みがあったら言ってくれ。物作りなら大体いけると思う」

「機械技師(マシンメイル)って凄いんだな。お前のこと舐めてたよ」

 アロイは大きく欠伸をすると、自室に戻って行った。

 

 俺たちも部屋に戻る。

 トトが付いてきた。

「ジン!お話したいです!もっと詳しく今日の事を知りたいです」

「夜遅いけど、良いの?」

「ぜんぜん良いですよ?私、一人の部屋だとつまらないです。ジンの部屋に行っても良いですか?」

「え」

 そうか、トトは集団で寝泊まりしていたから、感覚が違うんだ。

「いや‥」

 俺が否定する前に、トトは俺の部屋に入ってくる。

 ベッドにトンと座り、足を伸ばしてトトは笑って言う。

「ジン、さっき、ちょっと照れてましたね」

「‥褒められて嬉しくない人間はいないよ。俺は機械オタクって馬鹿にされてきた位だ」

「そうなんですか?モテモテだと思っていました」

「全くだよ。近づき難いって言われた事もあるし」

 俺は隣に座る。

 俺たちが喋っていると、モックルも間に割り込んで来た。自分も仲間に入れて欲しいようで、犬みたいで可愛い。

 トトはモックルを撫でて言う。

「今日はモックルとお散歩に行ってきました。体が小さくなっても大丈夫みたいです」

「そうか、良かった。でも、犬で押し通せるのか?」

「三つ目を閉じていれば問題はありません」

「そういうもんか?尻尾長いし、牙鋭すぎるだろ」

 どんな修理をしたのか、今日の話をし終えて、シンと静かになった。

 トトが言った。

「そろそろ血を飲んだ方が良いかもしれません」

「そうだな」

 トトが俺に背を向けて、シャツを脱ぐ。

 トトの血を摂取するのは、回数を重ねても慣れるものでは無かった。まず、ナイフでトトの皮膚に切り込みを入れるのが辛い。血を舐めるのはもっと辛い。

「絶対合格して、呪いを解くから。そうしてトトの血が必要なくなるようにするから」

「うん」

「ごめんな、もう少しだけ、血をもらうよ」

 俺は白い血に口付けた。



 トトが寝たのを確認し、俺は一階にある浴室へ向かった。シャワーで身体を洗った。ふと正面の鏡に、何か写った気がして、よく見てみる。

 俺は息を呑んだ。

 俺の右腕に何かある。



 δεξιά



「デクシア‥」

 《右》の文字が入っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る