男子シングル選手(2)~レオ、バシキロフ~
レオ・ウィリス(アメリカ)
SOEとSHの両方に登場。SH後半「インターミッションⅢ」ではその半生が詳細に語られ、もう一人の主人公ともいうべき存在になる。
SHでは本編で22歳→23歳、作中のインターミッションⅢにおいて出生時から21歳までの姿が書かれる。身長186センチ。鳶色の髪と目。
〇四年度から〇七年度までの全米四連覇、トリノ五輪銀メダル獲得、〇六年度から〇八年度までの世界選手権三連覇と、バシキロフ引退後の男子シングル界の頂点に立つ。
大学アメフトの名選手だった父親譲りの運動神経は天性のもので、高度なジャンプ能力の他にアイスダンスでも通用するレベルのエッジワークをもつ。
スケート以外でも素人同然の状態で参加した野球の試合でスーパープレイを連発し、トラビス率いる名門大学野球部相手に勝利をおさめる。
その後も大リーグ監督やボクシング大物プロモーターに勧誘を画策されるなど、その能力は世界最大のスポーツ大国アメリカでも屈指のもの。
根っからのスポーツマンである反面表現力も非常に高く、様々なジャンルの曲を演じきり、楽曲に対する姿勢も非常に真摯で学究的。
その演技力はスケート以外でも発揮され、客演したテレビドラマでは見事な芝居を披露しプロデューサーから最大級の賛辞を引き出す。
発想力も豊かで、ノービスのころから常識にとらわれない選曲や衣装や振付を考案し、ベテラン記者から「スケート界一のアイデアマン」と呼ばれるほど。
そのように心技体そろったアスリートの鑑とでも言うべき人物ではあるが、男子シングルとしては規格外の大柄さによる故障の多発、フィギュアスケートで理想とされる優美な顔かたちでないコンプレックス、また勝ち続けねばならないプレッシャー、さらにバシキロフや哲のような音感に欠けることにも悩み、十代のころにはスケート費用の足しにするためリンク清掃のアルバイトをしていた苦労人でもある。
気持ちの浮き沈みが激しい面はあるものの本質的には非常に強気。特にワールド三連覇がかかるシーズンでは傲慢勝手とも思える言動を繰り返すが、それ以外の私生活ではきわめてテンションが低く、女性うけや世間の知名度に関して自虐的な物言いをすることもしばしばである。
とはいえ気が向けばユーモアを口にすることもあり、意図せず詩的な一句を吐くことも少なくない。
笑顔を絶やさなかったバシキロフとよく比較されるほど常に無愛想だが、ジュニア時代までは大らかで元気な少年で、シニアに上がって苦労が増えてから笑わないようになった。
精神状態同様に競技人生も浮き沈みが激しく、三歳でスケートを始めるも「フィギュアスケートは男らしくないスポーツ」というアメリカ社会特有のマッチョ思想に幼少期から不快な思いを味わう。
11歳の時地元で世界ジュニアが開催され、そこで見事な演技と態度を見せたバシキロフの姿に感動し、以後彼への憧憬がレオの競技人生を貫くモチベーションとなるが、それは新たな苦悩の始まりでもあった。
バシキロフを絶対視するあまり自分に彼のような容姿や演技性がないこと、選手として近づけずまた近い位置に立てるようになると、どうしてもかなわないことに苦しむようになる。
とはいえレオの情熱の根源は、スケート自体への愛であり、表現者として競技者として進化したいという克己心である。
五度目の出場となる08年度世界選手権では作曲家の思想をも表現しきる見事な演技を披露し三連覇を達成。
日ごろ傲岸不遜な哲に自身の音楽に対する姿勢を反省させ、完敗を認めさせる。
また犬猿の仲であるアルメンサ(正確にはアルメンサが一方的にレオを敵視しそれに伴いレオも態度を硬化させた)に「氷上のイル・ディーヴォ」の称号をひそかに贈られた。
先祖がドイツ系ユダヤ人という出自を持ち、元の姓はウィルュシュテッターだがアメリカ移住の際に英語風に改名したという。
それにちなみ日本では「カイザー・レオナルド・ウィルシュテッター」というあだ名をつけられている。
レオは欧米ではユダヤ系特有の名前だが本人いわく「戒律など何一つ守っていないので正確にはもうユダヤじゃない」。
イリヤ・バシキロフ(ロシア)
SOEとSHの両方に登場。
17歳で出場した長野五輪で銀メダルを獲得し、翌月の世界選手権に優勝して以来、欧州選手権九連覇、世界選手権98年度から05年度までの開催8回のうち一度欠場した以外すべて優勝。
ソルトレイクとトリノ五輪連覇を含めて出る大会すべてで優勝した生ける伝説。
あまりの強さと美貌と天上的な演技性から「氷神(ひょうじん・アイスゴッド)」と呼ばれる。
その他「氷上のヴィルトゥオーソ」「空気を楽器にする」「跳びながら滑る」「スカイウォーカー」などともいわれるが、その演技は緻密な楽曲研究と地道で過酷なトレーニングのたまものである。
青い目で長く伸ばした金髪がトレードマーク。いつも笑顔で愛想がよく、天使のようと評されるが同年代の男子シングル選手にとっては非常に厄介で重苦しい悪魔のような存在。
実際己の演技の向上のみを目指して他選手を相手にしていないかのような競技姿勢と物言いは、本人に悪意はなくともレオをはじめとする男子選手を常に苛立たせる。
兄弟子にあたるユーリー・ロマンツェフを引退に追い込んだのをかわぎりに、ノービス時代のレオやシニア上がりたての伶里を奮起させる、加藤雅之に限度を超えた挑戦をさせて重傷を負わせ引退に追い込む、トラビスがヌードを公開するなど、本人の意図しないところでも影響を多方面に及ぼしている。
これほどの大選手でありながらスケートを習い始めたのは十一歳から。その生い立ちは過酷なものだった。
父はKGB職員で祖国を裏切ってアメリカに走りソ連当局に粛清された人物。
イリヤ本人も五歳の時に角膜炎で失明。その後七歳の時、祖母のダーチャ(別荘)のそばの凍った沼でスケートを体験したことが転機になる。
冬季の週末に、盲目の暗黒の中手本もアドバイスもなく聴覚と身体感覚のみを頼りに滑り、完全に独学で理想のスケーティングを身に着け、バッククロスを編み出した。
その後母親の死と母の角膜移植によって視力を回復し、偶然に指導者のゼレンスキーに見いだされたことでフィギュアスケートの道に入る。その後もコンパルソリの練習は一切しなかった野生の叩き上げスケーター。
選手生活が後半に入ってからは、氷上練習の時間は極端に少なく、陸上トレーニングに長時間を費やすというスタイルを確立させている。
引退試合となるトリノ五輪で優勝したのち、同年齢でありながら今まで面識がなかった鷺沢伶里とトリノの選手村で遭遇。
その後銀メダルを獲得した伶里とエキシビションで一夜限りのカップル演技を披露する。
エキシが終了した後トレードマークだった長髪を切り、レオに新しい才能の誕生を予言して帰国する。
そして伶里は、エキシ中に味わった超感覚によって認識した、バシキロフは人知を超えたものによって滑らされていたのであり、そして役割は終わったのでもうジャンプは跳べず演技はできないであろうという観測を廉士に語る。
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