第146話 ピンゾロ狙いで二十と四年、くぐった鉄火場真砂の数よ

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 廉士は少し興味深そうな表情をし、ついで笑みを浮かべて、

「全然構いませんよ、どんどん使って下さい。何せこいつ、くぐった修羅場の数だけは人一倍ですから」

「ちょっと」

 伶里は高い声をあげた。

「何なんですか修羅場って! やくざじゃあるまいし」

 憤然となった伶里は、廉士の目を見て動揺した。

「褒めてるんだよ。よく生き残ってきたなあって」

 普段のぶっきらぼうな物言いに慣れた身に、ほとんど不意打ちだった。優しい目と声が、他人を前にしているため閉ざしているわけにいかない心に直截に沁みいってくる。頬が火のように熱くなり、下を向くしかなかった。

「そういうわけですから、どうぞ遠慮なく。小春川くんもいい選手だし、役に立てるんなら光栄です」

「まあ、ありがとうございます」

 コーチ二人の話し声を、黙って聴くばかりだった。

 歩き出す前に、控えめに振り返ってみた。見慣れたもののはずの背中が新しい美しさをもって目に飛びこんできて、慌てて顔の向きを戻した。

 エレベーターの前で、橋田が声をひそめ話しかけてきた。

「仲いいのね」

 低めた声と真面目な口調にかえって含みを感じてしまい、伶里は弾かれたように顔を向けた。

「なん、何なんですか。変なこと言わないで下さいよ!」

「仲いいのねって、別に変なこと言ってないじゃない」

「だから、別に仲なんて良くないですって」

 簡明に反駁しようとすると二者択一的な表現しかできないのに気づき、伶里は困惑した。橋田はまじめな顔で、

「仲良くないって、それ」

「もうやめましょうよ、っていうか、やめて下さいよ! これから試合控えた人のとこ行くのに、あんまり変な話題出さないでください」

 橋田は目を見はったが、その後は何も言わなかった。

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