魔法少女2
魔法少女、私も小さな頃に日曜日の朝の番組で憧れを持っていた。
ごっこ遊びもやった。
そんな憧れた存在に私はなったのだ。
「こ、この姿は?」
視界に入る両手の純白の手袋。魔法少女らしい、フリルが沢山の付けられたふんわりとしたドレス。
更に風でなびいている髪の毛が白、いや銀色の髪の毛になっていた。
「いきなりでごめんなさい。でも、眼の前にいる【ドレイン】から身を守る為には貴女に力を渡す必要があったの」
右耳の近くから、声が聞こえたのでそちらに視線を向けると手のひらサイズのちいさな純白のウサギがふよふよと浮いていた。
「ち、力って。それに【ドレイン】って?」
「今あなたの目の前にいる、化物よ! さぁ、構えて!」
「え? ええ?!」
混乱していると、ズルズルと此方へ近づいてくるイソギンチャクは触手の先端から黒いエネルギーの塊のようなものを飛ばしてきた。
「ひ、ひぃっ!」
「防いで!」
「い、いやあぁっ!!」
飛んでくる黒いエネルギーの塊を見て、私はとっさに両手で自分を守ろうとした。
正直、この瞬間私は死ぬと思った。
でも、次の瞬間。
――バチンッ! と甲高い音と共に私の目の前に七色に輝く透明なシールドのようなモノが展開され、黒いエネルギーの塊はシールドに当たると直ぐに消滅した。
「え、あ、これは?」
「大丈夫よ! 貴女なら、眼の前にいる【ドレイン】倒せるわ!」
小さなウサギの自身の籠った言葉に、私は身体の奥から溢れ出て来る力を感じて、「もしかして勝てるのでは?」とその気になってしまった。
「た、倒すって言ってもどうすれば?」
「攻撃のイメージを作って、その通りに攻撃して」
「こ、攻撃ってえっと」
魔法少女らしい攻撃って……。
思い出して、子供の頃に見た魔法少女、変身ヒロイン達がどうやって敵を倒していたのかを思い出す。
えっと、確か私が見たヒロイン達は……。
「パンチとキックと締め技」
「え?」
私の呟きに小さなウサギが驚いた表情でこちらを見てくる。
「とりあず、パーンチ!」
「ナンダト!?」
私はやけくそ気味に、イソギンチャクに殴りかかった。
喧嘩もしたことのない私だったが、自分で自分の身体じゃないスムーズでハイスピードで、私はイソギンチャクの化け物を思い切りぶん殴っていた。
いきなり自分の目の前に移動してきた私に驚く黒いイソギンチャク。
そして、殆ど反射的に拳を振り上げる私。
魔法少女になって初めての一撃は、まさに会心の一撃だった。
「ゴベャァッアアアア?!」
私の拳に伝わるグニュッとした、気色の悪い感触に驚きながら、私はイソギンチャクの身体にネットで見たボクシング漫画で得た知識で拳をねじり込みながら、拳を真っ直ぐにイソギンチャクの身体に突き入れて、そのまま拳を振りぬいた。
奇声を上げながら、吹き飛ばされる真っ黒なイソギンチャクは五メートルほど道路を転がりながら家の塀にぶつかり動かなくなった。
「……え?」
驚いている間に真っ黒なイソギンチャクはシュ~っと燃え尽きるような音と共に煙のように消えていく。
こうして、私の初戦闘はあっけなく終わった。
「凄い! 流石は選ばれしモノだわ!」
私の右肩近くでふよふよと浮いている小さなウサギが目をキラキラさせながら、私を見詰めてくるけれど。
私の頭はまだまだ混乱していた。
「さぁ、早くここから離れましょう。奴等の仲間が来たら大変だから」
「わ、分かったわ」
「こっちよ」
小さなウサギと共に私はその場を走り出した。
この後、直ぐに小さなウサギが私達に一般人が近寄らない魔法を使っていると聞いて、かなりホッとした。
☆
私が【七つの希望の輝きを放つ金剛石】と名乗る、生きた宝石の魔法の変身アイテムと出会って一週間。
長い名前でウサギの姿になれるので、変身アイテムのことをナナと名付けた。
彼女はこの地球ではなく、別の世界からやって来た生きた宝石の変身アイテムで、どうやらこの地球に善良な人々から夢の力を奪う悪の軍勢【ドリーム・ドレイン】という奴等がやって来た。
この【ドリーム・ドレイン】は、安直な名前だけれど。恐ろしい存在だった。
ナナ達の前の持ち主達は全員が倒された。最初は殺されたのかと思ったが、どうやら元の世界で生きているようだけど。
ナナ達の世界の人達は夢が無くなり、そこから徐々に人の心を無くし。今はロボットのように無機質にただ生きているだけ。
人々は考えることも出来なくなっていると聞いた。
唯一の生き残りは、逃がしたプロミアと言う女王陛下だけらしい。
恐ろしい。と思う反面。彼女の話を聞いて、子供向けの変身ヒロインアニメかな? と思ってしまった。
それとナナの言葉が本当なのかと疑ってしまう。私もオタクだ。ものすごくハードな魔法少女モノの作品も見たことがある。
ナナが実は悪者の可能性もある。
けど、今は戦いたくないけど。戦わないと。
正義の為ってわけじゃない。襲われて分かった。
ここで戦わないと、自分の酷い目に合う。
とりあえず、私が今やることは。
「輝、スマホで何を見ているの?」
「魔法少女系の戦闘シーン集の動画」
「何故、そんなものを?」
「戦いの知識が欲しいなって」
変身すると信じられないくらいに身体能力が上がる。それこそ正義のヒーローのように。
でも、私は格闘技なんてやったことはない。
だから、何か参考になればと思っている。初めての戦いでは殴ったら勝てた。
けど、あの敵はナナの話だと偵察の為にこの世界に来た弱い敵だと聞いている。
「やっぱり遠距離攻撃が欲しいな」
「魔法を使いやすくするために杖などを作ります?」
「杖かぁ」
杖は確かに魔法少女系のお約束だけど。
私にそれが合うのかって言うと疑問だ。うーん、試しに棒でも手に入れて振り回してみる?
「ビームライフル?」
「ビーム?」
「ううん何でもない」
流石にちょっと似合わないと言うか。なんか違うんだよね。
拳で戦うのも相手に近づかないといけないし。
それに、動画でも近接攻撃を得意とする魔法少女が遠距離攻撃が得意な敵や拘束してくる敵に負けているシーンがある。
うーん、本当にどうしたらいいのかな?
「あっ、輝! いや、ダイヤ!」
「敵?」
「うん、来たわよ」
ダイヤと言うのは私の偽名だ。
一応、人が近寄らないようにナナが魔法を使ってくれるけど、絶対じゃない。
顔や声が返信すれば変わって、誰かに見られても変身前の正体を知られることは無い。
けど、名前をそのまま呼ばれたら危ないから、ナナと話して偽名を名乗ることにした。
ダイヤ、それが変身した後の私の名前だ。
☆
ここ数日毎日のように敵、【ドリーム・ドレイン】がやって来た。
偵察が倒されたから、警戒しているのかもしれない。とナナは言っていた。
「うーん、やっぱり。近接攻撃の方が良いのかな?」
「そうね。私を使う歴代の戦士たちは頑丈だったから、近接攻撃が多かったわね。それでも、遠距離攻撃を全くしなかったわけではないわ」
「だよね~」
私の今の悩み。
それは戦うことへの恐怖や葛藤ではない。最初こそ、恐怖を感じたし、戦えば傷つき痛みを感じるけれど。
どうやら、ナナに選ばれると言うことは、精神的な部分でも戦いに向いているようだ。
最初は何かを感じる前に敵を倒した。二回目は人ではないが言葉をしゃべる生命を倒したことへの罪悪感を感じた。三回目からはそう言うのは無かった。
「私、本当に魔法少女にふさわしいのかな」
「何を言っているの? 輝、貴女は力を使いこなしているわ」
「でも、なんかこう、もうちょっと人として戦うことへの葛藤とか」
「どういう理由であれ、割り切って戦うことは戦士に必須よ」
もっとキラキラした感じかと思ったら、ストイック過ぎない?
「あ、そういえば、他のドリーム・ジェムーってこの世界に来ているの?」
「うーん、来ていると思うわ。ただ、どれだけのドリーム・ジェムーがこの世界に来ているか分からないわ」
「じゃあ、ドリーム・ジェムーってどれくらいの数があるの?」
大勢の戦士たちって聞いたけど。
どれくらい居たのかな? やっぱり魔法少女モノっぽいから五人とか多くて十人くらい?
「一万人ですね」
「え?」
「一万人ですね。ああ、もちろん。輝のような凄まじい才能のある方は居ませんでしたが」
「い、一万人?!」
「はい、ですが誤解しないでくださいね。強さにかなり差がありますし。輝が仮に一万人の戦士と戦ったとしてもスタミナが続く限り、輝が勝ちます。攻撃範囲の広い技を使えば直ぐに倒せますよ」
「待って、ナナの世界の戦士達は弱かったの?」
「いいえ、この世界の……そうですね。半数以上は戦車くらいなら単独で消し飛ばせる力がありましたね」
戦車を消し飛ばせる? 半分でも五千人近くがそれだけの戦闘力を持っているのに負けたの?
「えっと、待って。もしかして私凄く強い?」
「戦う訓練がし難い環境だから、分かりにくいかもしれないけれど。輝は途轍もない力を持つ戦士よ? 歴代の戦士達でもあなたに勝てるのはほんの一握りだと思うわ」
「……私にそんな力が?」
「ええ、貴女なら。近衛の上級国宝の無色のドリーム・ジェムーにも選ばれるかもしれないわね」
「無色のドリーム・ジェムー?」
「ええ、私達ドリームジェムの中にも強さはあり。私は上位の力を持っていますが、無色のドリーム・ジェムーは格が違います」
「格が?」
「はい、無色のドリーム・ジェムーは原初のジェムーです。全てのジェムーの母とも言えますね」
へー、そんなに強いジェムーがあるのか。
「ですが、冷静に考えると恐らくもうドリームジェムーは殆ど無いでしょうね」
「どうして?」
「奴等、【ドリーム・ドレイン】に破壊されたか。力を奪われて消滅している筈です。私は多くの戦士のドリーム・ジェムが破壊されるのを目撃しています」
「そ、そうなんだ」
破壊って、ナナにとっては死だよね。
地雷踏んじゃったなぁ。
「ええっと……」
「気を使わなくても良いですよ。ですが、そうですね。敵と戦い輝の戦闘経験を積みながら、他のドリーム・ジェムーと合流を目指すのも良いですね」
「え、ええ、そうね。一人だと色々と限界があるだろうし」
ゲームとかでも、敵の数が増えてくると一人で出来ることは限られてくる。
私が最強なら一人でもいいだろうけれど。
話を聞いている限り、私一人では絶対に手に余る。
「あ、敵の幹部っているのかな?」
「幹部? ああ、この世界の物語でいうところの四天王っていう存在?」
「そうそう」
私が頷くと、ナナは少し考えて。何かを思い出すようにこう言った。
「特に力が強いと感じたのは七人ですね」
「なっ!? 七人も居るの?!」
「でも、輝なら一対一でも十分戦えるはずよ」
「一対一限定なのね」
「ええ、でも勝てる可能性があるのは知っておいた方が良いわ」
そうだけれどさ。でも、ゲームじゃないから。強い敵が一人一人やってくることなんてないだろうし。
「他の魔法少女かドリーム・ジェムーを探しましょう」
「賛成、けれど難しいかもしれないわ」
「なんで?」
「輝のように才能がある子を見つけられていない場合は、しっかりと隠れて行動している筈だから」
そっか、確かにナナも初めて会った時に攻撃魔法を使って私を助けてくれたけれど。
かなり無理した一撃だったらしいし。
「地道に敵を倒しながら、一つ一つ何とかしないと駄目かぁ~」
「頑張りましょう。輝」
ナナの言葉に私は頷いた。
ああ、やっぱり。魔法少女になって、ワクワクしている。けれど、同時に不安もある。
早く仲間が欲しいな。
☆
――とある、異空間に存在する要塞惑星ドレイン・スター
その巨大な玉座の間には二人の人物が存在していた。
一人は空席の玉座の間の隣に立つ妖艶な露出度の高い黒いドレスを身に着けた妙齢の大きい二本鋭い角を生やした真っ白な肌の女性としての魅力あふれる肉体を持つ人物が立っていた。
名前はバルジェート。
「よく来たわね。【音速のエファース】」
バルジェートが見据える先に立っていたのは人の形をしているが。人ではない。
武がこの場に居れば変身ヒーローものに出てきそうな怪人だな。と言っていただろう。
エファースと呼ばれた存在は、全身が銀色で鋭い姿をしており、まるで戦闘機を人の形にしたような外見をしていた。
武がこの場に居れば、空を飛んだら速そうだな。と言うだろう。
「バルジェート、何故ここに居る? 俺は主に呼ばれてここに来たのだが?」
「ここには居ないわ。わたくしは伝言を頼まれただけよ」
「ふん、そうか」
「あら、不服?」
「もちろんだ。バルジェート。毒婦のお前が何故、未だに主の横に居られるのかが理解できんな」
「ほほほ、嫉妬は醜いわよ」
「……さっさと伝言を教えろ。お前の笑い声は不愉快だ」
ニヤニヤと笑うバルジェートを睨むエファース。
「そうね。私としても貴方にはさっさとここから出ていってほしいわ。じゃあ、心して聞きなさい」
バルジェードが表情を引き締めるとエファースも気を引き締めた。
お互いに敵対している。だが、自分達の主の話をする時は、私情を持ち込まない。それは【ドリーム・ドレイン】の幹部の暗黙の了解だった。
「少し前に支配した世界。【ジェムーランド】ってあったでしょう?」
「ああ、何人か目を見張る戦闘力を持つ戦士は居たが、基本的には数だけの世界だったな」
「ええ、その世界から逃げ出した女王プロミアは未だに行方が分からない。まあ、それはいいのだけれど。問題なのは奴等が国宝級と呼んでいた【ドリーム・ジェム】よ」
「確かに国宝級を使っている戦士には苦戦を強いられていたな。久し振りに幹部全員で侵略するに値する世界ではあったな。まあ、それも長くはもたなかったが」
エファースの言葉に頷くバルジェート。
バルジェートも前線指揮で戦士達を倒したが、敵の戦力は数だけの世界という印象が残っている。
「話をつづけるわ。それで、最近だけれど。そのあの世界から逃げた国宝級の一つが地球っていう世界に居ることが分かったの」
「ほぉ、異空間に逃げ出して、新しい世界を見つけたか。そのまま未来永劫、異空間を彷徨うっているかと思ったが。それで?」
「その世界の侵略を貴方に任せるとのことよ」
「俺一人で良いのか?」
「ええ、どうやら、地球と言う世界にはドリームエネルギーは存在していないみたいだから」
「ん? ああ、科学発展した世界か。それはそれで楽しめそうだな。分かった良いだろう。ドリーム・ジェムーを回収するついでに、地球と言う世界の侵略しておこう」
その言葉に頷くバルジェート。
そして、エファースは直ぐに玉座の間から立ち去っていく。
ゆっくりと巨大な玉座の扉が閉められる。
「ふんっ、金属風情が」
吐き捨てるバルジェートに音も無く背後から近寄って来た侍女のような恰好をした少女がバルジェートに問いかける。
「よろしかったのですか? 国宝級のドリーム・ジェムーが適合者を見つけていることを教えなくて」
「問題ないわ。そろそろ私達七人も入れ替えをした方がいいでしょう? それに敵地を碌に調べもせずに攻撃するなら、それはエファースの落ち度よ」
満面の笑みを浮かべるバルジェートに、侍女のような恰好をした少女は一礼をしてその場から去った。
それを確認して、バルジェードは自分の豊満な胸の谷間に仕舞っている漆黒に輝く【ドリーム・ジェムー】だった物に触れながら、呟いた。
「どうなるのか。本当に楽しみね」
その言葉を最後に、バルジェートはまるで蜃気楼のようにその場から姿を消し。
玉座の間は静寂に包まれた。
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