俺関わってないよ?


俺が異世界に勇者として召喚されたということは、俺が存在しているこの世界以外にも世界はある。

まあ、勇者仲間がそれぞれ別の世界から召喚されているから、今更ではあるんだが。


俺はチート能力を使っても、勇者召喚された世界へ移動することはできないし、仲間の勇者が居る世界へ行くことはできない。

まあ、勇者仲間達の世界なら、もしかしたら、何かしらの方法で移動できるかもしれないが。

基本的には無理だ。

何故こんな話をし始めたかと言うと。時間は少し遡る。



「本当に、武は関わっていないのね?」

「ああ、本当だ」


最近、俺は少し気が早いが、シャナ達の為にハロウィン用のお菓子を色々と作っている。

レシピがネットで公開されている物をまず作ってみて、そこから色々とアレンジをすることにハマっていたのだが。


休日の今朝。突然、大人しめのデザインの紅いドレスを着たアンネが俺の家にやって来た。

アメリアさんとアレックス先生もちょっと真面目な雰囲気を出しているので、俺も気を引き締めて話を聞いたのだが。


「昨晩、謎の魔法少女が現れたわ」


俺は少し考えて、直ぐにアンネの為の蜂蜜とレモンを入れた紅茶を出して、アンネにこう告げた。


「アンネ、君は疲れているんだ。これを飲んでゆっくり寝なさい。温まるよ」

「違う! 疲れてない! 真面目な話!! 優しくしないで!!」


いや、吸血鬼の王女様が、家に突然やって来て。昨日の夜、魔法少女が現れたって言われたら、普通は正気を疑うだろう。

……そう言えばアンネは吸血鬼だったな。それなら、まあ。


「魔法少女くらい探せばその辺に居るんじゃないか?」

「なんで、そんなに投げやりなの?」


ちょっと困った表情のアンネ。

いや、元の世界に戻ってきてから、俺も結構お腹いっぱいだぞ。


魔法が無い世界だと思ったら、裏では魔法が存在しているし。

吸血鬼の王女を助けることになり、次は退魔師系の古い家系のお嬢様を助けし、後輩が何故か古代神話の化け物の復活に関わって、後輩の使い魔を召喚したら、俺が原因でクトゥルフ神話に出てくる邪神をこの世界に生み出してしまったし。

そして、未だにこの地球上の海底のどこかにシャレにならない都市であるルルイエだったか? が存在している。

しかも最近、スーちゃんが気づいたことだが。どうもルルイエが移動してるっぽいんだよね。

自分のところに来るような感じではないから、今は後回しにしているけど、割とヤバいなぁ。

でもって、最近では退魔師の連中を調べたら裏で結構ヤバイこと平気でやっている。

公的機関は戦力不足。なので手助けしたら、なーんか推定四百年? くらい前の現代の都市を滅ぼせるレベルの妖魔が復活したりと。

他にも生物兵器に改良された少女を助けたり、その伯母に当たる女性を守る為に使い魔の淑女妖精に仕事を頼んだら、高位の妖精騎士が四人もくっついてきたりと。


冷静に考えると、数カ月で経験していい内容じゃないよなこれ。


「いや、だってさ。ぶっちゃけるとスカルドラゴンや生物兵器、アメリカ大陸横断魔法犯罪組織殴り込みとかと比べると普通かなって」

「感覚がマヒっているわね。ま、私も正直、ふーん。あっそ。って最初は流したわ。だって、武が何かしたんだろうって思ったからね」

「失礼な、俺が毎回何かしているみたいに言うなよ」

「……言いたいことは色々あるけれど。現時点で武は何か知っている? 魔法少女について」

「まったく、初耳だ」


本当に身に覚えがない。

なので、俺はアンネやアメリアさんとアレックス先生の補足を聞きながら、話をまとめると。


「この地図に赤い円で書かれている場所で、ここ最近魔法が使用されていたと?」

「そ、一応は魔法を使う時は事前に許可を取るのよ。もちろん、予め許可された場所なら限度はあるけど、魔法の練習は出来るわ」


なるほど、基本的に退魔師は対魔省庁などに退魔師登録をしている。

全員が登録しているわけではないが。と言うか、俺が力を貸すまで。家の切り札になるような隠された存在などもあるが。

退魔師の公的機関に情報を登録をしている割合は五割を切っていたが。


「つまり、この地図の円で書かれた場所で魔法を使った奴は事前の許可を取っていなかったと」

「ええ、そうよ。対魔師局はある程度、またかって思ったらしいけど。現場を調べて驚いたそうよ」

「使用された魔法が危険度A以上の破壊力の魔法の可能性が高いからだな」

「そうよ。街中でそんなのをぶっ放されたら、とんでもないことよ」


魔法は幼い子供でも大人を殺せる技術だ。だからこそ、その辺はしっかりと管理されている。

いや、今回のことを考えると管理されていた、かな?


「でも、それだけだと魔法を誰かが不正に使った。だけだよな?」

「もちろん、私達も初めはそう思ったけれど、これを見てほしいの」


アメリアさんがシャナの合図にすっと前へ出て、俺にタブレットを渡してくる。

俺はタブレットを受けとり、そこに映っていた画像に固まった。


ビルから飛びあがったのかやや左後ろの方から撮影されたのかな?


顔は分からないが綺麗なピンクのロングヘア、身に着けている衣装は白とピンクを基調とした可愛らしいフリフリなドレス。

手には長い杖。ロッドと言えばいいのかな? を持っていて。その杖の先端にはハートの形のダイヤモンド? のようなモノが浮いている。


「コスプレ?」

「違う! たまたま、ウチの侍女が偶然撮影に成功したのよ。彼女も成功するとは思っていなかったみたいだけど」

「あー、都市には魔法を使っているところを撮影されないように色々と細工がされているんだったな」


隠蔽する為に、色々とあったはずだ。

アンネの侍女も偶然仕事が休みで、たまたま買い物をしていたら、変な魔力を察知して。

対魔師局へ連絡。彼女自身が近衛所属でもある為、偵察する為に現場へ急行。

この辺は日本とアンネの実家が非常時には協力する協定を結んでいるらしい。で、偶然魔法少女を発見して撮影したと。

本来、隠蔽用細工。主に結界がある地域で撮影などをする場合は専用の魔道具のカメラを使う。今回は仕事が休みでそう言うのが無かったから、スマホで駄目もとだったようだ。


「そうよ。都市全体をカバーできないから優先度が高い場所だけね。優先度の低い場所で不用意に魔法は使わないように注意喚起がされているわ」

「これって、もうネットとかに?」

「多少は出回ったけど、直ぐに潰したようね。アップした一般人のOLさんなどには専門の魔法使いが記憶を操作したらしいわ」


記憶を操作するのはかなり難易度が高い。担当した魔法使い、ご苦労様です。


「兎も角、俺は今回の一件にはまったく関わっていないぞ?」

「そう、ならいいわ」

「ところで、俺に話を持ってきたってことは何かあったのか?」


私服じゃなくて、ドレスだからな。

アンネではなく、アンネローゼとして来ているのかもな。


「実はね、どうやらこの魔法少女は、何かと戦っていたようなの」

「何か?」

「ええ、現場に残されていた遺体? 残骸?を調べたんだけれど。それから魔力、魔力のようなものが検出されたの」


魔力のようなもの? 魔力ではないってことか?


「私達が使っている魔法を使うのに必要な魔力。それと魔力に限りなく近い何かが含まれているのが分かったの」

「俺はその辺詳しくは無いが、確か西洋と東洋魔法。それに各種族が使う異能力や天使や悪魔が使う魔法も大本の力である魔力は、皆同じモノって言うのは知っているが。それとは違ったのか?」

「ええ、頭が痛いことに」


魔力に近い別の何か、ね。


「アンネはどう考えている?」

「……魔法のことを教わっていない魔法関係者の女の子が偶然、魔法少女のようなモノに変身できる魔道具で魔法少女。と考えたいわね」


そう考えたいね。うーん、直感スキルが関わるっても、関わらなくても現時点では問題ないようだな。

関わらないとヤバイ場合は、嫌な予感がビンビン感じるからな。


現時点でどっちでもいいなら、関わらない方がいいか。


「ま、俺は何も知らないし、今回の一件には関わるつもりはないぞ」

「そう、そうね。まだ、何も分からないし」


アンネは用事があるらしく、俺が作ったハロウィン用のお菓子を手土産に直ぐに帰った。


魔法少女ねぇ……。ま、放置でいいな。


そして、その日は何となく気分が乗らなかったので、適当にお菓子作りを切り上げて、俺は適当に街でブラブラして過ごした。

その日の夜。俺は一瞬だけ、魔法少女を探そうかと思ったが。


面倒ごとはごめんだと。考えてさっさと自室のベッドに入って寝た。








――え、……すか


ん? 誰だ?


聞こえた声ははおっとりした女性の声だった。


――き……ま……すか


微かに聞こえた声は徐々にはっきりと聞こえてくる。


――きこ……すか


俺はこの時点で、面倒な予感がしたけれど、声がした方へ意識を向ける。

直感スキルは何も反応していないが。無視するのも問題だなと思ってだ。

まあ、一応女性が困っていそうな雰囲気の声質だし。


――聞こえますか?


ああ、聞こえるよ。


――え?


今意識をそっちへ向ける。すると一気に視界が開けた。


「綺麗な花畑だな」


恐らく俺は眠っていた。夢を見るほど深くだ。

そのタイミングで、謎の声が聞こえたわけだが、勇者の時にこういうことは数回あった。

まあ、サキュバスに夢の中で奇襲されたわけだが。


色々と恐ろしい目に合ったので、夢の中でも動けるように鍛錬とスキル習得をしたから、今こうして動けるのだが。


「あ、あの……」


声がしたので、そっちの方を見てみると品の良い純白の豪華なドレスを身にまとった金髪の大人の魅力たっぷりの高貴な雰囲気の妙齢の女性が立っていた。


「貴女が声を出していた人?」

「は、はい。その、失礼ですが。男性の方、ですよね?」

「ああ、そうだけど、女に見えるか?」

「い、いえ、そのこの空間は適性のある女性にしか入れない空間でしたので。あ、言葉は通じますか?」

「ええ、問題なく分かりますよ。と言うか、そういう空間なのか」

「は、はい」


物凄く困った表情の女性に俺はとりあえず、名を名乗っておく。


「ああ、そうだ。先に自己紹介をしておこう。俺の名前は武。桜宮武。武と呼んでくれ」

「あ、申し訳ございません。分かりました。わたくしの名前はプロミア。プロミア・ジュムーランドです」


俺は目の前にいる女性を鑑定するかどうか迷った。

だが、鑑定しても、しなくても直感スキルが反応しないような気がしたので。直ぐに鑑定した。


「それで、貴女は何者? 何故、声をかけた?」

「何から話せば、わたくしも驚いていますが。そうですね。まず、呼びかけていたのは資質のある者を探す為です」

「資質?」

「はい、そして、ここに来れたということは、少なくとも悪の存在ではないと判断します。ですのでどうか、ここでの話は他言無用でお願いします。……夢の中の話を周りにしても信じてもらえるか分かりませんが」

「確かにな。分かった。いいぞ」


俺の即答にちょっと不安げだが、プロミアと名乗った女性は事情を説明してくれた。


「私はこの地球ではなく、別の世界で暮らしていました。ですが、ある日。人から生命エネルギーを奪う悪の軍勢が現れました」

「悪の軍勢?」

「はい、奴等の名前は【ドリーム・ドレイン】人々から、夢を奪い。生きる気力を失わせる悪者です」


これ、あれか? 彼女の翻訳する力がそのままストレートに翻訳されているだけなんだろうな。


「すみません。ちょっとお願いがあります」

「なんでしょうか?」

「ちょっと翻訳を切って、名前を名乗ってもらえませんか? ちょっと翻訳が怪しいので」

「ああ、すみません。では、いきますよ【プゲラガフラワンガミウル】」

「ありがとうございます。分かりました」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫です」


うん、直訳されているから、日朝のアニメに出てきそうなストレートな敵の組織の名前だったんだな。


「なるほど、それで貴女の目的は?」

「はい、私の目的は【ドリーム・ドレイン】の存在を地球に居る人たちに教えること。そして、戦う力を渡すことです」

「何故だ? 見ず知らずの世界を助ける?」

「世界を滅ぼした女王のせめてもの罪滅ぼしです」


心の底から悲しげな表情をする女王プロミア。

嘘はなさそうだ。ついでに鑑定したので実はこの人が黒幕ではないことも分かった。


「あ、あの。武様はみたところ。途轍もないほどのジェムーをお持ちですね?」

「ジェムー?」

「はい、えっと。魔法っと言えば通じますか? その魔法を使うために必要な力です」


俺は静かに空を見上げた。


「そうだな。俺はかなりの魔力を保有している」

「そうですか、残念ですね」

「何がだ?」

「私達の世界では魔法を使えるのは女性のみだったのです。もし、武様が女性でしたら。私の手元に残ったこの【ドリームジェムー】をお渡ししたのですが」

「……それは、具体的にどういうモノだ?」

「はい、この国宝の【ドリームジェムー】を使えば、戦士として戦えるようになるのです」


俺はさっき他言無用で「いいぞ」と言ってしまったのが悔やまれる。


「その【ドリームジェム―】はどれくらい地球にあるんだ?」

「正確な数は【ドリーム・ドレイン】との戦いの時、このジェムーを使う間に滅ぼされ、何とか手元にあった一つだけを世界の外へ逃がし。他のモノは近衛が時間を稼いでいる間に王国の秘密の場所に封印したのです」

「なるほど、でも、そのジェムーは?」

「これは最後に合流した元侍女が託してくれたものです。ジェムに選ばれるほどの者でしたが、病で戦えなくなり。それでもジェムーが傍を離れず」

「そうですか。ところで貴女自身は今どこに居るのですか? 元居た世界? それとも」


俺は半ば確信しながら問いかけると。

女王プロミアは目を伏せて、頷いた。


「わたくしは、今自分がどこにいるのか分かりません。異空間の狭間に逃がされたからです。そして、つい最近私の意識に地球と言う世界と何故か繋がりが出来たのです」

「なるほど」


…………繋がりが出来た? いや、深く考えるのは止めよう。

クトゥルフのしーちゃんのような事故がまた発生するかもしれない。これ以上は駄目絶対。


「貴女はこれからどうするつもりだ」

「……今の私には見守ることしかできません。幸いな事に地球には【七つの希望の輝きを放つ金剛石】がたどり着いたようですから」


すーっ、翻訳が。いや、深く考えるな。


「もしかして、地球の女の子が戦士となったのですか?」

「はい、武様の国で言うところの魔法少女? のような感じになっていますね」


俺はゆっくりと深呼吸をしたとりあえず、女王プロミアに一つ提案した。


「とりあえず、貴女の居場所を特定して、日本で活動しませんか?」

「はい?」


滅茶苦茶、この人何を言っているの? って感じで俺を見据えて来たけど。


悪いね。座標が特定できない異空間の狭間に投げ出されるって言うのは俺も含めて勇者達の三分の一は経験済みなんだ。


だから、悪いけどそっこーで助けるよ。




そして、面倒ごとの処理を貴女に任せます!!

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