第60話

アンネへの説明を終えて、俺はアンネの家から自宅へ帰宅した。


着替えて適当にお茶を作って飲んだ後、俺は自室で物思いに耽っていた。


伝説の武器。神話を元にした武器。

草薙剣や今回、巨大な妖魔の身体を浄化に使用したトールハンマーは、あちらの世界で量産された物だ。


え、伝説の武器級を量産? と思われるかもしれないが。邪神との戦いの時には珍しくはなくなった。


誤解が無いよう言うと魔王軍と魔王との戦いの時には、とても貴重な装備だった。


だが、邪神の存在があの世界の一般人たちにも広まった頃。


全てにおいて、インフレが始まったのだ。敵の強さ。俺達の強さ。本当に段々酷くなっていった。


現地の人達は俺達に比べてレベルが上がりにくい。その人達ですら、邪神との戦いの中期には戦場に駆り出された元村人は強い人だと魔王クラスもかなり居た。


そうなった理由は単純に、生産系のスキルが得意な勇者達と、現地の職人達のスキルと熟練度の上昇。


更に勇者達のスキルでの、邪神の眷族のドロップアイテムの大量入手だ。


それ故に、装備はある。戦力が足りない。


本来なら貴重な筈の高級装備を大量に身に着けた農民や街人が戦場へ送られることも珍しくは無かった。


兵士ではない人々が高級装備を身に付けて、集団で邪神の眷族を袋叩きにする。異常な光景で必要なことではあったが、多くの犠牲を出しながら、戦い抜いた。


最終的に死に戻り出来る勇者達のコンボダメージ上昇を狙った、連続自爆攻撃で邪神を倒すことになったが。


邪神が調子に乗って、肉体を作って地上世界に降臨するまで、人類を守りきれたのは勇者達の力だけではなく。


高級装備があるとはいえ、魔王よりも恐ろしい邪神の眷属と戦い防衛ラインを構築、維持したあの世界の住人達の功績だ。


俺の持っているトールハンマーは顔や名前は思い出せないが、一緒に戦った元パン屋の少年のモノだった筈だ。


装備で数合わせを行い。死に物狂いで邪神の眷属と戦い。レベルを上げて、最後は散っていった。


邪神が遊ばなければ、人類はとっくに滅んでいた。でも、人類を弄ぶことを優先したお陰で、人類は勝てた。


「……せっかくだ。武具の手入れでもするか」


俺は昔のことを思い出せないが。出来るだけ憶えている範囲で過去のことを思い出しながら、武具の手入れを行った。


それからしばらくして。

スマホにメッセージが着信が入る。


「ん?」


誰だ? と思って見てみると、秘密基地で昌と姫子さんの治療カプセルの護衛と見張りをしていたダンティからだった。


そろそろ、治療が終わるから来てほしい。と書かれていたので、俺は武具を仕舞ってマーキングした秘密基地へ転移スキルで移動した。





「調子はどうだ?」

「うん、違和感は無いよ」


身体の一部が植物系の妖魔になった昌だったが、SFチックな治療カプセルにぶち込んでさっさと身体を治した。

それと姫子さんはかなり妖魔との同化が進んでいるので無理に治すと肉体にダメージが入りそうなので、余分な所だけ人に戻す。


俺は休憩室で、治療カプセルから出て、シャワーを浴びて着替えた昌に身体の調子を確認する。


「あの身体になった時、覚悟を決めたつもりだったけど。身体が元に戻ってホッとしている自分がいるよ」

「当り前だ。誰だって、元の姿から変化して。元に戻れたらホッとするさ」

「……」


自分の感情と俺の言葉に思い悩む昌。

自分で身体を変化させて、少しでも姫子さんの傍に行こうとした。

でも、結果として元の身体に戻ってホッとする。ホッとした自分は覚悟が出来ていなかったのではないか?

 とか考えているのかもしれないな。


なので、俺は昌に言ってやる。


「人間として当然の感覚だ。気に病むことないし。ホッとしたからって姫子さんへの想いが軽い訳ではないぞ」

「そう、かな」

「そうだ。お前は一度、自分の身体を妖魔に近づけた。その覚悟は本物だ」


複雑な表情で俺の顔を見る昌に俺は頷く。

ハッキリ言うが、勇者の仲間達でも愛する女の為に身体を作り変えられるか? と聞けば半分くらいは躊躇するし、本当に必要なら身体を変える奴もいるだろうが。

あの土壇場で少しでも姫子さんにの為に自分の身体を変えられる奴はそうは居ないだろう。


「ま、これから生きていくには普通の身体に近い方がいい。魔法が使える訳ではないんだからな」

「うん、分かった」

「ま、そろそろ姫子さんも来るから、来たら改めて今後について話そうぜ」

「ああ」


俺はインベントリから、ペットボトルのお茶を取り出して昌に手渡す。

それからしばらくして、姫子さんがダンティに連れられてやってきたので、今後についての話をすることにした。





秘密基地の簡易食堂兼休憩室で、俺達四人は向かい合って座る。


「まず、姫子さんは弦巻家の再興はしないと言うことでいいんだな?」

「はい。もう、あの家には未練はありません」

「分かった。その方向で話を持っていこう。被害者と言う形で賠償金も手に入れてくるから安心してくれ」

「あ、ありがとうございます」

「今回の一件は全て死亡した弦巻家の当主と主要メンバーの責任にする。それと財産は全て没収する形にして、そこから被害者への賠償するとなっているから」

「分かりました」

「それとコロは契約を結んで貴女の使い魔にします」

「あ、ありがとうございます」

「ちゃんと言いダメなことは駄目だと言い聞かせてくださいね。一応は使い魔にする時に色々誓約をかけましたが」

「はい、ちゃんと悪いことはさせません」

「ならば良し」


姫子さんに必要なことを伝えて、次は昌へ伝えることを伝える。


「昌は魔法の存在を知った。本来なら記憶の消去などが行われることが多いが。姫子さんとの関係もある。専用の魔法契約書で魔法のことを世間に公表しないと制約してもらうが、それでいいな?」

「ああ、それでいい。姫子とはこれからもずっと一緒に居たいから」


昌の言葉に嬉しそうに頬を紅く染めて、昌を見詰める姫子さん。

ごめん、甘い雰囲気出すのはもうちょっと後にしてね。


「それと姫子さんは魔法技能というよりは魔法的特殊能力を持っているから、対魔省庁から登録してほしい。と要請がきているが、登録するか? 任意ではあるが。登録していた方が何かあった時に身を守れるぞ」

「後ろ盾が無いですからね。登録します。ただ、登録した場合、何か有事の際に駆り出されたりするのでしょうか?」

「事前の説明から、そういうのは無いと聞いている。それと後ろ盾は俺と忍者が行うから。姫子さんが何か変なことをしなければ、問題ない筈だぞ」

「分かりました。私も昌とこれから一緒に生きて生きていきたいと思っていますから」


その言葉に俺とダンティは頷く。

良かったわねぇ。とちょっと涙ぐむダンティにハンカチを手渡して、俺は話を続ける。


「それと、昌の御両親には今回の件は伝えないでいいんだな?」

「うん、両親を巻き込むわけにはいかないからな」

「分かった」


下手に教えてトラブルになるよりはマシか。

昌と姫子さんは特別強いという訳ではない。今回の大量の妖魔の一件も二人はただの被害者で表には出ないし。


姫子さんが積極的に狙われることはないだろうし。そもそも、弦巻家の人間だとも思われないだろう。


「今、話しておくべきことはこの辺かな」

「あ、聞きたいことがあるんだけど」


話すことが終わり、何か質問は? と聞く前に昌が俺に質問をしたきた。なんだろうか?


「なんだ?」

「その、やっぱり魔力が無いと。妖魔と戦えないのか?」

「え、ああ、まあ。そうだな。武器を持って戦うのなら、そうだな」

「そうか……」

「昌、魔法を使いたいなら最低限、魔力が必要だ。だが昌は魔力が無い。それはどうしようもないことだ」

「でも、また、姫子が狙われるようなことがあったらって思うと。どうしてもな」


昌の言葉に姫子さんが申し訳なさそうな表情をする。ま、俺もそれは懸念しているけれど。


「一応、生身の人間でも妖魔や反社会的な魔法関係者と戦うすべはあるぞ」

「え、あるのか?」

「ああ、道具を使えばいい。免許が必要になるがな」

「免許、ですか?」


姫子さんの疑問に俺は答える。

この国に限らず、代々魔法関係者の家はある。ただ、その一族全てが魔力を持って産まれる訳ではない。


魔力がある両親からまったく魔力が無い子供が生まれることもそれなりにあるのだ。


そして、過去には魔力が無いにも関わらず、魔道具を使って名を挙げた人物も相当数いるし、一般人でも使う人の魔力を必要としない魔道具を悪用する人も存在した。


だから、魔力が無い魔法関係者が、魔道具を使う場合は専用の免許が必要になる。


「確か三級、二級、一級、特級だったか?」

「ええ、そうよ。ご主人様」

「その免許があれば、いざと言う時に魔法使い相手に、自衛くらいはできると思うぞ? もちろん、試験勉強だけではなく、自分自身の鍛錬も必要だが」

「鍛錬?」

「そうだ。言っちゃ悪いが。魔法犯罪者が人を襲う時って、一般人では太刀打ちできないレベルの身体能力なんだよ。それこそ軍人でも不意打ちだと何もできないでやられる」

「ま、マジかよ?」

「ああ、魔力で身体能力を強化するからな。厳しく鍛錬している奴なら、弾丸の速度で動けるし」

「…………」


自分の想像を越えていたのだろう。落ち込む昌。

姫子さんも何と言って良いのか分からない様子だった。


「本気で鍛えたい。というなら、手伝える範囲で手伝うから。良く考えな」

「わ、分かったよ。改めて、凄い世界に来たんだな、俺」

「ああ、そうだな。ようこそ! って言っておくよ」

「うん、嬉しいような、嬉しくないような」


苦笑いになる昌。少しずつだが。昌も姫子さんと共に平和な日常へ復帰していくだろう。


その後は二人の覚悟次第で色々と手伝おうと俺は心に決めた。

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