第59話



今、俺の目の前にいる人型の巨大妖魔を倒すことだけなら、即座に終わらせられる。


「封魔! 一応、守りの術はお前にかけているが、過信するなよ! 回避優先。牽制だけで十分だ」

「御意でござる」


忍者として、俺は影分身で巨大妖魔をかく乱。

下手に攻撃をしてダメージを与えると紙谷の想い人の姫子と言う少女がダメージを負う可能性がある以上。

直接的な攻撃ではなく、別な方法で動きを止める必要がある。


俺達の目的は姫子と言う少女の救出だ。


「「行け!」」


俺は複数の影分身に魔力で作った鎖を作らせ、巨大な妖魔を拘束していく。

もちろん、拘束されそうになった巨大妖魔も必死に抵抗をする。

面倒くさい! 抵抗するなよ。


――痛っ、この影分身の同時運用は頭が痛むな。


単純な戦闘だけなら、影分身に全部任せてもいい。と言うか問題ない。

アメリカの時は最初に命令を出した後は、放置だった。何故なら襲った組織の敵の数は一つの拠点に百人を越えることが無いからだ。


だが、今は巨大妖魔を出来るだけ傷つけずに拘束するとなるのは、頭の思考、情報の処理には結構負担が掛かるな。この辺が俺の才能の限界か。殺すだけなら何でもないが。


殲滅しきれない小型の妖魔を倒すために影分身達が動いているが、数が多すぎる。それにここは山の中で逃げられやすい地形だ。

影分身達の自動で行動させて、完全放置という訳にはいかない。万が一にも、一匹でも逃がさない様に。


空に監視用の式神を飛ばしてこの周辺地域の視界を確保し、俺がたまに式神の視覚を見て小型妖魔達の動きを監視している。


そして、ここでは影分身達に指示を出しながら、巨大妖魔を傷つけないように立ち回り。

拘束されそうな、巨大妖魔を助けに来た小型の妖魔を丁寧に駆除している。


「「「ぐぬぅっ!」」」

「良し、動きを封じた!」


あまり強く巨大妖魔を拘束すると姫子と言う少女にダメージが入るかもしれないので、微妙な力加減が大変だけれど。


「武! ペン太郎! 周りの小型妖魔を頼むぞ! 封魔も小型妖魔を」

「分かった!」

「俺に任せろ! ペン・ギン・ビーム!」

「御意でござるぅっ!」


影分身の外骨格のパワードスーツを着ている影分身にそう返事をさせ。

ペン太郎と封魔に指示を出しておく。


今回、ペン太郎を出して正解だったな。

魔法使い系だけれど、植物系の敵にどうも本気で戦うことが出来ないダンティ。

肉弾戦が中心のミノ。

それと生まれたばかりで、特殊能力が乏しいクトゥルフのスーちゃん。


あの三人でも十分戦えるが。今回は連れてこなくて良かったな。

命を吸うことが出来る特殊能力を持つ、妖魔相手だと万が一がある。


巨大妖魔の四肢をと胴体に影分身達で魔力の鎖を巻き付けて拘束する。

激しく巨大妖魔が暴れるが、無理に拘束すると体が必要以上に傷つくので、俺は魚釣りのように力を入れたり、抜いたりして敵のスタミナを消費させていく。


まあ、これだけの巨体だ。マグロなどの大型魚とは比べ物にならないほどの体力だろうが。

重要なのは相手の肉体を傷つけないことだ。


「あの妖魔に知恵や心があるのか知らないが。そろそろ麻痺させようか」


敵の戦意が高いと状態異常の魔法が効きにくくなる。

だが、拘束されて必死に抵抗しているが、鎖はビクともしない。

あの巨大妖魔に精神的な疲れと焦りが見えてきた。


という訳で、試しに状態異常の魔法【麻痺】を叩き込む。


「敵の動きが鈍くなったでござるか?」

「成功だな、あと数回。相手の動きを鈍らせる術を使う」

「御意でござるよ!」


封魔宝寿にそう伝えながら、俺は紙谷が乗っている移送コンテナを装備するアルケニーの元へ。


「少年、そろそろあの巨大妖魔を完全に拘束する。その後、中心部に穴を空けて中へ君を突入させる」

「は、はい!」

「説得して来い。恐らく彼女の意識が無いか、こちらへ敵対的になっている筈だ」

「わ、分かりました」

「守り術の魔力で少年、君を覆う。だが、時間が掛かれば命の保証はないぞ。大丈夫か? 逃げるなら今だぞ」


俺の言葉に紙谷は震える自分の身体を両手でバシバシと叩いて、こう叫んだ。


「だ、大丈夫です! 姫子を連れて帰ります!」

「良く言った」


俺はそう言うと、影分身達を操作して引き倒した巨大な妖魔へ一気近づき。

スキル【手加減】というダメージを最小限にするスキルを使い。

巨大な妖魔の胸の中心に魔力の刃で切り広げる。

人と植物の根の中間のような肉体の妖魔の身体。

完全に姫子と言う少女と融合していないためか、かなりスカスカだった。

これなら、人が奥へ入って行くことは十分可能だろう。


ビクンと巨大な妖魔は身体を震わせたが、俺は無視して、切り開いた部分に影分身達を送り込み、妖魔の中心にいる姫子と言う少女のところまで道を作っていく。


「せりゃっ!」

「てぃっ!」


掛け声とともに影分身が妖魔の肉体の再生を妨害するために、妖魔に魔力を流し込む。


「少年、今だ!」

「は、はいぃぃっ!」


拘束でぶっ飛んできたアルケニーの移送用コンテナから投げ出されるように紙谷は巨大妖魔の身体に着地。

俺は着地でバランスを崩した紙谷の腕を掴んでそのまま、妖魔の胸に開けた穴の中に紙谷を突入させる。


【麻痺】【麻痺】【麻痺】【麻痺】【麻痺】


念の為に追撃の【麻痺】の魔法を叩き込んでおく。

この妖魔自体がかなり状態異常への抵抗力が高くて、少し困るが。


定期的に【麻痺】を叩き込むことによって動けない筈だ。


「しっかりやれよ。少年!」

「はい!」


紙谷は最初の一歩は震えていたが、それ以降は震えもなく真っすぐに妖魔の身体の中に居る姫子と言う少女の元へ駆け出した。

念の為、影分身も近くに控えさせるが。

無事で帰って来いよ。




紙谷昌は人間と植物が混ざりあったような感触の穴の奥へ進んで行く。


足場が生肉のように柔らかく、網のようにスカスカで何度か躓きそうになる。だが、紙谷昌は進んで行く。


姫子が姿を消した後、自分が出来たことは何もない。

それが悔しくて仕方がなかった。


「姫子!!」


バランスを崩して、壁や床に手を付き、それでも前へ進んで行き、紙谷昌は姫子を見つけた。


肉体の殆どが周囲の妖魔の肉と同化している。


「ひ、姫子!!」


紙谷昌は駆け寄り、ぐったりとしている姫子の顔を両手で包み込む。


「しっかりしろ、姫子! 目を開けてくれ!!」

「……誰?」

「姫子?」


ゆっくりと目を開ける姫子。

紙谷昌は様子がおかしいことに気づいた。


「退魔師か?」

「退魔師? 何を言っているだ。俺だよ、昌だ!」

「……知らない」


その瞬間、紙谷昌は姫子の背後から伸びてきた大人の腕くらいの太さの赤黒い蔓が紙谷昌の横っ面に叩きつけられた。


「いってぇっ」


武が掛けていた守りの魔法のお陰で、紙谷昌は無事だった。

だが、まったくダメージが無い訳ではない。


「うぇっ、歯が?!」


左奥の方の歯がボロっと口から零れ落ち、血と唾液が口の中から溢れ出てくる。

同時に痛みが湧き出てきて、視界が涙で滲む。

紙谷昌は痛みをこらえて何とか立ち上がり、姫子の方を向く。


「退魔師は殺す」

「違う! 俺は退魔師じゃない!」

「じゃあ、なに?」

「それは」


姫子の問いに紙谷昌は答えに詰まった。二人は付き合っているわけではない。友達という訳でもない。


「うわっ!?」


妖魔の蔓が紙谷昌の胴体に叩き込まれた。

そのまま壁際に叩きつけられ、起き上がる前に連続で妖魔の蔓による打撃が紙谷昌に加えられる。


「死ね。死ね。死ね」

「ぐっ、だぁっ、うぅっ」


淡々と呟く姫子に紙谷昌は徐々に胸の奥から怒りが湧き出てきた。

それは姫子に対してではなく。


何できない上に、何も言えなかった自分に対しての怒りだった。



何度目か分からない妖魔の蔓の打撃。


「うああああああ!!!!」


自分の頭部への一撃を紙谷昌は右腕で蔓を弾こうとした。

だが、一般人の紙谷昌の力では弾くことはできなかった。


――ミシッと言う鈍い音が自分の右腕から聞こえてきた。

紙谷昌はそれでも構わず、無理やり立ち上がり姫子に抱き着くように突進する。


「近寄るな」

「姫子」

「私の名前は姫子ではない」

「じゃあ、名前は?」

「……」

「答えられない。いや、覚えてないのか?」


妖魔の蔓が紙谷昌に振りおろされる。紙谷昌はとっさに頭を守る。

衝撃と痛みで、更に涙が出てくる。だが、歯を食いしばり姫子と向き合う。


「私は……」

「姫子、聞いてくれ」

「退魔師の話など「なら、勝手に話す!」」


紙谷昌は姫子に対して、素直な気持ちで告げた。


「姫子は俺の家の居候だった。けど、今は違う。俺の大切な女の子だ。それこそ一生傍に居たいと心の底から願うぐらいだ!」

「何を言っている? 妖魔と共に生きる? 妖魔と混ざり合っていた私と?」

「嘘じゃない。姫子、俺は姫子のことがずっと好きだったんだ。下心だってあったんだ。姫子と男女の関係になりたいって」

「……最低」

「知ってるよ。だから、これは償いでもあるし、覚悟でもあるんだ」

「それは」


どういう意味だ? と姫子が言いかけた時。

紙谷昌は武から借りた、物入れられる魔道具のリストバンドの中から、姫子が最後に置いて行った木の実を取り出した。


「この木の実、実はかなり危ないモノなんだってさ。これ単体だと大量に食べない限りは、人間の身体は変質しない」


姫子の木の実を思い切り齧りつく。

紙谷昌の不可解な行動に動きを止める姫子。


「うん、味がしない」

「お前は一体何が」

「でも、この木の実を食べた上で、この木の実を作った者の血肉が混ざりあった場合は、凄いことになるって聞いた」

「――っ、馬鹿者、止めろ!」


紙谷昌は、自分へ打撃を加えていた姫子と繋がり混ざり合っている妖魔の触手を両手で素早く掴み取ると、そのまま大口を開けて齧りついた。


「痛っ、――っ!? ま、待って昌! それは駄目! 止めて、昌!!」


姫子の声に、自分のことを思い出してくれた嬉しさがこみ上げてくる。

けれど、紙谷昌は止めなかった。大暴れする妖魔の蔓。


両手で口で齧りついている紙谷昌を必死に引き離そうと壁に紙谷昌を叩きつけるが、紙谷昌は必死になって離さなかった。

蔓を齧り、肉を汁を啜る。姫子と繋がり、混ざり合った妖魔の蔓。


そして、数十秒後。変化が訪れた。


「ぎゃああああああ!!!!」

「昌! 昌ぁっ!!」


絶叫と共に紙谷昌の肉体の一部がボコボコと膨れ上がり、昌の左腕は樹木のように変化していく。


紙谷昌はのた打ち回る。だが、途中で絶叫はしなくなった。

泣き叫ぶ姫子の声を聴いたからだ。


血が滲み出てくるほどに紙谷昌は歯を食いしばり、自分の体の変化が終わるのを待つ。


――それから、どれくらいの時間が過ぎたのか紙谷昌には分からなかった。


身体から痛みが無くなり。

身体が動かせるようになって、紙谷昌は姫子へ顔を向ける。


「思い、出したか?」

「うん、思い出したよ……。目の前で昌の身体が植物になるんだよ。思い出さない方がおかしいよ。本当にバカ!!」


紙谷昌はそこで自分の身体確認する。左腕が樹木のようになっている。

右足の膝からつま先までは根のように。右手首の先は植物の茎のように細くなっていた。


「ごめん。でも、俺何もできなかった。だから、覚悟だけでも見せないとって思ってさ」

「そ、そんなの見せなくても!」

「ううん、姫子が良くても、自分が許せない。だから、俺は姫子と一緒の身体になることを選んだんだ」


紙谷昌の言葉に驚愕しつつも、嬉しいと感じる姫子。


「……私の方こそ、昔のことを思い出して、ショックを受けて。昌のことを忘れてごめんなさい」

「いいんだ。帰ろう」

「で、でも、私もう体の半分以上は妖魔になって」

「俺だって身体が植物、ええっと妖魔? ってヤツになっているから」

「そ、それにね。私コロのことがあるし」

「コロ?」


姫子は過去に何があったのか、紙谷昌に教えた。

姫子と妖魔のコロは退魔師達に追い回されたこと。

家族が殺されて、その怨みを妖魔のコロが受け入れてしまったこと。


「つまり、コロを説得しないと駄目だってことか?」

「うん、けれど。コロは止めないと思う。本当に酷かったから当時の退魔師達は。妖魔を滅ぼす為なら、関係のない村ごと焼き払うのが日常茶飯事だったから」


二人がどうしようかと思った時だった。


「そういえば、その蔓って」

「え?」

「その蔓って姫子が動かしていたのか?」

「あ、ううん。この蔓はコロが動かして、ってコロ? あれ、蔓が動いていないと言うか、コロの気配が?」


紙谷昌に指摘されて、姫子がコロに話しかけると返事がない。

と言うより、紙谷昌ののた打ち回る姿に取り乱していて、気が付かなかったが。

コロとの繋がりが急に感じられなくなった。どういうこと? と戸惑う二人。


「コロという妖魔はここに居るぞ」

「「え?」」


紙谷昌の背後から武の声がして、紙谷昌と姫子は声がした方へ向くと。

外骨格のパワードスーツから降りて、手には一抱えもある大きなビンを持っている武がやってきた。

武が持っている便には淡い七色の魔力の光が流れており、ビンの中にいる小さな植物の球根に近い姿の妖魔が入っていた。


「え!? こ、コロ!?」

「ん、えっ、あ! そのビンの中身ってもしかして」

「紙谷がのた打ち回って、コレの気がそれている間にな。巨大妖魔の背後から穴を空けて、その姫子って言う子と融合している妖魔を確保したんだ」

「ぜ、全然気づかなかった」


姫子の言葉にクスッと笑う武。


「で、でも、どうやってコロ? っていう妖魔を確保したんだ?」


紙谷昌の言葉に武はハサミを取り出した。それは銀色の輝く神々しいハサミ。

見ているだけで、心が浄化される錯覚がするほど神聖な雰囲気が出ている。


「この特殊なハサミ。まあ、ちょっと神話に出てくるレベルのハサミなんだけどさ。これで、この妖魔と姫子さんの繋がっていた魔力系のパスを断ち切ったんだ。痛くなかっただろう?」

「え、は、はい。普通そう言うのを断ち切ると繋がっているモノは大けがをするはずなのですが?」

「ま、そう言うのを無視できるのが、このハサミだよ」

「凄いな」


自分の常識では信じられないことに驚く姫子。

純粋に魔法のことを知らないので、感心する紙谷昌。そんな紙谷昌を見て姫子は苦笑いを浮かべた。


「説得だけで終わるのか分からないから、見守っていたんだけど。紙谷が無茶するからさ。慌ててこうして封印処置をしたんだよ」

「す、すまない」

「いいよ。でも、俺がここに来るまでの間の暇つぶしの雑談の内容をよく覚えていたな」

「いや、実はここに来るまで忘れていた。けど、何かしないとって思ったら思い出してさ」


紙谷昌の行動力に呆れてしまう武。でも、無事で良かったよ、とホッと胸をなでおろした。

武の予定では姫子の説得が終わった後は妖魔の方とも話し合いを一応する予定だった。


融合している以上は、下手な攻撃が出来ないからだ。

それに今回使った神器であるハサミを使うためには、相手の気を逸らす必要と特殊能力を発動させるまでの間の時間稼ぎも必要だった。

だから、武は今回この神器を使う予定は無かったのだ。


「ま、結果オーライかな。とりあえず。姫子さんをそこから取り出さないとな。手伝ってくれ紙谷」

「あ、ああ、けど、これって取り出せるのか?」

「問題ない。それとお前たち二人の治療も必要だな」

「「え!?」」


驚く二人に武は二人の肉体を人間に戻すことが出来ることを告げた。

ただ、魔の影響は必ず残ってしまうと告げると。


「いや、えっと日常生活が出来るようになるだけでも十分有難いって!」

「驚きました。妖魔に侵食されたり、呪いで身体をおかしくさせられたら、一生元に戻らないと聞いていたのに」

「ま、時代の流れってやつだな」


こうして、俺達は姫子という少女を無事に救出。

コロという妖魔の処遇や紙谷と姫子の治療。

更に、今回出てしまった被害とライン越えしている退魔の家の粛清。


今後のことを考えだしたらげんなりしてくるが。

今はとりあえず。


「少し休もう!」


今回は本当に気を使う戦いだった。二度とやりたくない、そう思いながら。


無事に妖魔の肉体との分離を終え。姫子を背負い。この場から出ていく紙谷を眺めながら、俺は「ま、無事に助けられて本当に良かった」と思うのだった。




後始末は大変だった。姫子さん救出から一週間ほど。

姫子さんは戸籍を、コロは姫子さんの説得に応じて、姫子さんの使い魔として公式に登録された。


今回の騒動で、弦巻家とその傘下にいた退魔師の家は滅んだ。

コロの暴走の一件で、本家の血筋は全滅。


一応、遠縁に魔法とは全く関係してない家もあるらしいが。

誰も家の再興には興味ないらしい。遺産も今回の騒動でかなり裁判が起こせるので、誰も遺産を引き継がなかった。

結果として、資料などは退魔省庁が回収した。

姫子さんも家を再興させるつもりは無いらしい。


「思うところはありますけど。滅ぶべくして滅んだと思っていますので」


それと、昌。うん、苗字ではなく名前で呼び合うことになった。と姫子さんの治療は二日ほどで終わった。

とは言え、完全に影響が無くなったわけではない。

まず姫子さん。彼女は百年単位で妖魔と半分融合したような感じで封印されていた。

五割は多いな。三割くらいの肉体が変質していた。見た目は普通の人間ではあるが。

力や肉体から植物を生やしたり出来る。

本人は前と変わらないと笑っていた。


昌は姫子さんが最後に何か残したいと、本当にそれだけの為に作った木の実を食べ。

その後、すぐに木の実への栄養となる妖魔の頃の体の一部を身体に取り込んだため、体内の木の実と妖魔コロの肉片が反応して肉体に影響が出た。


魔力を含まれた植物を魔植物と言うらしいが。その魔植物は妖魔の血肉と反応する。

昌は肉体を姫子さんに近い形にして、死んでも姫子さんを助けると誓っていたんだろうな。


最終的には昌の肉体の一割ほどは変質したが、日常生活には問題ないな。多少、身体能力が上がったくらいだろうか。


今回のことは、俺が余計なことをしたのかもしれないと思ったが。結果的に昌も姫子さんも無事だった。


反省するべき部分を反省したら、次へ行こう。


「ま~た、とんでもないことをしでかしているわね」


深いため息とともに、俺の話を聞いたアンネが疲れた表情で俺にそう言った。


「そこまで、とんでもない話ではないと思うぞ」

「強いとやっぱり、感覚がマヒするのね。触れるだけで命を吸い取る小型の妖魔。しかも最終的には妖魔の数は千を超えていたんでしょう?」

「ああ、米沢さんと調べた結果、約千五百だったな」


どこか悟った表情でアンネは俺に問いかけた。


「それで、その空になった巨大妖魔の身体はどうするの? ずっと武が保管するの?」

「ああ、アレか。あれなら、もう処分したぞ?」

「え?」


アンネは思わず「どうやって!?」と叫びたい気持ちを抑える。


「どうやって、処分したの? あそこまで大きい妖魔の死骸は浄化をしないと」

「うん、だから聖鎚で布団を叩く感じで浄化して、最後は燃やした」


聖追と言う謎の物が出てきて、アンネは聞きたくないけれど、聞くことにした。


「ねぇ聖追って、何?」

「ん? ああ、えーっと厳密には違うんだけれど。分かりやすく言うなら」

「言うなら?」


「トールハンマーって言えば分かるか?」


「もう、何も言わないでっ!!」


涙目のアンネの叫びで、報告会は一時中断となった。


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