第56話
俺、桜宮武と言う名前は、対魔省庁と対魔師支局に忍者の協力者の一人として、小宮夫妻と同じように知られている。
対魔省庁や対魔師局に登録していない。魔法使いとしても知られている。
まあ、公的機関の二つに登録されていない魔法使いはかなり多いので、俺が魔法を使えること自体は問題は無い訳ではないが、一応は無く。
謎の忍者が正体を探られるのを嫌っているので、俺、桜宮武の所へ、二つの公的機関が接触や監視をしてくることは無い。
そう言う理由で、縁眼さんやアンネがもう少し大っぴらに俺の家に出入りしても問題は無かったりする。
それで、今回は前から欲しかった、忍者の協力者で結構強い強い魔法使いである桜宮武。
という身分を手に入れる為に、行動することにした。
紙谷の手助けするのに忍者のままでも良かったけれど。
今後、俺が生きていく上で、どうしても桜宮武のままで戦う必要が出てくる可能性が高い。
最初は考え過ぎかと思ったが。
どんなに気をつけていても、俺は【勇者】だ。
異世界に勇者として召喚されなければ、開花しなかった力だが。
その結果として、多かれ少なかれ、【勇者】はトラブルに巻き込まれると元の世界に戻る少し前に警告を受けていた。
異世界に召喚されて直ぐにも似たようなことは言われていたが。改めて、ここ最近のことを考慮すると本来の姿で魔法を使える身分と言うか。
状態を作るのは意味があると考えた。
ぶっちゃけると飛行機に乗ったら、何故かテロリストが飛行機をハイジャックするとか。
銀行に行ったら銀行強盗に巻き込まれるとか。
謎の忍者の装備に着替えるのは一瞬の間が、あればいいが。
何かしらの理由で装備を変えられることが出来なかった場合。
そういう時に仕方が無く戦ってしまった時の為に。
俺はかなり本気で作った影分身の謎の忍者と共に。
対魔省庁の支部の会議室で紙谷と一緒に暮らしていた少女。姫子を救出する会議に参加している。
「まず、封魔御当主はこの作戦が終わり次第。大事な話がありますので」
「う、うむ」
対魔省庁のトップは徳守大臣だ。
だが、徳守大臣の意見が全て通ると言うわけではない。小規模ではあるが、組織だ。
しっかりと派閥はある。
今、封魔の当主に後で面を貸せと言ったのは、立華瑠璃という初老の女性だ。
立華さんは結界魔法が得意な人物で。東京の大結界。四神の結界の調整にも関わっている。
四神とは青龍や白虎などの神獣の力を借りた結界のことだ。
風水とか地脈とか専門知識が無いと大変な魔法でもある。
で、その立華さんに面貸せと言われたのは今回、俺達側に正式に仲間入りすることになった、封魔家だ。
「立華さんは封魔家とは何度も戦ったことがあるのです」
「そうか」
俺の隣に座る、全力で作った影分身の謎の忍者に対魔師局の米沢さんが耳打ちする。
「そろそろ、始めましょうか」
立華さんの言葉に。俺、紙谷、縁眼さん、対魔省庁から立華さんと部下二名。対魔師局からは米沢さんとその部下二名。そして、封魔家の当主の封魔小太郎と封魔宝寿は気持ちを切り替えた。
「封魔家から持たされた情報から、ここ最近の民間人が殺される事件の犯人が、弦巻家が関係している可能性が高くなりました」
立華さんの話を聞きながら、俺は事前に配られた資料を眺める。
「封魔家の情報から、弦巻家の切り札は危険度はAと断定。更に切り札を強化できる人物。姫子と言う少女は保護対象です」
「具体的にはどのような切り札なんだ?」
俺の問いに答えたのは封魔家の封魔小太郎だった。
ちなみ封魔家は、風魔小太郎の血筋らしく。当主は代々小太郎と名乗っているらしい。
「姿形は我々も分かっておりません。ただ、かなりの数が揃っているようですな」
「どのような特徴があるのですか?」
「接触した人を干からびさせることが出来るようですね」
米沢さんのと言うにも素直に答える封魔の当主。
味方になる。と明言しているから大丈夫だろう。
だって、ここへ来る前に俺とダンティとミノとスーを引き連れて、挨拶に行ったからな。
威圧の為に俺が許可して、少しだけ力を取り戻した神威を纏うミノタウロスとニコニコしながら、濃密な死では生ぬるい、禍々しいオーラを放出している妖艶なスキュラのスー。
封魔が所有している隠れ家の一つで、封魔の当主達と会ったけれど。
当主や幹部は兎も角、下の連中は俺達が近くを通るだけで、阿鼻叫喚だったからな。
まあ、紙谷と一緒に暮らしていた少女を助ける時に、変な動きをされると困るから。
事前に釘を刺しに行ったのだが。やってよかったな。
「干からびるですか」
「体液を吸収しているわけではないようですな」
「魔法的な何かでミイラにしたと?」
「そこまでは分かりません。ですが、既にそちらでも確認されているのでは?」
米沢さんと立華さんの二人の問いに封魔の当主はそう答える。
米沢さんが俺をチラッと見たが。どのような方法なのかは分からないが、強敵なのは間違いない。
まず、敵を見て【鑑定】スキルで色々と調べないとな。
「今回の救助作戦ですが、忍者殿が積極的に前へ出とお聞きしましたが?」
「ああ、協力者の友人の身内だ。こういう時は働かねばな」
影分身にそう話をさせると、立華さんは迷いが含まれる表情で、分かりましたと俺の影分身へ告げた。
封魔宝寿の情報から、姫子という少女がどこにいるか分かった。
内部の見取り図などを全員で確認し、虎の子の部隊と俺が提供したドローン部隊を使って作戦を叩ているところに、緊急の連絡が立華さんと米沢さんに入った。
会議室に飛び込んできた職員の話だと。
俺達がこれから乗り込もうとしていた山奥から尋常ではない爆発的な高密度の魔力が検出されたと。
「偵察として、俺は直ぐに現場に向かう」
「お待ちください、忍者殿ではなく別な者を」
「いや、俺が行く」
俺の言葉に立華さんは心配そうな表情をした。
米沢さんにそれとなく、どんな人か教えてもらっていた。
規律を重んじる人だと聞いていたので、俺の勝手な行動を非難するかと思ったが。
「行くぞ」
俺の影分身はそのまま会議室を出て、廊下を歩く。
その後には、本体の俺。戸惑う紙谷、縁眼さんが続いた。
「紙谷」
「な、なんだ?」
俺の前を歩く忍者の背中を見詰めながら、少し小声で俺は紙谷告げた。
「覚悟だけはしておけよ」
「か、覚悟?」
「姫子という少女の死をだ」
「――っ!?」
「異常な魔力が確認された。と言うことは動いている可能性が高い。弦巻家の切り札はそれだけ強力。制御のカギを握っている姫子と言う少女も相応に危ないだろう」
俺の言葉に紙谷は不安そうな表情になる。
死んでいるかもしれない。だから、覚悟だけはしておけ。と言われたらな。
「何があってもいいようにな」
「あ、ああ」
分かったと頷く紙谷。
出来ることなら、助けてあげたいが。どうなるか。
「先に俺が行く。少し後から武はその少年と来い」
「分かった」
俺は頷くと影分身の謎の忍者は一瞬で姿を消して、先行した。
目指すは魔力の反応があった場所。
「さて、俺達も準備をしていこうか」
「あ、ああ」
俺は支部内の倉庫まで移動すると、予め置いておいたコンテナの前に立ち。
コンテナへ手をかざして、魔力を流すと。コンテナが開いて中から、外骨格系のパワードスーツが現れる。
「こ、これは?」
「今対魔師が使っているパワードスーツは変身ヒーローみたいなデザインだけれど。こっちの外骨格タイプに比べると防御力など劣る部分がある。それを補う為に足は重いが頑丈でパワフルなパワードスーツがこれと言うわけだ」
「な、なるほど?」
「今度もう少し詳しく教えるさ。紙谷は輸送装備のアルケニーで移動してくれ」
「わ、分かったよ」
倉庫で待機していた、負傷者や護衛対象を移送する背中に専用のコンテナを背負ったアルケニーが此方に近づいてくる。
「紙谷」
「な、なんだ?」
アルケニーに見降ろされて気後れしている紙谷に俺は最後の警告として、こう告げる。
「引き返すなら、ここが本当に最後だぞ?」
紙谷は三秒ほど、息を詰まらせた。
けれど、自分の両手で自身の両頬をバシン! とぶっ叩くと俺を真っ直ぐ見据えながらこう言った。
「姫子を助けたい。ここで逃げたら、一生後悔しながら生きていくことになるよ」
俺は頷いて、外骨格を纏う。
紙谷もしゃがんだアルケニーの背中に背負うような形になる簡易的な椅子があるコンテナに入る。
ちなみに、負傷者が重篤な場合はSF映画のように冷凍して運ぶ。
それを今言ったら紙谷はどんな反応をするのかちょっと気になったけれど、余計なことは言わないでおく。
「ちょっ、ちょっと待ってほしいでござる」
「ん?」
「あら」
待機する予定の縁眼さんの後方から、バタバタと走って来るのは封魔宝寿だった。
「どうかしたのか?」
俺と紙谷、縁眼さんが見つめられて、封魔は気まずそうにしながらもこういった。
「某もお供するでござる!」
俺が紙谷に視線を送ると問題ないと紙谷は頷き、縁眼さんも大丈夫でしょうと頷いた。
こうして、俺達は異常な魔力が観測された場所へと、大急ぎで向かった。
「なあ、姫宮」
「どうした? 紙谷。乗り物酔いか?」
「いや、違う。ってか、今回の魔力の反応ってさ。なんというか。漫画とかアニメで見たことあるような気がする」
「ああ、うん。まあ、恐らくだが制御に失敗して」
「暴走してそうでござるな」
ステルスで周りに気づかれない様に建物の屋上や屋根を移動しながら、無線を使いながら、俺達は問題の場所について話す。
「暴走ではなく、意図的にやっている可能性もあるが」
「そうなのか?」
「ああ、切り札に自信がある。だから、ここへ来いと挑発している。もしくは、遠くに逃げる為の囮とか」
「某は暴走だと思うでござる」
「俺もだな」
「ちょっと待ってくれよ。暴走していたら、姫子は?」
「出来るだけ急ぐぞ」
武の言葉に封魔は頷き、紙谷は自然と神に祈るように自分の両手を力強く組んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます