第51話

特殊詐欺グループのメンバーが殺された建築会社の事務所へ向かい、そこで調査をしたのだが。

殺され方が、退魔師局の殉職した二名と特殊詐欺グループのメンバーは、聞いていた通り同じ殺され方をしていた。


俺は直ぐに事件現場へ向かい、現場を調べたのだが。

俺の頭を悩ませる痕跡が複数発見することになった。


どうやら、事件が起きた事務所には特殊詐欺グループのメンバーを殺した犯人、いや人でない可能性が高いので【何か】と言うべきだろうな。


それが複数体、事件現場で行動していた可能性があると言うことだ。


壁や廊下に残った魔力の痕跡。

俺のチートの能力の【鑑定】と【分析】のスキルだからこそ、微かな魔力の違いに気づけた。

スキルが無かったら、違和感を覚えても違いには気付かなかっただろう。


それとこれはスキルを使わなくても分かったのだが。


天井や廊下を移動した何かの痕跡。大きさがそれぞれ違った。

大きさ違いの魔力の痕跡を考慮すると、最低でも八体は【何か】が、この事務所の内部を移動したことになる。


「今は、これ以上は事務所の内部からは見つからないか」


事務所の外、周囲を探索したところ、廃材置き場の地面に穴があけられていた。

念の為、ペン太郎に頼んで調べてもらったが、穴は既に塞がれていた。


もう、手当たり次第に周囲の地面を掘ってやろうかと思ったが。


短い距離なら魔法でトンネルのように穴を掘り進められるが、あまりにも効率が悪いので仕方が無く諦めることにした。


穴を掘る才能と言うと微妙ではあるが、俺はあまり地属性の魔法とは相性が良くない。

チート能力があるので、後先考えずにやれば一応、この周辺数キロは深い穴だらけにも出来るが。

デメリットが多いから、ぐっとこらえておく。


「どうするべきか」


殺傷能力が高い【何か】は、流石に対魔師局の人員だけで対処するのは難しい。

出来るかできないかで言えば、出来るだろう。彼等は熟練の対魔師だ。

だが、どれだけ被害が出るか? 被害が出た場合の埋め合わせはどうするのか?


そう言う部分を考慮すると、これ以上の被害が出るのは問題だ。

一度、米沢さんへ連絡を入れて、何か新しい情報が無いかを確認したが、流石にまだ何も見つかってないようだ。


俺は大人しく、家に帰ることにした。

念の為、影分身を事件のあった建築会社の事務所や周辺地域に見張りとして置いておいたが。

何も情報は得られなかった。




何も進展は無いが、日々は進んでいく。


「皆さん、おはようございます」


何時ものように学校へ行き、朝のホームルーム。

騎士アックス改め、アレックス先生は生徒達に受け入れられているようだ。


カッコいいおじ様系なので、年上が好みの女学生からアプローチをかけられているようで、生徒たちの話題の一つになっている。


「では、皆さん今日も一日頑張ってくださいね」


クラスメイト達の元気な返答に俺も乗っかり、普段通りの一日が始まった。


そして、放課後。


アンネから貰った、スマホに通知が来たので。俺は茶道部や花道部が使っている活棟の和室へ向かった。


和室で待っていたのはアレックス先生とアンネとアメリアさんの三人だった。


「失礼します。アレックス先生」

「お待ちしておりました。武殿」


アレックス先生は綺麗な正座をしながら、茶道部の電気式の道具ではあるが、お茶をたてていた。

何故ここにアンネとアメリアさんが居るのか分からないが、二人も正座している。

アメリアさんは涼しい顔をしているが、アンネはちょっと足をもじもじしているな。


「そちらにお座りください」

「ええ」


アンネの右隣に置かれた座布団に正座して座る。

どのような理由で呼び出されたのか分からないが、アレックス先生がお茶をたて終えるまで俺は静かに待つ。


茶筅だったか? 茶碗の中のお茶を混ぜる道具のシャッ、シャッという音が部屋に心地よく響く。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


うろ覚えの作法で、お茶を飲む。

アンネとアメリアさんにもアレックス先生お茶を作り。

一通りお茶を楽しんでから、俺はアレックス先生に問いかけた。


「それで、何故呼んだのですか?」

「はい、いくつか聞きたいことがありまして」

「それは?」


俺の問いにアレックス先生はこう聞いてきた。


「アンネローゼ様から聞いていたのですが、武殿は魔法関係者とは関わらないようにしたいとおっしゃっていたとか」

「ああ、今も変わらないな」

「それならば、何故今回の日本国内の退魔師達の粛清に関わっているのですか?」


粛清って、いやまあ、犯罪を犯している奴等を潰しているが。

全員潰している訳ではないから、粛清と言われれば粛清か。


魔法関係者と関わらないと言っていたのに、今も思い切り関わっているからな。


聞いておきたいのは分かるから答えておこう。


「縁眼さんから退魔師達の現状を聞いて。どもう嫌な予感がしたから自分で調べたんだ。その結果が酷かったんで。度を越えている連中を公的機関と協力して潰しておくことにしたんだ。平穏な日々を手に入れる為に、先ずは邪魔なモノの掃除からをしないとな」

「なるほど、それでは掃除が終わればこう言ったことに関わらないと?」

「自分の身内に被害が出るモノが居るなら、排除するつもりだ。アンネに危害が加わるような輩が居るなら積極的に潰すつもりだ」

「そうですか」


俺の言葉に頷くアレックス先生。それと何故か嬉しそうにこちらを見詰めてくるアンネ。

それと疲れた表情でお茶をチビチビ飲んでいるアメリアさん。

そう言えば、普段なら侍女として壁際でジッとしているアメリアさんが座ってお茶を飲んでいる。後で理由を聞いておこうかな。


「それとここ最近、忙しそうだと聞いたのですが。私に何か手伝えることはありますか?」

「いや、大丈夫だ」

「そうですか」


少し残念そうな表情のアレックス先生。


「他に何か聞きたいとはありますか?」


そこから、いくつかアレックス先生から質問があったが。

俺の個人的なことへの質問だった。


好きな食べ物や趣味など。

既にアンネやアメリアさんなら知っている情報で、知りたいなら二人から話を聞いていると思ったけれど。


「本日はありがとうございました」

「いや、気にしないで」


俺はそう言って先に帰らせてもらった。

アンネとアメリアさんは少しアレックス先生と話して帰るようだ。


と言うか、別に学校じゃなくても良かったんじゃないか? まあ、アンネ達がここまで来たのは何か理由があるのだろう。


そう結論付けて俺はその場を去った。



武が去った後の和室の空気は気まずい雰囲気となった。


「アンネローゼ様」

「は、はい」

「武殿の好きなモノや嫌いなモノ。アンネローゼ様の報告と違いがございましたな」

「は、はい」

「家に出入りできている。普段の武殿と行動を共にしているから、趣味嗜好はバッチリだと仰っておりましたが」

「は、はい」

「普段、武殿がそれを多く食べているから、好物だと決めつけるのは早計でしたな。他にも普段の行動を理由に武殿の好きな物も違っておりました」

「そ、そうね、自分で勝手に思い込まずに、武に直接聞くべきだったわね」


今日、この三人がわざわざこの場に集まった理由。

それはアンネとアメリアの二人が調べた、武の趣味嗜好に間違いないか確認する為だった。


もちろん、武が魔法関係者とこれからどうかかわっていくのか、その確認もしたかったが。

アンネ達は武の力は隠しきれるものではなく、武自身が騒動を引き寄せるとして、当人がどう思っていようと魔法とは一生関わっていくだろうと予測していた。


なので、三人は改めて武の好物などを確認して、武との関係を深くしようとしてた。


「今日、確認できたことは良かったですね。アンネローゼ様」

「ええ、そうね。アメリア。武が私には赤い衣類が似合いそうと言ってくれるとは思わなかったわ」

「そうですね。お爺様がアンネローゼ様に似合う色の服はどの色だと思いますか? と発言した時、不安でしたが」

「普通の武殿と同世代の男子生徒なら、本人を目の前にすると誤魔化される可能性がありましたが、武殿なら素直に教えてくれると考えておりました」

「でも、これで前進出来たは、武は私に似合い色は赤だと明言したから。私服は赤を多めにしましょう」


ここ最近、武があちらこちら活動をしているので、アンネは武と一緒に過ごせるように行動を開始する。


「ふむ、それではそろそろ。吸血の契約も視野に入れてもらわねば」

「ぐっ、それは」


吸血の契約とは近代になって出来た価値観だ。


昔は人間から血を吸うことに何の感じなかったが。


近代になると吸血鬼と魔法関係者の人間の倫理観、価値観が変わってきた。


そして、出来た新しい契約の一つが、吸血の契約。

吸血鬼側が、何かを対価にして血を人間に貰うことだ。


現代では、契約する相手との深い仲を意味することが多い。


「アンネローゼ様は、出会ってから一度も武様から血を飲んでませんので」

「ふむ、改めて考えると、それは由々しき事態だ」

「が、頑張るわ」


こうして、武の知らないところで、一人の少女が覚悟を決めることになる。


帰宅途中の武は、帰り道で何故か盛大に何度もくしゃみをし、「この身体になってくしゃみなんて久し振りだな」とボヤキながら、家に帰った。


そして、その日の夜。

今日は家に泊まっていくと言う、アンネの寝巻が。普通のパジャマから、赤いセクシーなベビードールに変更されているのを見て、固まり。アメリアさんが笑いを堪えているのを見て、ああ、アンネが暴走しているのだな。と察して内心で苦笑いした。


ちなみその日の夜、俺は寝る時、自室の部屋は鍵をしっかりかけたので、万が一も起こらず。


翌朝、部屋の入り口を開けると涙目の怒ったアンネに俺は首筋を思い切り強く噛みつかれてかなり強めに血を吸われたが、「ごめんごめん」と言いながら、アンネに謝って許してもらった。


こうして、武はアンネに初めての吸血をさせてあげた。


うーん、ここ数日、アンネたちと話をあまりしてなかったな。反省せねば。

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