第50話

対魔師局から作戦中にドローンが破壊されたと連絡がきた。


提供したドローン。今回はアルケニーが破壊されたのは問題ない。

対魔省庁と対魔師局に提供したドローンは、頑張ればこの日本の今の時代の技術者でも作れるようになる、高性能な戦闘型ドローンだ。

いくつかの技術は少し先の未来の技術ともいえるレベルだが。

やってやれなくはないレベルだ。


「なるほどね。確かにこれは緊急で呼び出される訳だな」


対魔師局のとある支部の倉庫へ、俺は忍者の恰好で出向くと、紺色のスーツやしっかりと手入れされた白衣を着た職員達が出迎えてくれた。

既にドローンの修理などの手ほどきをしているので、俺への視線は全てではないが穏やかになっている。


問題なのは、眼の前にある破壊されたアルケニー、数は四体。


その全てが本来の森林迷彩カラーリングが薄くなっている。

パッと見、何十年も放置された物のような印象に見えてしまう。


特に一番破壊されているアルケニーは、ガラクタと言えるほど機体全体が朽ち果てている。

古い公園の遊具と言えばイメージしやすいだろうか?

塗装が剥がれ落ちて、もう年十年。下手したら何百年も前の物だと言われてもおかしくないレベルだ。


「これは……、何があった?」


俺の問いに紺色のスーツの中年のインテリって感じの男性が説明してくれる。


「弦巻家と言う家の当主を含めた十五名を確保しようと作戦を実行したのですが」

「うん」

「その戦闘で激しい抵抗を受け、当主などは逃亡、逃亡した先の山々を捜索しているところ何者かに襲われ、戦闘要員二名。アルケニー四体が破壊されました」

「ふむ、どんな敵だった?」

「それが、真っ先にドローン全機の視界を塞がれ、姿を確認できませんでした。更に調査員二名は真っ先に攻撃されまして、殉職」


視界と聞いて俺はしまったな。と思った。

ドローンは日本の一般的な技術者が作ることを前提にしているのでSFチックな万能なセンサーなどは搭載していない。


その為、操縦者はドローン側のカメラで視界を確保している。

だから、ドローン側のカメラが塞がれると、操縦者は何も見えなくなる。


「性能が高いからと言って、頭部だけにカメラを乗せなかったのは失敗だったな。サブカメラの数を増やさないと駄目だな」

「はい、頭を潰され、視界が塞がれると操縦者は逃げることも難しいと」

「複数運用なら、他のアルケニーの視界を見れなかったのか?」

「それがその場にいた四機全機の視界を塞がれたのです」

「同時にか。どのような手段で?」

「液体による目潰しです。かなり粘度が高く、アルケニーの手で目潰しの液体をぬぐうことも出来ませんでした」

「厄介だな」


一応、カメラが雨や泥で汚れた場合、アルケニーの手で拭うことくらいはできる。

それも出来ないくらいの粘度高い液体か。


「目つぶしの対策として、サブのカメラを増やすして、頭部のメインカメラを保護するゴーグルを作ろうか」


俺はそう言いながら、アルケニーに触れて状態を確かめるのだが。


「……これ、もしかして、腐食攻撃ではなく、吸収系だな」

「すみません。腐食と吸収とは?」


スーツの男性職員から質問されたので答えておく。魔力が無い職員なので、あまり魔法の知識はないのかな?


「腐食が錆や腐敗などの自然現象に近い。魔法でもモノを腐食させるのは、一応は物理法則に近い形で行われる。魔力を使って腐食速度を速めているからな。だが、吸収はそのモノの魂、生命力を吸い取るモノだ」

「吸収の方がより魔法に近いと?」

「そうだ」


そこで、俺は白衣を着た技術者達にも話を振った。


「皆はどう思う?」

「我々の考えは腐食させられたと考えている。魔法的な痕跡はありますが、そこまで多くはありません。ですので、元々の強力な酸などを魔力で強化していると考えました」

「確かに俺も最初はそう思った。だが、このアルケニーには魂が無い」

「魂ですか?」


不思議そうな表情でスーツの男性職員が問う。


「ああ、モノには命が宿る。って言うだろう。ふわっとした言い方だが。目の前にあるアルケニー達は、腐食されたというよりは、吸い取られたと言うのが正しいだろう」

「我々には分かりませんね」


白衣を着た技術者達が首をひねっている。

これは人形師やホムンクルスなどを作ったことのある錬金術師出ないと分からない感覚かもしれないな。


「これを作ったからこその感覚だ。これは後で埋葬しないと」

「埋葬ですか?」

「ああ、人の形にもしているからな。長い年月をかければ、魂が宿るアルケニーも居たかもしれないな」


俺はそう言いながら、四体の朽ち果てたアルケニーを回収する。


「とは言え、厄介になったな」


逃亡した弦巻家がどれだけ戦力を保有しているか分からないが。索敵しているアルケニーを四体撃破できる戦力があるのは困るな。


「奇襲でアルケニーの視界と行動をしていた人間を即座に倒すことが出来る実力と堅実さ」


奇襲を嫌う人間は意外と多いる。

だから、アルケニーが倒されたのは厄介だった。


つる追い込まれても卑怯と言われそうなことを避ける。あちらの世界へ行くまで俺も似たような感じだったな。


勇者だから、死んでも生き返るし。俺達が負けた後のことも考えると卑怯だろうが、何だろうが、俺達は必ず勝たなきゃいかなかった。

弦巻家も追い詰められているが、その状態で奇襲でしっかりと戦果を挙げて、その後も足取りを掴ませていない。のは厄介だ。強敵だな。


「それと遺体の画像もあるか?」

「あまり見ていて気持ちの良いモノではありませんよ?」

「少しでも情報が欲しい」

「分かりました。こちらですね」


死体は似たようなものをあちらの世界で見たことがある。

吸血鬼の吸血で死んだ人間や相手の体液を頭にストローのような管をぶっ刺して啜るモンスター。


その類の奴だな。


「俺が弦巻家を調べる。それまでは弦巻家の調査は最低限で頼む」

「分かりました。人員ですが」

「連絡要員を、いざと言う時の為に影分身を使う」

「分かりました。しかし、影分身はかなり魔力の消費が多いと」

「大丈夫だ。その気になれば百や二百は平気だ」


俺は即座に大量の影分身を生み出していく。


「おおっ、これは」

「資料を頼む。弦巻家の本家の場所と襲撃を受けた場所などだ」

「既に此方にあります」

「ありがとう。それと、明日の午後二十時までには、改良型のドローンを持ってこよう」

「分かりました」


俺は直ぐにその場を後にした。



さて、今回の事件は俺でも危機を感じた。


理由は状態異常を無効化出来るが、吸血のような相手の体力を吸収する攻撃は、通常攻撃扱いで吸収攻撃は防御力を無視してダメージを食らうことが多い。

今回の奇襲に出てきた謎の敵が、防御力を無視するタイプの吸収攻撃かどうかは分からない。


やり方次第で、俺の体の一部の機能を一時的に使用不能に出来る可能性がある。

数と攻撃力が高ければ、俺を殺すことも可能だ。

まあ、体力が天文学的な数値だから、少しくらい吸収されても問題ないだろうが。


「やはり、この屋敷には何もないか」


鑑定スキルと索敵スキルで改めて、対魔師局が抑えた弦巻家の本家がある山にやって来たが。

屋敷を隅々まで探索したが、既に退魔師局の職員が探し終えた後だった。


「俺の索敵スキルは分厚い壁とか、地中へ向けると途端に精度が落ちるからな」


隠し扉程度なら、直ぐに分かるが。何らかの方法で地面を通って少し離れた地下室的なモノがあった場合、見落とす可能性がある。


「あとでまた来るか。それよりも奇襲された場所だが」


俺が弦巻家の屋敷を出ると伝令役の影分身が俺の身体に戻って来る。

そして、影分身が見聞きしたモノが頭の中に入ってきて、俺はそれを理解する。


「痕跡は無かったか。時間が経ち過ぎていたな」


俺は溜息をつきながら、追加で影分身を送る。


「厄介なタイプかもしれないな」


今、影分身は襲いやすい状態で山々を探索している。そして、その全てがまだ存在している。

仮に影分身が破壊された場合、直ぐに俺に伝わる。


それなりの時間が経っているのに一度も攻撃されていない。

知恵と忍耐力のある敵だった場合、俺の影分身の力を警戒して攻撃してこないだろう。


武功に焦るバカなら、一人で行動している奴を見つけたら、襲ってくるはずだ。

影分身と影分身の距離感もかなり広い。それなのに攻撃してこないのは。


既に別の場所に移動しているか、確実に倒せる敵の前にしか現れない厄介な敵だ。


「面倒な」


俺はこの日、百人程度の影分身で山狩りを行った。だが、結果的に何も見つけられなかった。


謎の敵に繋がるような痕跡は、この時点では見つけられなかった。

既にいないか、もしくは空か地中から逃げたのかもしれない。


一般的な建物の壁の厚さなら、俺の索敵スキルは影響を受けないが。地面はやはり分厚すぎる。


スキルを集中して探索すれば、深くまで索敵できることは出来るが、地中を調べられる範囲はかなり狭くなる。


本体は秘密基地に移動し、ドローンの改良。

それから翌日、俺はようやく痕跡を見つけた。


俺は痕跡を見つけた影分身が戻ってきたので、身体に戻して場所を特定して、俺はその地点まで移動したのだが。


「やっぱり地面かぁ~」


既に影分身達に動かされた乗用車サイズの大きな岩の下から、大柄な大人の男性が入れそうな地面に空いた深い穴を発見。

地下室とかの入り口とかだったら分かりやすかったのだが。


「これ、人間とかじゃなくてワーム系が掘った穴だよな」


綺麗な円形で穴の壁も薄っすらと魔力で補強されている。


目の届く範囲の穴が、壊れない様に均一に補強されているところを見ると、これは人の手ではない。

人の手で掘りながら、魔力で地面を補強するのは割と難しいだろうな。

待てよ、ワームじゃなくてモグラみたいな動物系か?


……でも、俺の直感がこの穴を掘ったのが、人や獣じゃないと言っている。

背中に嫌な汗が噴き出てくる。


「この中に入るのか?」


俺は口に出して、心の底から嫌だと思った。

と言うのもあっちの世界で、前情報がないけど「どうせ、大丈夫だろう」と勇者仲間達と高を括って、大きな洞窟に入った。

実はそこは巧妙に偽装された巨大なワームが口を開けたトラップだったのだ。


俺達が気が付いた時には逃げることが出来ず、俺も含めて中に入った3分の2の勇者が強酸で溶かされて死に戻り。


3分の1の勇者はワームの腹をぶち破ったが、ワームを倒した後の戦利品など少なく。

俺も含めた勇者全員の装備は強酸で使い物にならなくなり、全て廃棄となった。


この失敗は引っ掛かった勇者達に強烈なトラウマを植え付けられることになり、新しい装備を作るまで勇者達は、魔王軍とは厳しい戦いを強いられることにもなった、苦い思い出がある。


「この穴のサイズの胴体直径のワームなら、下に降りても俺が立って探索は無理そうだな」


ワームが掘った穴を匍匐前進で探索す? 嫌だなぁ。

影分身を使えば問題ないかもしれないが。それもなぁ。


俺はしばらく考えて、ちょうどいいから使い魔を呼び出すことにした。

比較的小柄で戦闘力の高い使い魔。


「あいつにするか」


俺は召喚魔法を使用した。

周囲は木々がちょうど開けているので魔法陣のサイズも十分だった。

青い色の半径5メートルほどの魔法陣が地面に出現して、魔法陣から荘厳な金色の門がせり上がってくる。


「相変わらず派手な登場だな」


そして、門がゆっくりと開いていくのと同時に勇敢な男達の声が響き渡る。


『『『『『海よ咆えろ!!!!!』』』』』


『『『『『地よ唸れ!!!!!』』』』』


『『『『『宙に轟け!!!!!』』』』』


『『『『『この御方こそ、天上天下唯我独尊!!!!!』』』』』


『『『『『世界よ、刮目せよっ!!!!!』』』』』


その声と共に、屈強なスキンヘッドのブーメランパンツのホムンクルスの男達が身体に鎖を巻き付けて、トラックサイズの豪華な装飾をされた黄金の人力車を「ふんぬぅっ!!」とズンズン大地を踏み鳴らしながら、引っ張り出してくる。


スキンヘッドのホムンクルスたちは皆、白い歯を剥き出しにしながら、とても素敵な笑顔で黄金の人力車を引っ張っている。


アイツが乗っている車自体は遊園地のパレードでも使えそうなけれど、引っ張っているのが屈強な彼等だから、子供が見たら泣いてしまうな。となんとなく考えてしまった。



「――そうっ!!! 俺こそがぁっ!!!!! こぉぉぉぉぉてぇぇぇぇぇぇペン!!!!! ギン!!!!!



 ――ペン太郎である!!!!!」


――ズドンッ! と人力車の背後で黄金の爆発。


両手を限界まで広げ、黄金のオーラを滲ませながら、胸を張るペン太郎に俺はお決まりの突っ込みを入れる。



「いや、お前はコウテイペンギンじゃなくて、ジェンツーペンギンだろう」



皇帝ペンギンとジェンツーペンギンはサイズ全然違うだろう。大きさ的に半分くらいじゃないか?


「うるさいぞっ!!!!! 俺の職業が皇帝だから、俺は皇帝ペンギンなんだよ!!!!!」



豪華なパレードで使えそうな黄金の人力車に設置されている豪華な玉座に腰を掛けていたのは、目つきが鋭いが、全体的に可愛らしいジェンツーペンギンのペン太郎だ。

ちなみにダンティが魔法系の使い魔なら、ペン太郎は物理攻撃系の使い魔だ。

比べられることではないが、攻撃力と言う意味ではダンティよりも強い。


体格が小さいのが弱点の一つだな。


「まあいい! ここがお前の元の世界なんだろう? 俺を呼んだということは余程のことだろう! さぁ、言うがいい!! 皇帝でもある俺が広い心を持ってお前を手助けしてやろう!! とうっ!!!」


シュタ! と着地するペン太郎。


「じゃあ、その穴の中に入っておく調べてきてくれ」


俺は自信満々のペン太郎に、俺はそう言った。


「穴?」


ペン太郎は俺が指さした穴を見て、三秒ほど固まり、もう一度俺を見て、見つめ合い。

確認の為に、もう一度地面の穴を見てから、ペン太郎は俺に向かって口を開いた。


「これ、ワームが開けた穴じゃね?」

「たぶんな、でも使い魔のお前なら、丸呑みにされて死んでも大丈夫だろう?」

「――ふっざけんじゃねぇっ!!!」

「いいからさっさと行けよ、ほら!」

「あいたっ!!」


これ以上文句を言う前に俺はペン太郎を踏みつけるように穴へ蹴り落した。


懐かしいなぁ。ペン太郎とのこういうやり取りは。


ついでにペン太郎が魔力で飛んで空に逃げられないように、俺はペン太郎を蹴る時に重力魔法を使って、ペン太郎に重力を付与したので、ペン太郎はかなり早い速度で穴の底へと落ちていった。


「きっさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!! これで死んだら、百万回生まれ変わってもこの怨み晴らすからなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


ペン太郎の叫びを聞きながら、俺はスマホを取り出し、ペン太郎の御褒美として、好物のアジが安いスーパーを検索する。


さて、穴からは、鬼が出るか蛇が出るか。




俺の心配は結果的に外れることになった。

この穴は既に潰されており、周囲にあるはずの地下に作られた穴を苦労して索敵したが、何も見つからなかった。



☆☆☆



「冷静に考えれば、ミノタウロスだったか。あの牛レベルの強さを持つ存在がポンポン出てくるわけが無いと思うが?」

「そうだな。確かにそうだ。けれど、警戒はするべきだろう」


街のスーパーで購入した、大皿に乗せられたアジを一匹、ペン太郎は器用にくちばしで咥えて丸のみにする。

もごもご、食べている姿は可愛い。


「邪神の眷属レベルがポンポン現れるのか? この世界で」

「それは分からないが、警戒はするべきだろう」


小川でキャンプ用に買った椅子を二つ取り出して俺とペン太郎は休憩をする。

今日、このまま家に帰るのはちょっともったいない気がしたので、今日の夕食はちょっとキャンプ飯っぽいモノを作ることにした。


まずは椅子や大きめの石を集めて積んで竈を作る。


「そもそも、あの穴の残留魔力を考えれば大した強さではないことくらいわかるだろう」

「まあ、な」

「慎重も過ぎれば臆病だぞ」


ペン太郎の言葉に俺は少し反省する。

確かに過去の失敗とトラウマで少し臆病になっていたかもしれないな。


「それに俺以外にも適任が居ただろう。風子とか」


風子とは風の魔力の結晶を使った使い魔だ。風の妖精のように肉体があるのではなく。

風と魔力の存在で、精霊に近い。


「確かに風子だったら風を送って内部を調べられたな」

「元の世界に戻って、色々と鈍ったのか? いや、魂の修復で記憶も大分消したり、ぼやかしたりしていたな。昔のようにこういうことに関しての鋭さが無くなった気がするぞ」

「そう思うか?」

「ああ、前のお前ならそもそも、こんなまどろっこしいことはしていない。大型の使い魔数体を召喚してこの辺り一帯を掘り起こして、何もなかったら元に戻していただろう」

「それは、まあ、やりそうではあるが。あまり派手にやると生活に支障が出る」


出来るかできないかで言うと出来る。掘り起こして、それを元通りに戻すことも。

一応、普通の技術的な魔法も使えるし、何でもできる【概念魔法】も使うことが出来るからな。


普通の魔法ではない【概念魔法】は使うと消費魔力や周りの影響が大きすぎるので、あまり使いたくない。


「ま、日常生活をするのであれば、それくらいで良いのかもしれないがな」

「もう死に戻りが出来ないからな」


俺は溜息をつきながら、たき火を眺める。

胸の奥から、滲み出てくるのは死への恐怖。今回は印象的な死に方をした穴に反応した。


「……武よ。死んでも生き返られる俺が言うのもアレだが。死を恐れすぎではないか?」

「ああ、流石に少し反省するべきだな。穴一つごときに」


俺の言葉にペン太郎が腕を組んで何かを考える。


「そんなに不安なら、正体を隠して世界征服でもしたらどうだ?」

「戦力的に出来るが。それはそれで、かなり危ないだろう。常に命を狙われ続けることになるぞ」

「お前と繋がっているから、ある程度この【世界の戦力】は把握している。命を狙われてもお前を殺せるとは思えないが?」


物理兵器で最大の攻撃力が核兵器ごときの世界なんぞ、簡単だろう。とペン太郎は簡単に言う。

確かに核兵器は無効化出来るし、使い魔達を総動員すれば世界征服は出来るだろうが。

その後の統治とか面倒すぎる。それに一応、この世界の魔法に即死効果がある魔法もある。


1%でも、即死する可能性があるなら、警戒するべきだろう。一応、即死攻撃を受けた時に復活できる組成アイテムはある。


ただ、この世界でもこの魔道具が使用可能なのか分からない。使える気はするが。


使った場合の副作用があるのか。


使用した場合の副作用、俺個人にあるのか、世界にあるのか不明だ。


あちらの世界では、俺達を呼んだ神が許可を出していたが、この地球ではどうなっているのか分からない。


少なくても、死に戻りが出来なくなっているので、何かしらのデメリットはあると思った方がいい。


「はぁ、そんなことをして何になる?」

「危なそうな奴等を排除できると思が……」

「本気でそう思うか?」

「いや、次から次に武を狙う奴等が現れる可能性があるな」


洗脳でもしない限り。とペン太郎は恐ろしいことを言う。

まあ、洗脳系は出来なくはないが、俺にはその辺りの才能がないので、チートスキルでも手に入れた国民全員を支配できるのは流石に難しいだろう。


「「…………」」


微妙な空気に俺もペン太郎も黙り込む。


俺は少し間をおいて、簡易的なキャンプキッチンを取り出し、キャンプ飯を作ることにする。

気持ちを切り替えようか。パチパチと竈のたき火の木の枝が燃えて弾ける。


「ま、兎に角。今は飯を食おう」

「そうだな。それにこの周辺で、敵が見つからなかった。となると別なところに移動したか」

「ほぼ間違いないだろう。木々の上の方に微かに魔力の痕跡があったくらいだからな」

「地中と木々を移動できるか。ワームではなさそうだな」


こうして、夕食を食べた後、俺はペン太郎を戻して家に帰った。


明日、もう一度対魔師局へ連絡してどこか怪しい場所がないか確認しないとな。

そう思って自室で部屋着に着替え終えると、対魔師局から連絡が来た。


特殊詐欺グループ複数名と警察官二名が調査員と同じ殺され方をした、と。




犠牲となった特殊詐欺グループは十七名と警察官が二名。

街の外れにある事務所は、あまり良くない噂がある建築会社が所有している。

どうやら、普段使わないこの事務所、色々と取引をして借りて拠点にしていたようだ。


偶然、この事務所の近くを車で通りかかった近所の人が、大勢の悲鳴を聞いて何事かと警察に連絡。


パトカーが確認の為に事務所へ移動し、犠牲となった。

悲鳴と助けを求める無線が入り、追加のパトカーを派遣し、そこで遺体を確認したということらしい。

特殊詐欺グループのメンバーと警察官を殺したと思われる存在はその時点ではもうどこにも居なかった。


「はぁ、これはもっと本腰を入れないと危ないな」


死体を確認した。やはり、ミイラ化している。吸収系だな。

死の危険は今のところ感じていない。けれど、油断はしない方がいいな。


敵のやり方次第では、俺の腕の一本や二本、失う可能性がある。

霊薬や治癒魔法で直せる可能性が高いが。絶対ではない。


「この吸収は対象に直接触れないと発動しないのか、それとも一定範囲に入ると吸収されるのか」


どちらにしても厄介だな。


俺は新しい犠牲者が出たことで、更に頭を悩ませることになった。





「これが、送られてきたパワードスーツか?」

「調査員に犠牲者が出てすぐにこれを出してくるなんて忍者も仕事が早いな」

「いや、あの殉職の一件とは違うぞ。これは自衛隊から出向してきたメンバーからの要望で作られたスーツだ」


退魔師局の倉庫内で三人の局員が送られてきた新しい二つのパワードスーツを点検しながら、雑談に花を咲かせる。


「既に忍者から提供されたスーツは凄く高い性能だけれど、バランスを考えられているから。局地戦で苦戦することもある」

「ああ、そうだな。水中とか空中とか。こちらが攻める側だから、どうしても相手に有利な場所で戦うことが多いな」

「それを考慮して作られたのが、四神をモチーフにしたこのスーツだ。対魔師局には青龍と玄武が対魔省庁には朱雀と白虎の名前のスーツが送られたんだ」


三人の局員達の目の前には専用の金属製の箱に入れられた青いカラーリングのメカニカルな、ヒーロー映画に出てきそうスタイリッシュなデザインの青いパワードスーツが存在している。


「この青龍はどんな感じなんだ?」

「青龍は攻撃力に特化させたもののようだ。朱雀と同じように飛行能力がある」

「攻撃力に特化?」

「ああ、脅威度Aランク以上の敵を一撃で葬り去る攻撃力があるな」

「そういえば、結界を破壊するのに今ある武装だと、時間がかかると聞いたな」

「青龍の場合はそういう場合を想定している。既に提供されているパワードスーツは装着者の生命と戦闘力を底上げすることを目的として、内蔵兵器とかは無いからな」

「これにはあるのか?」

「ああ、ただ、試作品で戦闘で出力全力で撃つとエネルギーが無くなる」

「ま、試作品なら、欠点くらいはあるか」

「他のスーツはどんなモノなんだ?」


問いかけられた局員は近くのテーブルに置いておいた資料を確認しながら説明をした。


「朱雀は空中専用のスピードタイプだな。既に捕まえているけれど、空中戦が得意な退魔の家の一件はかなり大変だったからな。戦いも追跡も」

「ああ、あれか。対空への攻撃手段が少ないから、結構被害出たしな」

「白虎は地上戦の青龍に比べると近接タイプのスーツだ。青龍は飛び道具が多いみたいだな。玄武が防衛用、それと水中でもかなり素早く動けるらしい」

「凄い四機だな」


渡された資料を読みながら、局員がそう呟くと。事前に忍者こと武と話をして、資料にも目を通していた局員はこう告げた。


「いや、試作機もあるから、五機だな」

「マジでか」

「五機目はどんなスーツなんだ?」

「試作としか聞いていないな。黄龍をイメージして、黄金にするつもりだったけど、作っている時に黄金だと目に煩いから白にしたと聞いていたな」

「作り終わってから、黄金カラーにすればよかったんじゃないかそれ?」

「忍者も完成した後で、それに気づいたらしくて。ちょっと残念がっていな」

「あ、二人ともそろそろ作業を進めないと定時に間に合わないぞ」

「おっと」

「やっべ」


三人の局員は手際よく、送られてきたスーツの点検を終えた。




姫子に出会ってから、俺の生活は充実している。

朝起きて、客室から出てくる姫子と顔を合わせて、二人で洗面台で顔を洗い歯を磨く。

朝食を二人で作って、俺は学校へ姫子は俺の部屋で過ごしている。


俺が返ってくると、姫子は嬉しそうに俺の傍に寄ってきて、おかえりと言ってくれる。


両親が仕事で居ないことに慣れていたけれど、姫子と出会ったことで俺は意外と寂しがり屋だったことが分かった。


「どうかしたの?」

「いや、姫子ににあっているなって、その帽子」

「ありがとう」


姫子の衣類はネットで購入した。

サイズが微妙に合わないものもあったが、なんとなっている。

ただ、少し困っているのは姫この身体から生えている植物の蔓や花だ。

姫子にも取り除くことはできないらしく。

服の中で隠すことくらいしかできない。

そうなると、まだまだ暑いこの時期で姫子には暑い思いをさせてしまう。


なので、俺達が外へ出かけるのは夕方になってからだ。


帽子も夏用の物にしているが、側頭部からも蔓が生えているので帽子は必須だった。


「今夜の夕飯は何にしようか」

「そうだね。最近色々料理を作ってみたくて」

「姫子って、料理上手だよな」

「うん、ずっと閉じ込められていたから、沢山作っちゃうけど。ごめんね」

「気にするな。全然、食べられる量だからな」


俺は姫子と話しながら、スーパーに向かう途中、姫子と手を握ろうか迷いっていると、姫子の方から手を握ってくれた。


「行こ、今だと値引きシール張ってくれる時間だし」

「あはは、大分たくましくなったな」


俺が笑いながら姫子の後に続こうとした時だった、パトカーがサイレンを鳴らしながら、俺達の近くの車道を走っていく。

すると姫子の身体は強張り、動けなくなる。


「姫子」

「だ、大丈夫ちょっと驚いただけ」


姫子はサイレンの音に敏感だ。

どうも、家を襲撃された時の恐怖が残っているらしい。


「大丈夫だ、姫子。俺がついているから」

「うん、ありがとう」


ちょっと行ってみたいセリフを言って、俺は心の中で溜息をついた。

ずっとこのままではいられない。


警察が姫子の家を襲ったのなら、いや、どちらかと言うと姫子の家の人間を逮捕しに来たっぽいな。

正直、情報が無さ過ぎる。


「最近、身体を鍛え始めたよね」

「え、ああ、うん。効果あるか分からないけど」

「ううん、嬉しいよ。けど、その、家に帰ったら、話したいことがあるの」

「ん、なんだ?」

「その、昌が強くなりたいなら、少しズルいけど、方法があるの」

「え?」

「私が原因で昌が怪我をするかもしれないから、その一応ね。魔法使いって魔力で肉体を強化するから、筋トレだけだとその効果が無いというか」

「ああ、そういえば、そうだったな」

「そこで、私の魔力」

「どういうことだ?」


姫子は周囲に誰も居ないことを確認して告げた。


「私が魔力で果実を作って、その果実を昌が食べるの」


その言葉に紙谷昌は固まる。


「あ、ごめん、流石に気持ち悪いよね。聞かなかったことに」

「いや」


昌は軽く頭を振って、姫子に告げた。


「俺はただの学生だ。だから、出来ることは何でもした方がいい」


昌の言葉に心の底から喜ぶ姫子。

二人は手を繋いで、スーパーへと向かい、その日の晩。


昌は姫子が一時間ほどかけて作り上げたリンゴの実を食べる。


「美味い!」

「本当に? 良かった。エンリョセズニゼンブタベテネ」

「姫子?」

「ん、何?」

「いや、今、気のせいだな」


昌は何故か、背筋がゾクッとなったが、気のせいだと考えて姫子が作ったリンゴを食べ続けた。

その様子を眺めながら、姫子は心の底から嬉しそうにニコニコと笑っていた。

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