第49話
学校がはじまり、普段どおり授業を受けながら、俺は今後について考えていた。
夏休みの少し前、縁眼家と対魔省庁と対魔師局に丸投げした真っ黒な退魔師の家々の粛清は順調に進んでいる。
俺も何度か手助けをしたが、致命的に危ないモノが出てくることは無かった。
ミノタウロスが存在するのだから、追い詰められた退魔師の家が、封印されていたヤバイ存在を復活させる。とか考えていたのだけれど。
封印されたモノを守っていた家もあったが、流石にそれの封印を解くことはしなかった。
腐っても退魔師。最低限の矜持はあったみたいだな。
それと戦力として提供したドローンも被害を出しながらも良好な結果を出した。
主力のアルケニータイプの中型ドローンはかなりの活躍。
前衛タイプの重装甲型は二枚の物理シールドと重要箇所に追加装甲を身に着け、両手と肩の機銃の対人捕獲用のスタン弾を乱射する姿は圧倒的だった。
魔力によるバリア、物理的な装甲。
並みの使い手ならなにも出来ずに倒されることが多いが、この二つ防御を突破できる使い手も俺の予想通り存在した。
強者と戦うとアルケニーが二、三体は戦闘不能にされ、俺が回収して修理をすることになった。
修理する時に対魔省庁と対魔師局の部隊【新月】と【陽炎】の整備班達に質問攻めをされ少し大変だったが、まあ、必要なことだと割り切ろう。
とはいえ、あっちの世界で技術者が変態というかぶっ飛んでいる奴等ばかりだったので、こちらの世界の技術者達が割と普通の人達なので話しやすかった。
邪神の居た世界では、ゴーレムや自分の背中に推進器を付けて壁に突撃し壁を破壊したり。移動に便利そうだからと言う理由で、自分の身体をスライムに作り替えた奴などが居た。
話を戻そう。戦いは数はということを俺はあちらの世界で嫌と言うほど思い知らされているので。
アルケニーが撃破された後、すぐに戦闘データを生かして、アルケニーの数を更に増やした。
狭い場所での戦いでは数を生かした戦いが難しいが。
そうではないところでは、高い戦果を出し対魔省庁と対魔師局から「是非、購入したい」と連絡を受けた。
事前に値段を教えておいたけれど、良く決断したね。
それと殉職率を下げる為にシャナやアーシャさんを切っ掛けに作った、対魔師向けにパワードスーツも好評だった。
やはり、人を相手にするのだから、戦力はドローンだけでは戦えないし、人間が必要。
その人材の死亡率を下げることに成功した為、パワードスーツの方も購入したいと言われた。
提供したパワードスーツのデザインやカラーリングが近未来チックな戦隊モノだったので、カラーリングとデザインは穏当なモノに変えることになった。
デザインが地味になると聞いて、対魔師達はちょっと残念そうだったけれど。
ちなみに、縁眼家の味方になった退魔師の家々からも、ドローンとパワードスーツの購入を打診されたが、値段を見て泣く泣く諦めていた。性能が高いから、値段も高い。
簡易生産型のパワードスーツとか作るか? 退魔師用の和装や普段着よりも性能が高くなれば。
けど、それをやると今現在、退魔仕様の衣類を作っている職人が困るんだよね。
退魔師と言うか、魔法使いの数も限られているし。
退魔師の衣類は防御力と言う意味ではかなり高い。対物ライフルを弾く物も存在する。高額だが。
平均的な退魔仕様の衣類はそこまで強いわけではないけど、需要はある。
だから、下手に今いる職人から仕事を奪うわけにはいかないだろう。
色々と悩ましいな。パワードスーツのインナーとか作ってもらうか?
色々と考えている間に時間は過ぎていった。
☆
「はぁ」
午前の授業が終わり、昼休みとなった。
俺はまだ外は暑いので弁当は学食の端っこで食べるかと考えていると前の席の紙谷が深いため息をついた。
紙谷昌(かみたに あきら)、俺の前の席の結構ガタイの良くて、男らしい顔立ちの生徒だ。中学時代はバレー部だったらしい。
身長は俺と同じくらいでバレーをするにはちょっと低めだ。バレーって百八十センチでも低いとか言われるらしいからな。
前に少し話した時に、バレーは好きだったけど、身長がな。と言っていたな。
高校ともなると、楽しくバレーと言うわけにはいかないのだろう。学校のバレー部って割と強いし。
「随分深いため息だな、どうかしたのか、紙谷?」
「え、ああ、えっとまあ、ちょっとな」
曖昧な答えの紙谷に俺は一応、鑑定をする。
変な妖怪とかが憑りついているわけではないみたいだな。
称号も変なのは無いし。個人的な悩みか?
「最近なにかと物騒だし、何かあったのかと思ったぞ」
「え、物騒なのか?」
「うん、知り合いの警察関係者がな、気を付けろって」
「そ、そうか」
何かを考え込む紙谷、何かあったのか?
と思っていると何度か頷いて紙谷は俺に告げた。
「なぁ、相談良いか?」
「別にいいけどなんだ?」
「やっぱり、凶悪犯罪とかって起こっているのか? 報道されないだけで」
「まあ、メディアの場合は視聴率が取れそうなモノを選んで報道しているらしいからな。それとこの街ではそういう危ない事件は起きてはいないみたいだぞ。まあ、知り合いが教えてないだけかもしれないが」
俺の言葉を聞いて、軽く腕を組みながら「そうか」と頷く。
「それともう一つ質問、いいか?」
少し迷いながらも紙谷は口を開いた。
ちょっと照れくさそうなのは何故だ?
「その、女の子にプレゼントって何が良いかな?」
プレゼント? なんだ、急に学生らしいことを聞いてくるじゃないか。
まあ、変な話題にしたのは俺か。
「女の子? え、誕生日プレゼントか?」
「え、あ、いや。普段のお礼にって言う感じで」
普段のお礼か。懐かしいな。顔も名前もどんな声だったのかも覚えていないけれど。
確か俺の専属のメイドとなった彼女が俺が初めて女の子にプレゼントをしたんだったな。
「髪留め」
「髪留め?」
「ああ、いや、ええっと。普段のお礼のプレゼントなら、その子が良く使っている物とか、消耗品。食べ物とかどうだ?」
「良く使っている物?」
「ああ、髪留めとかハンドクリームとか。それに誕生日プレゼントではないのなら、高い物は相手も引いてしまうかもしれないから」
まあ、参考程度にしておけ。なんなら、素直に何か欲しいモノがないか聞け。と俺は紙谷アドバイスをしておいた。
「ありがとう、助かるよ」
「いや、役に立ったのなら、幸いだよ」
俺はそう言いながら、席を立つと紙谷も席から立ち上がる。
その時、微かにふわっと紙谷の方から花のような香りがした。
「香水?」
「え」
「いや、何でもない」
昼食は縁眼さんも麻山も女子生徒と食べる約束があるので、俺は紙谷を昼食に誘って、紙谷と昼食を食べた。
そして、昼休みが終わり教室に戻る途中で俺は気になったので、紙谷に何となく聞いてみた。
「紙谷って香水付けてる?」
「え、いや。なんで?」
「なんというか、花の匂いがしたからな」
「え、マジで?」
驚いて制服の匂いを確認する紙谷に俺は苦笑い気味に「ほのかに感じただけだから、気にするな」と言っておいた。
「もしかして、家族に付けている人がいるのか?」
「あ、ああ、そうだ。多分それが移ったんだな」
ちょっと慌てた様子で、まいったなぁ、と苦笑いをする紙谷。
俺はその答えに違和感を覚えず、そのまま雑談をしながら教室に戻った。
うん、いいなぁ。普通の学生っぽいことを今俺はしているな。
ちょっとだけ、日常の幸福感を感じながら、俺は午後の面倒な授業を乗り切った。
☆ ☆ ☆
七月の下旬のことだった。
退魔師局の都内のとある大型倉庫。特務対魔部隊【陽炎】のメンバーはほぼ全員が揃っていた。
メンバー達は大型倉庫に並べられた忍者から送られてきたコンテナの中から、運び出された科学と魔法の融合されたドローン群を調べていた。
忍者から提供された超高性能なドローンを、集められた技術者達が調べた結果「我々の持っている魔道具やドローンよりも、技術的に三十年は先を言っている」と断言した。
「はっきり言って、この資料を見る限り。素材や加工を考慮すると一個人が作るのは無理だろう。本来ならば」
自衛隊から派遣された兵器開発に関わる細身の中年技術者の男性が険しい表情でそう告げる。
「更に魔法という未知の力も合わさっているなら、科学的な解析はお手上げだな」
「魔道具を作っている我々も、何故このドローン達がここまで魔法技術と融合しているのか、資料で説明されていますが。信じられませんね」
長年魔法道具を作ってきたプロ魔道具技師でも、眼の前に存在している科学と魔法が融合しているドローンを見て困惑している。
基本的に科学と魔法は相性があまり良くない。
近年、ようやく銃火器などの軍事兵器に魔力を付与し、性能を引き上げられるようになったが。
まだまだ、課題が多い。
特殊な加工を施して、魔力で弾丸の威力を上げると弾丸を発射する銃器本体の耐久力が不足する。
本体の耐久力を上げることも可能ではあるが、精密な物になればなるほど、制作難易度は高くなり量産には向かなくなる。
退魔師や魔法使いが杖や剣など昔の武器を好むことが多いのは、そういう理由もある。
苦労して作ったアサルトライフル。高価で作る時間も掛かり、剣や符などに比べて補充も難しくなる。
それなら現代兵器ベースの武器よりも、剣や護符が圧倒的に選ばれる。
特に戦車や戦闘機、ドローンのような化学の塊と魔法の相性は最悪だ。
にもかかわらず、高い科学技術で作られたドローンに、高いレベルの魔力による強化などがされているドローンが目の前に存在する光景。
科学と魔法の融合を目指していた技術者達は、未知の技術への興奮と自分で作れなかった嫉妬。
そして、眼の前にあるドローンを越えるものを必ず作り上げると心に決めた。
「これでも、私も天才と呼ばれたんだけれどね。二年前に魔法という未知と出会ったと思ったら、科学の方でもありえないモノを見せられるとはね」
「ええ、我々も、あの忍者が現れてから常識を次から次へと破壊されています」
「是非、その忍者に会いたいものだ」
一般的な複数のプロペラが付いた小型のドローン。犬型の小型ドローン。
SF映画に出てきそうな四本腕の多脚の半人型の中型ドローン。軽ワゴン車サイズの人型の大型ドローン。
「これは、軍事兵器の見本市だな」
「国外にこのドローンが流出したら、大変なことになるな」
自衛隊と警視庁から出向してきたメンバーがドローンの武装を確認して、恐怖を抱く。
ドローンの装甲は、現在他国が装備している軍用のドローンに比べてかなり頑丈だ。
小型のドローンは比較的破壊されやすいが、中型と大型の装甲となると、基本的な大きさのお陰で、戦闘車両や戦車並みの装甲を持つ。
更に制限があるが魔力におるバリアまで装備している。
これを大量に生産することが出来る個人に警戒心を露わにしたのだが。
「お願いしますから、忍者にはちょっかいをかけない様に。冗談抜きで日本が滅びますので」
と、自衛隊と警視庁から出向してきた二人は、部隊長の米沢から釘を指された。
「そこまでですか?」
「はい、皆さんはまだ上位の魔とは出会っていないので分かりにくいでしょうが。彼は護衛艦を生身で切り裂ける人間です。魔力量も国内でもトップです。魔力量のことを考えれば文字通り国を亡ぼせます」
「話には聞いていましたが、上位の妖怪や魔物はそんなに強いのですか?」
「強いです。ですので、昔話ではあの手この手で相手を弱らせたりして倒したり、封印しているのです」
米沢の言葉を聞いて、自衛隊と警視庁から出向してきた二人は半信半疑だが一応の納得をした。
「彼は現在、法的にかなりマズい存在ですが。彼に国外から暗殺者などが送られたり、外交の標的にされた場合、日本政府は守ることが出来ません。彼は納税など国民の義務を行っているのにもかかわらずです」
「いや、それは」
「彼は既にこの日本に多くの利益を提供しております。ですが、日本政府は返すことが出来ません」
「それ故に、忍者の行動を認めると?」
「いいえ、見えないだけです」
「それは黙認では?」
「いいえ、見えないのです。忍者は姿を隠して行動しているので。何か起こった時に忍者が行った可能性はありますが、彼がやったという証拠が無いのでどうしようもありません」
自衛隊と警視庁から来た二人の男性は内心で「黙認だろう」と思ったが。
「忍者が何かをした時に明確に忍者が何かをしたという証拠がありながら、何もしないのであれば黙認となりますが。証拠が無いので黙認ではありません」
「そ、それは流石に」
「仕方が無いのですよ。スカルドラゴンを秒殺。犯罪組織を潰すためにアメリカに殴り込み、その時に襲い掛かって来たアメリカの特殊部隊を真っ向から、余裕を持って全員を無傷で捕縛してしまった、敵に回す訳にはいきません」
米沢が疲れて切った表情で「更に」と告げる。
「彼には巨大なヒドラや強力な力を持つ妖精が確認されています。退魔師の名家の縁眼家との協力関係も結んでいます」
「不用意に手を出したら、火傷ではすまされないと」
「はい、ようやく、膿を全て絞り出せる時に、間違っても敵対しては駄目です」
米沢の力強い言葉にいつの間にか近くに居た【陽炎】のメンバー達も米沢の言葉に分かったと頷く。
「すみません。話が長すぎましたね。ドローンの確認とマニュアルの確認を」
「はい!」
近くに居た、女性の部下に米沢は声をかけて。米沢達は運ばれてきたドローンの確認作業に戻る。
「予定通り、自衛隊との演習場は使わせてもらえるのですよね?」
「はい、予定通りに場所を抑えております。これが実際にどれだけ戦えるのか確認をしないと。カタログスペックを妄信するわけにはいきませんからね」
「当然ですね」
演習場でのドローン群の高い戦闘能力に【陽炎】と見学に来た自衛隊の将官と徳守大臣達がドン引きすることなる。
こうして、性能も確認できた為、【陽炎】は熱い夏を迎えることになった。
具体的には秘密のアジトでの戦闘の影響で山火事が起こったり。
戦国時代の鎧武者のような集団とSFチックなドローン軍団が、不発弾処理と言う名目で市民が避難させられた市街地で、市街地戦をしたり。
別に日の戦いでは、ビルの四階建ての大きさの巨人が大暴れしたりと。
彼等はたま~に忍者こと武の支援を受けて、どうにか無事にこの夏を戦い抜いた。
後天的に魔力に目覚めて、自衛隊から【陽炎】に出向した若い自衛隊員は夏が終わり、事情を知っている自衛隊員の同僚に「漫画やアニメの戦闘描写って、本当だったんだな」と、疲れ切った表情で酒を飲みながら、そう漏らしたと言う。
彼等の戦いは、まだまだ続く。
☆ ☆ ☆ ☆
学校がはじまって一週間ほど。
ここ最近、変わったことと言えば、紙谷と前より話すようになったことくらいだ。
どうも、夏休み前と夏休み中に、女の子と遊んでいる姿を目撃されていたらしく。
紙谷から恋愛? というとちょっと変だが相談を受けることになった。
「なるほど、親戚の方が」
「ああ」
今、紙谷の家に親戚の女の子がこっちの学校に通うために居候しているらしい。
居候をしているので、家事などもしてくれているらしくて、前のプレゼントはそのお礼だったようだ。
「正直助かるよ、誰に相談していいモノか迷うからな」
「そうだな。俺も紙谷の立場なら相談は難しいな」
そこから、少し居候をしている女の子話をしていると授業が始まる時間になったので、話は切り上げる。
そして、昼休みのまた紙谷から花の匂いのような香水がしたが、居候している女の子の香水なのだろう。
前よりも匂いが強い気がしたが、一緒に暮らしていれば匂いくらい移るよな。
この時は、良く話す男友達と呼べそうな紙谷との普通の日常に気を取られていて、この匂いを全然気にしていなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
俺の名前は紙谷昌(かみたに あきら)。
俺が彼女に出会ったのは、夏休みの終わり頃だった。
母が幼い頃に死んだ俺は、中学まで父さんと二人で暮らしていた。
父さんは仕事人間で、俺も父さんが嫌がると思い、あまり話さなかった。
過去の誕生日プレゼントや今送られてくる仕送りを考えると、父さんに情が無い訳ではないのだろうが、俺が高校に進学すると長期の海外出張へ行ってしまい、それ以降は一度も会っていない。
定期的に電話をしてくるので、無事なのは分かっている。
中学時代はバレー部の仲間達と楽しくしていたが、進学してからは一人で過ごすことが多くなった。
バレーを辞めた後、クラスメイト達と遊ぶこともあったが、どうもしっくりこなかった。
何と言うか、全部がつまらない日常になっていた。夏休みも彼女と出会うまでは。
そんな、夏休みの終わりが近づいたある日の深夜。
物音がしたので、二階の自室から一階の庭を確認して俺は驚いた。
少しボロボロな和服? を着て何故か身体に植物の蔓を大量に巻き付かせた、髪を緑に染めた美少女を見つけた。
良く見ると血のようなものが腹部を汚しているので、俺は慌てて庭に出て、「しっかりしろ」と彼女に声をかけた。
俺は救急車を呼ぼうとした時、彼女の身体に巻き付いていた蔓に襲われた。
意味わからないと思うが、突然太いロープのような蔓が蛇のようにこちらを向きながら、思い切り蔓をしならせて
鞭のように風をビュッ! と空を切る俺の側頭部に叩き込まれた。
そして、気が付いた時には泣きそうなというか、泣いている彼女が俺の顔を覗き込んでいた。
俺は美少女が泣いている状態と顔の痛さで大変だったが、彼女から話を聞いた。
どうやら、彼女は魔法使いの家系らしい。そんなのがあるのか!? と思ったが、眼の前で簡単な魔法を見せてもらったので、信じるしかない。
そして、彼女は忌み子として隠されていた存在だったのだが、どうやら家が襲撃された際に捨て駒にされそうになったので逃げてきたそうだ。
俺は悩んだけれど、彼女を助けることにした。
最初は警察に通報しようと思ったが、襲ってきたのが魔法の警察? だったらしく。
詳しいことは彼女も分からないが、通報したら殺されると彼女に言われた。
「えっと、名前を教えてくれるか」
「無いの」
「ナイノ?」
「名前は無い。いつか捨て駒にされる予定だったみたいだから」
「え、マジで?」
「うん」
その仕草が凄く可愛いと思ってしまった。
オタクが二次元キャラに可愛いと騒ぐ理由が少し分かるな。
「じゃあ、えっと」
俺が何かあだ名をと思った時、彼女の首筋に巻き付いている蔓から花が咲いていた。
「それって、黒薔薇?」
「え、ああ、はい。その私の身体と言うか蔓には色々な花が咲くんです」
気持ち悪いですよね。と呟く彼女に「そんなことはない」と素直に告げる。
最初は信じてくれなかったが、何度も違うと言い続けたお陰で、信じてくれた。
「でも、どうして花が?」
「私は元々植物と相性が良かったらしくて、あるらうね? と言う魔物の心臓を潰して作った薬を飲んでいたからこうなりました」
その話を聞いて、俺は最初が意味が分からんず、でもその意味を理解して思わず頭にぶわっと血が上った。
俺は魔法のことは分からないが、多分人体実験だ。
「薔薇は好きか?」
「え、はい。お花はみんな好きです」
「そうか、ならえっと」
パッと思いついたのはローズだが、そのまますぎるな。
薔薇が似合う。高貴な女性。綺麗な女性。
うーん、お姫様?
「あ、じゃあ、姫子でどうだ?」
「え?」
「なんとなく、姫子がいいかなって。呼び名」
「……、はい!」
嬉しそうに元気よく返事をする姫子。こうして、俺と姫子の同棲生活が始まった。
「そう言えば、追手とかって」
「あ、追われる前に家の人達をこの蔓で縛り上げてから、全力で逃げたので」
「そうか。まあ、しばらくは身を隠し置こうぜ」
「はい」
しっかし、小学生くらいの時に少年漫画だったかな、ラブコメみたいなことになったな。
でも、この子を見捨てるのはマズいだろう。男として。
俺はそんなことを考えながら、俺の顔を不思議そうに見つめてくる姫子に何でもないと告げたのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
――とある魔法関係の警察署
「それで、見つかった遺体の身元と死因は分かったか?」
「はい、身元は黒い噂が絶えない弦巻家の人間で、遺体からは魔力が検出されました。死因は体液が無くなったこと。つまり、これは魔法案件でした」
「はぁ、やっぱりそうか」
「夏に大規模な作戦を複数やっていましたから、それ関係かと」
「死体の回収くらいしっかりやれよ、あいつ等」
深く溜息をつく年配の刑事。それに同意する報告書を持ってきた若い部下。
「魔法事件関係の死体は酷いの多いですが、表情が凄かったですね」
「八人全員がこの世の終わりのような表情で、干からびしんでいるからな」
「いつぞやの蚊みたいに体液を吸い取るのかと思ったのですが、違うみたいですね」
「そうなのか?」
若い部下の言葉に疑問を持つ年配の刑事。
「はい、身体にはどこにも何かを刺した後はありませんでした。代わりに身体全身に細長い何かを纏わせた後がありました」
「意味が分からないな」
「はい、他に痕跡が何もなく、その長細いモノも物理的に死に繋がるようなものではないと」
「そうか。まあ、いい。とりあえず、魔法使い共の方に報告を回しておく。下手に首を突っ込んで頭から鬼に食われたくないからな」
「ええ、あんな恐怖体験はもう御免ですね」
二人は溜息をつきながら、残りの仕事に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます