第45話

今年の夏休み。


対魔省庁と対魔師局。縁眼家の関係者の未成年の退魔師達は忙しかったようだ。


鷹野家などの危険な退魔師の家との戦いに備えるために、彼等に実戦経験を積ませるためそれ相応に仕事をさせた。


普段、あまり顔合わせない者とも仕事を組ませたりして、若い退魔師同士の連携力も高めことにも繋がったようだ。


危険な退魔師の家と戦いに時には若い退魔師は参加させない方針だが。


向こうからの襲撃も考慮して、色々な組み合わせで仕事をさせたようだ。


ただ、事情を知らない若い退魔師達は、かなり大変だったようで、色々な場所から怨みの声が上がり。


俺は縁眼さんを通じて、お偉いさんと話し合い、彼等にしっかりとご褒美を上げた。


滅私奉公とか、やりがいのある仕事とか。そう言うのは今の学生は「知るかボケ!」だからな。才能や戦闘力が高ければ、それに応じて半強制で、仕事をさせられ、夏休みが潰れることになった。


ご褒美は彼等が使っている装備や道具をツーランク程高い物をそれなりの数と報償金。


今まで見習いと言うことで、レベルの低めの装備を使っていた彼等は喜んだ。

後は報償金だな。ボーナスなんて貰ったこと無いみたいなのでかなり喜んだそうだ。


一人前になれば、たまーに依頼主からあるようだけど。


それを見てベテラン勢が羨ましがっていたので、俺は遠眼さん経由で退魔師用の武具や道具を作っている家々に連絡を入れて、大量にベテラン勢用の武具と道具を購入。


危険な退魔師との戦いに協力してもらうことを条件に質の良い装備と道具を大量に俺が購入して配った。


最初はかなり警戒されていたが、事情を縁眼が説明したので、一応は納得したようだ。


それとこの装備と道具の配布したことは固く口止めをした。


縁眼家経由で装備と道具の配布をされていない家々は、公表されていないが、公的組織の対魔省庁と対魔師局の敵と言う意味でもある。


幸いなことに裏切りは出なかった。

贈り物を渡しに行ったついでに、小型と中型の戦闘ドローンを見せたことも理由だろう。


ただの一般的なドローンかと思ったら、魔力で強化された弾丸ばら蒔くことが出来たり。

柴犬サイズの犬型のドローンは装備によって、近・中・遠のどこでも集団で戦え。

半人形のアルケニータイプは少々大きいが。

四体一つのグループで運用されるので、対人戦の鍛練の比率の低い、並みの退魔師では太刀打ちできないだろう。


退魔師は基本的に人ではない化け物と戦うことを想定しているからな。


このまま、危険な退魔師を取り締まる。しばらくは人手不足になるが、若手を育てつつ、科学と魔法が組み合わさった技術者も増えれば大分マシになるだろう。


「まあ、だからこそ。このお誘いは彼女達へのお礼と言う意味で、受けるべきだな」


夏休みの最終日、昨日は危うく特殊な魔法使いの関係者と出会い。そこから騒動になるかもしれなかったが。


何も起こらなかった。

でも、やはり気になる出来事だ。


正直、たった今、スマホに連絡が来なければ、俺は一日中、警戒をしていただろう。


俺のスマホに連絡を入れてきてくれた人物は、そういう意味では安心できる相手だった。


「十日振りかな? 前回、俺の正体をさらっと教えて驚かせたけど、あの後かなり忙しくなったらしいからな」


連絡してきたのは嘉十鱗。その嘉十鱗と今一緒に居る霧崎環。


この二人は縁眼さんが拉致された時に、縁眼さんと一緒に仕事をしていた才能がある退魔師の少女だ。

縁眼さんの紹介もあって、婚約者候補として。夏休み前に二回ほど、夏休み中も忙しい合間に、三回ほど顔を合わせている。

ただ、会うことが出来ても、二人は忙しくて、一時間も会えなかった。

元々古い家と部活の大会。退魔師としての仕事。更に対魔省庁を中心とした、ヤバイ退魔師の家を潰す下準備。


結果として、才能ある彼女達も、ハードスケジュールになってしまったそうだ。


会えない理由の原因が自分にもあるので、今日の朝に連絡が来た時は申し訳ない気持ちになったな。


「えっと、場所は」


嘉十家が持っている海沿いの別荘ね。

あ、意外と近いな。


俺は直ぐに最低限の支度を終えると、鱗の家の迎えの車が来たので、それに乗って二人が待つ海沿いの別荘へ向かった。




――嘉十家の別荘。



開放的な大きな窓から入る日差しに照らされたリビングのソファに嘉十鱗は座りながら、ホッと安堵の息を吐いた。


「良かった~。来てくれるって」

「そ、そうか」


鱗の言葉に緊張気味に答えたのは、鱗よりも年上の少女の霧崎環だった。

二人は普段は、退魔師として活動している為、改良された学生服が多いが。


今日は夏らしい涼しげな私服だった。


環は普段通り長い髪をポニーテールにし、動きやすいシャツとパンツスタイル。

鱗は白いちょっとだけサイズが大きいワンピースだった。

普段は和装で肌を出さない二人だが、小夜子からの情報を貰い、一応はオタク趣味の武に合わせた格好だ。

最初はギャルっぽい服装にするかと悩んだが。性格的に無理だと二人とも判断した。


スマホでオタクはギャルも好き。という微妙な情報も仕入れてしまって、ちょっと武の女性の趣味を勘違いしている二人だったりする。


「頑張りましょうね。た環先輩」

「あ、ああ、ここが勝負どころだ。気合を入れねば」


二人が気合を入れる理由は、武が縁眼小夜子の拉致の時に見せた強大な力と、縁眼家からの人格がしっかりと人であるという評価。

二人は才能がある為、幼い頃から退魔師として活動しているが、将来自分達が普通の恋愛が出来ないとある程度は覚悟をしていた。


特に両親の世代は濃くなり過ぎた退魔師の血を薄める必要があった。

次の世代の自分達は薄まった血を濃くする必要がある。

なので、結婚相手は退魔師でもかなり強い相手が選ばれる予定だった。


だが、強い退魔師は人格が良くないことが多い。

そういう意味で、小夜子もだが将来自分の傍に居る男性に期待はしていなかった。


鱗は親族の男達の数名が研究者よりの人物達なので、人格破綻していたこともあり、鱗は一時期は男嫌いにもなりかけている。


武はそのつもりは無かったが、謎の忍者の紳士的な対応と、意外とアッサリと正体を二人に教えたことで、二人とその保護者達は武の婚約者になる方向で話が一致した。


元々、環は謎の忍者の強さを目撃している。

更に武の小夜子への優しい対応を見て、羨ましいとまで思っていた。


複数の女性とそういう関係を作ることに抵抗はあるが、子供の頃から父親の妾を見たことがあるので、忌避感は少なった。

寧ろ、小夜子の拉致された一件で、強い退魔師が少なくなればどうなるのか想像してしまい、かなり恥ずかしいが「自分も頑張って、子供を作らなければ」と真面目な性格で少し自分を追い込んでいるところがあった。


鱗は小夜子の拉致事件の時は、直接武と話してはいないが、武のヒドラを目撃しており、武との顔合わせの時にもサイズダウンをしたヒドラを見せてもらい。

自身の蛇の式神よりも遥かに強力なモノを使役している武を一人の術者として尊敬している。


「ようやく手に入れたチャンスをしっかりといかさないと!」

「そ、そうだな」

「小夜子先輩は水着姿を見せてないようですし。しっかりと覚えてもらいましょう!」

「わ、分かっている。小夜子とは元々差があったが、ここで少しは埋めないと婚約者候補ですらなくなるかもしれない」

「正体を教えてもらっているのでその辺は大丈夫だと思いますが。油断はできないですよね」


二人は武と出会う前から、ある程度は同世代の自分達の婚約者候補を教えてもらっていたが。

あまり良いとは言えなかった。


才能があっても人格が問題あったり。性格や容姿が良くても才能が無かったり。


退魔師の血を濃くし、戦えない人達を魔物から守る退魔師としては、かなり頭が痛い問題だった。

このままだと、才能があって人格に問題がある者と結婚。または種だけもらうことも検討していたようだ。


才能があり、人格に問題がある者は、過去に色々とやらかした事例があるので、出来れば種だけ貰うのも、出来れば避けたかった。

それを解決できる良縁が今二人の目の前にある。


「兎に角、準備は完了しています! 頑張りますよ! 環先輩!」

「わ、分かったから、そんなに大声を出さないでくれ。緊張してきた」

「迎えの車は事前に、武お兄さんの家の近くに待機していましたが、ここまで来るにはまだまだ、時間がかかりますよ。今からそんなに緊張していたら持ちませんよ」

「わ、分かっている。だが、ようやく会えるんだ。その、緊張するだろう」

「私も緊張はしますが、そこまでですか?」

「そ、それはそうだろう。ドラゴンスレイヤーだし。ヒドラを使役しているし」

「うーん、確かに凄い人ですけど、普通の人でしたよ? ちょっとぶっ飛んでいるところありますけど」


嘉十家だけでの顔合わせの時に、鱗の父親が「是非、ヒドラを見てみたいですね」と冗談を言ったら、即座にヒドラを呼び出した時などは本当に驚いた。

と言うか、大騒ぎになった。


「それに、いざと言う時は、男の人です。身体を使って謝れば許してくれますって」

「そ、それもどうなんだろうな。けど、そうだな。分かったよ」


こうして、環は落ち着きを取り戻し、鱗と共に武を待つことになった。

二人の夏休みの最後の日がこうして動き出した。




俺との結婚に乗り気で、霧崎さんも鱗も好意的に俺に接してくれている。自分に好意的に接してくれる人物で、美少女。


その二人が俺に夏休み最後の日に会いたいと連絡をくれた。

男として、かなり嬉しいね。忙しくて会えなかったから、色々心配していたからな。


こういう学生らしい、感覚はアンネ達にも感じている。


邪神討伐後は俺も含めて自爆の連続攻撃で魂がズタズタだったお陰で、自力で起き上がれるようになるまで、人形のように心が何も感じなかったからな。


ああ、本当にいつも無くしてから、俺はこういうことに気づくんだな。


俺はしばらく、懐かしい感覚に浸りながら、霧崎さんと鱗が待っている別荘に移動した。


結構広い敷地と質と品の良い嘉十家の別荘に到着した。


「久しぶり、霧崎さん、鱗」

「お久し振りです、武お兄さん」

「お久し振りです。武殿」


迎えの車から降りて、入り口まで運転手の人に案内されると、玄関で俺を霧崎さんと鱗が出迎えてくれた。

二人とも、和装の時とは違い、年齢らしい私服なんだけれど。


二人の私服ちょっとサイズが合っていなくないか?

霧崎さんのオレンジ色のシャツと短パンはワンサイズ小さいのか、胸と太ももがちょっとパツパツだし。

鱗の方は白いワンピースで、似合ってはいるんだけれど。

サイズがちょっと大きくて肩紐が少しずれているような? それと少し生地が薄くね?

時々、太陽の光の加減で下着が透けて見えるぞ。


「夏休み最後に、急に呼び出してごめんなさいね」

「気にするな」


二人に別荘の中へ招き入れられ、簡単に別荘の中を案内してもらう。


「家でダラダラしているよりはよっぽどいいからさ。誘ってくれてありがとうな」

「そう言ってくれると嬉しいです。武殿」


霧崎さんの言葉に俺が頷くと、鱗が俺に腕を掴んでこういう。


「じゃあ、さっそく海に行こうよ、武お兄さん」

「ああ、良いぞ」

「では、行きましょう」


俺は別荘のすぐ近くにあるプライベートビーチに、用意した水着に着替えて、移動した。

それと、案内してくれた若い女性の方は何故かメイドだった。クラシカルの方の。


嘉十家って日本の古い退魔師の家系だけど。割と西洋文化の方が好みなのか?

まあ、明治時代とかで西洋文化にハマって、錬金術や西洋魔術で地位を手に入れた退魔師の家もあるみたいだから。


いや、別荘の雰囲気に合わせてメイドの恰好なのかもしれないな。


縁眼さんの家の使用人? みたいな人達は和装だったし。





プライベートビーチに到着すると。

既にビーチパラソルやテーブル、ビーチチェア。それとクーラーボックスなどが、砂浜にセットされていた。


俺を案内してくれたメイドさんは「では、何かございましたら。このスイッチをお願いいたします」とだけ告げると、直ぐに下がって行った。呼び鈴の魔道具ね。スマホとかでも良いのでは? と思ったけど何も言わないことにした。


どつやら、使用人。と言うか、霧崎家と嘉十家は俺と霧崎さんと鱗の三人にさせたいらしい。


それに、俺があまり使用人に慣れていないことを察したのかもしれないな。

二人が来るまで、俺は「仲良くするのは良いが」どうしたものかと。考えることにした。


それから、数分。

パラソルの下のビーチチェアに座っていると、二人の気配がしたので、後ろを振り返る。


「武お兄さん!」

「た、武殿」


こっちに小走りで近づいてくる二人の水着は中々刺激的だった。


まず、鱗だが。

彼女の身に着けている水着は何故か旧スクール水着だった。

名前の部分にひらがなで『りん』と書かれている。それだけなら、オタク向けの水着で自分の性癖が露見していることに恥ずかしさを感じるだけだが。彼女は中等部なのにかなりの巨乳だ。


名前が部分が胸でかなり歪んでいる。


俺は目のやり場に困るので、内心苦笑いだ。

いや、良いモノ見れて嬉しいけれどね。


そして、鱗に手を引っ張られながら、胸元を恥ずかしそうに左手で隠しながら歩いてくる霧崎さんの着ている水着は、爽やかな雰囲気のライム色のビキニだった。


もう少しこう、スポーティーな水着かと思ったら、大胆だな。

大きさも、結構大きいし。


「お待たせしました。武お兄さん」

「お、お待たせしました」


二人はそう言うと、じっと俺の方を見詰めて、何かを期待しているようなので、俺は直ぐに二人にこう言った。


「二人とも、水着が凄く似合っているよ」


なんで、その水着にしたのかは、聞きたいけれど。今は止めておく。


俺の言葉を聞いて二人は嬉しそうにしていた。鱗は「良し!」って感じで、霧崎さんはホッとしているみたいだ。


「えーっと、じゃあ。どうする? 海に来たけれど、何をして遊ぼうか?」

「はーい、実は提案があります!」

「ん、なんだ?」


元気よく手を挙げる鱗はこう言った。


「泳ぎ方、教えてください!」

「え?」


先ずは、鱗に泳ぎを教えることからスタートした。

とは言え、鱗はまったく泳げないわけではなく。

潜水は出来るけれど、平泳ぎやクロールなどが出来ないという意味だった。


ちょっと申し訳なさそうな、霧崎さんが可愛かったな。


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