第43話



今年の夏休みは遊んでばかりいたわけではない。


夏休みの少し前から、縁眼さんから聞いた退魔師不足。

その退魔師不足を補うドローンの量産。


今回作った退魔用の戦闘ドローンを作るための基礎技術をまとめた資料の作成。


ドローンだけではなく、シャナ用に作った防犯用の戦闘スーツを退魔仕様に改良した、戦闘スーツの試作。

結果的にはアーシャさんが運用テストをすることになったので、スムーズに完成した。


技術者が育てば、退魔用のドローンと戦闘スーツを身に着けた退魔師や対魔師の職員が当たり前になるだろう。

コストはそれなりに掛かるが、今まで以上に戦闘効率は上がるはずだ。


それと、ドローンやスーツが出来ても、今までの退魔師達が身に着けていた装備品が無くなると言うわけではない。


例えば、退魔師用の刀などの古くからある武器は、退魔師が何年も鍛錬しないと使いこなせない。

個人の努力と才能が必要だ。でも、使いこなせるようにあれば、俺が提供するドローンや戦闘スーツよりも強力になるだろう。


作ったドローンと戦闘スーツはこの世界では量産できる物としてはかなりの性能を持っている。

だが、達人レベルの性能があるか? と問われれば無いと答える。


量産型の武装か、達人と高級な装備品。どちらが良いのかと問われてしまうと、邪神と戦った俺個人は高級品を選ぶな。


ま、少なくても邪神の眷属クラスの化け物が出てこない限りは、先ずは数を選ぶべきだろう。



退魔師が不足していたのは、元々の実戦レベルの退魔師の数が少ないことと、少ないのにやることが多くて若い退魔師を育てる時間が無かったことなどだろう。

日本はどうやら妖怪・魔物の強さが世界全体で見た場合、平均より上らしい。

ベテランでも、一度に複数殉職することが時折起こるらしい。


ベテランが亡くなれば、穴埋めをする為に若い退魔師を実戦に出す必要が出てくることも多い。

悪循環が続く。


だが、これからは違う。あちらの世界で学んだ、ゴーレム技術とSF系の世界から来た勇者達から教えてもらった技術を融合したドローンを作った。

日本の退魔師不足は少しずつ改善されるだろう。


それと生身の人間も必要だ。人手不足が緩和されれば、必然的に退魔師一人一人の時間が増える。


手の空いた退魔師が、若い世代の教育に時間を使えるようになるはずだ。

と言うか、徳守大臣に「教育機関を改革した方がいい」と既に提案しているのでやってくれるだろう。


大臣達には、かなり強力な戦闘ドローンを作って送ったから、バリバリ仕事をしてくれるはずだ。


それと、勢いでアルケニータイプのゴーレムを新しく作ってしまった。夏休みの工作感覚だったが、性能はしっかりとしている。


六つの足装備によっては八つの足を持ち、四本の腕で盾や重火器を持つ退魔用の戦闘ドローン。

販売する場合はお値段は高くなるが、二十体くらいを退魔省庁と退魔師局にそれぞれプレゼントしよう。

修理や追加でほしいならキッチリ金をもらうが。そうそう壊れないだろう。


しっかし、裏世界と日本の退魔師の名家が深く繋がっているのはマズいな。

情報を集めてちょっと引いたよ。


やってることが、かなり黒い。

いや、俺は邪神との戦いでグロいことに慣れているから、実際は物凄く黒いと言うべきなのかな?

人体実験とか割と普通だったから。


そういうことも踏まえて、国の機関である対魔省庁と対魔師局には強くなってもらわないと。

とは言え、この二つの組織は日本政府の隠された組織なので、大っぴらに予算を配分できないらしい。


そういう理由で、退魔省庁と対魔師局からの追加販売などは金銭ではなく、情報など別な形で支払ってもらうことにした。


「ドローンを使う人達への説明と鍛錬はそれなりにしたから後は問題ないだろう」


正直、ここ最近は影分身で魔法犯罪組織を潰してばかりだったから、ちょっと気疲れをしている。


夏休みらしいことも結構やったけれど、少し働き過ぎたか?


生産系スキルの熟練度の伸びは良くないが、結構何かを作るのは好きなんだよな。

でも、ちょっとやりすぎたか? うん、人の感覚が戻ってきたと考えればこの疲れも悪くはない。


「さて、今日は何をしようか?」


こうして、今日も一日が過ぎていく。

邪神との戦いでは味わうことが出来なかった、穏やかな一日が。






「あの小娘があああぁぁぁぁっっ!!!!! なあぁにがドローンだあぁっ!!!!! ふざけおってえええええぇぇぇっっ!!!!」


鷹野家の当主。鷹野真二郎は山奥にある自身の研究室で何度も拳を机に叩きつけながら、縁眼小夜子への恨みを吐き出していた。

何度も荒い呼吸をしながら、鷹野真二郎の表情が醜く歪む。


「あの忍者が現れてから、流れが変わった。様子を見ていたが、これ以上はまずい」


騒ぐことで心がある程度落ち着いた鷹野真二郎は、考えを巡らせる。


砂霧家は忍者を怪しんでいる。だが、それだけだ。いざと言う時に一緒には戦えないだろう。

寧ろ、忍者を容認する理由が出来た瞬間に敵になる。


加具家と水海家は忍者と縁眼家寄り。

ドローンが本物なら、尻尾を振ることも厭わないだろう。


大山家、水鳥家、藤家の三家もまた、縁眼家寄りだ。


「縁眼家め、忍者を見つけた時から、手を回していたな」


怒りをこらえるように鷹野真二郎はギリギリと歯を食いしばる。


「……もしや、最初から我が家を潰すために?」


ふと思いたったことを口に出して、鷹野真二郎は背中に冷や汗が噴き出てくる。

となると、次は。


「御当主様」

「――っ、なんだ?!」


部屋の扉の向こうから、秘書からの声に返答する。


「湖山昌様からの定期連絡が途絶えたと報告が」

「――っ!?」


湖山昌は鷹野家の口には出せない人体実験をしていた研究者だ。


人嫌いで急な連絡されることを嫌う。

だが、定期連絡だけはしっかりと行っていた。


それが自分自身の安全に繋がることを湖山昌は理解してた。


自分の行っている外道な研究が、世間ではどのように思われるのか、理解しているからだ。


「やはり、関東の主な家はもう駄目だろう」


今の状況では、関東の退魔師の家を味方に付けるのは難しい。特に自分の家が魔法犯罪者とドップリ浸かっていることは周知の事実だ。


他にも似たような家はある。一応はそこを此方につくように工作はするが、反撃する時に、どれだけ残っているか。


縁眼家と退魔省庁や退魔師局が退魔師の掃除を始めるのであれば、制御できない鷹野家は当然のことだが、潰すだろう。

そして、他の似たような家も。


「このまま無抵抗で終わると思うなよ」


やりたくはない。だが、やらねばならない。

関東が駄目なら、関西の自分と同じように縁眼家にとって邪魔な家と協力するしかない。


関東にある対魔省庁と対魔師局を関西の退魔師の家々は見下している。


「情報を告げても、奴等がどれだけやる気になるか、不安ではあるが」


関西の退魔師は人間は信用できない。だが、今は少しでも此方には数が欲しい。


「時間は無い。即座に動かなければ」


追い詰められた、鷹野真二郎は動き出す。


関東と関西の退魔師の家は仲が悪い。

それ故に、縁眼家も関西の退魔師の家を味方に付けるのは難しいと鷹野真二郎は考えた。


その考えは間違ってはいなかった。

この時点では、縁眼家は関西の名のある退魔師の家々を味方につけることが出来ていなかった。


ドローンなどの見返りがあったとしても、関西と関東の長年の溝は埋まらなかったのだ。


「どの家から、声をかけるべきか」


鷹野真二郎は、冷静に声をかける家を選定することにした。


こうして、世間では知られることの無い。


激しい戦いが、静に始まった。

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