第41話



・美浦サマータイムランド



いきなりだが、今の俺の肉体について少し話しておこう。勇者になる前の俺の肉体は平均的な身体。

運動部で身体を動かしていたわけではない。けれど、貧弱かと問われれば違うと答えるくらいには鍛えていた。


今現在の俺の肉体はかなりムキムキだ。もちろん、軍人みたいなムキムキではない。

勇者としての能力のお陰で肉体には傷一つ無いので、アスリートのように見えるだろう。


それと顔立ちも勇者のチート能力のレベルアップの恩恵で魅力のステータスが上がっているので、割と良くなっている。

中学時代の顔と比較すると「え、整形した?」と言われそうなレベルで顔立ち変わっている。

まあ、中学一年の時の写真と比較すれば、身体が大きくなったからだ。と言い分けは出来そうだけれど。


何故、いきなりそんな話をするかと言うと。


「良かったら、遊ばない?」

「すみません。ツレと来ているので」

「あら、残念」


人生初の逆ナンをされた。大学生くらいのかなり大人びた女性に熱心に話しかけられて、俺は念のために鑑定スキルで調べた。

魔法関係者だと厄介だからな。


で、彼女のステータスの称号には【年下好き】とか【ショタコン】とか表示されているのでちょっと困ることになった。

ショタではなく、年下の部分で逆ナンされたのだろう。


それから女性と少し話をして、女性は残念そうに去っていた。


「良かったら、連絡してね」


去り際にちょっと強引にメモを渡されて、俺は苦笑いだ。せっかくだから貰っておこうかと思ったら。


「先輩、嬉しそうですね」

「遅かったな」



今日遊びに来た、美浦サマータイムランド待ち合わせのプール施設の広場で待っていた俺に話しかけてきたのは、青いビキニの水着の麻山だった。


当人はちょっと背伸びしました。と言っていたが、似合っているな。名前は分からないが、綺麗な花のプリントもいい感じだな。


「先輩」

「捨てるから、そんな顔をするな」


俺は広場の燃えるゴミに貰ったメモを捨てた。初めての逆ナンだから、記念に欲しかったが。まあ、いいだろう。


「さっきのお姉さん、綺麗でしたね」


ぷくーっと、膨れっ面になる麻山。


俺はしょうがないな。と言いながら、御機嫌取りの為に麻山の手を握って歩き出す。


「行こうぜ、麻山。埋め合わせ頑張るから」

「う、わ、分かりましたよ」

「色々な種類のプールがあるから、一つずつ楽しもう」

「はーい、もう仕方が無いですね」


そう言って、麻山は俺の左腕を抱きしめてくる。

うん、控えめだけどやっぱり女の子の身体だな。


「じゃあ、どのプールから遊んでみる?」

「そうですね」


俺はチラッと広場の置かれているこのプール施設の地図を見る。

大雑把だが直ぐに地図を記憶する。


「じゃあ、最初は国内最大級のロングウォータースライダーでも行くか?」

「い、いきなりハード過ぎますよ!!」


それから少し話をして、俺と麻山は、まずは流れるプールでゆっくりと水遊びを楽しむことにした。



広いプールに来ると思い切り泳ぎたくならないか? と麻山に問いかけると、「それは無いですね」と言われた。

水泳部に入ったくらいだから、泳ぐのが好きだと思ったが、そう言うわけではないらしい。


「水泳は水泳として好きですけど、こういう場所に来てまでいかに速く泳げるかとか考えないですね」

「ま、それもそうか」

「はい」


麻山と腕を組みながら歩いていると周りからやはりと言うか視線を感じた。

麻山は生意気そうな後輩系美少女だ。視線を集めるのはしょうがないなとは思っていたら、俺にも視線が飛んでくる。


「ねぇ、あの人。凄い筋肉だね」

「凄い強そう。あの腹筋とか触らせてもらえないかな」


耳を澄ませて、声を拾うと俺を見ていた男女は概ね俺の身体を見て強そうだと感じたらしい。


「武先輩、目立ってますね」

「はは、今日は必要ないと思って魔法を使ってないからな」


認識阻害や俺を見にくくするような魔法は使う必要もないと思っていたんだけれど、身体が原因で注目を集めるとかちょっと驚く。

でもそうか、肉体を鍛えるのは現代だと一般的な感覚だとスポーツ選手とかが多いもんな。

腹筋が割れているとか珍しく思うんだな。


「流れるプールでのんびりし次はちょっと変わったプール行くか?」

「そうですね。あ、この水鉄砲のゲームが出来るエリアがありますね」

「ああ、何かゲームとお笑い番組がコラボしているエリアだな」


射的の水鉄砲版だな。

かなり質の高い水鉄砲を使っているので、しっかりと打てるらしい。


で、プールの上に細い浮島があって、的がいくつかあり、それを時間内に水鉄砲で全部当てるのがルールなんだけど。

当然的を狙う参加者をプールに落として失格にする妨害がある。


お笑い芸人のように強めではないが、機械で打ち出されたボールが飛んでくる。

ボールは柔らかいモノに変更されているようだな。これなら、子供でも大丈夫そうだ。


「えっと十個全ての的を当てると豪華賞品がって」

「へー、ゲームやお笑い芸人達のファンなら喜ぶな」


ゲームのオリジナルグッズとか芸人達のサイン色紙とかあるな。


「でも、このゲームって結構簡単なのでは? お笑い番組でこのゲーム見たことありますけど、ボールが柔らかいなら当たってもプールに落ちそうにないと思いますが」

「いや、そうでもないぞ」


ああ、話している間に辿り着いたな。


「良く見てみろ」

「はい、ええっと、あら、直ぐに落ちた」

「うん、今の子はまだ小さいからな。仕方が無いかもしれないが。プールに浮かぶ足場は大人だとちょっと幅が狭いな」


子供だと行けると思うが。


「そうなんですか?」

「ああ、足元が狭いな。と感じている時にバランスを崩すとどうしても焦るだろうな」


足場が広いなら、別にいい。だが狭いと感じるとどうしても変な気を遣う。足を置く場所とかな。それにスタッフが的確に落としにくるな。程よくボールを当てたり外したりして上手いな。


的を二つ当てると妨害が増えるのだが、ボールを発射するスタッフの連携が上手だ。


うん、都市防衛のバリスタ部隊でやっていけるかもな。

あえて当てないで、スリルで客を楽しませてから、惜しいところで客をプールで落とす。


うん、スタッフとしての技量は高いみたいだ。


「やってみるか?」

「あははは、うーん。武先輩に頼みます!」


ま、そうだな。身体を張るゲームだし。いっちょ頑張りますかな。





『さぁ! 次の挑戦者です!』


マイクを持ったスタッフさん。どうやら女性お笑い芸人の二人組らしい。


『いやー、良い身体してますねー!』

『ちょっ、何興奮してんですか、止めなさい! 若い子にいやらしい手で触ろうとするな!』

「あははは」


ちょっとやせ型の女芸人が司会をしながら、俺に近づき。

ちょっとぽっちゃりとした女芸人が俺に近づき、しゃがんで腹筋を舐めまわすように見つめてくる。俺は思わず笑ってしまう。


『いい笑顔ですね! ちょっと腹筋舐めても?』

『止めなさい! 警察に通報されますよ』


軽快なやり取りに俺も見物人たちも笑ってしまう。


『お名前をお伺いしても?』

「武です」


司会のやせ型の女芸人さんの問いに答えるとぽっちゃり女芸人がすかさず聞いてきた。


『ご趣味は?』

『怖いって! やめぃ! 何焦ってんだよ』

『いやー、そろそろ婚活を』

『年齢的に遅いよ!』


おっかしいな。あっちではこういうエンターテイメントは、無いから新鮮だ。


『もう、次がいるから進めるよ。武君、目標はいくつですか?』

「パーフェクトで」

『『おおっ』』


俺の即答に女芸人だけではなく、ギャラリーからも「おおっ」と声が上がった。


『では、頑張ってください!』

『応援してますよ!』


俺は手を挙げて、プールの端から足場の浮島に降り立った。

そして、カウントダウンの後にゲーム開始のブザーが鳴った。


意外と的との距離があるな。けど、この水鉄砲専用に作られているからパワーもあるし大丈夫だな。


そう考えている間に妨害をするスタッフ達が機械にバレーボールサイズのソフトなボールを入れて、俺へボールを発射してくる。


「よっ、ほっ」


俺はスタッフが二つのボールを最小限の動きで回避すると的へ向かって水鉄砲を発射した。


『おおっ、華麗にボールを回避して、まずは一つ目!』

『うわっ、分かっていたけれど、あの子の下半身の安定感凄すぎ』

『え、そんなに凄いの?』


司会の細身の女芸人がぽっちゃり女芸人が力強く頷く。後で知ったがぽっちゃり女芸人は元アスリートらしい。


おっと、また来たな。一人目が牽制球の後に二人目のスタッフが装填担当のスタッフがボールを二連続でボールを撃ってきたな。


だが、悪いな、見えるぞ。


『足場の悪い浮島であれだけ動くのってバランス感覚と足元を踏ん張る為の強い足腰が必要なんだけどって、また上手く避けた!』

『ほぁっ! 今の二連続を滑るように回避しながら的に当ててる! あっと、ここで二枚的に当てたので妨害スタッフの追加です!』


最大で四人の妨害スタッフが出て来るとかルールが掛かれた看板に書かれていたな。

それと当てた的が増えると発射されるボールのパワーが増えるとも書いてたな。

中学生まではそう言う妨害の難易度アップが無いけれど、高校生だからな。


遠慮なく来るだろう。

ほら来た。


『おおっと三方同時発射です!』

『あれウチのスタッフだから絶妙に回避できない位置を狙ってくるから、いやらしいなぁ!』


司会の女芸とぽっちゃり女芸人の言葉を聞きながら、俺は細長い浮島の上でちょっとだけ思考加速をする。


あまり派手にやると後々面倒だから、俺は水鉄砲を持つ右手を庇うように左手で一番最初のボールを弾いて、そのまま回避する。


『おおっ! ソフトな素材のボールとは言え結構パワーがあるのに弾きましたよ!』

『痛そうな音したけど、大丈夫かな? あ、大丈夫そうですね』


俺はボールを回避して、体勢を立て直すと冷静に水鉄砲で的を連続で当てていく。

すると六枚目の的を当てたところで四人目のボールを発射する妨害スタッフが参加する。


だが、遅い。俺は細長い浮島を走りながら入り口付近から中央へ移動。的をバンバン当てていく。


『うおぉっ! 武君が走り出した! 一歩間違えればプールに落ちて失格になるのに凄い度胸だ!』

『ってか、的に当てるのがうめぇなっ!』


女芸人達とギャラリーも盛り上げる。

妨害スタッフも慌ててボールを発射し始める。先ほどまでの連携が乱れたな。


飛んでくるボールに隙が生まれた。

俺はタイミングを見て腕で弾くことが出来るボールはバチン、バチンと弾き飛ばして、的に水鉄砲の水を当てる。


『うわあぁっ! マジか! イベントが始まって初の八枚目の的を撃ちぬいた! ここからは芸人難易度に突入! ボールを投げるスタッフも登場だ!!』


え、マジで!? ちょっ、割と身体を鍛えている男性スタッフ四名が俺にボールを投げてくる。

ヤバいな。機械の威力がある一撃と何時投げてくるか分からない投球。


あまりチートスキルは使いたくないけど。どうするかな。と考えていたのが悪かった。

ダメージはないが連続で被弾した。


「っ!?」

『ああっと、避けそこなったところを容赦なくスタッフがボールキャノンで追撃! 膝を付いたところでスタッフの総攻撃だ!』

『素人相手に容赦ないな、ウチのスタッフ』


ちっ、仕方が無い。この辺りでリタイアを。

何とか回避して体勢を立て直そうか迷ったところで、声が聞こえた。


「武先輩! がんばれ!!」


盛り上がるギャラリーの歓声よりも大きな麻山の応援に俺は思わず笑ってしまった。

ちょっとだけ良いところを見せるか。


俺の正面から飛んでくる芸人用のパワーで打ち出されたボールを俺は左腕で真上に打ち上げる。


そして、距離はギリギリだが、中央から右手側にある残り二つの的の一つに狙いを定めて水鉄砲を発射。

小さい子供のおもちゃのようなちゃちな威力ではない。しっかりとした水のビームというと大げさかもしれないが。

水鉄砲の球はしっかりと的に当たった。


『凄いぞ! ギリギリの距離だが的に当てた!!』

『ボールが飛んでくる状態で冷静にボールを弾いたよ、あの子!』


スタッフ達が危機感を持って連続でボールを投げつけてくる。

俺はそれを無視して、中央から最後の的に水鉄砲が当てられる位置へと走る。もちろん進路を妨害するためにスタッフ達が妨害してくるが。


『すごい、昔遊んだアクションゲームみたいな動き!!』

『あの浮島の上で良く飛び跳ねられるなぁ』


そして、俺が最後の的を撃とうと思った位置にスタッフ達が一斉攻撃してきた。

なので急ブレーキでボールをやり過ごしてから、冷静に最後の的を水鉄砲の水をビューっと的に当てた。


『しゅーりょーっ!』

『すげぇっ! 最後の一斉攻撃、足場の浮島は濡れて滑るのに、急ブレーキかけてバランス崩さずに止まったちゃったよあの子!』


俺は盛り上がるギャラリーに水鉄砲を掲げながら答えて、俺はゴールへと移動。

そして、ステージの裏を回ってクリア者として女芸人二人からインタビューを受けた。


『スーパープレイでしたね』

「頑張りました」

『最後の方、すごい頑張ってましたけど、あそこにいる青い水着の子はお知り合い?』

「はい、今日、一緒に来ました」

『彼女持ちかよ!』

『お前、狙ってたのかよ!』


ぽっちゃり恩芸人が大げさに嘆くと司会の女芸人が突っ込みを入れた。


『え、付き合ってどれくらい?』とか『どこまでいっているの?』とか聞かれたが、内緒です。とだけ答えた。


次の挑戦者と交代して、俺はイベントスタッフからパーフェクトの賞品をどれにするか問われて、ゲームオリジナルグッズセットを選んだ。


グッズセットはTシャツなどが入った専用の袋で、郵送してくれるというので郵送してもらった。

後日、麻山と中身を確認することにした。



「先輩、かっこよかったですよ」

「頑張ったかいがあったよ。次はどこ行く?」


俺の問いに麻山がうーん。と考えていると、俺達は声をかけられた。


「あのちょっと良いですか?」


俺達が声をした方へ視線を向けると、そこに立っていたのは白いワンピースタイプのクール系の美少女だった。

年齢は俺達とあまり変わらなさそうだ。彼女の隣には大人しそうな雰囲気の青年がいた。彼の年齢も俺達と同じくらいか。


「あの第二中だった麻山さんですよね?」

「え、はい。そうですけど……? あっ」


声をかけられて誰だろう? と麻山は思ったのだろう。


麻山の名前を呼んでいたので、麻山の知り合いだとは思ったけれど、思い出すまでに時間がかかったということはあまり面識がない?


「えっと、私は桜坂中の笹川椎名です。隣に居るのは」

「四島拓哉です。俺はただのつきそいですので」

「桜宮武だ。麻山の先輩だ」

「えっと四島さんですね。麻山美波です。えっと」


自己紹介をされたので、俺も名乗っておく。

麻山が笹川を視線を送ると笹川が一歩麻山に近づく。


「何故、夏の大会に出なかったの?」

「……それは」


その一言で、俺は麻山と笹川さんの関係がなんとなく分かった。麻山が一瞬俺を見た。


「ごめん、私水泳止めたの」

「なんで!?」


驚く笹川に麻山が部活を辞めた経緯を説明していく。大雑把にだけどね。


「なにそれ、部活内の人間関係が原因って」

「ま、腹が立つけどね。それでも、大事になる前に辞めて正解だったと思っているよ」

「……そんなことになるなら、私の学校に来ればよかったじゃない」

「水泳は好きだけど、プロアスリートになるつもりは無かったから」



その言葉に笹川さんの眉を顰める。

恐らくだけど、笹川さんは麻山のライバルだったんだろう。


同じ学年だから、高校最初の夏の大会でライバルに勝つつもりだったのかもしれない。

けど、麻山は水泳を辞めたからな。

とは言え、笹川さんからしてみれば、納得できないだろう。どれだけライバル視をしていたのかは知らないが。

不完全燃焼は遺恨を残すかもしれない。なので、俺は口を出すことにした。


「なあ、麻山」

「なんですか、武先輩」

「俺、麻山のカッコいいところ見てみたいな」

「「え?」」


俺の言葉に麻山と笹川さんは困惑した表情をしていた。

笹川さんの連れの四島君はちょっと意外そうな表情をしたいた。





「それじゃあ、ルールは早くプールを往復して戻ってきた方の勝ちの単純ルール」


俺の言葉に頷く麻山と笹川さん。

あの後、俺達はあまり人気が無い一般的なプールへとやって来た。


俺の提案に麻山は少し渋ったけれど、笹川さんがやりたいと言ったことと、「どんな形でも決着付けた方がいいと思うぞ」と俺が言うと、「武先輩にはカッコいいところを見せてもらいましたからね」と納得したようだ。


「それじゃあ、位置について」


俺の号令と共に麻山と笹川さんの二人が位置に着く。

飛び込み台に乗り、「スタート!」の合図で二人はスタートした。

あまり人気はないプールだが、一定数競争する奴らが居るのだろう。

ちゃんとスタッフの監視委員もいるので安心だ。


「ありがとうございます。桜宮さん」

「ん、ああ、気にしないで、麻山にもメリットになりえるからさ」


大人しい雰囲気の青年はやはり笹川さんの彼氏らしい。


「しーちゃん、ずっと麻山さんのことを口にしていましたから、良かったです」

「それなら、提案して良かった。こういうのってお互いに後を引く場合があるからさ」


思った以上の速度で泳いでいく麻山と笹川さん。

水泳は全然知らないが、かなり早いんだな。麻山って。


「ところで、その」

「ん?」

「桜宮さんは何かスポーツを?」

「いや、古武術的なモノだ。知り合いに武術家が居てな。それの相手をしている」

「武術家ですか」

「ああ、大会とか出ない文化方面のな」

「凄いですね。僕もやっぱり何かした方がいいのかな」


四島君は二人の泳ぎを観戦しながら、そんなことを呟く。

ふむ、あまり鍛えてないみたいだからな。ひ弱に見えるけど、普通だろう。


「殴れば言うことを聞くだろうと考える奴は一定数居る。そんな連中から身を守ったり、警察に駆け込むために身体は鍛えておいた方がいいぞ」

「えっと逃げる?」

「実家が政治家とかなら、権力で黙らせられるだろうが、そうでないなら、素直に警察に通報して。駄目ならネットに情報を流して助けを求めろ」


おっと、二人とも折り返しだな。


「頑張れ!!」

「っ、頑張れ!! しーちゃん!!」


四島君は何か言いたそうだったが、応援することにしたようだ。


かなりのデッドヒートだな。ただ、やはり麻山が不利か。

そして、何事もなく最初にゴールしたのは笹川さんだった。

ちょっと遅れて麻山がゴールして負けたのを確認すると、笹川さんと何か話をして、二人ともちょっとすっきりした表情でプールから上がってきた。


「少しはすっきりしたか?」


俺の問いに二人とも頷いた。

そうか、良かったよ。と俺は内心安堵した。

あちらの世界では未練を残さないように生きていた。生きる必要があった。

邪神の眷属が現れ始めてから、次の瞬間には都市ごと吹き飛ばされる可能性もあった。


「ありがとうございました。桜宮先輩」

「気にすんな。麻山の為にもなったらしいからな」

「はい」


麻山がどんな思いで水泳をしていたのか、俺にはちゃんと理解できないだろう。

だからこそ、お節介でもこういうことをした方がいいと思ったが。

迷惑でないなら良かったよ。


それから、俺達四人は食事ができるエリアで四人で昼食を取った。

食べ終えた後、少し雑談して別れたのだが。


「これ、私の連絡先」

「いいの?」

「うん、もっと話がしたいから」


笹川さんから、連絡先を教えてもらって麻山は嬉しそうにしていた。

実は俺も四島君と連絡先を交換した。俺が少し荒事用の鍛錬の仕方を教えたら、もっと教えてほしいと言われた。


後、麻山と笹川さんの間に何かあった時の相談出来るから。と言う理由もある。


「再会できて良かったな」

「はい」


少し余韻に浸る麻山に俺は少し間をおいて提案した。


「じゃあ、そろそろウォータースライダーに行ってみるか」

「えっ、本気ですか?!」

「ああ、せっかくだ一度くらいは行ってみよう」


怖がる麻山と共に国内最大級の長さを誇るウォータースライダーに挑戦した。








「武先輩の方が叫んでましたね」

「――ぐぬぬっ!」


うん、いや、マジで怖かった。情けないけど、滑り終えた後、麻山の傍でちょっと震えてしまったよ。

超高速で空を飛びまわったり、急降下したりしたことはかなりの数こなしたけど、自分が操れない状態で高速で身体が滑っていく感覚ってすげぇ怖かった。


ああ、良い教訓になったよ。マジで。


「可愛かったですよ、武せ~んぱい」

「っ」


俺は照れ隠しで麻山から顔をそむけた。


こうして、俺と麻山は学生らしいプールデートを終えた。


次は縁眼さんとのデートだけど、上手く行く良いな。頑張って縁眼さんを楽しませたいな。

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