第38話
日本に侵入した反社会的魔法組織も全力で潰して回ったお陰でようやく平和な日常が戻ってきた。
と言うわけで、さっそくアンネと夏の大型イベントの前に行われたアニソンのライブイベントに参加した。
アンネが王族名義で今回の音楽イベントに資金援助をしたらしく、アニソンのライブイベントに参加出来たのだが、関係者席のVIP席でアンネのテンションが駄々下がりだったのが印象的だった。
アンネは一般席の最前列で周りとワイワイとライブイベントに参加することを想定していたようだが。
結構な額の資金援助をしてくれた王族を一般席に送り込む訳が無い。
アンネの立場を考えればいくら世界的にも最大規模になりつつあるアニソンのライブイベントだろうと。
警備のことを考えればVIP席に送り込むのは当然だろう。
まあ、当人はライブでは消化不良で不満そうにしていたので、ライブの休憩時間に鑑定でライブを見に来ていた新人声優さんなどに、俺がアンネを連れて話しかけて交流などをした。
途中でアニソン歌手の数名とアンネが話す機会があり、猫かぶり全開で王族らしく振舞っていたのは内心笑った。
それと後日、ライブの中心のアニソン歌手と声優さんのサインまで貰ってアンネは狂喜乱舞していた。
デートと言うよりは、護衛の仕事に近かったな。それはアンネも同じだったようで、この後控えている夏と冬に開催される大型オタクイベントでは、普通に参加したいと言っていたので、アンネが所有している魔法道具で姿を変えて一般人として参加することになった。
俺には効果が無いが、少なくとも一般人にはアンネの本来の姿は見えないだろう。
「うーん、とりあえず、夏だから動きやすい服装で行くか。それとリュックも新しく買いに行くか。あまりゴテゴテしていると他の参加者に引っ掛かってしまうからシンプルなモノを」
飲み物とかちょっと食べ物。夏場だからどうするか。ゼリー飲料だけだと味気ないし。
それとアンネが行きたいところを優先だけれど、俺も一応見てまわりたいところが無いか調べてみるかな。
「っと、通話? ああ、スーか」
『あ、聞こえた。半創造主か? 潰した【銀の盃】の残党と復活したボスはキッチリと消滅させたよ』
「そうか、強かったか?」
『伝説の聖杯とやらを模した魔導具だよな。良く知らないが、強いか弱いかで言えば強かった。まあ、ボスの復活に使用したから直接的な脅威にはならなかったよ』
それもそうか、攻撃に向けられていたのなら、スーも苦戦したかもしれないが。
スーが殺した【銀の盃】のボスが復活した直後に襲撃したようだから、殆ど一方的な展開だったのだろう。
『それとこの聖杯とやらはどうする?』
「持って帰ってきてくれ。こちらで消滅させるから。それと研究データも渡したマジックバックに全部入れてくれ」
『分かった』
さて、残党狩りは組織があった国の政府にやらせるかな。
各国の政府の内部の裏切り者も証拠を提示した上でこっちで処分しているから、残党狩りもやりやすいだろう。
まあ、気に食わない。と雰囲気で分かってはいるが。
俺と敵対したら大損害を受けるのも分かっているので大人しく協力をしてくれたのは感謝かな。
まあ、自国にとんでもない戦闘力を持っている忍者軍団が入り込んで、政府の中心メンバーに「今から反社会的魔法組織を潰すけど。その前にお前のところにいる裏切り者を潰すけど文句は無いな?」と言われたら誰だって気分は良くないか。
強引にした方が手早く始末できたので良しとするか。
それと手伝ってくれた政府の人間にアフターケアもしておこう。
こういうのを手を抜くと後ろから刺しに来ることもあるし。
「あ、渡した金で観光してきてもいいぞ。ご褒美だと思ってくれれば、スペインなら海鮮料理が美味いじゃないか?」
『ここは内陸だからな、海鮮料理は食べられるのだろうか?』
「ああ、なら数日ゆっくりと観光をしていいぞ」
『分かった。楽しませてもらおう」
「くれぐれも正体が露見しないようにな」
『その辺は大丈夫だ』
通話を切って、俺はミノとダンティにもメッセージを入れておく。
向こうも手筈通り、組織を叩き潰し、残党狩りも終わった頃だろう。
夏休みも残り半分ほど、残りは平和に楽しませてもらおう。
☆
夏の大型イベント。
三日間にも及ぶこのイベントは世界的にも有名だ。
アンネは最初三日間連続で参加する予定だったが、王族としての仕事があるので三日目。最終日だけに参加することになった。
三日目に参加すると聞いて、「あれ、今アンネ何歳だ?」と思わず素で聞きそうになった。いや、本当に危なかったよ。
男勇者達は過去に女性に年齢や体重絡みで痛い目を見ているのでソレが生きた感じだ。
「重要な記憶じゃないから修復しなかったか、それとも改めて消されたのか分からないけれど。心から震えがくるということはかなりの出来事だったんだろうなぁ」
勇者で邪神に自爆特攻を仕掛けた俺が震えるって、何されたんだろうか。
思い出したいような、このまま思い出せなくていいような。複雑な気分だ。
「そういや、アンネって吸血鬼だよな。夏のイベントの長蛇の待機列での待ち時間平気なのかな?」
ちょっと心配になってきた。
そして、イベント当日。
十数万人が参加するイベントの待機列ができ始める時刻に俺は事前に転移魔法のマーキングを終えていたのでサクッと転移魔法で移動。アンネは近くのホテルでアメリアさんと一般人として宿泊し、俺と合流した。
ちなみに、アメリアさんは今日オフらしいので、このイベントに一般参加するらしい。
ちゃんと護衛も遠くに居るようだし、問題ないのだろう。
「大丈夫か?」
「大丈夫よ」
動きやすさを重視しながらも可愛いデザインのシャツとジーンズ。パンツスタイルと言えばいいのか?
まあ、ボーイッシュな印象を受ける私服でアンネは来た。
この時、まだ分かれる前だったアメリアさんがアンネに一言「可愛いけど、色気ないよね」とその言葉に思わず笑ってしまうとアンネが慌てて着替えてこようとしたので必死に止めることになった。
アメリアさんはさっさとに行ってしまったので俺は一人でアンネのフォローをすることになってしまった。
後日、普通の学生デートをすることで、大人しくしてもらったが。
……もしかして、アメリアさんこれが狙いだったのか?
「そう言えば、日差しは大丈夫なのか?」
「日焼け止めを塗っているから大丈夫よ」
比較的、前の方の待機列に並びながら、俺はアンネに気になっていたことを聞いたが、日焼け止めか。
「そうか」
「日焼け止め無くても平気だけど、普通に日差しが強いからね」
小声で俺に教えてくれるアンネに俺は頷く。
下級の力の弱い吸血鬼などはかなり日差しに弱いらしいが、今は専用の日焼け止めが生産と販売されているので日中の活動には困らないようだ。
魔力で身体、皮膚を強化しないのか? と聞くと「体力が続かないと」と言われた。
まあ、それもそうか。魔力も使えば使った分だけ疲労する。
俺も勇者として呼び出されたころは魔力が少なく、訓練や戦いの後は夕飯食べる前には気を失うように寝ていたこともあったな。
「そう言えば、日本だとセクシーな薄い本買えないのよね?」
「まあ、イタリアよりは厳しいな」
「残念だわ」
俺は苦笑いを浮かべるとアンネは直ぐに「まあ、良いわ」と呟く。
「良いわって、何がだ?」
「既に矢は放っているのよ」
「ん?」
「隣の列を見てくれる?」
アンネに言われて視線を向けるとそこにはどこかで見た記憶のある女性たちが居た。
全員私服だが、彼女は確かアンネのメイドさん達が……。
彼女達はどこか悲壮感漂う表情をしながら、人を殴り殺せると言われるカタログに付属している場内の地図を一人一人が手にしながら入念にミーティングをしている。
その雰囲気は重要な軍事作戦の会議のような雰囲気で、かなり近寄りがたい。
ってか、周りの参加者とスタッフが引いているんだが。
「おい、アレなんだ」
「彼女達なら、きっとこの困難な任務もやり遂げてくれるはずだわ」
「おい、何を頼んだ。いや、エロ本をメイドに買わせに行かせるなよ! 可哀そうだろ!」
「あ、ちなみに彼女達は私の買い物だけではなく、お父様とお母様の買い物も頼まれているわ」
「本当にメイドに何やらせてんだよ! 国王と王妃!!」
こうして、俺とアンネの夏の大型イベントでのデートが始まった。
☆
なっがい、待機時間を乗り越えて。
ついにイベント会場の内部へ。
とは言え、明確な目的はない。
はぐれない様に時折アンネに手を差し出して手を繋ぎ歩き、場所によっては手を放して離れないように近くにいる。
「アッツ」
「ははっ、まあ、普通はそうなるよな」
金髪のツインテール美少女がイベントに参加していたら、普通は目立つのだが。
今のアンネは魔法道具で姿を変えている。
黒髪のツインテールの日本人の少女に見える筈だ。
まあ、女の子と二人で歩いているとやはり睨まれること多数。
ふははは、羨ましいか! とでも言えればそれはそれでネタになるのだが、こんなところでトラブルを起こすつもりは無いので、スルーする。
「あ、武。ピラポロロペックパレッケの同人誌。絵がかなり上手なんだけど!」
「え、なんて?!」
そこそこ、オタクだが、聞いたことのない作品名を出されて困惑する俺。
せっかくだから、少し読ませてもらったのだが。
うん、あの、うん、まあ、そのぉー。不思議な作品だな。
「一部ください」
「あ、はい! ありがとうございます!」
眼鏡をかけた大人しそうな俺達と同世代の少女にお金を渡して、アンネが少女と軽く作品について話をする。
「マイナー作品ですから、読んでくれる人が中々いなくて」
「そうなんですか? 独特な作品ですけど、じわじわくる感じが面白いのに」
「分かります。最初は分からなくても何度か読み返すと面白さが」
もしかしたら、今まで見た中で一番いい笑顔なんじゃないだろうか?
こういうところでちょっと嫉妬が出来るようになれたことに、俺は少しだけ嬉しくなった。
そして、アンネよ。変装用の連絡先を交換するな!! 一応複数連絡先があるけれど、後で怒られるんじゃないか?!
「いやあ、良い買い物をしたわ」
「そうか」
ウキウキ気分のアンネと共に俺は次の場所へと移動した。
次はこの通路を通っていくと、コスプレエリアだな。
「カメラの練習をしてきて良かったわ!」
「おい、今すぐそのカメラを仕舞え!」
何をする気だコイツ! 今、女の子がしちゃいけないスケベ親父みたいな表情をしていたぞ。
「大丈夫! ちゃんとカタログのルールを読んできたから」
「大丈夫だろうなぁ」
不安があったが、順調に写真を撮っていくアンネ。
時折、ローアングルで写真を撮るとするたびに首根っこを掴んで抑える。
その様子を見てコスプレイヤーさん達は笑っていた。
人によってはちょっとだけですよ。とセクシーなアングルで撮らせてくれたのだが。
「オタクじゃなくて、ただの変態じゃねぇか」
「酷い言い草! 許可をもらって撮っただけよ」
俺が両手で顔を隠すと心外だとばかりにアンネが反論する。
そうだけれども!
「ま、見てて楽しいからいいか」
「納得いかない!」
「何がだ?」
「武ってさ、もしかしてふの……、いや枯れてるの?」
「おい、割とひどいこと言っているぞ」
「だって、レイヤーさん結構過激な恰好の人もいるけれど、全然見ないじゃん」
「いや見てないわけじゃないぞ? 俺だって男だし」
「え、いつの間に見ていたの?!」
「大声で言うなよ!」
チラ見は女に百パーセントバレる。まあ、ほぼ事実なのだろう。
では、どうすればいいか?
まあ、戦いで手に入れた技術なんだけれど、視界を広く確保して全体を見るようするだけだ。
これ、慣れると意外と視線を真っ直ぐにしたままでも右と左別々の看板の文字なども読めるようになる。
「なんだ、じっくり見たわけじゃないんだ」
「流石にじっくり見るのはな。まあ、それに」
「それに?」
俺は周りに人が居ないことを確認して、少し声のトーンを落としてこう告げる。
「俺、今アンネとデートしているんだけど?」
他の女を見たらアンネに失礼だろうが。
「…………わーお」
アンネは何故かそのまま壁際に移動して、両出で顔をかくし、その場にしゃがみ込んでしまった。
「お、おい」
「ちょ、ちょっと待って。今、私デートだということを忘れていたんだけど、このタイミングでそういうことを不意打ちで」
十秒ほどして、アンネは立ち上がり。
「じゃあ、次行こうか!」
ちょっとテンション高めにそう言った。
☆
さて、次に俺達がやってきたのは企業ブースだ。
「くっ! 爆薬十字の新作が先行販売している!!」
「諦めろ、十八禁だ」
「ま、お使いも頼んでいるから、大丈夫か」
「なあ、あそこの最後尾ですって看板持っている死んだ魚の眼をしている女性に見覚えがあるんだが?」
「ああ、マリーね。普段はメガネっ子で隠れ巨乳よ」
「それ周りに聞こえるような音量で言う必要あったか?」
周りから注目を集め始めて顔を伏せるマリーと言う名前のメイドさん。頑張ってください。
さて、一つ一つ企業さんを見に行く。
久し振りにエロゲーでも遊ぼうかな。実年齢はともかく中身があれだしな。と都合の良いことを考えていると。
「すみません、エルフ姫騎士さん。写真を撮らせてもらえないでしょうか?」
「止めろ!」
「え?! え?!」
企業ブースのレイヤーさんに写真をおねだりし始めるアンネ。
しかも、十八禁でもハードな作品を作っている大手さんだから、もう壁にギリギリのラインの広告が!!
流石にブースでは駄目なのでお断りされた。
だが、アンネがレイヤーさんとして活動しているのかどうか聞いたら、レイヤーとしても活動しているとのことで、色々と情報を聞き出していた。
「色々ありがとうございます」
「い、いえ」
「すみません、コイツ、ハーフで外国育ちでグイグイ来るんです」
「あははは……」
「でも、素敵な衣装ですね。とても似合っていますよ」
「ありがとうございます」
「ええ、本当に素敵な肉体ですね」
「それ以上は止めろ!」
レイヤーさんの下半身をガン見し始めたので俺は強引にアンネを引っ張ってその場を後にした。
「新作、買わせてもらいます! うちのメイドが!」
「黙れ!」
最後までレイヤーさんと途中から様子を見ていた企業スタッフが苦笑いで見送ってくれた。
あ、おい、アンネ、スマホを仕舞え。追加でメイドに買わせようとするな!!
☆
振り返ってみるとあっという間に一日が過ぎた。
もう一つの同人即売会場で薄い本を見てまわり、再度コスプレエリアで更にレイヤーさんの写真を撮るアンネ。
アンネの願いもあってイベントが終わるまで、俺達は夏の大型イベントを楽しんだ。
「あー、楽しかった」
「それは良かったな」
イベントが終わった後。
俺達はイベント会場からそれなりに離れた場所のファミレスで食事をすることにした。
「本国ではこんなことできないからさ」
「まあ、そうだろな」
「うん、それに仮に参加できても、三時間くらいかな。見てまわれるの」
「え、そうなのか?」
「うん、私は一応」
アンネは小声で王女だからね。と呟いた。
ま、そうだな。いくら比較的治安のよい日本でも絶対じゃない。
魔法犯罪者のことを考えるなら三時間でも多いのかもしれない。
何より、こういうイベントは人が多い。魔法での戦闘になれば隠蔽の難易度も高くなるだろう。
「だからね、今日一緒に来てくれてありがとうね。武。正直なことを言うと武が居なかったら最後までイベントに参加できなかったし」
「なんでだ? って、ああ、そうか。俺の」
「うん、実力を知っているからね。だから、メイドもお買い物に向かわせられたし」
「あれは可哀そうだったな」
実は終わった後、一度メイドさん達と合流して結果報告を聞いたのだが、全員が死人みたいだった。
オタクでもあるアメリアさんはかなり元気だった。と言うかこの後、家に帰って戦利品を読み焦ると言っていた。
布教用のBL本を俺にも渡してくるのはどうなの?
いや、読めるか読めないかで聞かれれば読めるけどさ。
「うん、今度はもう少し鍛えてから送り出すわ」
「ちげーよ」
「だって、欲しいんだもん」
「欲望に忠実すぎる!」
ぷくーっと頬を膨らませるアンネ。いや、可愛いけれどさ。
しかし、メイドさん達凄いな。ちゃんと頼まれた物を人海戦術で購入しているんだもん。
ってか、半分近くが国王と王妃様の買い物って、アンネの実家大丈夫か? いろんな意味で。
アンネはデジカメを取り出して、何気なく画像を確認し始める。
「うんでもさ。私思うんだ」
「ん?」
「日本に来ること。みんなに反対されたの」
「そうか」
まあ、今の日本は衰退し始めているからな。
それに英語があまり通じないだろうし。いくらサブカル好きな両親でも反対はするだろう。
留学するならもっと別な場所がいいだろうな。
「でも私、日本に来てよかった」
「そうか」
「武に会えてよかった」
「そうだな」
「今日のイベントに参加できてよかった」
「俺もだ」
「エッチな画像もたくさん手に入ったしね」
「台無しだよ!」
全力でオタクライフを満喫していらっしゃるわね! このお姫様!!
「じゃあ、そろそろ」
「ああ、かえ「私の家に行きましょうか」はい?」
俺とアンネが見つめ合う。
「今日一日、付き合ってくれるんだよね?」
「あ、ああ」
「じゃあ、これから、私の家で戦利品の確認とまだ見ていないアニメの劇場版の鑑賞会を始めましょうか!」
俺は頼んだメロンソーダをストローでちゅーっと一口飲み。
「分かったよ。付き合うよ」
両手を上げて降参した。
こうして、俺は久しぶりに普通に夜更かしをした。
お互いに買った薄い本を読み合い、劇場版アニメを見て感想を言い合い。
最近アンネがハマっているブイチューバーちゃんのゲーム配信が始まり、参加者募集と言うことでアンネとともに参加。
百対百のバトルロワイヤルゲームで、アンネが「姫! 姫を守れぇっ!」と白熱したバトルをしていた。
そして、気が付いたら床で二人で寝ていた。
「あ、あれ?」
「まだ、眠ってろ。まだ五時だ」
「うん……」
途中で目が覚めると、俺を抱き枕代わりに眠っていたアンネの寝顔が目の前にあるというハプニングがあったが。
今日は一日何事もなく無事に平穏にアンネと二人きりで良い時間を過ごすことが出来た。
そして、朝日が昇り。
朝食をアンネの家で頂いて、俺は家に帰った。
楽しい時間は本当にあっという間だった。
けれど、良い時間だった筈だ。
精神がちょっと回復したことも実感できた。嫉妬の感情が芽生えるとか。
うん、改めて嬉しい一日だった。
☆
――アンネローゼの屋敷 アンネローゼの私室
「アンネ様」
「はい……」
アンネローゼは床に正座をしていた。
そして、侍女長アメリアは仁王立ちでアンネローゼを見下ろしていた。
「我々が用意した勝負下着。武様に見せましたか?」
「……すっかり忘れておりました」
「それと武様が気を使った時の為に用意したこの箱、触った形跡がありませんね。引き出しにも触れてないですね」
「……はい」
「薬は見破られるので、疑われないくらいの疲労回復を考慮した、お飲み物や軽食は食べられましたか? 武様と共に」
「そ、それも、武とスーパーに寄って色々と食料を買ってそっちを食べました」
「それで結局、アンネ様が昨日やったことは、意中の相手が苦笑いするくらい同人誌買いあさり、レイヤーのエロ画像を撮りまくって、武様の家で同人誌を読んで、劇場版アニメを一緒に観て、ブイチューバ―の参加型配信を見ながら一緒にゲームをして寝落ちしただけですか?」
「――誠に申し訳ございませんでした!!」
いろんな意味でチャンスを棒に振ったアンネローゼは、その場で見事な土下座を決めた。
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