第35話

スミスという男がゴーレム使いになった理由は、幼い頃に魔法犯罪者が殺した女性の死体を目撃したことが切っ掛けだった。


その女性の死体は血と内臓を綺麗に取り除かれ、スミスはその女性の死体を心の底から美しいと感じ涙を流し死体を抱きしめ叫んだ。


敬虔な信者が聖遺物に触れ、歓喜をするかのよう。


スミスの叫び声を聴いて近くを通りかかった夫婦が警察に通報。

死体を抱きしめて泣く姿は警察を呼んだ夫婦と警察を誤解させた。


当時のスミスが無口な少年で、大人たちに余計なことを言わなかったこともスミスのプラスに働いた。

スミスは死体を発見して、あまりの無残な姿に同情して泣いた少年と勘違いされたのだった。


そして、十七歳になった時、彼は人を殺した。


偶然が重なった結果だったが、彼は人は簡単に死ぬのだと分かり、嬉しくて心が震えた。


初めての殺人を経験し、彼は偶然が必然か魔法犯罪者のゴーレム使いと出会い、彼は魔法犯罪者となった。


「――役立たず共が!」


スミスにとって、己の作品は失敗作でも大切な作品だ。

失敗は成功の基。と言うように、失敗は自分と次の作品を良くしてくれる切っ掛けの一つだ。


そして、完成した作品はどれも我が子のように大切なもの。


「あら、余所見をしている余裕があるのかしら?」

「うるさいぞ」


普段よりも少ないが、スミスのゴーレムの群れは妖精騎士セシリーへ襲い掛かる。


ゴーレム達は目標に無造作に襲い掛かるわけではない。


前衛の近接武器を持つゴーレム、拳銃や弓矢などの射撃で前衛のゴーレムを援護する支援ゴーレム。


確かな連携で敵を数の力押し潰す。


このゴーレムの群れに対抗するためには、こちらも数を揃えるか。


「多いわね。まとめて洗い流してあげるわ」


範囲攻撃でまとめて攻撃するか。


「【アクア・トルネード】」


妖精騎士セシリーの周囲に水の竜巻が発生する。


しかもそのアクア・トルネードは刃のように妖精騎士セシリーに飛びかかったゴーレムを切り刻んでいく。


「このっ、騎士だったら武器を使え!」

「あらあら、御自慢のゴーレム達があっという間にバラバラね。それと騎士になる条件は武器だけではなく魔法の腕前も必要なのよ」


妖精騎士セシリーの言葉にスミスは舌打ちをしたが、直ぐに不敵な笑みを浮かべる。


「まあいい。準備は整った。今回の目的はお前じゃない」


スミスの言葉が終わると同時に、大型倉庫の屋根が完全に吹き飛ばされた。


妖精騎士セシリーとスミスの二人以外も、戦闘中ではあるが空を見上げる。そこには強大な人型の何かが妖精騎士セシリー達を見下ろしていた。


「これは、随分と大きいゴーレムね」

「俺の人魚姫さ」


倉庫の屋根を完全に吹き飛ばし、妖精騎士セシリー達を見下ろしていたのは巨大な人型ゴーレムだった。





「都市伝説のヒトガタだったかニンゲンに似ているな」

「なにそれ?」

「知らないか? まあ、そういう都市伝説、未確認生物が存在するって話だ。潜水艦を両手で包み込めるほどの大きさらしいぞ。まあ、それと比べるとあそこにいるヤツは随分小さいが」


とは言え、アレはアレでデカいな。あんなデカいゴーレムをバレずによくここまで連れてきたな。


海に潜んでいたのだろう。海に両足を付けながら屈んで倉庫まで上半身が届くとか、かなりのデカさだ。

流石に身体はクジラなどを使っているみたいだけれど、それでも作るために相当数の人間を使っているな。


勇者達でも錬金術で邪神の眷属へ対抗するために、強大な錬金生物を作ったことはあるが、アレは複製した血肉だ。

でも、あの巨大なゴーレムは全てが天然。


「人の欲望とは際限が無いな」


後であのスミスという奴は情報を引き出して始末するか。

あ、いや、日本の対魔師局に引き渡した方がいいか? でも、あのレベルの使い手をそのまま引き渡しても困るか。


魔法が使えないようにしっかりと封印もしておこう。

あまり人殺しばかりしていると、心が一般人から離れてしまう。


ま、完全に昔に戻れるとは思わないが、少しでも戻しておかないとな。



妖精騎士セシリー達を見下ろすゴーレムを自慢するスミスはそのまま巨大ゴーレムに指示を出す。


「直ぐに終わらせてやる。最大出力でまとめて吹き飛ばせ!!」


巨大ゴーレムは事前に溜め込んでいた膨大な魔力を口腔から発射した。


眼が潰れるほどの閃光。極太のビームのような魔力砲撃は大型倉庫全体を覆うほどだった。



「ふぅ、興奮しすぎて逃げ遅れるところだった」


巨大ゴーレムの右肩に使い捨ての転移魔法の魔道具を使って、大型倉庫から逃げてきたスミスは今もまだ魔力砲撃にさらされている大型倉庫を眺めた。


「この日の為に用意した魔力だ。他の連中も巻き込んでしまったが、まあ、いいだろう」

「無駄よ」

「――っ!?」


背後から聞こえてきた声にスミスは即座に振り返った。


「がっ?!」

「はぁ、まったく。油断していたわけではないけれど。こういう切り札を持ってくるとか。流石に肝が冷えたわ」


妖精騎士セシリーは素早くスミスの頭を右手で鷲頭掴みにする。


自分達があの巨大なゴーレムの接近に気が付かなかった。やはり鈍っているなと妖精騎士セシリーは内心ため息をついた。


そして、高いステルス能力の巨大なゴーレムを製造したスミスのゴーレムの製造技術が高いことの証明していた。


「な、どうやって!?」

「このゴーレムの魔力砲撃が発射されたタイミング。つまりアンタと同じタイミングでここ転移したのよ」

「本当はダンティ様を避難させたかったけれど、大丈夫。と言われてしまったらね。それに転移の魔道具なら私も持っているのよ」

「ぎゃああああああああああああああ!!!」


妖精騎士セシリーは話すことはもうないとスミスの頭を掴んでいる右手に力を籠める。


「本当なら、私の華麗な水魔法をダンティ様に見せるつもりだったけれど、この巨大ゴーレムを下手に破壊すると後始末が大変だからマスターの貴方を倒して終わらせるわね」


妖精騎士セシリーは自身の左手でしっかりと握り拳を作る。


そして、それをスミスの腹部へ思い切り振りかぶって叩き込んだ。


「ごふっ!?」

「あら、ゴーレム使いだから、ひ弱かと思いましたけれど。意外と頑丈ですのね」

「や、やめっ!」

「――フンッ! ――フンッ!! ――フンッ!!!」


こうして、スミスは妖精騎士セシリーに三度殴られてようやく気絶した。

それと同時に巨大ゴーレムは沈黙した。


「さて、無事でしょうけど、ダンティ様は無事かしら?」


砲撃が撃ち込まれる瞬間、ダンティはこちらを気にするなと言う風に微笑んだ。


亡き主君に似ている笑みに妖精騎士セシリーは動揺したが、同時に大丈夫だと信じて所有している転移魔法の魔道具を使ったが。


「ふふ、やはり杞憂だったみたいね」


巨大ゴーレムの肩から大型倉庫を見下ろすと、魔力砲撃の余波で大型倉庫の周辺は酷い状態だったが。大型倉庫はピンク色の薄い膜によって完全に守られていた。


「うん、流石はダンティ様。素晴らしいお力ね」


うんうん、頷く妖精騎士セシリーはスミスの首根っこをしっかりと掴んで、先に傭兵を撃破したアースとルビーの元へ向かった。


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