第30話
※人物
・リリー・コムストック
魔法犯罪組織【光の鳥】に拉致され、死亡が確認された女性。
シャナの母親の可能性がある女性。
・アーシャ・コムストック
欧州の魔法業界では名の知られているフリーの悪魔祓い師。
妹を拉致した魔法犯罪組織【光の鳥】が壊滅したことを知り、慌ててアメリカへ。
その後、死亡した被害者の一人に妹のリリー・コムストックを見つける。
彼女はかなりショックを受けたが、【光の鳥】を壊滅させ、被害者の一覧を回収をした日本の忍者にお礼がしたくて、忍者を調べる。
その過程で、忍者が一人の少女を保護したことを知るがこの時点ではまだ顔などは分からなかったが。
忍者のことを調べていくうちに、小宮シャナという少女の顔を知ると、亡き妹にそっくりだった為日本へ。
仕事着は動きやすく、改造された修道女の服を着ている。持ち運んでいるチェロケースには本物のチェロとS&W М500という拳銃が入っている。
昔は言葉遣いが丁寧だったが、今はヤンキーのような口調が多い女性。
☆☆
あたしの名前はアーシャ・コムストック。
欧州ではそれなりに名が知られているフリーの悪魔祓い師だ。
本来ならあたしみたいな学のない奴は、生まれ故郷の田舎の街で静かに妹のリリーと共に暮らしていくはずだった。
リリーはあたしと違って頭が良かったけれど、大学に行く金がなく、性格も大人しくて都会に行きたいとは思っていなかったようだ。
あたしが何度かリリーに馬鹿なあたしよりも成功できる可能性のあるリリーに都会の大学へ行くように勧めたが、首を縦には振らなかった。
だから、あたしも生まれた街でシスターとして、静かに暮らしていくと思っていたけど。
そんな平和だった日々が壊れたのは、八年前。田舎の街で行方不明が出たことだった。田舎の街とはいえそれなりの人口がある。
あたしだけではなく、街の人間は最初は他人事だった。
けど、一人、二人と、被害者が増えて行けば誰だって不安になる。街では警察も街の住人達もピリピリしはじめた。
そして、行方不明者が二桁になって二日後の深夜だった。
化物があたし達の住んでいる教会に入り込んできたのは。
この時、アタシは知らなかったが、教会には魔法による防御の結界があったらしい。
それを軽く破壊して、二匹の怪物はあたし達の部屋に押し入り、妹を連れ去った。
あたしが魔法の力に目覚めたのはこの時だ。抵抗したアタシは激しく怪物に殴られ、壁や床に叩きつけられた。
命の危機に際して、あたしの中に眠っていた魔力が目覚めてあたしは目の前の怪物を殺した。
けれど、次に目が覚めた時には病院のベッドの上。リリーの姿はどこにもいなくて、国の魔法使いの役人からあれやこれやと聞かれた。
そして、あたしは教会の悪魔祓いの養成所に入り、悪魔祓いになった。
悪魔祓いのとしての才能があったあたしはリリーを探すためにやれることを全てやった。
幼い頃から、ずっと一緒だった大切な妹。
リリーを絶対に見つけ出すとあたしは誓って、八年間探し続けた。
「リリー、日本に来たよ。シャナっていう子が貴女の娘なら、あたしに守らせてね」
東京の空港から一般人として入国したのだが、やはりというかお目付け役があたしを待っていた。事前に連絡を入れていた退魔師局のヨネザワという女性だ。
戦えばこちらも只では済まない実力者だと分かる。真面目な日本人らしく髪をキッチリと纏めて、スーツもしっかりと着込んでいる。
「対魔師局の米沢です」
「アーシャです。事前にお伝えした一件ですが」
「はい、シャナさんの保護者から許可をいただき、現在DNA鑑定を行っております。仮にリリー・コムストックさんとの遺伝的なつながりがある場合は、面会を希望しているとお伝えします」
「ええ、お願いするわ」
「それとホテルですがこちらでご用意をしております」
その言葉にあたしは内心首を傾げた。随分と手厚いな。まあ、あたしの今までの行動を考えれば監視できる場所に置いておきたいのかもしれないな。
「アーシャさんのご活躍はお聞きしておりますが、本件は【忍者】案件ですので」
「忍者? あの噂の?」
「はい」
そういえば、噂のドラゴンスレイヤーの忍者がリリーの娘かもしれない女の子を保護した。それだけ、忍者もその子を気にかけているということかしら?
「ではこちらです」
「ええ、案内をお願いするわ」
様子を見ましょう。分からないことだらけね。
まずは、リリーの娘と思われる女の子の情報を改めて調べて、それと忍者のことも調べないとね。
今日から忙しくなるわ。
☆
今夜から、日本で魔法関係者が集まる場所で忍者のことを調べようかと思っていた。
だが、用意されたホテルに入って十分もしないうちに、今日はホテルで待機することになった。
理由は簡単、あたしが案内されたかなり質の良い部屋のテーブルの上に部屋に入った時には無かった手紙が置かれていたのだ。
しかも、送ってきた相手は噂の忍者。
今夜、代理の者がそちらの部屋に行くから。という内容の手紙だった。
いきなり向こうからやってくるとは驚いたけれど、好都合。
あたしは修道女の服に着替えて、完全武装で約束の時間を待った。
今回は出来れば戦闘は回避したいけれど、どうなるかしらね。過去の経験を考えれば、戦闘になることは少ない。少ないが無かったわけではない。
相手がリリーの娘と思われるシャナという少女を保護して、面倒を見てくれる人物を探して預けたことも考えれば、何事も起こらないだろうとは思う。
シャナという少女を養子にした小宮という夫婦は過去に養子を受け入れている。
その子供たちのことも米沢から資料を貰ったが、資料上では全く問題ない。
普通に暮らしている。もちろん、本当かどうかは分からない。
ただ、調べればわかることだから、嘘は書かないだろう。
「そろそろ時間だな」
あたしは部屋のソファに座りながら、テーブルや調度品を眺める。
既に調べているが、念のために変な仕掛けが無いか再度確認する。
魔力を目に通しての確認だ。何も反応は無い。
それでも気は抜かない。
あたしの右手にはしっかりと愛用のS&W М500というリボルバーをしっかりと握る。
屈強な軍人ですら撃つのに苦労するハンドガンだが、あたしの場合は問題は無い。
あたしの才能は魔力を外に出すことがほとんどできない代わりに、魔力による身体能力の上昇が得意だ。
普段から過酷な筋力トレーニングを行い、肉体を作り上げる。そうすることで、本来なら台などで固定して撃たないと危険なハンドガンを扱うことが出来る。
この才能によってあたしは上位の悪魔も討伐することが出来た。
ま、悪魔が普通のハンドガンの口径では、専用の弾丸でも効果が低く、仕方が無く強力なマグナム弾が使える銃を使い始め、今では44マグナムの三倍の威力を持っているこれになったわけだが。
ドラゴンを倒せる相手、その代理なら相応に強い奴だろう。
仮に戦闘になっても、この銃と専用の特殊な弾丸ならば、十分勝利することが出来る筈だ。
そして、約束の時間になった。
あたしが身構えると、
――スッと、目の前のテーブルの上に上品で美しいティーカップがそっと置かれた。
「――っ?!」
即座にその場から飛びのこうとした瞬間、あたしの右肩に優しくも力強い手が置かれて、あたしは動けなくなる。
ーーいつの間にこの部屋に入った?!
「あら、驚かせたみたいね」
ぶわっと全身から冷汗が噴き出てくる。
殺気は無い。殺す気があるなら、とっくにあたしは死んでいる。その確信があった。
あたしはゆっくりと冷静に呼吸を乱さないように声がした方へ視線を向ける。
「喉が渇いていそうだったから、お茶を入れたのだけれど。大丈夫かしら?」
「――っ?!」
そこに立っていたのは、
「あら、ごめんなさい。わたくしったら、自己紹介がまだでしたね」
ウェディングドレスのような純白で美しい真珠のような輝くドレスを身に身にまとった。
「淑女妖精ダンティ、御主人様の使者として参上いたしましたわ」
妖精のような別の何かとの出会いだった。
☆
「お互いに自己紹介も終わりましたし、本題に入りましょうか?」
あたしは目の前に居る妖精のような存在、ダンティと自己紹介をした。
自身を妖精とダンティは言っていたが、お前のような妖精が居てたまるか! と言いたいが、背中に生えている四枚羽。
それに過去にとある依頼で触れたことのある、妖精が作った魔道具の魔力の質から察するに、ダンティが妖精なのは間違いないだろう。
子供の頃、絵本で見て憧れた妖精とはまったく違うが。
「まず、此方から聞きたいことは、貴女様はシャナちゃんのお母様のお姉様の可能性があるとお聞きしましたが?」
「DNA鑑定待ちだが、シャナという少女はあたしの妹のリリーとあたしに瓜二つだ」
身体の大きさは実験によって急成長させられたと聞いている。
実年齢は一桁。それならば、リリーの娘の可能性もある。
「そうですね。顔立ちがとても似ていますね。御主人様も可能性はあるだろうと」
「そうかい」
「仮にDNA鑑定で貴女様の妹の娘。姪だったとして、貴女様はどうしたいのですか?」
「もちろん、あたしが引き取るさ。妹の忘れ形見だ。何かおかしいか?」
魔法犯罪組織【光の鳥】を壊滅させ、行方不明の妹の消息と妹の娘かもしれない女の子を保護してくれたのは感謝するが、そこは譲れない。
「そうですか、仮にDNA鑑定で遺伝子が少しでも一致すれば、そのお話をシャナちゃんへお伝えしますわ」
「待ちな、遺伝子が少しでも一致ってどういう意味だ?」
不穏な言葉にあたしがダンティに問いかけるとダンティは「困ったことですが」と自身の手を頬に当てる。
「シャナちゃんの肉体は今でこそ人間のそれですが、治療する前はキメラのように合成された身体でした」
「――っ!?」
その言葉にあたしは驚き、胸の奥から黒くて熱い負の感情が湧き出てくる。
「かなり特殊な肉体なので、DNA鑑定では貴女様の妹とシャナちゃんが本当に親子関係なのか判別できない可能性があるとおっしゃっておりましたわ」
「……それで?」
「御主人様は貴女様の妹と遺伝子がある程度一致しているなら、恐らくは親子の可能性がある。であるならば、面会は問題ないがシャナが日本に残りたいのなら残らせる。と」
その言葉を聞いて、ふざけるな。と言いたい気持ちと。それはそうだろうな。という気持ちがあった。
仮に問題なくDNA鑑定でリリーとの親子関係が確定したのなら、問題は無い。
だが、キメラのような肉体だったことを考慮するなら? 科学的な技術ではなく。
魔法的な技術が混ざっているなら、恐らく本当に肉体は混ざり合っていたはずだ。
遺伝子を改良して一から成長させたのではない。
ある程度肉体が出来上がっている状態から、合成したのだ。人間を。幼い少女を。
「シャナという少女の肉体は?」
「全く問題ないわ。御主人様とその御友人の錬金術師が治療したわ。寿命も事故や病気をしないなら長生きできるだろうと」
その言葉を聞いて、ホッとすると同時にそのようなことが本当に可能なのか? と考えた。
いったいどうやって、キメラのような肉体を元に戻したのか? 秘術と思われることを聞くのはマナー違反だが、聞いてみたくなった。
「まあ、なにはともあれ、DNA鑑定が終わるまでは待ってもらうわ」
「ええ、分かっているわ」
数日待てばいいだけだ。
謎の忍者とやらは、少しでも妹のリリーの遺伝子が入っていれば、シャナという少女の許可があれば会わせてくれる可能性が高い。それなら、騒ぐことではない。
「ところで、お聞きしたいのだけれど」
「なんだい?」
「この三川ホテルだったかしら?」
「ああ、確かそんな名前だったはずだが?」
「そうなの、一応は確認だけれど。ホテルの周辺でこの部屋に熱い視線を送っている殿方達は貴女のお友達かしら?」
微笑を浮かべるダンティと名乗った妖精の言葉にあたしは気持ちを切り替えた。
この部屋に熱い視線ね。
「退魔師局の人間ではなく?」
「ええ、退魔師局の監視と案内人の方はこの階の別の部屋に居るわ」
「そう、なら……心当たりが多くて分からないわね」
あたしがそう言うと、ダンティはニヤリと男臭い笑みを浮かべてあたしにこう告げた。
「無粋殿方達には退場してもらいましょうかね♪」
日本の少女アニメの効果音が出そうな可愛いウインクをしてから、ダンティはルンルン気分でスキップしながらホテルのバルコニーへ移動した。
「ちょっと待て、ダンティ。何をするつもりだ?」
「そんなの決まっているじゃない」
――無粋な殿方達に愛をお届けに行くのよ! 愛♡! きゃん♪ ふら~いっ!!
人を殺せそうな両手でハートを作り、その後は素早く両手を広げてムササビのようにバルコニーから飛び降りるダンティ。
ダンティの突然の行動に、あたしは慌ててバルコニーから飛び降りたダンティを確認した。……のだが。
「そのデカケツで可愛いパンティを履いてんじゃねぇよっ!!」
地上へ降下しているダンティのムササビのような後ろ姿が目に入り。
あたしは見たくもないモノまで見てしまい、最悪の気分で、その場にしゃがみ込んだ。
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