第27話

結局、その日は麻山の使い魔のイメージは決まらなかった。それから数日、魔法の座学を麻山に教え、予定した使い魔を召喚する日になった。


「どうだ? 何か良いイメージが浮かんだか?」

「うーん、漠然としたものしか。一応は人型がいいなぁとは思いましたけど」


山奥の人が用意に来れない場所、ジャガノートことシャナを治療した秘密基地の近くの開けた場所に俺達は来ていた。


魔法によるテレポートに麻山は驚き、はしゃいでいた。

今度、やっぱり魔法を教えてほしいと言われたが無理なものは無理なのでどう説得するか悩むな。


「じゃあ、使い魔を作るための魔法陣を作るぞ。今日は一番星の並びが良いから」

「うん」


やはりイメージが湧かないのか、麻山はどこか浮かない顔をしている。

今日は星の並びがちょうどいいから、出来れば今日使い魔を作りたいが、駄目そうなら止めておくか?


そう考えながら、近くの大きめの岩に座り悩む麻山を見守りながら、俺は丁寧に幾何学模様の魔法陣を専用の塗料で描いていく。

これ、結構手間だが。描いていて楽しいんだよね。小学生くらいの時に魔法陣とかの本を見て、頑張れば出来るんじゃないかと本気で考えたから。


粗方魔法陣を描き終えて一息つくと、うんうん唸りながら、頭を抱えている麻山が見えたので声をかける。


「いっそのこと、使い魔を生み出すのはランダムにしてみるか?」

「え、ランダムですか?」

「そうだ。素材はそうだな。麻山に融和性の高いもので揃える感じだな」

「融和性の高いもの?」


俺は麻山を鑑定、分析する。この子の場合は魔法の才能が無いけれど、魂の色的なものがある。

水属性か。水性系のモンスターの素材や、水属性のアイテムもあるから、変なのは来ないだろう。

変ったところで、深海魚とか来そうだけど。プールで泳ぐことが多くて水泳部だから。

見栄えがアタリなのはイルカとかペンギンかな?


「子供の頃からプールで泳いでいたから、水系統だな」

「水ですか……。え、水ですか?」

「ああ、水の使い魔と言えば、生み出す人間が知っている魚やサメ、クジラ。珍しいところでは人魚やペンギン。後は白熊とか?」

「そんなのもあるんですね。でも、ペンギンとか白熊なら可愛くていいかも」

「ランダムだと何が出るか分からないぞ?」

「そうですか、でも、こうイメージが湧かないので。ランダムでもいいかもしれませんね。出来ればペンギンや白熊が良いですが」

「イメージを明確にして、ペンギンや白熊が出やすいように素材使えばイケるかな?」

「迷いますね。白熊かペンギンか」


うーん、うーん、と頭を悩ませながら、麻山はこう言った。


「やっぱり、ランダムにします」

「ん、いいのか?」

「はい、少し考えてみたんですけど、やっぱりグルグル考えがまとめられなくて、それなら天に身を任せようかと」

「分かった。なら、魔法陣の中心に。それと素材は……」


そうだな。どんな水系統の使い魔でも平気なように、水系の魔法石などの力の結晶系を置いておくか。牙とか骨だとそれに寄ってしまうから。純粋な水系列ならどんな使い魔でも強くなるはずだ。


「それじゃあ、魔力を注ぐ。心を無にして使い魔と言う存在の誕生を願ってくれ」

「はい」


俺は魔法陣に魔力を注いでいく。

事前の指示通り、麻山は目を伏せて。ゆっくりとリラックスして祈るように魔法陣の中心でたたずんでいる。


これなら、良い使い魔が出来るな。


「麻山、いくぞ」

「はい」


魔法陣を駆け巡っていた膨大な俺の魔力が魔法陣の中心にいる麻山を包み込む。

半透明の膜の中で麻山はの目の前に置いておいた素材が光に包まれていく。


そして、素材はソフトボールくらいの大きさの光の球体となって地面から浮かび上がる。


「お願い、生まれてきてください」


麻山の声に反応するように光の球に変化が生まれる。

光の球はそのまま膨らんでいき、形がどんどん変わっていく。

その形は人の形に近いモノとなり。


「あ」


俺は思わず声を漏らした。

何故なら、その人に近いシルエットにはなんとなく見覚えがあったからだ。


パッと! 光が弾け飛んで姿を現す麻山の使い魔。


「「…………」」


俺と麻山はあまりのことに黙り込む。


麻山の目の前に現れた人の形に近い使い魔。

まず目についたのは、黄緑のような色の肌。

タコがそのまま頭になったかのような頭。

ずんぐりむっくりな体型に背中には蝙蝠のような羽。


これは、どこからどうみても……。


ソレはこう名乗った。


「ふむ、この言語で合っているか? クトゥルーだ。よろしく」


クトゥルフ神話で有名なアレだった。





麻山が卒倒したので、俺は慌てて抱き留めながら、クトゥルーに対応することにした。

というか、コイツ純粋な使い魔じゃないな。神系スキルは無いし。それに敵意は感じない。

邪神を倒すために呼び出された世界で出会った仲間の勇者、永久子が召喚していたクトゥルフ達に似ているが違うな。

あっちはマジなクトゥルフ系の奴等だったし。


「お前はなんだ?」

「ああ、君が本来の術者であり、父のような存在か。そこで意識がないのは母のような存在だな。ようやく空間やモノを認識出来たよ。成る程、これが肉体か」


やや嬉しそうな声色で周囲を見渡しながら、身体を蠢かせるクトゥルー。


「質問に答えてくれるか、その使い魔の身体を奪い取って何を企んでいる?」

「奪い取る? いやいや、奪い取ってないぞ? そもそも繋がりを作ったのはそっちだろう」

「繋がり? 訳の分からないことを言うな。この世界のクトゥルフ系とは関わっていないぞ」

「いやいや、先日君はワタシに関わる杖を使っただろう。それで私と君の間に繋がりが出来たんだよ」


杖? 杖、杖……。


「――ハッ!?」


ミノタウロスの時か!? 確かに俺はあの時、勇者仲間も禍々しい杖。と呼んでいる【吸魔の杖】を使った!


「思い出したかい? 突然別世界の自分の体の一部のようなものが現れてね。びっくりしたよ。まあ、この世界の私は概念的なもので、本来はこうして誕生することはなかったんだけれどね」

「は? マジで?!」

「ああ、ワタシという存在はあくまでも架空の存在だった。けど、君があの別世界のクトゥルーの身体の一部が使われている杖を使ったことで、君が杖を使うことにより無意識にワタシという存在を明確にし、父母の役割を魔方陣で作り出して、母の産み出すのを父である君がワタシをこの世界に取り出し、誕生したのだよ」


夏にしては涼しい風が俺達の間に優しく吹き抜けていく。鳥のさえずりが聞こえてきて、とても穏やかな雰囲気だけれど、俺の心の中は荒れ狂っていた。


「「…………」」


お互いに無言で見つめ合い。俺は落ち着くためにゆっくりと呼吸をする。


――スゥー。




――やあぁっちまあぁったあぁぁぁっっっっ!!!!!!!




この日、本来ならこの世界に存在しない筈だった旧神の一柱。


――クトゥル―が爆誕した!!




「あ、あれ? ここは」

「あ、目が覚めたか。麻山」

「え、先輩? アレ私は……」

「覚えてないか? 初めての使い魔の誕生で疲れて眠ってしまったんだ」

「あ、そうだ! あのタコ人間が!?」


慌てて身体を起こして、周囲を見渡すと麻山の眼に捉えたのは。


「あ、あの初めまして……」


ちょっと控えめな印象を受ける上半身は青い髪の美少女で、下半身はタコの姿をした半人半タコだった。


「あ、あれー?」

「麻山、この子はスキュラだよ」

「え、スキュラ?」


スキュラ? スキュラって何ですか? と首をかしげる麻山。俺はスキュラのことをザックリと説明する。


「と言うわけで、スキュラはかなりのレアだぞ。やったな」

「え、ええっと?」


俺とスキュラに視線を行ったり来たり、首をかしげながらも麻山は、納得いかないような感じだが頷いた。


「さ、今日は俺に家に帰ろうぜ」

「あ、はい」

「色々と覚えないといけないこともあるからな」

「はい、分かりました?」


俺は麻山の手を繋ぎながら、スキュラにも手を伸ばしてスキュラと手を握る。するとスキュラからテレパシーが来た。


『約束通り、これからよろしく頼むぞ。半創造主よ』

『半創造主? 半分とは言え、創造主と呼んでくれるのか?』

『もちろんだ、ただの概念だったワタシを明確にこの世界に誕生させたのだ。人類には敵対的なワタシだが。産んでくれた恩くらいはあるさ。それに半創造主の使った素材や魂の影響も受けている。そういう意味ではワタシは創作の本来のクトルゥーではないだろう』

『そうか、まあ、変なことをしなければそれでいい。ところで、一つ聞きたいんだが』

『なんだ?』

『設定だとクトゥルーは、海底都市ルルイエ? だったかに封印だか寝ているんじゃなかったか?』

『…………』

『…………答えろよ』

『……恐らくどっかにルルイエも誕生している筈だ』

『そっかー……』


こうして、俺の夏休みは序盤から、とんでもないことをやららかしてしまい。


俺は早急に危険な海底都市ルルイエを探す必要がある。


俺の平和な日常は数日で終わりを告げた。



「ところで、武先輩」

「何だ?」

「このスキュラのスーちゃん、何故私のことを母と呼ぶんですか?」

「まあ、母なる海とも言うからな。俺が思っていたよりも、麻山が水、淡水ではなく、海水に近い魂の色。属性だったんだろう」

「つまり?」

「同じ木でも色々な種類があるだろう? 麻山は生物を産み出す、海に近い属性だったから、使い魔からそう思われているんじゃないか?」


俺の半分は本当の、半分はでっち上げの説明に麻山は分かったような。分からないような顔をしながら、納得した。


うん、まあ、色々大変だが、何とかなるだろう。……なるといいなぁ。

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