第26話
夏休みが始まった。
地球温暖化の影響で既にかなり気温が高くて、かなり外に出るのが億劫だ。
とは言え、冷却魔法で自分の身体を適温に保つことが出来るので一般人に比べたら俺はマシだろう。
本格的に暑い日々が始まった初日、俺は何をしているかと言うと。
「うーん、使い魔って一口に言って、色々あるんですね」
「まあ、一般的なものだとクロネコとかフクロウなど小型の動物が多いみたいだな」
俺の家のリビングで、俺と麻山は向かい合わせに机を挟んでソファに座り、アンネローゼに貰ったこの世界の基本的な魔法使いや魔女の使い魔についての本を眺めながら、麻山の使い魔について話し合っていた。
時間は既に午後。午前中に基本的な魔法の知識を教え、昼は寿司の出前を頼んで二人で魔法談義をしながら食べた。
食後にお茶を飲みながら、麻山から「使い魔のイメージが湧かなくて」と相談を受けたので、事前に用意していた本を見ているのだが。
「全然読めませんね。武先輩は良く読めますね」
「一応、昔から教わっていたからな。死ぬほど大変だったけれど」
「大変ですね。魔法使い」
「知識量って結構必要だからな。イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、ギリシャとかな」
あちらの世界に呼び出されて手に入れた言語スキルのお陰だから自慢できないけどな。
麻山は主に本の挿絵を眺めるだけだ。基本的なことは既に教えているから後はどんな使い魔を作るかだけだが。
「しっくりくるモノが無いですよ、先輩」
「好きな動物とかは?」
「特別ないですね」
「使い魔と言えば?」
「うーん、クロネコ?」
「じゃあ、クロネコだな」
「待ってください! せっかく作るなら特別なのがいいです!!」
必死にクロネコではない使い魔を作りたがる麻山。俺は仕方が無いな。とため息をつき。もう少し考えることにした。
「だー! 何もない!!」
一通り、貰った本を読み終えて麻山はソファに思い切り身体を預けてだらけ始める。
足を開いてだらんとするなパンツ見えるぞ。
「はぁ、パッと思いついたものが一番いい時もあるぞ」
「でも……、あ! そうだ。先輩の使い魔ってどんなのですか?!」
「俺の?」
「はい! 参考までに!」
俺にも使い魔はいるけれど、参考になるかな? あ、ちなみにうみへび座のヒドラや召喚魔法で呼び出すモンスター達とティムした魔物は、使い魔って別物だから誤解しないように。
全部それぞれに技術が違うので、最初は勇者達はみんな混乱したなぁ。懐かしい。「もう、全部一緒でいいじゃん!」と、一人の勇者が叫んだときはみんな内心ウンウン! と頷いていたよ。
「結構な数の使い魔がいるけれど、どんなのが観たい?」
「え、沢山いるんですか? 一人一匹ではなく?」
「術者の力によるかな。詳しい数は言わないが、それなりに多いぞ」
「うーん、じゃあ、最初に作った子で!」
「最初のか、一番最初の奴は俺が初めて作った思い入れのあるやつなんだけれど……」
作っている最中に当時は今日的なモンスターに襲われて、咄嗟にロクにイメージも出来ずに作った奴だからあまり見せたくないけれど。
「後悔するなよ」
「え?」
俺はソファから立ち上がり、最初に作った使い魔を呼び出す。
フローリングの床に幾何学的な模様の青白い魔法陣が浮かび上がり、一瞬にして光の球が現れてソレが人の形となる。
光の人型の身長は二メートルを越える。
光が弾けて、現れたのはモノはガッチリした筋肉の要塞と呼べるような肉体。
背中にはトンボのような透明な四枚の羽根。
身に着けている衣装は清楚な白いウェディング風ドレス。
キリリとした顔面はダンディズム溢れるカッコいい短く切りそろえたヒゲと金色の短髪。
「御主人様、お久し振りでございます」
とっても渋くてかっこいい低音ボイスを俺達の耳に届け、丸太のように太い両腕を優雅に操り、敵をノックダウンさせられそうな指先でスカートの端を摘まんで、見事なカーテシーを決めてくる彼の名前は、
ーー淑女妖精・ダンティ!!
そんな彼と久しぶりに顔を合わせた俺は穏やかな表情でこう答えた。
「ああ、久し振りだな。元気だっ「ちょっと待ってください!!」か?」
「なんだ?」
「なんだじゃないですよ!? なんですかコレ?!」
「これとか言うな、ダンティに失礼だろう」
「ダンティ?! え、ダンティ?! 名前がダンティなんですか!?」
「本来は妖精女王をイメージして作る予定だったんだが、イメージ途中で襲われてさ。結果としてこうなった」
俺の言葉に絶句する麻山。そうだろうな。ある程度ぼんやりとしたイメージでも十分使い魔は作れるが、俺の時のように緊急時に強いイメージが送り込まれてしまうとこうなる。
本来は美しい妖精の使い魔を作るために、当時の俺は綺麗なドレスやアクセサリーと化粧品を素材として使い、最後の最後でモンスターに襲われた。俺は咄嗟に自分を守ってくれる屈強なカッコいい男をイメージしてしまい、その結果としてダンティが爆誕した。
因みに彼は男性で、上位妖精属の使い魔だ。
「ま、マジっすか」
「だから、こういう作る時に強烈なイメージが失敗するとこうなるぞ、って言うことを教えるには見せてよかったかな」
俺がそう言うと、不思議そうな表情でダンティがこう聞いてきた。
「おや、御主人様。この方は新しい使い魔をお作りに?」
「そうだよ。ダンティ。あ、それと麻山」
「な、なんですか」
「ダンティの名前の世来は、ダン! という拳の攻撃音と妖精女王のティターニアから名前を貰ったんだ」
「それはどうでもいいです!」
見慣れないもの見た為にややパニックになり、天井を見つめる麻山。
うーん、ダンティでは参考にならなかったか?
「随分とお悩みのようですね。そちらのお嬢様は」
「まあ、初めての使い魔だからな。すまないが、お茶を入れてもらえるか?」
「はい、いいですよ」
俺の指示でキッチンへ向かいお茶の準備を始めるダンティ。
その手際はとても良い。素材の一つに貴族の子女が読む各種指南書を入れたお陰で礼儀作法も相応に出来るのがデンティの凄さだ。
俺がお世話になったとある侯爵家の老婦人とダンティが初めて顔を合わせた時は、老婦人はもの凄い顔をしていたが、礼法の技量の高さに「若い侍女や一族の娘たちに見習わせたい」と言わしめたほど。
「でも、使い魔は人型でも大丈夫なんですね」
「まあな、本には書かれていなかったが、ゴーレムでもいいぞ」
「ゴーレム?」
「知らないか? 石とか木で出来た人形だな。俺の知り合いはロボットアニメっぽいヤツとかも作っていたぞ」
人形遣いの勇者を筆頭に何人かの勇者は使い魔の自立したモノだけではなく、自分達が乗り込むタイプの巨大ロボットに乗って戦っていたこともあったからな。
「へー、それもいいですね。かっこいい感じです」
「でも、日本国内だと下手に使えないのが難点だな。ダンティみたいに」
「ええ、そうですね。はい」
「もう少し感情をこめてくれるか?」
「その、流石にええっと」
「ま、そんなに嫌わないでくれ。良い奴だから」
俺がそう言うとダンティは麻山に自己紹介をした。
「改めまして、わたくしはダンティ。上位妖精です」
「本当は一メートルほどの身長の妖精で、サポート役の使い魔のつもりだったんだけれど、作っている時に襲われたことに驚いて、思い切り魔力を流し込んだ結果、かなり強い使い魔になってしまってさ」
「へ、へー。サポート役がこの大きさ」
麻山はソファに座りながら、ニコニコしながら、トレーを持っているダンティを見上げる。
「いや、ダンティはバリバリ前衛で戦える使い魔だよ」
「はい、魔法はちょっとしか使えませんが、銃器の扱いならお任せあれ。ハンドガンから対戦車ロケット砲に戦車とヘリなどの操縦できますよ」
「発言が全然、妖精らしくない!!」
麻山の叫びは過去の俺仲間の勇者達の叫びと一緒だった。
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