第24話


自宅の自室のベッドの上に寝転びながら、俺はここ最近のことを考えていた。


邪神を倒して元の世界の日本に戻ってきた俺が想像していた日常は、思っていたよりもファンタジーだった。


吸血鬼に襲われたり、吸血鬼の王女を助けたり。通っている学校に魔法使いの名家、縁眼家のお嬢様が転校してきて、そのお嬢様がアメリカを拠点にしている魔法犯罪組織に誘拐されて救助したりもした。


そして、先日は後輩の家の向かいに引っ越してきたギリシャの学者の家で神話の時代の怪物であるミノタウロスが復活し、直ぐに俺が討伐してぬいぐるみに封印することになった。


「日本で静かに学生生活をするつもりだったが、何故こうなったのか?」


俺が勇者としてあちらの世界に召喚される前から、俺の住んでいた世界がファンタジー要素があったからなんだが。それでも、トラブルが多いような気がする。


まあ、結果的にアンネローゼの暗殺とスカルドラゴンによる日本の退魔法師と対魔法師の被害は抑えられた。


そういう部分を考えると結果オーライだったのだろう。


「勇者の素質は引き寄せる力、ね」


あちらの世界に勇者として呼び出され、現地の高名な占い師にそんなことを言われたっけ。ラノベの主人公みたいに何故かトラブルに見舞われる。


勇者としての素質があるものはそういうモノだと言われた。だから、結果的にだけど、ジンクスやフラグ。嫌な言い伝えと直感は気のせいだとは考えなかった。


「はぁ、それでも短期間にこれだけの出来事」


本当に平和な学生生活が出来るのだろうか? と考えてしまう。


「ま、あちらの世界の邪神のような存在が来ない限りは問題ないだろう」


対邪神用の装備もメンテナンスしてあるし、結局体力を削り切れずに自爆攻撃に変更して使わなかった装備も多い。


「何か起こるなら、それを叩き潰せばいいな」


かなり脳筋的な考えだが、現状できることは少ないのでその辺は仕方が無い。


「ま、どうにかなるだろう。邪神みたいな存在は本来はあり得ない存在だと、呼び出した女神さまも言っていたしな」


本当にあの世界の神々にとっても、邪神という存在はイレギュラーだったようだし。


正直、二度も三度もあんな化け物と戦ってられない。


「ま、あのレベルではないけれど、今後のことを考えると何か出てくるかもしれないし、備えだけはしておくか」


ミノタウロスが存在するなら、恐らく傍迷惑なギリシャ神話に出てくる神々も出てくるかもしれない。


明確に神とされている連中が現れた場合、神系のスキルが使える俺でも太刀打ちできるか分からないな。


いざと言う時の為に宇宙に出て、対神用の戦略爆撃が出来るように、隕石を落とせる準備をしておくか?


物理攻撃が効くか分からないし。周りに大きな被害が出るけれど、場所次第では十分使い道はあるだろう。


もしくは苦手だけど、鍛冶スキルを更に鍛えるか?


習得できるスキルは全部取っているけれど、熟練度的なモノが生産系の勇者に比べようもないほど差がある。


あいつ等は熟練度で言えば、戦闘系勇者と製造系の勇者の製造系スキルの熟練度は天と地の差があるからなぁ。


回数だけではなく、熟練度の上がり方も差があったし。


その分、戦闘面では俺達が圧倒的に熟練度が上がりやすかったから、一長一短だろうが。


「攻撃用の隕石は少し考えるか。でも、日本の伝説の武器から作ってみるか? 武器を作る方が比較的やりやすいからな」


俺は自分で買ったスマホではなく、アンネから貰ったスマホを取り出し縁眼さんにメッセージを送る。



――天羽々斬剣と天叢雲剣と布都御霊とかを作ろうと思うんだ。どこかに霊的によさげな人里離れた土地は無い?



それから、五分ほどして縁眼さんから電話が掛かってきたのだが。


『こ、今度は何と戦うつもりですかーっ!?!?!?』


涙声で縁眼さんに耳元で叫ばれてしまった。




『心臓が止まるかと思いました』

「すまない、いきなりだったな」


一通り、縁眼さんに事情を説明して落ち着いてもらった。


そうだよな。いきなり伝説上の武器を作ろうとする。何かヤバイのが出てきたと思われても仕方が無いな。


ここ最近の騒動を考えれば。


『はい、ですが。いくら武様でも日本の伝説の剣を作るのは不可能だと思いますよ?』

「まあ、そうだな。普通なら無理だろう」

『……普通ではない方法があるのですね?』

「まあ、その色々な。出来れば内密で頼みたい」


俺はイベントリから何気なく、高純度のオリハルコンのインゴットを取り出す。


オリハルコンは邪神の眷属を殺しまくってスキルのお陰で大量のドロップを手に入れた。


そのお陰で腐るほどある。それこそオリハルコンインゴットを積み重ねて、巨大ピラミッドを複数建築が出来るくらいには。


『分かりました。一応、縁眼家が所有している土地で良さそうな場所があります。今度行ってみますか?』

「そうだな、準備もあるから、夏休みに行ってみるか」

『では、案内をしましょう』

「良いのか? 夏休みにシャナを避暑地へ連れていてくれる話もあったが?」

『はい、大丈夫ですよ』


夏休み、結構予定が増えてきたな。スケジュールを改めて構築しないと。


俺はイベントリにオリハルコンインゴットを入れて、スケジュール帳を取り出し仮の日程を確認する。


「ふむ、行くとしたら、夏休みの後半だな。多分、ギリギリまで試作品を作るから」

『試作品ですか?』

「いきなり作ろうとしても無理だろう」


まあ、伝説の剣の威力を出すだけなら、簡単だろう。既にそういう剣はある。

最大射程五十キロの魔力砲撃が出来る剣とか。


……あれはミサイル系の魔法か、使い捨ての魔法道具の方が、コストと効率が良いと分かった。


俺が今後の為に作る必要があるのは、神の力が宿った武具だ。一応、神系のスキルが使えるから、俺も半神のようなモノらしい。

それが理由で邪神やミノタウロスが神威を使っても平気だった。


だが、その力を武具に宿らせるとなるとかなりの難易度。


直ぐにどうこうできるものではないから、じっくりとやっていくしかない。


「まずは、オリハルコンで試作品を作って、ある程度作れるようになったら、緋緋色金を使って神剣を作ろうと思う」

『…………わたくしは、何も聞きませんでした』

「どうした?」


俺の言葉で、縁眼さんの声から感情が消し飛んだ。今俺はおかしなことを言ったか?



『伝説の金属を試作品使用するとか、百円玉サイズでもありえないほど高額な緋緋色金で神剣を作るなんて言葉は聞いていません』

「あー、うん。分かった」


縁眼さん達からしてみれば、伝説の金属となるオリハルコンや緋緋色金はとんでもない代物なんだな。


しっかりと覚えておこう。でないと縁眼さん達に心労をかけてしまう。


「と、兎も角、また明日。俺の家に来るんだよな?」

『は、はい。行きます。申し訳ありません、ちょっと驚いてしまって』

「いや、気にするな。それじゃあ、またな」

『はい、また明日』


おやすみ。と縁眼さんに告げると縁眼さんもお休みなさい、と俺に返答して電話を切った。


明日は縁眼さんが来るようだ。まだ、そこまで夜遅くと言うわけではない。

夕食を食べたし、食後の運動がてら近くのスーパーで何か買って行くか。


縁眼さん、俺の世話をすることで精神が安定をさせようとしているし。

やはり、俺に気に入られないと。と気負っているのだろうな。


うん、明日は縁眼さんにお世話をされながら、少しでも縁眼さんの負担をやらげるような行動をした方がいいな。


こうして、俺はラフな格好に着替えてスーパーへ。

道中、あれやこれやと縁眼さんに出来ることを考えた。




あと数日で夏休み。長い休みの前に小テストが連続で行われる。

クラスの半数ほどは必死に勉強を行い、残りの半数はどこか肩の力を抜いたというか、諦めた表情をしている。


「来年は受験生ですから武先輩も大変ですね」

「俺の場合は大学進学しなくても問題ないレベルで既に稼いでいるから、少しは気楽だけど」

「えっと、お仕事結構儲かるんですね」

「一応、命はかかっているからな」


昼休み、流石に外は暑いので、学食の端っこの方で麻山と二人で弁当を食べることになった。


「専門職って大変ですね」


対魔師局などは公的機関だから、給料安そうだけど。


魔法業界って、割と給料良いらしいんだよね。その代わりに仕事内容によっては、死ぬ危険性高いけど。


「えっと、夏休みの最初の週は私にアノことを教えてくれるってことで良いんですか?」

「ああ、今後は関係者だからな。最低限知識はあった方がいいだろう。それと、使い魔を貸し出すつもりだ」


もしくは、俺がフォローして使い魔を作らせるか。


「使い魔? あ、えっと」

「魔法で声が周辺に聞こえないようにしているからボカして言う必要ないぞ。安心しろ」

「え、あ、はい。それじゃあ、その使い魔って漫画とかに出てくる?」

「そうだ。黒猫とかカラスとかが分かりやすいか?」

「なんというか、魔女みたいですね。……私もやっぱり魔法は使えたりしませんか?」

「前にも言ったが、麻山には魔法の素養は全くないから諦めろ。今回は道具を使うから魔法の素養が無くても平気だ」

「そ、そうですかぁ」


がっくりと肩を落とす麻山。

存在しない筈の魔法と出会って、もしかしたら自分も魔法が! と思っていたら、魔法は使えませんでした。となったらやはり残念な気分になるわな。


「身を護る時の為に魔法道具の使い方も覚えてもらうから、まったく魔法を使わないわけじゃないから」

「小さい子を宥めるみたいに言わないでくださいよ。拗ねますよ」


既に拗ねているだろう。とは言わない。

でも、俺にも魔法が使えなくて落ち込んだ経験はある。

チートスキルがあるとはいえ、周りの勇者が使っている魔法を中々俺は使うことが出来なかった。

戦闘系勇者でも、大まかに物理系、魔法系、特殊系の三つに分けられていた。

俺はそのなかでも、特殊系で魔法の熟練度が上がりにくかったんだよな。

物理系よりはマシだったが。


「ま、日本国内で連れ歩いてもおかしくない使い魔なら、何でもいいから今のうちに決めておいてくれ。犬なのか猫なのか」

「国内で連れ歩いてもおかしくない、使い魔ですか?」

「ああ、犬猫以外もいいけれど、ちょっと目立つかもしれないな。まあ、姿を消す魔法道具があるから、ライオンでもいいぞ」

「ら、ライオンは流石に。でも、分かりました。考えておきますね」

「ああ、考えておいてくれ」


昼食を食べ終え、俺達はそれぞれの教室へ戻った。

まだ、小テストが残っている。

俺は悪あがきではないが、クラスに戻った後、小テストの為にノートを再度確認することにした。


この連続で行われる小テストが終われば、待ちに待った夏休みに突入する。


今年の夏は去年よりも賑やかになりそうだ。

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