第20話

気温もすっかり高くなり、世間の学生の話題に夏休みが上がるようになった頃。


俺は縁眼さん。というか縁眼家としてお願いをされた。


縁眼さんが誘拐された時に、縁眼さんと一緒に助けた霧崎環さんと雇い主を守りながら助けを呼びに行った嘉十鱗さんの二人とは一度だけ、顔を合わせていた。


その二人から改めて挨拶がしたいということだった。


前回お礼をされた時は、縁眼家が主体となって挨拶もそこそこに、お礼と救出依頼を出したということにして、謝礼金を俺に渡したのだ。


税金とか面倒なことは全部縁眼家がやってくれた。


本当に数分で解散した。霧崎家と嘉十家的には下心もあるだろうが、それとは別にちゃんとお礼が出来ていないと感じているようだ。


ちなみに、縁眼家と霧崎家と嘉十家は対等ではあるが、財力や武力などのことを考慮すると対等とは言えない。


まあ、大きな差があるわけではないが、それでも忍者と縁を持っている縁眼家が優位性が高くなったようだ。


ただ、あまり差が出来るとそれはそれで問題が起こるかもしれない。縁家は考えている。


「お手を煩わせて申し訳ございません」


放課後、俺は縁眼さんから話があると言われ、込み入った話らしいので、俺の家で話すことに。


家に帰宅、少しして縁眼さんが俺の家にやってきた。


縁眼さんに家に上がってもらい、自室へ案内して俺が自分と縁眼さんに座布団を渡してフローリングの床に座ると、縁眼さんは座布団を使わずにフローリングの土下座する。


夏服の女子学生が同い年の男に土下座する光景は第三者に見られたら色々と問題のある光景だな。


まあ、縁眼さんの場合は実家が和室だらけだから、正座が基本で正座の状態から頭を下げることへの抵抗感は無いのかもしれないな。


とりあえず、頭を上げてもらおう。話しにくいし。


「つまりはちゃんとしたお礼と遠回しなお見合い、というかその前段階の顔合わせがしたいと?」

「はい、縁眼家の方で武様はまだ結婚などは考えておられない。など色々と話をしたうえで、武様と顔合わせだけでもという頼みを霧崎家と嘉十家から頼まれまして」

「……はぁ、一応さ。女の子は好きだけれど、その縁眼さん的にはどうなの?」

「寧ろ、武様がよろしければ、あのお二人を武様の御側に置いておいた方がよろしいと思い、この度はお話を持ってきた次第です」


どういうことだ? 縁眼さん的にはライバルは少ない方がいいのでは?


「どういうことだ?」

「数の問題ですね。アンネ様が将来どのような形で武様の御傍に居るのか分かりませんが」


え、ああ、縁眼家的にはアンネが俺の傍に居ることは確定しているのか。


「確実にあと数人は海外から武様の御傍に女性が送り込まれます。その対策です」

「いやいやいやいや、流石に拒否するって」


俺が慌てて首を横に振ると縁眼さんは少し困った表情でこう告げた。


「そういう風に教育を受けた女性が武様に泣き落としをされたら、武様は拒否できますか?」

「うーん。でも、そうなったら、ああ、そうか、実家とか後ろ盾を潰してもその女性は引き取るな。思い人が居ない場合は」

「はい、組織なら滅ばないように立ち回るでしょうが、武様はドラゴンスレイヤーであり、今後はヒドラとの関連も噂されています。ハッキリいますと。今ある家を潰してでも子種を手に入れる価値のあるお方ですよ」

「え、マジで?」

「はい、それこそ吸血鬼や数百年の歴史がある家などなら、潰すのに抵抗があるかもしれませんが、比較的歴史が浅い家は捨て身の覚悟で来る可能性が高いですね」


頭を抱えたくなるな。家を潰されても俺が女を引き取れば血は残る。


次の子供がダメでもその次の子供がドラゴンスレイヤークラスの力を持った者なら残党が集まって新しい家を作れる可能性はあるか。

「国内の武様を利用しようとする家もいくつかございます。それを牽制するためにも武様には出来れば霧崎環さんと嘉十鱗さんと一度お会いしていただけますと助かります。実際にお二人を御傍に置く必要はございません。お互いに相性がございますから」

「はぁ、まあ、そうだな。確認だけど、その二人は恋人とか居ないんだな?」

「はい、大丈夫です。無理やりではありません。寧ろ、お二人はかなり積極的にお話がしたいと」

「何故?」

「環さんは武様の武力に、鱗さんは呪いを解除する呪術師であり、式神使いでもあるのですが、蛇が大好きでして」

「霧崎さんは縁眼さんを探している時に直接顔を合わせたけど、鱗さんとは救助の依頼ということにした報酬を貰った時にいた背の低めの女の子だよね?」


嘉十鱗。小柄で天真爛漫そうで、ある部分がとても大きい女の子だ。あちらの世界で女体に慣れているのでガン見やチラ見はしなかったはずだが、思わず男の本能でガン見しそうになったよ。


「はい、実は依頼主の護衛をして、安全な場所まで移動。それから実家と対魔師局などに助けを呼んだ後、後を追いかけてきていたようなのです」

「へー、それは凄い行動力だな」

「はい、彼女は式神を大量に使い、高速道路や空港、港を監視してました」


それで、俺たちの事を見つけたってことか。

割と派手にやっていたもんな。ヒドラを見られてもおかしくないか。


「どうでしょうか? お二人は才能と性格なども考慮して、武様の御傍に置くメリットが多い方達です」

「そうだな。将来のことを考えれば、良い判断かもな」

「では」


俺の言葉に嬉しそうな雰囲気になる縁眼さんに一応、釘を指しておく。


「ただ、俺が将来魔法業界に出来るだけ関わるつもりが無いことを忘れないでくれよ。俺の存在をある程度は利用するのはいいが、好き勝手やるならこちらも考えがあるからな」

「はい、武様が将来、平穏に暮らせるように縁眼家は力を尽くします。そして、霧崎家と嘉十家も同じく武様の望みが可能なように動いてくれるはずです。そのために友好的な二つの家からの頼みを武様にお伝えいたしました」


と言うわけで、夏休みの前に一度、縁眼さんの友人の二人。霧崎環さんと嘉十鱗さんの二人と顔を合わせることになった。


どうしよう、霧崎環さんと嘉十鱗さんの二人とも、ズルズルそういう関係になる気がする。


とは言え、最初は俺の正体を向こうには明かさないから、そこまで酷いことにはならないか。


「分かってる、色々な連中が嗅ぎまわっているから」

「はい、武様の武力はとても魅力的ですから」


嗅ぎまわっている奴等を調べて、潰せるのは潰した方がいいな。


「要件は以上か?」

「はい」

「それじゃあ、これからどうする? 少し休んでいくか、ああ、もちろんそういう意味じゃないぞ」

「はい、理解しております。それで、その」

「どうした?」

「仲良くなった佐藤さんから、おすすめの映画を教えてもらいまして」

「ああ、佐藤さんね」


クラスメイトの佐藤さんはクラスの女子の中心メンバーだ。彼女は映画やドラマを結構見ているタイプだったな。


「一緒にその映画を見てみませんか」


そう言って縁眼さんは自分のスクールカバンから、タブレットを取り出した。


今、一緒に見ようってことか。ネットの動画専門サイトに登録すれば割と沢山見られるからな。


「いいよ、最近映画って本当に見ていないかったから」


こうして、俺は縁眼さんと二人で映画を見ることになった。俺は飲み物を冷蔵庫から持ってきて、テーブルの上に縁眼さんのタブレットを置き、自立できるので角度を調整して。


そして、映画を見始めたのだが。


「せっかくですから、電気消しますね」

「ああ、頼む」


タブレットの画面が小さめだが、見る分には問題ない。

パチッと部屋の電気が消された。即席の映画館としては問題ないだろう。

俺はタブレットに映し出されるスポンサーやCM見ながら、縁眼さんを待つ。

そして、俺の耳に届く――カチャ。という金属音。


「ん、縁眼さん」


俺が今の音は? と声をかける前に縁眼さんは素早く俺の隣に座った。


今度はちゃんと座布団を使って座っている。俺の視線に気づいて縁眼さんはちょっと緊張した雰囲気で何かありましたか? というふうに笑みを浮かべる。


「なんでしょうか?」

「今、部屋の」

「あ、始まりますよ」


カギ閉めなかったか? と聞きたかったが話をそらしたので俺は内心でしょうがないな。と思いつつスルーした。

そういえば、あっちの世界でも似たようなことがあったなぁ。と思い出したよ。


あの時は、魔王軍のハニートラップの魔族の女性達だったな。

俺達は五人で行動していて、俺も含めて男性勇者四人全員が引っ掛かり、危うくミイラになるところだったんだよな。性的な意味で。


俺は念の為に飲み物を確認する。うん、うん、大丈夫だ。いくらなんでも警戒しすぎだな。寧ろ、二人きりで警戒しないといけないのは縁眼さんの方のはずなんだが。


こういう危ないかもしれないと警戒してしまう思考は変えられないかもしれないな。

いや、意外とファンタジーな世界だし、変わらなくてもいいのかな。


徐々に緊張感を高めていく縁眼さんに俺は内心苦笑いをしながら、時折話変えて緊張をほぐした。


映画が終わった後、縁眼さんは気疲れしたのか、ぐったりしていた。


ただ、縁眼さんは勇気を出してアプローチをしてきてくれたな。


俺は少しだけ、縁眼さんの手を握り、「ゆっくりな」と告げて、しばらくの間、縁眼さんと手を繋ぎ続けてあげたんだけど、逆に俺が何もしないから、余計に緊張させたのかもしれないな。


そこは反省しないとな。

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