第15話



先日アメリアさんから、日曜日空いているか? と問われたので俺はアンネに知られずに内密の話があるのでは? と考えた。


単純に俺のことを探るために一緒に出掛けたいのかとも思っていたが。


実際は違った。アメリアさんは俺にアンネとデートをしてほしい。と頼んできた。


アンネはどうやらここ最近、王女として立ち振る舞いをすることに少し疲れているらしい。今通っている学校でもアンネは王女として気を張っているようだ。他国だから余計に神経を使うんだろうな。


イタリアの学校でも王女として立ち振る舞いをしていたが、やはり母国よりは気疲れをするのだろう。


そのリフレッシュの為に、俺がアンネとデートをしてほしい。と言われた。


遊ぶにしても変装とか大丈夫か? と思ったので聞いてみたら、一応変装できる魔法の指輪を見せてもらったが、俺から見たら低級のアイテムだった。


これだと、縁眼さんのような人に、アンネの正体がバレるかもしれない。


俺は変装する為の腕をアメリアさんに手渡して、日曜日はそれを付けるように告げた。


腕輪はシンプルなデザインで、周囲に見えなくすることも可能だ。


アンネと縁眼さんが火花を散らしている近くで、俺とアメリアさんは次の日曜日の出かける場所などを大雑把に話し合った。影からの護衛の配置とかあるだろうし。


幾つかピックアップはあるが、基本的にアンネと決めてほしいと言われた。アンネの為に頑張ろうと思う。


あっちの世界ではデートスポットなんて無かった。


だから、女を作った勇者達はあれやこれやと、デートスポットを考えた。


彼女を魔法で保護をして空を飛ぶとか、花火を作るとか。

海岸を開拓して、泳げるようにしたりもしたな。


だから、元の世界のデートって馴染みがない。


と言うわけで、家に帰った後はスマホでメッセージをアンネに送ってどこへ行きたいかいくつか候補を出した。


アンネは大分迷っていたが、大人も子供も夢の世界へ連れて行ける場所へ行くことになった。


さて、ただ一緒に遊びに行くだけなのか、デートなのか。

少し悩んでしまったが、デートと言うことにした。


「うん、全力でお互い楽しまないとな」


ま、アンネの癒しを最優先だが。


「とりあえず、恥ずかしくない程度に服を揃えないとな。それと靴もせっかくだから買い替えるか」


うん、デートってちゃんとしようとすると金が掛かるんだな。


バイト……はしなくてもいいが。世の中の学生って本当に大変だ。


そんなことを考えて、ハッとする。

俺も学生だよ! いや、過ごした時間を考えたら同世代の学生よりも年齢的には倍かもしれないけれど、基本的に戦ってばっかりだったし。


……いや、落ち着け。まだ慌てるような時間ではない。


深呼吸、深呼吸。それに魂の修復とかの時間は眠っているような時間だったからノーカウントだ!

よし、落ち着いた。

ええっと今、俺がやるべきことを考えよう。


「そうだ。あの場所ってどんな施設があるんだ?」


俺は意識をそちらに逸らすように、スマホでホームページを確認して、施設などを確認する。

それと遊びに行った人の感想とかを調べて、気を付けることも確認。


これ調べるだけでも結構時間がかかるな。

そんなことを考えながら、俺は当日の大まかなデートプランを考えていった。






デート当日。


縁眼さんには事前に少し外せない用事があるから、家に居ない。頭だけ告げた。

縁眼さんも何か用事があるのか分かりました。と普段通りだった。


老若男女に愛されるテーマパークへ行く事するかな。



待ち合わせ時間は比較的早い午前にした。やはりチケットを買うなら早めがいいだろう。

事前に当日のチケットをネットで購入しようとしたが、なんとなく予想していたが購入できなかった。


と言うわけで、待ち合わせのテーマパーク前にある公園の噴水の前で待っていると。


「お、お待たせ。待った?」

「大丈夫だよ。今きたところだから」


寧ろ、お前が待っていただろう。と言いたくなるくらいには俺が待ち合わせ場所に到着して直ぐにアンネは来た。

待ち合わせより三十分ほど早くに到着したが、もう少し早くに来るべきだったか?


そんなことを考えながら、今のアンネの姿を確認する。

相変わらず、髪型は金髪ツインテールで、動きやすい服装を意識したのか上は少しサイズが大きい桜色のシャツとクリーム色の夏用のパーカー、下はデニムショートパンツ。

靴は暑くなってきたからなのか、白い花のような飾りのミュールって言うんだっけか? を履いていた。


普段はドレスとかお上品は格好をしているアンネだからこそ、私服は年相応。もしくは少し背伸びをした服を着たかったのかな?

鑑定するまでもなく、デザインのことは分からないけれど、身に着けているのがしっかりとした店の者だと分かる。ベルトとかも高そうだな。



「こういう時の私服は初めて見るけど、良く似合っているぞ」

「え、あ、うん。ありがとう」


少し照れた様子のアンネに俺は思わず言ってしまった。


「なんで、そんなに照れる?」

「だ、だって、こういう格好って禁止されていたし」

「そうなのか?」

「うん、だって、生まれが生まれだからね」


ああ、そうか。確かに王女様だから、変な服を着られると王家のブランドイメージが下がるな。


「でも、今は違う。周りから見て今の、あー。えっと何て呼ぶ?」

「そうね。違いすぎると混乱するし。アンで」

「分かりやすくないか?」

「意外と分からないわよ」

「なら、アンの姿は大分違って見えるはずだぞ」

「それは確認したわ。鏡を見て驚いちゃった。髪の毛も顔立ちも結構違うんですもの」

「無理のない程度から、全くの別人まで出来るからな。無意識に別人ではなく。無理のない程度の変身を望んだ結果そうなっているだけだから」

「そ、そうなの」


一度装備して変身したら、外すまで勝手に姿は変らない。心境の変化があっても姿は勝手にコロコロ外見が変わることもない。


「じゃあ、行こうか」

「う、うん。――っ?!」


俺は歩き出したと同時にアンネの手を掴んで歩き出す。


「え、あのちょっと?」

「アメリアさんからデートだって聞いたけど? 手を繋ぐの止めておくか?」

「う、ううん。このままでお願いします」


恥ずかしくなったのか、俯きながら歩くアンネ。


「それと早く来ても少し並ぶようだ」

「え、あ、うん」

「並ぶの大丈夫か?」

「大丈夫。イタリアのアニメイベントでこっそり並んでイベント参加したこともあるから」

「アメリアさん達に迷惑かけるなよ」

「お父様とお母様も一緒だったわ」

「おい、王族」


護衛達は苦労してんだろうなぁ。

王族がお忍びでイベント参加とか、主催者と護衛などの関係者は本当に気苦労が絶えなさそうだ。


「あ、そうだ。アメリアからこのチケット貰ったから、並ばなくていいって聞いたけれど?」

「え?」


そういうとアンネは、一般列ではなく列が異様に短い方へと俺を連れて言う。

アンネの手には高級感漂う、ここのテーマパークのチケットが二枚握られていた。

短い列でどんどん前の人が進んでいくので、俺達の順番も直ぐにきた。


「これお願いします」

「はい、――っ?! はい、お預かりいたします。はい、確認いたしました。こちらのパスをお持ちください。腕に着けることも出来ますよ」


スタッフがポーカーフェイスだったけれど、内心超驚いているのが分かった。

多分、年間パスポートか、それ以上の何かのチケットなのだろう。


俺達はこうして、テーマパークへの中へと入って行った。


「えっと、このパスがあるとアトラクションによっては待ち時間を飛ばして優先的に乗れるんだっけ?」

「ええ、そうみたいね」

「どうする? 今回は一度も並ばずに乗れるアトラクションだけにするか? 何か優先的に乗りたいアトラクションはあるか?」

「え、えっとそうね」


俺はアンネから乗りたいアトラクションを聞いて、パスが使えないアトラクションをスマホでインストールしたここのテーマパークのアプリを確認する。


「この五つは乗ってみたいかな?」

「それだとこの二つがパス使えないな。まだ人が少ないからパスが使えないモノから乗っていくか?」

「う、うん、けどいいの?」

「何がだ?」

「武が乗りたいのって」

「大丈夫だよ。絶対に乗りたいって言うのは今のところない。こういうところ遊びに来たことないからさ。寧ろ迷ってばかりで時間だけが過ぎるタイプだから、アンネが居てくれて良かったよ」


こうして、高級感溢れるパスが使えないアトラクションから遊んでいくことになった。


火山をイメージしたジェットコースターとか、お化け屋敷っぽい場所とか。遠近法を上手く取り入れた城を探索するアトラクション。


スキルを切っていたから、かなり楽しめた。


「意外と怖がりなんだね。武って」

「そうだな。ジェットコースターって自分の意志で動かせないから結構怖かったよ」


一区切りということで、三つ目のアトラクションに乗った後、俺達は近くのベンチで休憩をしていた。


正直、アトラクションの待ち時間は、アンネとの会話などの間を持たせるのが結構大変だったが。


終わってみれば、お互いの子供の頃のことを話をしたり、最近遊んでいるスマホゲーで協力プレイなどをして時間を潰せた。

お互いに並ぶことに慣れてて良かったよ。


「そういえば、アトラクションって短いようで、結構長かったな」

「あれだけ並んだのに、短すぎたらお客さんは怒ると思うわよ」

「ま、確かに」


次にどれに乗ろうか。とアンネと話し合いっていると、少し離れたところで少し嫌がるような声が聞こえた。

見てみると女の子四人組が男の子。いや、大学生くらいか。のグループにナンパかな? されていたのだが。


「「あ」」


女の子四人組の中の一人と目が合った。

その女の子は最近ちょこちょこ顔を合わせる

俺の後輩の一年生、麻山美波だった。


性格はクソガキで、確か運動部で長いと髪が邪魔とかでショートカットにしているボーイッシュでクソガキのような美少女だ。

彼女もその友達三人もかなりおしゃれで顔立ちも良い。


「アン、少し待ってくれるか?」

「どうしたの、アレが何?」

「知り合いが困っているみたいだから、ちょっと助けてくる」

「うん、いいけどやりすぎないでね」

「大丈夫だ。少し追い払うだけだ」


俺は即座に麻山にメッセージを入れた。


――助けがいるか?


すると直ぐに返事のメッセージが来た。


――お願いします!


と言うわけで、ベンチから立ち上がり、威圧スキルを二段階で発動。

その時点で周囲の人間が俺に注目し始める。青年グループも俺を見てビクつく。


ゆっくりと麻山達の方へ移動しながら、距離が残り半分になったところで一段階引き上げる。

すると青年グループが数歩後ずさった。


そして、意識的に威圧スキルを青年グループに向けながら、麻山の近くまで言って話しかける。


「よぉ、麻山、奇遇だな?」

「は、はい。先輩」

「今日はなんだ? グループデートか?」

「ち、違います」

「そうか、この人達はナンパか?」

「は、はい、そうです!」


俺の威圧スキルの影響で、麻山まで気を付けて状態にさせてしまったのは、悪いことをしたな。と思う反面。


直ぐに終わらせるならこれだろう。ということで俺は青年グループに近づいて声をかける。


「スタッフ達が君達を見て先ほどからしきりに無線のやり取りをしているぞ」

「え、え?」

「しつこいナンパ。トラブルを起こす客は退場させられる。適当なところでナンパは切り上げろ」


――分かったな?


少しだけ声に魔力を乗せると、青年グループは「「「「は、はい。分かりました!」」」」と声をそろえてその場から逃げるように去った。


それを確認して、俺は威圧スキルを解除して麻山に声をかける。


「ごめん、怖かっただろう」

「い、いえ、助かりました。先輩」

「お詫びに何か奢らせてくれ」


俺は少し、強引だが近くにあったショップで麻山達にジュースとポップコーンを奢った。

専用のボトルと容器が気に入ったのか、麻山のお友達は何度もお礼を言ってきた。


「あ、あの先輩」

「なんだ?」

「その、ごめんなさい。彼女とデート中に」

「ん? デートではあるが、彼女じゃないぞ?」

「え?」

「ほら、友達が待っているぞ」

「あ、はい。それでは」


俺は隣でちょっと不機嫌になったアンネに謝りながら、デートを再開した。


「別にいいわよ。仕方がないし」

「何か埋め合わせをしよう。何がいい?」

「夕飯もここで食べたい」

「分かった。アトラクションと休憩上手く組み合わせながら、今日は楽しもうな」

「うん」

「あ、その前に少し花を摘んでくる。直ぐに戻るから」

「え、あ、うん。良いけれど、あまり派手なのは駄目だからね」


何かを察したのか、俺にそれとなく釘を指してくる。安心しろ、今はデート中だ。

俺は近くのトイレに移動して、中に人が居ないことを確認。八人の別人に変化した影分身を生み出して先ほどの青年グループの後を追わせる。


「まったく、魔法犯罪者ではなくても、変な薬をばらまいている人間はどこにでもいるんだな」


四日後、半グレと呼ばれる犯罪集団が根こそぎ警察に逮捕されることになった。


警察も匿名の有力な情報と上からの指示で裏どりを行った後動き出したが、それでも十分に相手に逃げられることもなく、犯罪組織を摘発出来てホッとしていたようだ。


うん、鑑定眼って本当に便利。相手の所属や功罪が分かるのだから。


「お待たせ、それじゃあ。次のアトラクションに行こうか」

「うん」


俺は改めてアンネとのデートを開始した。


アニメ映画の舞台となった古城のアトラクションやSFチックなアトラクション。ガンシューティングのアトラクションを行い。

休憩がてら寄り道したお土産店では昔ながらのボールの的当てで高得点を出してみたりと、思っていた以上に楽しめた。


楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気が付けば日が暮れ始めた。


「夜のパレードはテレビで見たことあるけれど、暗くなれば意外と早くにやるんだな」

「ええ、そうね。季節ごとに暗くなる時間をしっかりと調べて行うみたいね」


このテーマパークでもかなり高級感のあるレストランで食事をする俺達。

周りから浮くかと思ったが、そうでもなかった。


確かにスーツ姿の男性はいるが、そこまで堅苦しい雰囲気ではない。


ゆったりとした気持ちで、テーマパークをイメージしたコース料理をアンネと共に楽しむ。


「アンは日本に留学して良かったか?」

「え?」

「いや、何かと大変だろうなって思って」

「そうね。来てよかったわ。武と会えたし。色々面倒ごとが片付いたから」

「あははは……」


俺はその言葉に嘘が無いことが分かった。

婚約者がやらかしたからな。本国は色々と大変みたいだけれど。


「少なくても約三年はこちらにいるだろうし。まだまだ色々と楽しめると思うわ」

「そうか、なら良かったよ」


アンネと談笑しながら、デザートが出されたところで、飲み物も変わった。

選んだデザートによって飲み物が変わるらしいのだが。


「あ、アンネそれって」

「ん? 何よ」

「酒じゃないか?」

「え?」


アンネの頼んだデザートの飲み物はアルコールとノンアルコールの二種類があり、本当に運が悪いことにアンネのところにアルコールの方が来てしまったらしい。

そして、アンネは酒が飲める。だから、気にせず飲んだらしいのだが。


「お、おい、しっかりしろ」

「あぅあぅぅ」

「申し訳ございません」


お店のお偉い方が俺達のところに来て、頭を下げることになった。


「大丈夫です。コイツの姉も怒りませんから」


トラブルが嫌なので、即座にアメリアさんに連絡を入れたところ。


『それならチケットで自動的に泊まれるように部屋があります。そこへ寝かせてください。私も直ぐにホテルへ行きますので』

「チケット? ああ、あの高そうなヤツですね?」

『はい、問題ないので部屋へ』

「分かりました」


俺はアンネを運ぶためにアンネを抱きかかえる。所謂お姫様抱っこだ。


「すみません。ホテルのフロントの場所分かりますか? このパスは宿泊も出来ると聞いたのですが」

「こ、これは、はい。大丈夫です。ご案内いたします」


俺がホテルの偉い方にホテルのフロントまでの道を聞いたら、そこまで案内してくれた。


俺がお礼を言うと「いえ、この度は――」と申し訳なさそうにしていた。


ホテルのフロントで、事情を説明してパスを見せると受付の女性はかなり驚いた表情で、「こちらでございます」と即座に案内してくれた。

やはり、金持ちが使うチケットとパスなんだな。


俺が案内されたのは、ホテルの一番高い階層のスイートルームだった。

武蔵ホテルのような魔法的な防壁が無い部屋なので、一応は軽く窓や壁に強化魔法を掛けておく。


「ほら、絡みつくな離れろ」

「やぁ~、たけるとくっつくー」

「くっつくな」


駄々っ子のように暴れるアンネに俺はどうしたのもかと思っていると。


「さいしょにであったのわたしー」

「はい?」

「だーかーらー、いのちをたすけてもらったのわたし! であったのわたし! わたしがひろいん!」

「何言ってんだ?」


ぐりぐりと俺の胸に頭を押し付けてくる


「らのべみたいにー、いのちたすけてくれたー。かっこいぃ」


俺は溜息をつく。ラノベみたいに、ね。

勇者になって最初の頃、日本人勇者達の半数はそう思っただろう。

それぞれが運命的と呼べる出会いがあった。

特に男の勇者は女の子にデレデレしていたが。


それでも、腕がちぎれて心が折れそうになったり、悪人を殺して罪悪感に押しつぶされたり、眼の前で人が死んで落ち込んだり。

心のどこかで自分をラノベの主人公のように考えていた。


魔王を倒して、これからが本番だと気合を入れていた。勝って帰る。あの世界で出会った。大切な人達のところへ。

勇者全員が本気でそう考えていた。


「俺はかっこ良くないよ」

「んー……」


眠そうになるアンネに囁くように教えておく。


「守りたい人達が守れなかった」

「そぅなのー?」

「ああ、だから、かっこ悪いさ」


俺はアンネに優しく、眠りの魔法を掛けて、ベッドに運んだ。

スイートルームのリビングのソファで腰をかけて、アメリアさんが来るまで待っていると。


「遅くなりました」

「アメリアさん」

「少し手続きなどを行っておりました。ありがとうございます。武様」

「いや、いいよ。それで、今日のデートは合格?」


俺の言葉にアメリアさんは少し何事かを考えるとこう告げた。


「合格です。ですが、満点ではありません」

「そうか」


俺が笑うとアメリアさんはニッコリ笑いながら、こう続けた。


「満点にする方法がございます。今からアンネローゼ様の寝室のベッドへ行くという選択肢が「しないからね」さようでございますか」


とても残念そうな表情のアメリアさんに、俺は今度は苦笑いを浮かべてしまう。


「それで、あのお酒はアメリアさんが?」

「…………はい、可能性は低いですが。そのまま流されてくれるかなぁ~と」

「はは、怒りますよ?」

「申し訳ございません」


たぶん、分かっててやっているな。俺が怒らないって。


「ですが、アンネローゼ様が寂しがっているのは理解してほしかったのです」

「そこそこの頻度で会っているけど? 俺もその、友達居ないし」

「アンネ様はゲームみたいにポンポンとイベントが発生すると思っている【処女】です。男で言うなら【童貞】です」

「あ、あのアメリアさん、そんな処女とか童貞とか言わなくていいから」


俺がちょっと引いているのを察知したのだろう。素直に頭を下げてくれた。


「ともあれ、私共的には暗殺の時のようなドキドキイベントは、そんなに頻繁に起こると困るので、今回はデートをしていただきました」

「まあ、九州で派手にやったからな」

「はい、私共がまったく関わっていなかったので、見ていてとても楽しかったですね」

「ぶっちゃけたね」

「はい、事後処理は本当に大変なので」

「あははは、ごめん」

「いえ、暗殺の一件は武様は何も悪くないです。被害を最小限にしていただいた恩がございますので」


話をしていると、アンネの眠気が移ったのか、思わずあくびが出た。


「大丈夫ですか? 眠いのでしたら、この部屋に泊まっていきますか?」

「流石に止めておきますよ。本当にアンネがそういうことを望んでいるなら受け入れます。ただ、その場合は今後の事を考えてかなり動くことになりますが。アンネにそれとなく覚悟をするようにと伝えてください」

「かしこまりました」


うん、流石に酔っぱらっている時はね。

酔っていなくても、もう少しお互いのことを知った方がいいだろう。

俺もそうだがアンネも後悔しないように。


「じゃあ、帰ります」

「はい、そこまでお見送りを」

「いや、アンネの傍に」


そう言って、俺はスイートルームを出て、家路についた。


途中、電車内で麻山からメッセージが送られてきた。


内容は麻山からお礼と今無事に家に着いたという。


念のために護衛の影分身にも異常が起きていないので、大丈夫だろう。


「今日は楽しい一日だったな」


殺し合いばかりだったこの世界と比べて、この国はまだまだ平和だな。


裏の世界が結構ファンタジーだけれどな!


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