第14話
――アメリカ合衆国 ホワイトハウス
大統領を含めた政府要人は現在起こっている騒ぎとそれを鎮静化させようとしてアメリカ軍の精鋭魔法部隊が敗北したことを聞き、シチュエーションルームに集まった政府要人達は今までにないほど沈黙をしていた。
「確認しよう、我が軍の魔法使いは全滅したと?」
重苦しい空気の中、確認するために口を開いたのは現在のアメリカの大統領のラッセルだった。
六十歳の白人で元ハリウッドスター、主にミリタリー映画で活躍した人物だ。
自身も空軍の所属し、輸送機のパイロットをしていた。
「死傷者はおりません」
陸軍大将からそう伝えられたラッセル大統領はゆっくりと表情に笑みを浮かべる。
だが、眼は笑っていなかった。
「死傷者はいない。確かにいないな。だが、陸軍の特殊部隊の中で魔法無しでも一二を争う精鋭が全員無傷で捕縛され、全員ホワイトハウスの庭に投げ込まれたんだぞ! 意味わかってんのか!?」
「落ち着いてください、その件はメディアに流れておりません。噂話で終わりました」
「他国のスパイ達によって既に各国に醜態を晒しているがな!」
大統領は机を激しく叩いて怒りを露わにする。
「むしろ、その程度で済んだのなら、安いモノかと」
「どういうことかね?」
大統領にそう告げたのは、友人でもある副大統領だった。
「あの国の者は過去にもカミカゼをやらかしております。今回はそのようなことはしていない。寧ろ、迷惑な連中を片付けた上に、手柄を此方へ渡してくれました」
「ふん、押し付けてきたというのが正しいのではないかね?」
「そうですね。【光の鳥】は、誇張抜きでゾンビ映画のようなことが出来る力を持った組織でした。我々があの組織を潰そうとすればどれだけのコストが必要だったか」
「…………考えたくもないな」
「あの忍者達とは敵対しない方が良いかと、むしろ積極的に協力。形だけでも依頼したという話に持っていくべきです」
「我が国のヒーロー達と忍者が仮に戦った場合は?」
「現在活動しているヒーローはおりません。引退したヒーロー達も子供が出来て平和に暮らしております。仮に排除を要請したとしても拒否されるでしょうね。アメリカで活動している魔法犯罪組織を潰しに来た忍者を排除しろと言っても」
「むぅ」
「大統領、ヒーローはアメリカの平和の為に戦います。決してアメリカ政府の為に戦うわけではありませんよ」
「分かった。忍者とは上手く付き合ってくれ。可能であればこちらに引き込め」
「分かりました」
こうして、アメリカでの忍者もとい武の活動は黙認されることになった。
アメリカ政府からもたらされた情報のおかげで一気に作業スピードが上がり、何時かもかからないうちに魔法犯罪組織【光の鳥】は壊滅することになった。
ちなみにこの時、忍者と偶然が重なり、共に犯罪組織を壊滅させることになった不良刑事とか元軍人とか休暇中のスパイとかがいたらしいが、後日彼等が酒に酔って忍者の話をしてしまったお陰で、アメリカで現代忍者映画が作られ、何の前情報もないまま映画を見た武が心の底から悶絶することになる。
☆
ジャガノートこと能登シャナの治療は粗方終わった。
問題は身長だ。若返りの薬を使おうかと思ったが、スキルの直感が使うな。と警告を出していたのでやめた。
シャナは実年齢が一桁。
幼い状態で身体を急成長させられているので、若返りの薬を使うと胎児になる可能性がある。
錬金術が得意な勇者の仲間だったら、細かい調整も出来ただろうが、俺には大雑把なモノしか作れない。
時間を掛ければ出来るかもしれないが。
仕方がないので、しばらくはカプセルの中で肉体を休めてからだな。
戸籍については昨日、アンネの家で縁眼さんと話をして力を貸してもらえた。
娘を助けてもらった恩だと思えば安いモノと。
それと、魔法を知っているが、殆ど関わっていない老夫婦を紹介しようかと言われた。
何度か訳アリの養子を育てた方らしく、縁眼家でもお墨付きを出せる善良な人達だ。
自分で連れてきて、後は他人に任せる。と言うのもなぁ。と考えたのだが、縁眼さんに「私達は学生です。子供の世話は私達が思っている以上に大変なのではないですか?」と諭されてしまった。
更にアンネとアメリアさんにも、「意地を張るところではないのでは?」「適材適所を考慮すべきだと思います」と言われてしまった。
無駄を削ぎ落として、リミッターを取り付けたシャナの筋力は大幅に低下、一般人クラスの力しか出せないなくなった。
シャナの身長は二十センチほど低くなり、身長は約百八十センチ。
身長の高い子供を育てるのは、初老の夫妻に荷が重いのでは? と説明したところ。
「それでは私共が支援いたします」
アメリアさんの伝手でお手伝いさんが二人紹介すると言われた。
その二人は吸血鬼なので、シャナが暴れても腕力的にも問題はないとのこと。
それと子供の面倒を見ることが多い二人なので、怪我をさせる可能性も低いと。
「分かった。頼もうか」
「はい、お任せください」
「もっと頼りなさいよ」
「直ぐに手配をいたします」
こうして、後日。
精神的にピュアになったシャナを連れて、縁眼さんの親戚の小宮夫妻の元へ行くとお二人は最初こそシャナの身長に驚いていたが。
幼めの顔立ちと俺のざっくりとした説明を聞いて、シャナを立派に育てると言ってくれた。
小宮夫妻は子供を魔法犯罪者によって殺されており、訳アリの子供を養子に向かえたりするのは、その時の悲しい経験が理由のようだ。
「では、お任せください」
「はい、こちらも出来るだけ様子を見に来ますので」
「ええ、シャナちゃんに会いに来てあげてください」
「またな、シャナ」
「ぅん」
凶暴性が無くなったが、好奇心はある。
シャナは色々な物を見て触って感じながら成長していくだろう。
「でも、幼い子供を無理やり成長させて人体実験に使うなんて」
「そうだな」
怒りを露わにするアンネを宥めながら、口数が少ないがちらちらと俺を見てくる縁眼さんに俺はこう告げた。
「俺、意外と花が好きかもしれない」
「何急に?」
アンネが俺の発言に不思議そうな顔をする。
「いや、小宮夫妻って古い家系だろう? それの影響なのか古風な雰囲気の屋敷に生け花もいくつかったからさ」
「ああ、あったわね。フラワーアレンジメントとは違うけれど、綺麗だなって思ったわ」
「ああ、俺もだ。だから、なんとなく好きな花って何だろうなって考えたらさ」
俺は一瞬だけ縁眼さんと目を合わせる。
「くちなしの花。とか好きかなって」
一瞬、ビクリと縁眼さんの身体が震えた。どうやら意味が伝わったようだ。
俺はアンネ、アメリアさん、縁眼さんの三人にも、シャナがジャガノートだったことを伝えていない。
けど、縁眼さんは自身の眼で気づいただろう。
「ま、結局何でも好きかもしれないが」
「なにそれ?」
「さぁな」
それから、俺はシャナの元へ定期的に顔を出した。
幼く、肉体も骨ばっていたシャナは日々暮らしていくうちに身体も成長したらしく。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
「どわ!」
時間が経つにつれて、身体が女らしくなってきて、少々困ることになった。
あんなに小さかったのに、なぜこんなにも大きくなったのだろうか? そう考えながら、俺はしばらくの間、シャナに甘えられながら、床に押し倒され続けた。
☆
――対魔省庁
対魔省は主に魔法犯罪者に対応するために作られた組織だ。
色々あって、人ならざる異形とはあまり戦わない。
正確には人員不足で戦う暇がないというのが実情だが。
そんな普段は魔法犯罪者に対応する対魔省は現在ホワイト組織と呼べるほど、ゆったりとした時間が過ぎていた。
理由は先日アメリカで起こった、謎の忍者百人によるアメリカ横断魔法犯罪組織討伐の旅である。
話を聞いた時対魔省の全員が「あの忍者!!」と叫んだ。
その後、怒涛に押し寄せる内閣総理大臣を筆頭にお偉いさん達からの状況説明を求める連絡。
一番忍者と面識のある米沢は魔法薬を服用して鉄の女となって対応した。
更に国内でも発言力が上位であり、対魔省に協力的な縁眼家から「おい、どうして国内にアメリカを拠点に活動している魔法犯罪組織の構成員が大量の戦力を持って日本の領土内に侵入できた? お前等仕事しているのか?」と怒り狂った抗議が寄せられた。
結果的に、匿名のリーク情報で日本国内にテロリスト集団を招き入れた一派を対魔省の部隊で捕縛することが出来たので、最低限の面子は保つことが出来たが、ここしばらくの間米沢たちは不眠不休で仕事をし続けた。
そして、ようやく。通常業務になると思っていたら、国内から魔法犯罪組織が大量に逃げ出したのだ。
もちろん、そのタイミングで匿名のリーク情報が投げつけられてきて、米沢達は半泣きで警察と共に逮捕しに走り回り、義務を全うした。
大量に捕縛した魔法犯罪者を魔法犯罪者専門の警察の部隊に引き渡し、ようやく一息をつけたのだった。
「……平和ですね」
「平和ね」
休憩時間、休憩室のソファに座る新人の若い女性職員の言葉に同意する米沢。
普段鉄の女とか呼ばれている彼女でも、ここしばらくの激務は精神的に堪えた。新人の女性職員のようにぐったりはしていないが、やはり疲労が見える。
「でも、もう少ししたら、また忙しくなるから、そろそろ気持ちを切り替えなさい」
「はーい」
忍者のおかげで、酷い目に合ったが、これでしばらくは国内の魔法犯罪者は減っていくだろう。
魔法業界的には「日本が本気で怒って、アメリカに無許可で殴り込みをかけた。やっぱりあいつ等頭おかしい」と思われる事件。
「どうにかして、忍者と話が出来ないかしら」
出来れば、今度は大雑把にでも打ち合わせをしてほしい。
今回の騒ぎで、国外に逃げようとした魔法犯罪組織から保護した被害者たちのリストを見ながら、満足感を感じながらも二度とこんな大変な目に合うのはごめんだと米沢は心の底から思うのだった。
☆
アンネーゼの仮の屋敷 私室
「もう一度、言ってくれるかしら?」
「日曜日、デートしてもらいます。武様と」
「誰が?」
「アンネローゼ様が」
「どうやって?」
「武様からお借りした、変身の腕輪を使って」
「いつの間に借りたの?! てか、何してんの!?」
「アンネ様がお出かけしたいとおっしゃっていることを教えたら、いいよ。と言っておりましたので」
「いや、えっと?」
「しかし、元の姿でお出かけすると目立つので何か良いアイテムはないですか? とお聞きしたところ、変装できる腕輪があるとのことでしたので、お借りすることになりました」
「……え、いつの間に出かける約束を取り付けたの?」
「縁眼様と醜い言い争いをしている時ですね」
「…………」
「漁夫の利を得ようかと思いましたが」
「漁夫の利!?」
「主人を優先した訳です」
「優先と言うよりは、譲ってやった。と思っていない?」
「ふっ」
「鼻で笑った!!」
「ま、頑張ってください」
「貴女最近私に対してぞんざいじゃない?!」
「気のせいです」
とても素敵な笑顔で、アメリアはアンネローゼに変身の腕輪を手渡した。
「この腕輪一つで、恐らく数億の値打ちがあるわよ」
「スパイが喉から手が出るほど欲しがるアイテムでしょうね。効果を確認しましたが、見破るには余程の使い手でないと無理かと」
「武には今度、安易にこういうアイテムを人に渡しては駄目よ。って言っておかないと」
「そうですね。しかし、悪用されてもしっかりと報復出来る力があるので、そういうことを気にしないのだと思います」
「ああ、そうね。その可能性が高いわね」
改めてアンネとアメリアは武の異常さを認識するのだった。
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