第13話

邪神を討伐する為に最初に貰った、俺だけの固有の能力。


【星座の勇者】は簡単に説明すると、地球に存在した星座に応じた力が使えるというものだ。


例を上げると、獅子座は強力な獅子を呼び出せたり、自分を獅子の獣人に変身したりも出来る。


勇者に成り立ての頃は、汎用性はあるスキルだが、防御特化のモンスターや中ボスクラスの魔族相手には、攻撃力不足が目立っていた。


敵を倒すことで手に入るスキルポイントで、俺は通常の魔法などのスキルを覚えて戦うことが多かったな。


魔王との決戦前にようやく、勇者らしい威力とスキルに覚醒して、邪神との戦いでは【星座の勇者】は、神話のような活躍をすることになった。


ただ、欠点がある。

元の世界に戻ってきたからこその致命的な欠点、それは。


――威力が大きいことだ。


ペガサスなどは移動に使えるが、気を付けないと超高速で移動する周囲に被害が出てしまう。


本当に気をつけないとな。



縁眼さんを救助して一週間。


最低限、後始末を終えた夕方。俺は自宅のリビングでソファに座りながらテレビを見ていたのだが、九州の沖合いで巨大な蛇の目撃情報が相次ぎ、映像まで撮られてしまっていた。


運悪く俺達が戦闘をしている付近に豪華客船が航行していて、テレビクルーや乗客が遠目ではあるが撮影に成功してしまったのだ。


沈めた船はそこそこ沖から離れていたこともあり、海上なら目撃者もいないだろう。と思って目撃者対策をしていなかったのが失敗だった。


アンネから「対魔師局から連絡くれって伝言貰ったけど?」と言われて、「無視で」とお願いした。


正直、そっちに関わっている時間は無い。


多少、衝動的な行動ではあったが、生物兵器として改造されたジャガノートと呼ばれる存在を連れ帰った。


このジャガノートはスキルで調べた結果、元は子供だと分かった。更にこのままだと、一年以内に死亡するとスキルによる分析結果が出た。


マネキンみたいなアンドロイドを操っていた男の頭からある程度情報を読み取ったが、寿命が短いことをアンドロイドを操っていた男は知らなかったところをみると、あの男達もいざとなれば使い捨てに出来る連中だったんだな。


「さて、そろそろ準備は出来た。始めるかな」


ジャガノートを治療する。殺してあげた方がこの生物兵器に改造された子供にとっては幸せなのかもしれない。


そう考えたが、邪神を討伐する為に呼び出された世界では割と人体実験でぐちゃぐちゃな人間を元に戻すことってそこそこそあったんだよね。


俺は魔法一つで出来ないが、神官だった俺の勇者仲間が邪神の眷属に取り込まれて融合した市民を助けていた。


何故、殺してくれなかった。と言うものもいれば、ありがとう。と言うものもいた。


肉体を改造された人間を助けるのも、殺すこと。どちらが正解なのかはずっと答えが出ないだろう。


「でも、助けられるなら、殺す必要はない」


自己満足だといてもな。


俺は動き易い服装に着替え、自宅のベランダから姿を消して空を飛び、そのまま秘密基地がある山へと向かった。


猟師でも入ってくるのが難しい山奥。ポッカリと木々がない広い空間の地面に掘った秘密基地へ続く階段を下りていく。


錬金術や治癒魔法を駆使すれば、ジャガノートを人間に戻すことは可能。


と言うわけで、地下に作った治療室へ入り、ちゃっちゃとジャガノートを治していく。


ジャガノートの人体に害悪となる部分を削ぎ落している時に分かったのだが、ジャガノートは性別が女だったらしい。これは骨盤の形で分かったことだ。


弱点を減らす為なのか人間ではない別の存在の内臓などと本来の内臓とは取り換えられており、骨格まで変えられていたら、性別が分からなかったな。


俺はスキル【錬金術】のホムンクルス技術を応用して作った、新たな細胞をジャガノートに移植していく。


三時間近く集中して作業を行い、スキルの補助もあったおかげで、どうにかジャガノートは人間の姿に戻った。


まだ、継ぎ接ぎだらけだが、それも時間と共に跡はなくなる。



でも、一週間、いや、秘密基地作りとその後の事後処理で三日くらいだから、機材の調整なども含めて四日ほど掛けてジャガノートを人の形に戻したことになるか。


他の勇者仲間なら、一日で終わる作業だと考えるとちょっと憂鬱になるな。


うん、医療系が得意な他の勇者達と才能を比べるのは止めよう。考えてもしょうがないし、それぞれの役割もあったのだから。


それから、更に数日。


「髪の毛が少しだけ生えてきたな」


金髪で顔立ちが欧州っぽいな。アメリカ人かと思ったがそうでもないのかもしれない。


「この子の戸籍を用意しないと、それと名前……」


ジャガノートをそのまま日本語にしてもなぁ。


ジャガ、じゃが? じゃが……。しゃが、しゃが? あ、しゃな、シャナ。


「うん、名前はシャナで、苗字はどうしようか。俺と同じにすると怪しまれるよな」


ノート、のと、能登。簡単に決まったな。


「うん。能登シャナ。ハーフの女の子ってことで上手く工作をしておこうかな」


あまり催眠術は得意ではないが、地方で生まれて、親の都合で引っ越して、両親が他界。

俺の両親の友人だったので、引き取った。


と言うことにしようかな。

いや、それよりも、縁眼家なら、戸籍ぐらい作れるか?


うーん、良し。縁眼さんを助けた恩もあるし。試してみるかな。






一通り、ジャガノートこと能登シャナの治療を終えて、俺は縁眼さんと話をしようとしていたのだが、アンネから今回の九州での騒ぎのことを聞きたいから、来てほしいと言われた。

出来るなら、縁眼さんとも話がしたいと言われたから、縁眼さんから了承を貰って、こっそりと縁眼さんと二人でアンネの仮住まいの屋敷へとやってきた。



「はぁ~」


おおよその話を終えたところで、アンネは魂が抜けていた。

一応、ペガサスのことは教えず。ニュースの話題となってしまったヒドラのことだけは教えた。忍法で呼び出したってことにして。


「滅茶苦茶なのは知っているけれど、貨物船を越える大きさのヒドラを呼び出せるって、滅茶苦茶だわ」


まあ、その気になれば大きさなんて自由自在に変えられるけどね。


「そうなのか?」

「ドラゴンを使役している人間が滅茶苦茶ではないと? しかも、多頭のヒドラ。多頭のドラゴンって通常のドラゴンよりも危険度が高いことを知っているかしら?」

「へー、そうなんだ」


俺のそっけない言葉に頬を引く付かせるアンネ。

我慢できなくなったのか、「あのねっ」と声を荒げそうなタイミングで、縁眼さんが教えてくれた。


「武様、我が国ではヤマタノオロチが有名です」

「あ、ああ」


縁眼さんの言葉にアンネも抑えたようだ。


「ですが、ヤマタノオロチを倒したのは神であるスサノオノミコト。つまり人ではありません」

「ふんふん」

「全世界で多頭の竜を倒すお話はあることにはあるのですが、多頭のドラゴンは比較的倒しきれないことが多いんです」

「そうなのか?」

「はい、人が多頭のドラゴンを倒すのは難しい。ゾロアスター教に出てきたアジ・ダハーカは最終的に地下深くに封印されています」

「え、アジ・ダハーカって、封印されているの?」

「い、いえ、実際に存在しているのかわかりません。ですが、その場所と思わしき場所には我々では解析できない魔法的な何かがあるのは確認されています」

「そうか」


なるほどね。普通の形の竜は比較的、人でも倒せる。多頭の竜も倒せなくはないが難易度は高いと。


「武、貴方は今回の一件で更に名を挙げたわよ」

「それは、どういうことだ?」


アンネの言葉にそう答えるとアンネはちょっと疲れた表情でこう告げた。


「光の鳥って結構大きい組織だったの。そこが作り出したドラゴンを倒せる生物兵器を貴方は倒した。スカルドラゴンを討伐して、生物兵器を倒し、更に推定ヒドラまで使役している可能性がある。世界中の関係者が貴方を探すでしょうね」

「……ふーっ、そうか」

「ま、仕方がないとはいえ少しやりすぎたわね。これから色々と身辺がうるさくなるだろうけれど、覚悟しなさい。あ、もちろん、何かあったら協力するわ。命の恩人だしね」

「わ、私もお手伝いします。縁眼家もです」


何故か、アンネと縁眼さんが一瞬、火花を散らしたような気がしたけれど、俺は今後の対応を考えていた。


守ってばかりでは勝てない。出来るだけ攻める必要がある。邪神には効果があまりなかったが、魔王は魔族、人だった。だから、外交や調略なども行った。


――邪神に比べたら、戦いやすいか。いや、力押しではないから、大変なことは大変か。


「おっし、分かった。やってやろうじゃないか」

「え?」

「何をするのですか?」


不安げな二人に俺はにこやかに教えてやる。


「ふふふっ、確かアメリカに光の鳥の本拠地があるらしいな」

「え、ええ、そうね。その可能性が高いわね」

「分かった、なら簡単だ」


俺の言葉に怯えはじめるアンネと縁眼さん。そして、俺の背後でお茶の準備をしていたアメリアさん。


「アメリカ横断! 千人の忍者の世直し旅! 始めようか!!」





二人から全力で止められたので、影分身を百人に絞って、光の鳥とその関係組織だけを潰すことにした。


結果的に光の鳥とその関係組織は粉砕できたが、アメリカの魔法業界では日本の忍者がアメリカに殴り込みをかけたと大騒ぎになったらしい。


ただ、大きな組織である光の鳥が日本にちょっかいを掛けたという情報が流れていたので「ああ、馬鹿が自滅しただけか」という結論になったそうだ。



今回の一件で、結果的に魔法犯罪組織が日本へちょっかいをかける頻度と国内の外国人の魔法犯罪組織が撤退、または最低限の活動だけにとどまることとなり、対魔師局はしばらくの間暇になって、ホワイト組織になったらしい。



「縁眼小夜子さん、貴女とはこうしてお話がしたかったわ」

「はい、わたくしもです。アンネローゼ様」


「「うふふふっ」」


俺との話が一通り終わると、アンネと縁眼さんは女の同士で話をし始めた。


「武様も罪なお方ですね」

「あははは、まだ、俺にも華があったということですかね」

「余裕ですね」

「無いですよ」


そう、俺に好意を持ってくれている女の子。あちらの世界では一人も守れなかった。

この世界では魔王も邪神もいないから守れる。なんて断言できない。

心を、魂を守るために、神が記憶を消したり、曖昧にしてくれたが。

やはり、後悔の念はある。


「ま、やれることをやるだけですね」

「さようでございますか。ところで」


アンネと縁眼さんがバチバチ言葉の切り合いをしている途中で、アメリアさんが俺の耳元で囁いた。


「今度の日曜日、お暇ですか?」


俺は表情が歪まないようにしながら、こう答えた。


「暇ですね」

「でしたら、また連絡いたしますね」


どういう目的なのかは分からないが、今日はアメリアさんが俺との約束を取り付けたことで、アメリアさんの判定勝ちかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る