第12話
気を失ったことで、霧の状態から人の姿へ戻った環を引きずるようにして小夜子は川から川岸へたどり着いた。
「どうやって、ここが?」
小夜子の目の前には専用のスーツを身にまとった異形の存在と毛のない赤黒い猟犬が二十匹以上が小夜子達を包囲していた。
『素晴らしい逃走劇でしたよ』
雑音交じりの優し気な声が異形の存在の背後の闇から聞こえてきた。
「ロボット?」
『おや、流石に見えるのですね』
暗闇であろうと、小夜子が観ようとすれば見える。
異形の存在の背後に立っていたのはマネキンのようなロボットだった。
千里眼とも言える目だが、ある程度は応用が利く。
そして、そのロボットが純粋な化学だけではなく魔法の技術で作られていることを小夜子は即座に理解した。
「貴方達は?」
『名乗る必要はありませんね』
「紳士なら、名を名乗るもでは?」
『くくく、紳士。紳士ね。ええ、我々は紳士ですよ。貴女が大人しくこちらの指示に従ってくれるのならね』
「どこの誰かも分からない人の指示は従えないですね」
『くくく、いいでしょう。我々は【光の鳥】ですよ』
小夜子はその名前を聞いて、国際的に危険な組織が何故日本に入り込めた? と考えた。
光の鳥はアメリカで活動している違法な魔法団体。
元々はエジプトの神ホルスを崇拝する団体だったと聞いていたが。やっていることは違法な人体実験などの犯罪行為。
過去に数回欧州でテロ行為をしており、結果として街に動く死体で溢れ返った。
こういった結果を踏まえて、日本政府はテロリストに関わりそうな人物が日本へ入れないように対策を講じていて。
縁眼家の親族も協力している。
それなのに、これほど多くの戦力をどうやって、国内に入り込んだのか。
小夜子は眼の前にいるロボットを見据えながら、どうしたものかと考える。
「その光の鳥が何故このようなことを?」
『貴女の神のごとき眼を調べさせていただけないかと思いまして』
小夜子は内心予想通り過ぎて溜息をつき、思案する。
このまま拒否しても無駄に痛めつけられるだけだ。であるならば、素直に従おう。
いざとなった切り札を使えう、だから、今は大人しく従うおう。
「狙いが私一人なら、環さんはここへ置いていく。それでいいわね?」
『彼女も優秀な存在です、連れて行くのが好ましいのですが?』
「欲張ると痛い目ではすみませんよ。複数人の高位の異能力者が誘拐されたのなら、奪還するための規模が大きくなる。その意味理解していますか?」
『そうですね。流石に我々としても、神風を前提にした方々と戦うつもりはありませんね』
過去に高位の異能力者が誘拐された時、誘拐された異能力者の一族が死刑囚を大量に使った自爆攻撃でとある組織を壊滅させ、その裏にいた中東の小国を半壊させたことがある。
それ故に、日本の高位異能力者を誘拐するリスクが高いと長年言われていた。
だが年々に海外からのちょっかいが増えていた。そして、スカルドラゴンの一件と今回のことで外の組織は日本へちょっかいをかけても問題ないと思っているのかもしれない。
新しい抑止力が必要だと、小夜子は考えた。
『いいでしょう。どの道、貴女が手に入れば問題ありません。必要以上に仕事をするつもりもありませんから』
小夜子は持っていた環の刀や護符、自身が身に着けていた護符の防水加工をしていたスマホや護符を気を失っている環の傍に置いた。
「行きましょう」
『ええ、ジャガノート彼女を』
ジャガノートと呼ばれた異形は小夜子を荷物のように肩に担ぐと指示通りに走り出した。
小夜子は冷静に呼吸をしながら、胸の奥から湧き出てくる不安を振り払った。
☆
虫の知らせと言うものがある。深夜の時間帯に突然目が覚めた。
俺に限らず勇者は邪神との戦いの時、敵の気配で目を覚ましていたことが多い。
だからこそ、嫌な予感がして寝ている時に目を覚ましたり、突然背筋がぞわぞわするような悪寒が走るのはフラグと並んで危険信号だ。
こういう時は必ず何かしら悪いことが起こる。
アンドロイドのガルドムも自我が芽生えて、感情豊かになった頃にはそういうのを感じるようになって、嫌な予感というものが何度も的中していたからな。
俺は即座にアンネから渡された連絡用のスマホでアンネとアメリアさんにメッセージを送る。
――無事か?
俺のメッセージに返事をしてくれたのはアメリアさんだった。
――いかがなさいました?
――すみません。嫌な予感がして、電話しても?
――はい、かまいません。
俺は即座にアメリアさんに電話を掛ける。声を聞かないと安心できない。
「もしもし?」
『はい、アメリアです。どうなさったのですか?』
「すみません、夜分に。突然目が覚めて、嫌な予感がして。こういう時は良くないことが多々あるので、何か起きそうな人と言えばアンネかなと」
『ありがとうございます。アンネ様はご無事です』
その声色に、武はアメリアが嘘をついていないと感じた。
「分かりました。改めて夜分にすみませんでした。何かあったら直ぐに連絡を」
『いえ、アンネ様の為にわざわざ』
「いえいえ、失礼します」
電話を切り、次に何かが起こりそうな人物を考えて、即座に縁眼さんにメッセージを飛ばす。
俺の両親には、既に護衛を送り込んでいるから問題ない。その護衛からも連絡が無いなら無事だろう。
深夜だから、返事が来ない可能性があるが。アンネの無事を確認して、少し冷静になった。
元の世界に戻ってきた俺の勘違いもある。軍隊アリの群れのような邪神眷属とほぼ毎日戦っていた。
それがなくなって過敏に反応しただけかもしれない。
ま、こんな時間に、メッセージを送っても、普通は深夜のメッセージに返事はしないだろう。
「目が覚めてしまったな」
明日も学校はあるが、今の俺なら不眠不休で一週間は戦える。
「せっかくだ、何か深夜番組でも見るか」
俺は自室からリビングへ移動して、深夜にやっていた名作映画を適当に見始める。
最近、ネットで映画見放題とかやっているから、地上波で映画見るのが懐かしい気分になるな。
それから、小一時間ほど映画を見ていたが、だんだんつまらなくなり、やはり寝るか。と考え始めた頃。スマホが振動した。
「縁眼さんかな?」
俺はメッセージがきたと思い、スマホを確認すると縁眼さんからの電話だった。俺は起こしてしまったか? と思いながら電話に出ると。
「もしもし?」
『え、あ、あの?! 忍者ですか?!』
電話に出たのはちょっと凛々しめの声色の少女だった。
「お前は誰だ?」
俺は警戒感を露わにして、相手に問いかけた。
『わ、私は霧崎環と申します! た、助けてください!』
「どういう意味だ?」
『さ、小夜子が誘拐されました!』
涙混じりの叫びに俺は即座に忍者スーツを引っ張り出して、移動準備を開始する。
「場所は!?」
『きゅ、九州の――』
「分かった今行く」
俺は場所を聞いて、直ぐに二階へ駆けあがり、ベランダに出て魔法で周囲から俺の家が認識できないようにしてから、俺の本来のチート能力を開放した。
「――星の力を」
子供の頃、俺は星を見て感動した。
両親から星座のことを教わり、将来は天文学者になりたかった。
けど、子供の頃の夢を持ち続けるのは難しい。というか俺はその夢をいつの間にか忘れていた。
勇者となって手に入れたチート能力がこの力。
右腕に使おうとする星座が浮かび上がる。
【星座の勇者】
俺は既に忍者スーツに瞬時に着替え、空へと浮かび上がる。
本当なら今すぐに転移魔法で九州へ移動したが、俺の使える転移魔法は一度自分が移動したことのある場所だけだ。
邪神との決戦時、俺も復活する聖域から飛び題して直ぐに邪神の居る場所へ転移魔法を使っていたが、邪神が移動をしなかったから、転移と自爆攻撃のコンボが出来ただけだ。
あれで邪神が変なプライドを出さずに、転移で世界中のあちらこちらに転移していたら、勝てなかった可能性が高い。
だから、今俺が使える最速の移動方法。
「――ペガサス!」
上空一万メートル。俺の能力は星座に関わる存在を呼び出したり、その力を借りることが出来る。
俺の思いに反応して、眼の前に光の扉が現れ、純白の翼とサラブレッドよりもたくましい肉体を持つ、金色の馬鎧を身に着けた白馬が出現した。
「頼むぞ」
ペガサスは一度俺に甘えるように頭を擦り付けて、俺の言葉に答えるように嘶いた。
俺は即座にペガサスに跨り、思わずこう思った。
――ミスマッチすぎるな。
西洋風の騎士の恰好でもしていれば、似合うかもしれないが。ペガサスに忍者が跨っているってなんか変だな。
「ま、まあいい。実用重視!」
誰に言い訳しているか分からないが、俺は全速力で俺に連絡をくれた霧崎環と言う人物の元へと急いだ。
☆
ペガサスの移動速度は音速を軽く超えている。
時間にして二十分だろうか? 俺は教えてもらった地域まで移動した後。
ペガサスを一度、俺の中に還して飛行魔法と索敵で環と名乗った少女を探した。
山の中で人の反応は直ぐに分かった。
「大丈夫か?」
「――っ?!」
無意識に気配を消して近づいたから、声をかけた時、何故かインナー、いや防具だな。簡易的なボディーアーマーの武士娘は驚いていた。
俺も結構驚いている。
何故、そんな恰好をしているんだ?
「電話に出た忍者だ」
「ほ、本当に忍者って、短時間でここに来るとは」
「急いできた。詳しい経緯を話せ」
「わ、分かった」
そこから、俺はザックリとだが縁眼さんが誘拐された経緯を聞いて、即座に行動を開始した。
「影分身」
「――す、凄い一瞬で数百の分身を」
俺は人海戦術として、影分身を使用し、周辺を俺の分身だらけにした。
同時に探知と探索、索敵などのスキルを駆使して、縁眼さんを誘拐した連中の後を影分身に追わせた。
「霧崎だったな」
「は、はい」
「縁眼さんが連れ去られたと思われる時間は、俺に電話する一時間前以上で間違いないな?」
「は、はい、そのくらいだと思います。月の位置などから大雑把ですが」
「分かった」
職人みたいに効率だけを求めている輩は稀にいるが、今回の誘拐犯の行動を見ると、どうも違う気がする。
となると、まだそこまで遠くには行っていないか? いや、朝になれば逃げづらくなる。
それに、
「日本の家や日本の犯罪組織のようには感じなかったんだな?」
「は、はい。何となくですが」
可能性の一つとして考えておこう。
先ずはこのまま真っ直ぐに探す。それと空港と港も抑えよう。
派手にやると面倒だが、誘拐は早くに決着をつけないと二度と助けられない。
「霧崎、お前は下山して対魔師局や家に連絡をしろ」
「で、でも」
「足手まとい」
「…………」
俺の言葉に霧崎は無言になる。
だが、事実だ。話を聞いている限り、霧崎の攻撃で人型の化け物へダメージが無いらしいし。
猟犬のような化け物も体内に自爆装置が付いているらしい。
人型の化け物との戦いには役に立たない。
猟犬の処理も出来ない。
連れて行くわけにはいかない。
「……ねがいです」
「なに?」
「お願いです、私も連れて行ってください」
霧崎はそういうと、自然な動作で土下座した。
うん、まあ、その、驚くから止めて。
「高位の異能力者は幼い頃から狙われています。だから、一度は誘拐未遂や誘拐を経験します」
「……それで?」
「私も数時間ですが人体実験をされたことがあるんです」
その言葉に、俺は奥歯を噛み締めた。
邪神がいた世界ならまだしも、この世界でもそういうことがあるのか。
「全裸で、管を沢山体に着けられて、ひたすら魔力や薬品を投与される」
霧崎は顔を上げて俺に懇願した。
「戦いの足手まといになるかもしれません。けれど、小夜子を連れて移動することはできます。お願いです。私も小夜子を助けるために連れて行ってください」
正直なところ、霧崎を連れて行っても問題は無い。影分身の戦闘力は俺よりも遥かに劣るが、スカルドラゴンくらいなら撃破できる。
だから、縁眼さんと霧崎の二人に影分身を一人ずつ傍においても問題ない。
「小夜子は幼馴染で、妹のようで、親友なんです」
「……死んでも責任は持たないぞ」
「はい!」
俺は霧崎と共に移動を開始した。
「その前に、これを着ておけ。流石にその姿は眼に毒だから」
「え、あっ、……お見苦しいモノを」
「いや、とても綺麗だった」
「ええっ?!」
俺は下手に防具を貸すわけにはいかないので、私物の薄手のパーカーとジーンズを霧崎に手渡した。
サイズは合わないだろうが。ないよりましだ。
「そ、その、綺麗って、私がですが?」
「他に誰がいる? 早く着替えて移動するぞ」
「は、はい」
随分初心な子だなぁ。と俺は思った。
これだけ綺麗な、武士娘系の女の子が居たら、周りの男たちはほおっておかないだろうに。
武は知らなかった。昔から、練習や試合では容赦がない彼女を同世代の男の子達は鬼や悪魔と呼んでいることを。
△
「頭が痛いですね」
小夜子が目を覚ますと自分の状況を確認して、湧き出てくる恐怖心を抑え込んだ。
『おや、お目覚めか、意外と早かったな』
「ここは?」
眼の前でタブレット端末のようなモノを操作しているマネキンのようなロボットに小夜子は問いかけた。
『我々のラボだ。簡易的なものだがね』
小夜子は金属製の椅子に拘束されながら、周囲を見渡す。
体育館ほどの広さで、周囲には見たことのない、何に使うのか分からない機材が所狭しと置かれていた。
「なるほど」
『ふふ、視えたかい?』
「……」
小夜子は自身の眼の力が妨害されていることに気づいた。
とは言え、全く使えないわけではない。
わざわざそれを言うつもりもない。
『明日には我々の本当のラボだ。楽しみにしておくといい』
「そう」
『それまで、簡単な実験だが。はじめようか』
首に巻き付いている器具から微かな駆動音が聞こえた始めた直後。
「――んんっ?!?!?!?!」
頭の中をかき混ぜられるような衝撃と不快感が彼女を襲った。
『おや、出力を間違えたが。いきなりで驚いただろう』
「げほっ、げほっ。いきなりですね」
『いや、何。上からさっさとデータを取れとうるさくてね』
小夜子は過去に酷い呪いを受けたこともある。
痛みには慣れている。けれど、ずっと耐えられるわけではない。
『ふふ、助けを期待しているなら無駄だよ。もうすでにこの船は出向しているからね』
「そう」
『だから、じっくりと楽しんでください』
小夜子は無機質な表情でマネキンのようなロボットの向こう側にいる人物を見据えた。
『どうしたのかな? なぜそのような眼が出来るのかな?』
「何も知らないのですね」
『何がだい?』
「後ろです。後ろにおりますよ」
『なに?』
「忍者が」
ロボットが後ろを振り返ると、そこには。
「どうも」
『…………』
忍者がそこに立っていた。
『ばっ、ばか「お稲荷さんアタック!!」ぎゃああああああああああっ!!!!』
ロボットの向こう側で操作をしていた人物とロボットには何のつながりは無い。
仮にロボットが破壊されても、操作している人物にはなんの痛みもダメージもない。
その筈だった。
だが、武の右足で股間を蹴り上げられたマネキンのようなロボットは、両手でしっかりと股間を抑え、股間から頭頂部へ駆け抜ける強烈な痛みに悶え苦しんでいる。
その光景を小夜子は冷たい眼差しで見つめ、環は内心ドン引きしながら、せっせと小夜子の拘束具を解除していた。
『な、なぜぇ、どうやってここに入り込んだ?! それにこの痛みはぁっ?!』
「あん? 呪いの藁人形って分かるか?」
『た、確か、ジャパンの伝統的な呪術?』
「そうそう、それそれ。本来はさ、呪いをかける本人が自作するんだけれど、別に自作する必要ないんだよね。最近だとセット販売されいるくらいだな。つまり、呪いって要は当人の想いの力なんだよ」
『な、なにを言って?」
「分からないか?」
武は床に倒れ込んでいるロボットの首根っこを掴んで、自分の視線の高さまで持ち上げると、冷たい声色でこう告げた。
「お前は俺の身内に手を出した。だから呪い殺してやろうかなって」
『――ひっ!?』
なぶり殺しは好きではない。だが、少し聞きたいこともある。
武は一撃で殺さず、まずは右腕を引きちぎった。
男の絶叫。更にロボットの向こう側では騒ぎになっているのだろう。複数の声が聞こえてくる。
「なるほど、船内のあっちか」
『な、何故?!』
「声の反響って言うのかな。それで大体の位置が分かるんだよね」
大ウソだった。
武は既に小夜子が捕らえられて、出航した船の内部にいる人間がどこにいるか、影分身で調べつくしていた。
「で、お前達の目的は縁眼を誘拐して、眼を調べる。その後どうするつもりだった?」
『は、ははは、面白いな。素直に言うと』
武は無言でマネキンロボットの股間に手を当てて、マネキンロボットには無いゴールデンボールをニギニギする。
『NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
「言え」
痛みに悶え苦しみ、十数秒後。観念したのか男は滑らかに口を動かしはじめた。
『はいっ、知っておられるかもしれませんが、我々【光の鳥】はエジプト神話のホルスを信仰しておりました』
「で?」
『組織の大いなる目標は死者蘇生です』
「うん、それなら縁眼の眼は手に入れても、関係ないのではないか?」
『いえ、そういうわけではありません。過去の遺跡調査の為に、千里眼は役に立つのです。過去のエジプトの魔法技術は死者蘇生に辿り着いておりました』
「ふぅん、何か証拠があるのか?」
邪神討伐に呼び出された世界には、限定的な死者蘇生の魔法があった。
だが、元の世界に死者蘇生の魔法があるとと聞いても、本当か? と疑ってしまう。
武はまだこの世界の神話にかかわる遺物を見たことがない。
話だけは聞くが、呼び出された世界に比べて魔法技術が劣っていると考えていた。
「ファラオの呪い」
「え?」
ロボットの股間をいつでも握り潰せるようにしながら、武は小夜子の方に視線を送る。
「昔、テレビなどでファラオのミイラを外に持ち出した時に、関係者がたくさん死んだとされていますが、実はあの時ファラオが復活して暴れたんです」
「え、マジで?!」
「はい、当時のイギリスなどの魔法使い達が倒してなんとか事なきを得ましたが、あのまま暴れ続けた場合、街一つや二つは無くなっていた。と言われています」
「それはまた。って、おい」
武はマネキンロボットに釘を指しておく。
「ロボットとの電源切ろうとしても無駄だぞ。有線だろうが無線だろうが。既に俺の魔力がお前とつながっているから逃げられないからな」
『――っ、い、いつの間に』
逆探知というかハッキングみたいなモノだ。
このロボットは無線で魔力と電波? で操縦している男と繋がっていた。
俺がその繋がりを自身の魔力で包み込んで回線を作る。
仮にロボットの電源が落ちたとしても俺の魔力で無理やり起動は維持されるし、起動させなくても魔力の回線で既にロボットを操っていた男はしっかりと捕まえている。
どうやら、この男は魔法使いなどではなく一般人だな。魔法的な防御があまりにも無防備だったし。
自分の知らないうちに魔力の紐で逃げられないようにされて、今必死にどうにか逃げようとしているが、無駄だな。
「で、他には? 何か俺に言わないといけないことがあるのではないかな?」
『わ、我々は金輪際日本の魔法使い達には手を出さない』
「それだけか?」
『もちろん、謝罪もするし、今回の詫びも入れさせてもらおう。今後は、何かあれば我々が貴方様に力を貸します』
「テロリストと付き合えるとでも?」
『我々は各国の政治家とも繋がりがあります。多かれ少なかれ、そういうモノだとご理解をしていただき』
俺は魔力でロボットを動かしていた男の記憶を奥底までではないが、既に調べ終えた。
得意な勇者ほどではないが、心を読むことは出来ない訳ではない。
対した情報は無かった。コイツ、中間管理職みたいなモノで、光の鳥とやらの本拠地の情報もない。
「おい」
『は、はい』
「冥途の土産だ。さっさとジャガノートとやらを出せ。お前達の希望を粉砕してから、殺してやろう」
俺の言葉の後、長い沈黙が訪れた。
俺の言葉に溜め込んでいた負の感情が爆発したようだ。
『おい、マックス! ジャガノートを出せ! このガキ殺すぞ!!』
「二人とも後始末するから、先に帰れ」
「いえ、最後まで近くで」
「わ、私も小夜子を守りますので」
俺は影分身を一人二体ずつ傍に移動させて、ジャガノートと戦うために甲板へ移動した。
この船は表向き貨物船だったが、中身は違った。
ここまで派手に中身を改造しているのに、よくばれなかったな。とは思ったが、どうせ賄賂を受け取った馬鹿がいるのだろう。
終わった後はキッチリ落とし前をつけさせよう。
「来たか」
甲板で、のんびり待っていたら、甲板にあるエレベータがせり上がってきた。
それは二メートル越えの人の形をした化け物だった。
ベースは人間か。面倒な。とは思った。実験材料にされた存在を殺すのは気分が良くない。
「こいよ、ジャガノート」
俺の声にジャガノートは獣のように雄たけびを上げて、俺に襲い掛かってきた。
疾風のように甲板を踏み潰しながら、弾丸のような速度で俺に突っ込んでくる。
中々の速度だ。
音を遅れてやってくる、渾身のジャガノートの一撃。
ジャガノートが手に持っていた巨大なハンマーの一撃を、俺は蹴りで迎撃する。
――パァンッ! と弾ける音と共に、ジャガノートが持っていたハンマーは砕け散った。
「kんdkljf?」
手にしていたハンマーの先端が無くなり、不思議そうな顔をするジャガノート。
反応が子供みたいだな。いや、子供なのか。
「ていっ」
俺はジャガノートが手にしていたハンマーの残骸。柄の部分を手刀で真ん中から切り裂いた。
「ksjjghshじshと?!」
真っ二つになった柄を見て、俺を見るジャガノート。
ポカンとした雰囲気の後、
「kldglkdkj!?!?!?!?」
言葉になっていない怒りの叫び声と共に手にしていた残骸を投げ捨てて、俺に殴りかかってきた。
「うーん、殺しにくい」
意外と感情豊か。いや、殺さなくてもいいか。
俺はジャガノートの丸太のように太い剛腕の一撃を左手で受け止めた。
ジャガノートは拳を受け止められて、拳を引き戻せないことに困惑と焦り、怒りの声を上げながらもう片方の手で俺を殴りつけてくる。
「はい、終わり」
ジャガノートの両手をしっかりと掴みながら、俺はジャガノートに一撃をお見舞いする。
「忍法【天雷】」
月明かりが綺麗だった上空が一瞬にして黒い雲が集まり、眼が潰れるほどの閃光、衝撃と爆音が俺の目に炸裂した。
「うん、生きているな」
ブスブスと黒焦げになりながらも生きている目の前にいる存在に俺は安堵する。
「うん、やはりこの世界の技術は中途半端だな」
俺は影分身にジャガノートを甲板から移動させ、イベントリから太刀を取り出した。
「二人とも平気か?」
「はい、大丈夫です」
「す、すごい一撃でしたね」
縁眼さんと落ち着いているが、霧崎は頬が引きつっている。
うん、やはりあの程度の雷でも上位の魔法と認定されるのか。
「じゃあ、終わらせて帰るよ」
「終わらせる?」
霧崎の言葉に俺はこう答えた。
「この船ごと沈める」
「ちょっ、それは「はい、分かりました」小夜子?!」
「ここに居る連中は逮捕しても直ぐに逃げ出すだろう。そうすればまた被害が出る」
「それならば、ここで殺しておいた方がいい、と」
「ああ、恐らく対魔師局にも裏切り者がいる可能性がある」
「それは……」
「霧崎さん」
皆殺しに難色をします霧崎は縁眼さんに任せて、俺は取り出した太刀を鞘から抜いて、少しだけ昔のことを思い出した。
そうだ、確か。勇者になった初めの頃。ゲーム感覚が抜けなくて子供の頃のアニメの必殺技とか真似したな。
俺は魔力を太刀に注ぎ込んで、魔力の刃を貨物船サイズに引きぬばした。
そして、太刀を一気に十文字で貨物船に切りつけた。
数秒遅れて、貨物船は四つに分離して一気に海の中に沈み始める。
「秘剣、十文字切り! ってね」
俺は苦笑い気味にそう呟いて、既に離脱した縁眼さんと霧崎を抱きかかえている影分身の後を追おうとして、少し海面に降り立って右手を海の中に入れる。
「念のために、ウミヘビ座でヒドラを呼んでおこう」
海の中に貨物船を遥かに越えるヒドラがゆっくりと海面に現れる。
貨物船が突然沈みはじめ、なんとか逃げ出し、幸運にも海面にどうにかたどり着いた船員が最後に見たのは、ヤマタノオロチのような巨大な蛇の化け物が自分達を見下ろしている光景だった。
ついでに貨物船と船員も噛み砕いておくように伝えて、俺は縁眼さんと霧崎の元へ急いで海面を走って追いかけた。
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