第8話
放課後、アンネの仮の住まいの屋敷で、俺はアンネに霧崎家と嘉十家のことを聞いた後、ふと思った質問をしてみた。
「そういえば、魔法業界って日本以外にも秘密組織的なモノってあるんだよな?」
日本には全国魔法協会。的なモノは無い。
過去に作ろうとした政治家がいたが、不審死したらしい。
閉鎖的な業界だから、反感もあったのかもな。
対魔省庁が作られた当初もまとまりがなくて、酷かったというし。
最終的には外交的に問題があるから、対魔省庁を形ばかり作って、実際の仕事は下位組織。の対魔師局が全国の異能力者の名簿作ったり、管理をしていることになっている。
管理と言う部分は、あまり機能していないが。
ただ、世間に魔法の力を知られないようにする為に全力なのは、日本も世界も共通のようだ。
隠している理由の一つは、一般に知られれば、混乱と使えるようになった場合、魔法は銃火器と同じように厄介だからだ。もし、仮に世界に魔法が広まったら。
世界の治安は一気に下がるし、荒れるだろう。
だから、日本の退魔師の家々は横で繋がり。才能がある悪人は集団で即座に殺すなどして、秩序維持をこっそりしていたようだ。
過去の欧州で起こった魔女狩りは、増えすぎた魔法犯罪者の排除の側面もあったようだ。
「欧州には、欧州魔法連合協会と言うものがあるわ」
「あ、そういうのが、あるんだ」
「ええ、異能力者や私達のような人種も多く参加しているわ。アジア圏も集まりがあるわよ」
「へー、あ、アメリカは? あそこって多民族国家だろう?」
俺の質問に、アンネが苦い顔をしながら、説明してくれた。
「ええ、その通り。アメリカは多民族国家、国としての歴史も短いから、どうしてもまとまりが無いのよ」
「そうか、色んな人種がいるからな」
「ええ、アメリカ政府の直属の魔法が使える人材はいるけれど、そこまで強くはないわ」
「それって近代兵器が効きにくい異形の存在とかが現れたらどうするんだ?」
「まあ、その時はヒーローが助けてくれるんじゃないかしら?」
アンネの言葉に俺は首を傾げた。
ヒーロー? ヒーローって正義の味方的な?
「ヒーローって、どういうことだ?」
俺の問いにアンネは少し溜め息をついて教えてくれた。
「何故か、アメリカってそういう危ないのが出てくると、不思議な道具やそういう力を持つヤツが現れて、どうにかするのよ」
なんじゃそりゃ。都合よくそういう存在が現れるって。
「どうも、アメリカ全土に影響を及ぼす【何か】があるらしくて」
「大規模、いや超規模な魔法陣か?」
「分からないの、ただ、何かがある場所ではあるの。だから、あそこは魔法業界的に色々な組織が乱立していて、混沌としている」
アンネ的には、行けと言われても素直には行きたくない地域のようだ。
「武様、お代わりは」
「あ、いただきます」
入れてもらった紅茶を飲んで、俺は呟いた。
「色々な組織があるんだな」
「あるわよ。ここ十数年は科学の進歩もしているから、科学と魔法を組み合わせた危ない技術も出てきたし」
「危ない技術?」
「そ、動物に魔法的なモノを使って異常増殖させるとか」
「おいおい」
「欧州で一度、小規模な事故が起きてね。あの時は大変だったらしいわ」
「危ないなぁ」
「ええ、魔法知識が無い科学者が、それを何かしらの形で手に入れたら、もう面倒なことになるでしょうね」
「その時の事件の資料ってあるか?」
「あるわよ。読む?」
「ああ、読ませてくれ」
それから、俺はこの世界の化学と魔法の融合がなされた事件の資料をじっくりと読むことにした。
途中で分からない名前や疑問が出来たので、アンネに問いかけるとアンネは途中から俺の隣に座って丁寧に教えてくれた。
「すまない、席を移動させて」
「う、ううん、ダイジョブよ」
隣に座るアンネがいい匂いだな。と思いながら、時間を忘れて資料を読み、切りが良いところで時間を確認すると。
「そろそろ、良い時間か」
「えっ、あ、そうね。時間ね」
「じゃあ、帰るよ、アンネ。お邪魔しました。アメリアさんもありがとうございました」
「いえ、玄関、いえ。裏口までお見送りをさせていただきます」
「ええ、頼みます」
俺は少し疲れた表情をしているアンネに、「またな」と告げるとアンネは笑顔で「ええ、もちろん。またね!」と何故か突然、良い笑顔で答えてくれた。
それから、気配を完全に消してアンネの家を後にした。
家に帰る途中、空を飛びながら、俺はなんで元の世界は、こんなにも思っていたよりもファンタジーなんだ?
と考えても仕方がないことを考えていた。
△
「平日なのに、九州まで来ることになるとは」
縁眼小夜子達は乗ってきた航空機から降りて、空港のVIP用の待合室で迎えが来るのを待っていると、小夜子の右隣の椅子に座っていた友人、霧崎環が溜め息混じりの声に目を向ける。
小夜子の一つ歳上の彼女は真面目な性格で、家の事情で学校を休むことに罪悪感を持つ人物だった。
実家が道場を経営し、男所帯なこともあり、幼い頃から武術を学び。女の子らしいことに興味があまりなく。普段着はラフなものが多い。興味はパーカーにジーンズ姿で、身長も高めなため、学校の同性の同級生や後輩に人気な少女だ。
彼女の母が「髪だけは女の子らしく」と、頼み込んで、ポニーテールにしているが、周りからは、それ以外の女らしい部分は鍛練の為に捨てた。と言うほどストイックな美少女だ。
「環先輩。学校は公休扱いになるんですから、むしろラッキーじゃないですか」
明るい声でそう発言したのは、小夜子の左隣に座っていた小柄な少女、嘉十鱗。
小夜子より二つ年下のショートカットで、クラスメイトの同性の友達にアイドルよりも可愛いと言われるほどの恵まれた容姿をしている。
ただ、ファッションセンスが独特なため、友達のコーディネート通りの可愛らしい服を着ている。
「私は小夜子と鱗と違って、勉強があまり得意ではない。一日休むだけで取り戻すのは大変なんだ」
「環先輩は鍛錬の時間が多いから、減らしたらいいんじゃないんですか?」
「いや、日本人でドラゴンスレイヤーが誕生したんだ。鍛練を減らすわけにはいかないな!」
ドラゴンスレイヤーという単語を聞いて、二人の間に座っていた小夜子は動揺しそうな心を押さえながら、二人に告げる。
「事実かどうかまだ確認をとれていませんよ?」
「いや、私の直感が確信しているんだ。噂は本当だと」
「また、環先輩の直感ですか、当たらなくて良いことだけ当たる直感はやめてくださいよ」
「当たらなくて良いことだけ、は余計だ。あぁ、荷物が運ばれてきたな」
三人で待っている間に、本来なら航空機に乗せられない物を入れた荷物が専門の職員によって運ばれてきた。
「ご確認を」
「はい」
代表として環が職員の対応をして、小夜子と鱗の二人が荷物の確認を行う。
魔法業界は世界の裏で重要な存在であり、関わる企業も最新の注意を払って荷物を預かるが、何者かの細工など万が一を考慮して、受け取る時は荷物の中身を確認するのは、当然のことだった。
「こちらは問題ありません、環さん」
「こっちも問題ないですよ、環先輩」
「分かった。大丈夫です」
「はい、かしこまりました」
一礼して、その場を後にする職員。表面上は穏やかな営業スマイルを浮かべていたが、関わった職員達の緊張で精神的に疲労が大きかった。
先日のスカルドラゴンの情報が入っていたからだ。
極稀に運び込まれた荷物の中に強力な呪われた品物があり、それが原因で死傷者が出る事故が起こることもある。
長年この仕事に従事しているプロでも緊張してしまうのは仕方がないことだった。
「ところで、縁眼家ではドラゴンスレイヤーの情報を手にしているのか?」
「あ、そうですよ。小夜子先輩、その辺はどうなっていますか? 情報収集能力では日本の魔法業界ではトップなんですよ。何か教えてくださいよ!」
「残念ですが、無いですね」
小夜子は普段通りにそう返した。環と鱗も幼い頃からの友人である。
それが嘘であることは見抜いているが、それ以上は聞かなかった。
聞いても問題ないなら、鱗はもう少し粘り、何かしらの対価と引き換えに情報を手に入れただろう。
だが、友人だからこそ理解したのだ。
――触れるな。
小夜子が無意識に醸し出した警告の雰囲気を二人は敏感に感じ取った。
「ま、その内、情報が出回るだろう。その時に改めて調べればいいさ」
「そうですよね。何かわかったら、改めて教えてくださいね小夜子先輩」
「ええ、何かわかったら教えてあげるわ」
それから少しして、依頼主からの迎えが来たので、三人は荷物を持ち、今回の依頼主の元へ移動した。
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