第7話

縁眼小夜子は異世界の美人、美少女を見てきた俺でも上位の美形だ。


しっかりと手入れがされた黒髪ロングヘア、顔立ちも穏やかで。

前髪が姫カットだから、十二単を着れば平安時代のお姫様という感じだ。


彼女が俺の事を憎からず思っているのはなんとなく分かる。異世界へ行く前なら、こんなことは絶対に思わないだろう。

というか、女の子から「俺、好きだと思われている」なんて考えるの、イケメンじゃないと許されないだろう。


仮にクラスメイトの男子が、「○○は俺のことが好きみたいなんだよね」と言われたら即座に勘違い野郎! と言って殴ると思う。


だが、俺は魂と心の為に女神から記憶のトラウマ部分は消されたり、曖昧にされているが、そこそこ恋愛経験は積んで、その記憶も残っている。


俺が降り立った異世界の女の子達の感覚と現代日本の女の子達を一緒にするのは問題だが、それでも、好意か敵意か無関心なのかは、ある程度分かるようになった。


彼女の好意が恋愛なのか、尊敬なのかは分からない。でも、邪険に扱うのは止めたほうがいいだろう。


「明日は学校を休む?」

「はい、縁眼家は遠見以外にも、古美術品が呪いなどが掛かっていないかどうか、鑑定する仕事もしているのです」

「そんなこともするんだ」

「はい、鑑定は我々縁眼家が行い、呪いが掛かっている場合は、協力してくれる他家の方が行います」

「役割分担か、効率的だな」

「はい、代々その血筋の家の方が経験上は不測の事態が起こっても対応しやすいので」


放課後、縁眼さんにメッセージで呼ばれたので、縁眼さんが入部した茶道部の部室へ来ると今日は茶道部がお休みなので二人きりでのんびりと世間話をすることになった。

暇だし丁度よいと思って、日本の魔法業界のことを聞いていたのだが。


「日本の対魔師局は犯罪やテロリストを想定しています。ですので、そういう部分には触れないようにしているんです」

「何故だ? 中には危険なモノもあるなら、政府が管理した方がいいのでは?」

「現在日本政府の魔法関連を扱っているのは対魔師局ですが、その上の組織の対魔庁はご存じですか?」

「ああ、知っているぞ。名前だけだが」

「実は対魔庁が作られた当時は、思うように人が集まらなくて、更に強力な妖怪の対策を対魔庁が単独でする羽目になり、人員の大半を殺害されて解散しかけたのです。その後、形だけですが対魔庁を立て直した後に、妖怪などは戦わない、対人のみを想定した対魔師局を作ったのです」

「おいおい、それは」

「当時は今以上に各家が閉鎖的で敵対や利権も絡んでいたそうで」

「まあ、そうなるか」


日本人に限らず、そういう一族って面倒だもんな。

特にできた当初は、近代化が始まったばかりのようだしな。


多分、日本政府が求めた魔法の力は国内の妖怪の討伐ではなく。他国の魔法を使えるファンタジーな人員への対応だったんだろうな。


けど、妖怪なども倒して政府の力を見せようとしたのか、一度痛い目を見て、餅は餅屋ということにして、妥協したのだろう。

利権で面倒なことになることも含めて、思い切ったことをする。


「はい、ですので明日、武さんのお家にお伺いしたかったのですが」

「無理しなくていいから」

「いえ、無理はしておりませんよ。そういう家系ですし。それに武さんが素敵な方なのは理解しております。実は色々覚悟していたんですよ」

「そ、そうか、すまないな」


俺はなるべく冷静に返答した。

若返っているとはいえ年齢的にも枯れているわけではない。

性欲くらいはある。だから、そういう雰囲気を出されるとドキドキするさ。


「その、やはり、わたくしではお嫌ですか?」

「そうじゃないよ。ただ、心の問題だから」


多分、彼女は今からでも、保健室のベッドにでも連れ込もうとすれば抵抗しないだろうし、そのままズルズルそういう関係になるだろう。


だからこそ、今の俺だと危ない。

精神をもっと人並みに近づけないと、縁眼さんとそういう関係になった後、何らかの原因で縁眼さんが誰かに殺されたら?多分、国ぐらい平気で滅ぼす。


自分でも分かる。俺はまだ、精神が安定していない。

そんな状態で、女に手を出すわけにはいかない。


「ま、気を付けて」

「はい、大丈夫です。お得意様の方ですから」

「お得意様?」

「はい、とても優秀な方で化粧品を作る会社の会長さんをしているんです。最近では小さいですが業績が良い製薬会社を両社円満な形で買収したとか」

「買収って円満とかあるのか」

「ええ、わたくしも驚きました。凄い手腕ですよね」


まあ、経営状態だとそういうこともあるか。

そう思って、入れてもらった抹茶を飲もうとしたら、もう飲み切っていた。


「あ、無いか」

「お代わりお入れしますか?」

「ああ、頼む」

「はい」


綺麗な自然の動作で、お茶を作っていく縁眼さん。静かにお茶をたてる道具。ちゃせんだったか? 竹製の泡立て器のような道具を使う姿は、大河ドラマや漫画とかでしか見たことなかったが。


綺麗な動作だな。


茶道は金持ちのよく分からないモノの一つだったが、こうして縁眼さんを見ていると穏やかな気分になるな。


幼い頃から、習っているようだから、手際もよくて綺麗だ。


縁眼さんが美少女だから綺麗だと思うのかもしれないが。



「どうぞ」

「ありがとう、うん、美味いな。抹茶って苦みが強くて飲みづらいイメージがあったけれど」

「ええ、意外と飲みやすいんですよ。子供の頃は、苦くて薬みたいな感じでしたが」

「あはは、それは確かにそうだな」


確かに、子供の頃にお茶とかをしていたら、多分途中で嫌になっていただろう。

俺は音をたてないようにしながら、それっぽく飲んでいたが、途中で面倒になってきた。


「行儀が悪くてすまんな」

「いえ、楽な姿勢で飲んでください。公の場所ではないので」

「公の場か。良かったら、今度作法を教えてくれないか?」

「はい、わたくしでよろしければ」


お茶を飲んだ後、今度は俺から縁眼さんに質問を受けた。


「じゃあ、武様はオタク? なのですか」

「まあ、一応な。一般人はあまり知らない作品ばかりを見ているな」


縁眼さんから、趣味は? と聞かれたので、今は鍛錬とゲームなどのオタク系の趣味だとだけ伝えておいた。


「あまり知らない作品」

「ああ、地上波のテレビでアニメの映画とかするだろう。たまにさ」

「はい」

「そういうメジャーなモノはあまり見ないんだ」

「そうなのですか? えっと子供の頃に見た映画などは面白かったですが」

「うん、だからかな。見て面白いと分かっている作品は後回し、みたいな感じか?」

「そういうものなのですか?」

「俺はひねくれ者だからな」

「まぁ、ふふっ、それはそれは」


そういう感じで、軽く話をしてから、俺と縁眼さんは学校を出て教員用の駐車場まで一緒に帰ることにした。


「それでは、さようなら」

「ああ、またな」


俺は縁眼さんの乗る車を見送ってから、家に帰った。


「縁眼家、霧崎家、嘉十家ね」


俺は明日の縁眼さんが仕事で一緒になる、魔法系の家の名前を口に出して少し考えてから、アメリアさんのスマホにメッセージを送った。


そして、直ぐに返事が返ってきた。

その内容は。


――なんで、私ではなくてアメリアの方にメッセージを入れるの?

――なんで、私ではなくてアメリアの方にメッセージを入れるの?

――なんで、私ではなくてアメリアの方にメッセージを入れるの?

――なんで、私ではなくてアメリアの方にメッセージを入れるの?

――なんで、私ではなくてアメリアの方にメッセージを入れるの?

――なんで、私ではなくてアメリアの方にメッセージを入れるの?

――なんで、私ではなくてアメリアの方にメッセージを入れるの?



「怖えぇよっ!!」


なんだ?! ヤンデレヒロインが出てくるアニメでも見たのか?


アンネから貰った連絡用のスマホに鬼のようにアンネからメッセージが書き込まれていた。


一気にこういうメッセージが来ると怖いって。


「まったく、しょうがないな」


変な気を回したから、機嫌を損ねたかな。

フォローしておかないと。


――アンネは王女だろう? だから、いきなり連絡をするよりも、先にアメリアさんにお伺い? 今平気かどうか確認してから方がいいだろう?

――それは、私に気を使ったということ?

――気を使ったといえばそうだが、王女が謎の男から連絡を直にやり取りしているとか、色々問題だろう?

――私の為に、そういう配慮をしたということね?

――ああ、そうだ。だからそんなに怒らないでくれ。

――ならば、許しましょう。けど、今後は直に連絡をしてきなさい。武なら問題ないから。

――わ、分かったよ。それで、聞きたいことがあるんだが。

――何かしら?


俺は縁眼さんから教えてもらった、二つの退魔師系の家の情報があれば教えてほしいとアンネに頼んだ。

その代わり、何故か俺は今からアンネの仮の住まいに遊びに行くことになってしまった。

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