第6話


異世界に呼び出されて、仲間達と邪神を討伐した。


その俺が全力で攻撃系のスキルを使うと日本くらいなら、文字通り一撃で地球上から、消し飛ばすことが出来てしまう。


神と呼ばれる存在を除けば、元の世界で俺を殺せる存在はかなり限られてくるだろう。

俺の勇者としての力の方向性は、特殊な戦闘型。ボス特化のアタッカーとも言える。


俺を殺すとなると、呪いなどの搦め手じゃないと無理だろうな。


だからこそ、俺はそう言う技術などには警戒しなくてはならない。どれだけ強かろうと死ぬときは死ぬのだ。


「ふぅ、助かったよ、アンネ、アメリアさん」

「いえ、お役に立てたなら、幸いです」

「熱心に読んでいたわね」

「ああ、生死にかかわることだからな」


今日は学校が終わったあと、アンネに頼んで、この世界の魔法の道具。特に呪いに関わる物の情報を教えてもらってた。


流石に歴史あるイタリアの吸血鬼の王族。

オタク趣味を語るとき以外の佇まいは気品があるな。


彼女の入学した女学校は【此花女学園】は魔法関係と留学生を受け入れている学校だ。


個人的には今風の可愛いブレザーのデザインが評価が高い。ちなみに、この学校は比較的戦わない魔法関係者の娘達が通っていて、花嫁修行の学校でもあるらしい。


しかし、学校の話題になった時に、意外だったのは魔法業界がタブレットなどの電子機器を積極的に使っていることだ。


日本からでもアンネの実家にある電子データ化させた書籍なら、アンネの専用のタブレットで読むことが出来た。


イメージ的に科学技術を使うのは邪道だ! みたいな感じかと思ったが、違うみたいだな。


「気になったのだけれど、武は欧州の言葉が分かるのは、勉強したから?」

「いや、魔法みたいなモノだよ。欧州の言葉を書けと言われたら困るな」


スキルのお陰で読めるが、書くのは苦手だ。出来なくはない。


チートスキルも実のところ勇者にも差があって、同じスキルレベルでも本人の素質で結構な差がでていた。


「武様、書けなくとも読めるだけでも、凄いことです。翻訳する魔法はかなり難易度が高いのですよ」

「そうなの?」


意味が間違っていないか確認する為に、音読したところもあるが、難しいのか翻訳魔法。


「ええ、そうよ。欧州にもそういう魔法とか道具はあるけれど、効果は結構微妙なのよね」


アンネ曰く、大昔の欧州での戦争の原因はその翻訳の魔法による言葉による誤解が原因のモノもあったようだ。


「今は大分改善されているけれど、外交では基本的に使わないようにしているわ」

「言葉の壁はやはり、高いんだな」

「そうね」

「あ、終わらせますね。アメリアさん」

「はい、かしこまりました」

「ありがとう、アンネ。回覧許可をくれて」

「いいわよ。命の恩人の貴方に情報を教えなかったから、死なれたら後味が悪すぎるわ」

「そうか」


借りたタブレットをアンネに返して、俺は軽く肩をまわす。ずっと電子書籍を読んでいたから、眼が流石に痛む。痛いだけでダメージは無いが。


「ところで、縁眼家のお嬢さんはどういう感じ?」

「ああ、そういえば、教えてなかったな。かなり悩んだけど、俺が大学を卒業、いや、大学に行かなくてもそれくらいの時間が経っても良好な関係であったら、受け入れるってことにしたよ」

「…………え?」

「あ、いや、最低なことを言うけど、結婚という意味じゃない。ただ、今後のことを考えると絶対俺は裏、魔法関連でトラブルに巻き込まれる。それなら、日本国内で俺の正体を知って、その上で隠して協力してくれる存在がいた方が助かるって考えたんだよ」

「つまり、利害関係の一致でしょうか?」

「ああ、縁眼家は立場的に中立らしいからな、何か起こっても立ち回りしやすいと考えたんだ」

「ふ、ふーん、そうなの」

「ああ、俺の両親を守りやすくする為でもあるしな。俺とそういう関係になる前に縁眼さんが良い男を見つけて話が無くなる可能性が高いがな」

「そ、それは無いんじゃないかしら?」

「いや、恋愛って突然だっていうだろう?」


俺はそれから、アンネと他愛の無い話をして、アンネの家から帰った。



☆アンネローゼ



武が帰った後、アンネローゼは机に突っ伏しながら、両手でバシバシと机を叩き続けるという行動を五分ほどしてから、ようやく顔を上げた。


「はぁ、まさか、日本人の武が愛人を囲うことを許容するなんて」

「武様の場合、断った場合の縁眼小夜子の扱いが悪くなることを懸念してのことだと思われますが」

「そうね、匂いでそういうことをしていないのは分かるし」

「アンネローゼ様、我々の嗅覚なら匂いを嗅ぎ分けられますが、恋人でもないのにそのようなことは、褒められたことではありませんよ」

「分かっているわよ」


軽く自己嫌悪に陥るアンネローゼ。それを慰めるアメリア。


「でも、不思議な感じよね。武って」

「そうですね」

「妙に戦いなれているけれど、いくら忍者のように陰で戦っていたとしても噂が立つはずよ? それなのに武に関わりそうな噂が一切ないわ」

「はい、諜報部から再度、噂レベルまで忍者について調べさせましたが、それらしいのは一切ありません。他の誰かの手柄が実は忍者である武様のモノかとも思いましたが」

「それも違うと」

「はい、武様の行動は行き当たりばったりのように思えます。そのことから、昔から活動しているのなら、その痕跡があるはずです」

「無いということは、日本国内で本当に秘密裏に行動していたということかしら?」

「はい、そうとしか考えられないかと」

「でもそうだと、変な感じね。短い間だけど、武の性格からして誰かが困っていたら絶対に暴れるタイプよ。イタリア大使館に殴り込もうとするし、それが出来る実力があったわけだし」

「そうですね。そのことを考慮するなら、もう少し噂があっても良いのですが、それに対魔局や退魔の家々も知らないようでしたからね」

「謎すぎるわ。いくらなんでも隠すには大きな存在だし」


それからしばらく、武の謎をあれやこれやと考えていたが、結局結論は出ないと判断した。


「あー、どうしようかしら」

「素直に貴方の子種が欲しいです。と言えば割と直ぐに仲良くなれる気がしますが?」

「ぶふっ、アメリア!? 何を言っているの?!」

「いえ、うだうだ考えてもしょうがないので、さっさとパコれば良いのではないかと思って」

「い、いい方! もう少し、言い方を考えてよ!」

「そう言われましても、わたくしは日本のラブコメみたいに、じれったいのはどうも苦手で」

「そうね、貴女は直ぐにエッチするゲームが大好きだものね」

「誤解が無いように言いますが、わたくしがプレイしたゲームは全部がそういうものではありませんよ。そもそも、無意味にじれったい恋愛を引っ張るのはいかがなものかと」

「そ、それがいいんじゃない! ってそうじゃなくて」


ふぅっと呼吸を整えるアンネローゼ。


「兎に角、武のことは何とかするわ」

「なんとか? 本当に大丈夫ですか? 古代竜の骨を利用したスケルトン・ドラゴンを秒殺出来る力を持つ人物と縁を持つ価値と意味を理解しておりますか? 武様の性格を考慮して女をあてがうことを控えておりましたが、今回の縁眼家のことを考慮しますと、アンネローゼ様がもたついた場合、恐らく本国はありとあらゆる手段を講じますよ? その場合、アンネローゼ様を日本から引き上げる可能性も」

「そ、それはその、大丈夫よ!」

「その根拠はなんですか?」

「ふふ、これよ」


アンネローゼはタブレットから自分が購入した電子書籍の一つのタイトルを表示する。


【真紅瞳と白亜のツンテール】


「なんですかこれ?」

「え、世界的にも有名な日本のラノベよ。吸血鬼ヒロインで髪型はツインテールなのよ! お、お願いだから、その人を馬鹿にするような目で見ないで!」

「それで? まさか、これを持っていたからツインテール好きだと?」

「それだけじゃないわ、これの紙媒体の初版で全巻揃っていたし、しかも、外伝作品もそろっているし、漫画版もね」

「さようですか」

「さらに言えば、何度も読み返していた跡があったわ! 後、武が持っている唯一のフィギュアで飾られているのはツインテールキャラだったわ!」


アンネローゼの言葉を聞きながら、アメリアは電子書籍版の最初のカラーページを開いて、ポツリと呟く。


「アンネローゼ様よりも清楚で王女らしいキャラクターですね」

「しばくわよ」

「失礼いたしました。つまり、アンネローゼ様には勝算がおありと?」

「ええ、武はツインテールの女の子が好みらしいわ。そういう書籍も多かったからね」

「そういえば、武様の許可をもらった時に武様の自室でお二人で読書をして、色々と話が盛り上がっておりましたね」

「ええ、その時に色々と話をしていたの。武も結構オタクだったわ。それを利用すれば」

「武様と仲良くなれると?」

「ええ、余裕があるように見えて、きっと武は童貞よ」

「…………」

「アメリア、その馬鹿を見る目でわたしを見るのは止めてよ」

「いえ、馬鹿とは思っておりません」

「そ、そう、ならよかっ」

「アホだと思っております」

「酷い!?」


深くため息をついて、アメリアはアンネローゼに意見をする。


「色々言いたいことはありますが、恐らくですが、武様は女性経験があると思われますよ」

「え!? でも、そんな匂い全然しなかったわよ」

「ええ、あれだけの強さを持った男性です。女性を選び放題の筈です。それなのに、その手の匂いや雰囲気すらない。それならば、残る可能性はいくつかに限られてきます。その中で私的な意見ですが、武様はおそらく」

「おそらく?」

「……過去に恋人がいて、何らかの形で別れている可能性です。その場合、過去の女を相手にしながら武様と仲良くなる必要があります」

「え、何を根拠に?!」

「死に慣れ過ぎている点などがありますが、一番はわたくしの勘です」

「か、勘って、というかそれが当たっていた場合、難易度過高すぎない?」

「はい」


狼狽えるアンネローゼを眺めながら、恋愛弱者の主をどうやってヘタレな行動をさせないようにするか、アメリアは考える。


「アドバンテージがあるうちに、小まめに武様と仲良くするしかありませんね。それとボディタッチを多めに」

「そ、それで行けるかしら?」

「下手なツンデレキャラを演じられても困りますから」

「酷い! そんなこと全然」

「本当に考えていなかったんですか?」

「……ちょっとは考えたわ」

「やはり、恋愛弱者」

「じゃあ、アメリアが武と仲良くなってみなさいよ!」

「わたくしもですか?」

「ええ、そうよ! 今度、武が来たら、アメリアもやんなさいよ!」

「分かりました。武様が不快にならない程度に頑張りましょう」

「ええ、やるわよ!」


意気込むアンネローゼを眺めながら、アメリアはこの年下の親友兼主人の為に頭をフル回転させるのだった。


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