第5話 persona non grata in glaciem
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テキサスの地においてフィギュアスケートの、しかもジュニアの試合など州外からやってくる熱心なファン以外集まりそうにないが、今年は少しばかり様相を異にしていた。
当時ダラスには地元を地盤にして共和党に所属し、中央で上院議員を務めるジョージ・ディーリアスという大物政治家がおり、その甥のマックがフィギュアスケートをやっていた。
レオにとっては七歳違いの十八歳で、所属リンクが違う上にレオ一家がダラスに越してきたときには練習拠点をニューヨークに移していたため接点はなかった。
だが、男子シングルのジュニアに同じテキサス出身の選手がおり、好成績を上げているというのは心強く思えることだった。
そのマック・ディーリアスは昨シーズンさらに飛躍し、全米ジュニアで優勝していた。ダラスの顔の身内の快挙として地元メディアは年明け以来大車輪でこの一件を報道し、フィギュアスケートは、あのマックに限っては女々しいスポーツではないという認識が市民の間に生まれていた。
さすがにその空気は小学生の間にまでは降りてこず、レオがその恩恵を受けることはできないでいたのだが。
翌々シーズンには冬季五輪長野大会を迎えるというこの時期、世界ジュニアのタイトルを獲っておくことは五輪挑戦のためのこの上ない武器となるだろう。そのための大会の開催地がダラスであるのは、共和党上院議員たる伯父から甥に向けての大きなプレゼントなのだ。
ごく当然のこととして市民の間で交わされていたそういう一連の言説はレオには届いてこなかったが、マックが今大会で優勝することには全く疑いを抱いていなかった。
昨季の全米ジュニアはレオも会場で観戦したが、その順位にふさわしい演技を彼はしていた。全米ジュニアでトップに立つ実力は、世界のジュニアの頂点に通じるもののはずだ。
大会のチケットは発売開始から瞬く間に売り切れた。一説にはJ・ディーリアスが自分の支持母体に大量動員をかけたともいう。レオの父が会社の取引先から一枚だけもらった男子シングル・フリーの日のチケットも、そういう経路で入手されたものなのだろう。
こうして大物政治家の肝いりで始まった一九九五年度世界ジュニア選手権ダラス大会は、男子ショートプログラムで意外な展開を迎えた。
その日、ウィリス家はたまたまテレビの調子が悪くショートの試合を観ることができなかったのだが、翌日の新聞を見ると、マック・ディーリアスは首位発進できていなかった。代わりにトップに立ったのはロシア代表の十五歳、イリヤ・バシキロフという名の選手だった。
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