第4話 フットボールとカウボーイの国で
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こうしてウィリス一家は海辺の街コーパスクリスティを離れ、内陸の街ダラスに移り住むことになった。
レオの新しいコーチのジョナス・ビンガムは四十代後半の男性で、元ペア競技の選手だった。
選手としては目立った成績を残さず全国的に名が知られているスター指導者というわけでもなかったが、門下生をコンスタントに全米選手権に送り込み、上位入賞させている堅実な実績を持っていた。
コーパスクリスティにいた頃からスケートの魅力に取りつかれていたレオは、ダラスに拠点を移してからはさらに加速度的にスケートにのめり込んでいった。
スケートはただ滑るだけで楽しい。
その上にジャンプもスピンもステップもあり、さらには音楽と組み合わせた表現まである。組み合わせも楽しみも無限大だ。だがその快調さに、時折影を落とす出来事があった。
テキサスは一言で言って、フットボールとカウボーイの国である。
強くて大きいもの、勇ましく男らしいものを何より尊ぶ。ある意味では最もアメリカ人気質といえる、そんな土地柄である。
リンクのクラブに男子生徒が極端に少ないのはまだ耐えられたが、学校でクラスメイトから自分の取り組んでいる競技をからかわれるのには苛立ちがつのった。
アメリカでは、サッカーは女子スポーツあるいは男子が将来フットボールを始める準備として子供時代に取り組むスポーツという位置づけであったが、その分少年サッカーは盛んだった。
ある時、そういうサッカークラブに所属している男子生徒に他の生徒の前でこれ見よがしに嘲笑された。全米ジュブナイルで三位だって? やってるやつ、アメリカ中でお前含めて三人しかいないのかよ。
あまりに腹が立ち、その日の体育の授業がサッカーだったのでその男子生徒を含む対戦チーム相手に六人抜きや七人抜きを繰り返し、一人で延々とゴールシュートを重ねていたらその男子生徒はついにフィールド上で泣き出してしまい、彼ともども教師に強制退場させられた。
レオも人並みの少年として、体育の授業や、たまにクラスの仲間に誘われることで野球やバスケットボールに参加することはあるし、それに面白さも感じる。
しかし、滑っていて身体が勝手に進んでいく開放感、エッジに上手く乗れた瞬間に覚える奥深い快感、ジャンプで良い跳躍と流れのある着氷ができた瞬間に湧き上がる痛快さは、他のどのスポーツでも決して得られないものなのだ。だがクラスでそれを言っても分かってくれる者はいない。
フィギュアスケートは大好きでやめるなど毛頭考えていないが、競技を続けている限りずっとこの不快感と付き合っていかねばならないのだろうか。
そんな中、彼の暮らすダラス市でフィギュアスケートの世界ジュニア選手権が開催されることになった。一九九五年十一月中旬、レオ・ウィリスは十一歳になっていた。
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