第5話 石を卵に変える魔法

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 帰りの車の中で、リアムは興奮の余韻が覚めずまともに口を利くこともできなかった。マリーはそんなリアムの様子を見て優しく微笑んだ。

「楽しんでもらえた?」

 リアムは言葉もなく頷いた。

「そう、よかった。それじゃあなた、バレエをやってみない? 前にも言ったけど、あなた凄くバレエ向きの体形してるから。それを活かさないのはもったいないわ」

 リアムの脳裏を一瞬、あの夢のような舞台に自分も加わり一緒に踊っている情景がよぎった。だがすぐ次のマリーの言葉が、その甘い幻想を打ち砕いた。

「もちろん、今のあなたの年からじゃプロを目指すのは難しいけど。頑張れば、フィギュアスケートでバレエのような演技ができるようになるわよ」

 年明けからリアムは、スケートクラブに加え別のバレエ教室に通い始めた。

 教室の同年代の少女たちは幼稚園の頃からバレエに取り組み、既に五、六年のキャリアがあった。マリーの言葉の正しさが裏付けられた形で、リアムは内心の落ち込みを増幅させたが辞める気にはならなかった。

 バレエ教室でバレエのポーズを教えてもらい、その通りにするということはあの絢爛豪華な舞台に自分を近づけることだった。

 バレエといえば派手な跳躍や回転やリフトが目につきがちだけれども、本当の神髄は静止した状態でも音楽が聴こえてくるようなポージングの美しさにあるという教えも、沁み入るように理解できた。

 時にはバレエ講師から、バレエの上演ビデオを借りて家で観ることもあった。世界の一流バレエ団による舞台はバレエ学校の学校公演をさらに上回って魅力的だった。

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