第4話 聖夜に始まる夢物語
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ブリュネ家にまで車で迎えに来たマリーの母は、子供用のスーツを着込んだリアムを見て「あら、可愛いジェントルマンね」と目を細めた。
実際、白いシャツに漆黒のスーツという色の組み合わせの衣装は、細身で顔が小さく、手足の長いリアムの体つきをよく引き立てて、色白の顔と漆黒の髪に合っていた。
リアムにとってはせっかく勧めてくれたものを断るのは悪いという程度の気持ちで受け取ったチケットだった。だがロチェスバレエアカデミーのクリスマス学校公演「くるみ割り人形」は、毎年チケット発売後即はけてしまう街の名物なのだった。
出演者は完全な実力主義のもと、学年にこだわらず優秀な生徒が良い役に抜擢される。技術やスケール感は大人のプロダンサーに劣るものの、十代らしい若々しさと身軽さがあり、またこれから成長する有望なダンサーに目星を付ける楽しみも観客にはある。
ロチェスバレエ団が拠点とするメイン州立劇場に到着し、ドレスコードで着飾った人々の群と、ボックス席こそないがオーケストラピットを備えた本格的な内装の会場を見た時から、リアムの中には非日常空間への突入を予感する興奮がせり上がっていた。
これも生まれて初めて聴くオーケストラの生演奏の中、幕が上がった。
休憩を挟んで約二時間余り、リアムは息をつくこともできなかった。
目まぐるしく変わる色彩豊かな舞台装置の中、自分より年上とはいえまだ中高生の年齢でしかない少年少女たちが、なんと軽やかに踊り、整然と動きを揃えるのだろう。
それらの踊りの名称はずっと後になって知ったが、「雪の精の踊り」で夜の深い青に沈む雪原を背景に純白の衣装を着て踊る少女たちは、白鳩よりも可憐で、清新だった。「花のワルツ」で優雅な三拍子に乗ってピンク基調の衣装でくるくる舞う少年少女たちは、人型の花以外の何物にも見えなかった。
そして何より、主役クララを演じるマリー・ベルクールの何と魅力的だったことだろう。
ボールがバウンドするように力みなく軽やかに跳ね、本当は辛いはずの姿勢で、それが快感からくるものであるかのように滑らかに素早く回転した。
そして、呪いが解けてくるみ割り人形から元の姿に戻った王子に高くリフトされた瞬間のその姿は、まるでこの世の美と幸福の結晶のように思えた。
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