第3話 夢告げ鳥の羽ばたき
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「あなたリアムでしょ? 大きくなったわねえ、もう四年ぶりだものね。私のこと覚えてる?」
マリー・ベルクールは快活に言い、リンク内で幼年クラスの生徒たちを教えている叔母のパスカルに手を振り、リアムの横に腰を下ろした。
容貌も美しいが、それ以上に内側から滲み出てくる輝きと華やぎがあった。
「私、四年前にロチェスバレエアカデミーに入ったの。もう三年以上、レッスンレッスン、またレッスンでレッスンのピクルスができるんじゃないかってぐらいで、ここに顔を出す暇もなかったわ」
アメリカ全土にはまるで細胞のように無数のバレエ団が存在するが、その中でニューヨークにあるABT(アメリカン・バレエ・シアター)とNYCB(ニューヨーク・シティ・バレエ)は別格首位に来る。
ポートランドのロチェスバレエ団はその次に大きな規模を誇る名門バレエ団で、地味な州の地味な街ながら、アメリカ第三位のバレエ団があるということは市民の誇りであり、その付属学校であるロチェスバレエアカデミーは街の少女たちの憧れだった。
そうでなくともフィギュアスケートを習うのであれば並行してバレエも習うのが常だったが、リアムはこの年になるまでダンスも音楽も、スケート以外の習い事をしたことがなかった。
「私、四歳でバレエを始めたの。叔母さんの影響でスケートを少しかじったこともあるけどやっぱりバレエに専念して……ねえ、あなたもバレエやってるの?」
突然話を振られ、リアムは慌ててかぶりを振った。
「そうなの? もったいない。あなたバレエ向きの体形してるから、やればきっと身になると思うわ……そうだ」
マリーはなぜか微笑を浮かべて言った。
「私ね、今度クリスマスの学校公演で主役をやるのよ。だからパパとママへのプレゼントにチケットを二枚買ったんだけど、パパは外科医なんだけどその日にどうしても外せない手術が入っちゃって、だからそのチケット、あなたにあげる」
こうしてリアム・ブリュネは人生で生まれて初めて、バレエ鑑賞に行くことになった。
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