第21話 逃走
「ふぅー、ふぅー……!」
非常に困った。
俺は今パンツ(トランクス)一丁で、目の前にいる銀髪の美少女と対峙していた。
はたから見たら、そく警察に通報の光景だ。いやそんな犯罪的なことはもちろん無い!! なにせ俺は勇者の教育係りとしてここにきているんだ。教育者として、それはありえん!!
だから、すごく警戒している銀髪の彼女の誤解をとくのが必須だ。
「あの~……」
「で、出ていってください!!」
詰んだ。時間にして、2、3秒だった。そりゃ、そうだよな、あはは……。
もはやこれまでかと、思ったときだった。
【ライラ‼ 聞こえる⁉ 聞こえたら返事して⁉】
突如、女性の声が辺りに響いたのだ。デパートの館内放送みたいに。
この声は、聞き覚えがある。だってついさっきまで、聞いていた声だ。確か、紅蓮髪の、
「み、ミディアさん⁉」
銀髪の美少女が、少しびっくりした様子で答える。
ライラ、っていうのか。
それが、銀髪の美少女の名前。
そして、紅蓮髪の少女は、ミディアと言うんだな。
やっと、勇者である少女たちの名前を知ることができた。
【ライラ‼‼ 良かった、通信魔法が繋がって!! 怪我とかはない‼‼】
「はっ、はい! 大丈夫です!」
【そう良かった! ごめんね!! ライラの部屋の方向に飛ばしちゃったから!! 心配で!! えっと……、そこに、まだ変態はいる!?】
お、おいおい!? それ、俺のこと!? 通じるのか!?
「はい!! いますッ!!」
めちゃくちゃ通じていた。そのことにすごくショック。いや、でもまあ、思い当たるふしがありありだからな……。
【ライラ!? そいつに、へ、へんなことされてない!? 大丈夫!?】
「ううっ!! ミディアさん!! わ、私!! こ、この人に、ぱ、パンツを見―――」
「わあ~!? ま、待ってライラさん!! それは不慮の事故といいますか!?」
こ、これ以上、汚名を重ねたくなかった。俺は2人の会話に割ってはいる。
「ひっ!? ち、近づかないでください!?」
「えっ!? あいや、そ、そんなつもりは!?」
【ライラ!? ちょっと、ライラに手を出したら、灰まで残さず焼ききるわよ!! この変態!!】
こわ!? てかむごすぎる!? ほんと、この子、勇者なの!?
「パ、パンツしか履いてない恰好で、こ、こっちに来ないでください!!」
突如、声を荒げるライラ。
「わーっ⁉⁉ ちょいちょい、余計なこというなって!?!?!?」
ほんとに灰まで残さず焼かれるから!!
俺はライラがさらに余計なことをいうのでは、という思いから、さらに近づいて、説得しようとしてしまった。すると、
「ひっ⁉ ち、近寄らないでください‼‼ 変態さん‼‼」
ライラの指先から、一筋の稲光が走った。俺の体に触れると、
ビリビリ‼‼
「あだだだっ⁉」
俺はまたも電撃に悶える。な、なんで!? 痛みがある!? 異世界保険の能力が発動してない!?
俺が混乱していると、小さなウインドウ画面が表示されていた。
※電撃のダメージは身体損傷の危険外のため、ご自身負担。
「まじで!?」
すげえ痛いんですけどね!?
俺が驚愕している間にも、ライラは俺に指先を向け、攻撃しようとしている。ま、まじで勘弁してくれ!? こ、こうなれば!?
「ライラさん!!」
「ひっ!?」
ひるんだライラに、俺は大きな声で叫んだ。
「もっと強いのを打ってきなさい! 遠慮せんとほら!! もっと刺激のある、強い電撃を打ってきなさいー‼‼」
「はわわわわっー!?!?」
その言葉にライラは口をパクパク動かし、驚愕の表情を受かべる。顔を真っ青にし、がくがく震える体で大きく叫んだ。
「ど、ど変態さんですーーーー‼‼!」
【ライラ⁉⁉ ライラ‼‼ 落ち着いて⁉ くそっ!! もうすぐそっちに着くから待っていて!!】
ミディアの大きな声が部屋に響く。ま、まじで!? もうすぐここに来るの!?
やべ、逃げないと!? きっと、灰も残らず燃やされる!? あっ! でも異世界保険の能力でなんとかなるんじゃ! いやでも炎をあてられるのは恐いし、やっぱ嫌だ!!
ライラが、俺に、指先を向けた。や、やべ!?
次々に俺へ電撃を放つ。
ビリリ‼‼
「あだだだっ⁉」
ビリリ‼‼
「あだだだっ⁉」
ビリリ‼‼
「あだだだっ⁉」
だ、ダメだ!! ライラは強いのを打ってこない!! なんて調整上手!! てかドSなの、この子!? 可愛いフランス人形みたいな顔してさ!!
電撃に悶え身動きが取れずにいた。そしたら、
ボン!!
「ライラ!!」
げげっ!? み、ミディア!?
紅蓮髪の美少女こと、ミディアが部屋のドアを炎で吹き飛ばし入ってきた。バスタオルだった姿ではなく、服を着ていた。そのことに、ちょっと安心する。いや、変態か俺は。
「み、ミディアさん!!」
「ごめんね、ライラ! 遅くなって!!」
そう言い終えると、ミディアが、俺へ視線を向ける。ギロリ、という音が聞こえそうなくらいに。赤い眼光が、俺を鋭く睨む。
ミディアが片手を俺に向ける。火球が出現し、どんどん、風船のように膨らんでいく。
まずい、非常にまずい。俺、消し炭にされるのか。
体が、震える。どうしたら、この窮地を逃れられるか。
…………、あっ。そうか、これなら。
「あっーーー!!」
俺は大声を上げ、ミディアの後ろを指さした。
「えっ!?」
ミディアの視線が俺から、後ろへ向く。
い、今だ!!
俺は、ライラに向かって全速力で走る。
「へっ!? わ、わわっ!?!?」
「ご、ごめん!! ライラさん!! ちょ、ちょっとだけ辛抱してくれ!!」
俺はライラを、両手で抱えた。いわゆるお姫様だっこだ。
ミディアが異変に気付き、こちらを向く。
「なっ!? ライラ!? こ、この変態!! ライラを放せ!!」
それは、無理なご相談だっての!!
俺は、今度ミディアに向かって全速力で走る。
「くっ!?!?」
火球を構えたまま、動けないミディア。
よし、俺の予想通りだ!!
「あっ!! ま、待て!!」
そう言われて待つ人はおらんよ!!
俺はライラを抱えたまま、部屋のドアを無理やり通り、右手の真っ直ぐに伸びる道、城の廊下? といえばいいのだろうか、全速力で、ミディアから走って逃げだした。
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