第18話 またも、激突

 カラカラ……、カラ。


 と、瓦礫の崩れるような音がする。


 俺はスッと上を見上げる。頭上には雲一つない青空がお目見えしていた。天井はキレイに丸形にくりぬかれたみたいになっている。きっと紅蓮髪の少女が放った火球が突き破ったのだろう。そして床は、彼女が手のひらに掲げていた巨大な火球の負担に耐えきれず崩れたってとこか。まあでも、俺が派手に城へ突入したときに、床にある程度ダメージを与えていたんだろう、それも合わさって彼女の足元が崩壊して―。


 ふわっと、微かに甘い柑橘系の香りがした。そして、体全体に感じる程よい重圧。

 俺の頭が一気にざわつく。そっと、視線を上から、下に移した。

 俺の両腕のなかで、小柄な体躯の女性が収まっていた、そう、紅蓮髪の少女だ。密着した状態で、女性らしい体の柔らかさをひしひしと感じる。


 彼女と目が合う。

 お互い少しの間、無言で見つめ合ってしまった。


 すると、彼女の顔が見る見る赤みを増していく。そして、目つきが鋭さを増していく。

 俺は慌てて両手を彼女から離した。彼女は、サッと自分の両腕で体を守るよう抱き抱える。あはは……、そ、そりゃあ、警戒するよな。いくら助けるためとはいえ、彼女をハグする形になってしまったから。


 俺は上半身を起こし、彼女に恐る恐る声をかける。


「そ、その、大丈夫か? け、怪我はしてないか?」


 俺のたどたどしい声に、顔を赤くしている彼女が、少しの沈黙の後、口を開いた。


「わ、私は、平気……」

 

 どこかしおらしい雰囲気に、笑いそうになる。だってさ、さっきまでの激しい感情とは真逆だからさ。まあ、でも、ケガしてなくてよかった。まあ、これも異世界保険の能力のおかげか。


俺は立ち上がる。そして、紅蓮髪の少女に、手を差し伸べる。


「えっと、立てるか?」


 彼女の綺麗なルビー色の瞳に、見つめられる。目は丸く見開き、戸惑いの色がどこか感じられる。でも、


「う、うん」


 彼女が、俺の手に、そっと、自分の手を伸ばしたときだった。


 ……………ヒューーーー。


 ん? なんか小さな音が近づいて―。


 頭上を見上げると、少し大きめの瓦礫が、彼女に向かって落ちてきていた。


「あぶない‼‼」

「えっ⁉ ちょ、ちょっと⁉」


 ガン‼‼


「いっ⁉」 


 突如、頭に衝撃。そしてガラコンと俺のそばに転げ落ちた少し大きめの瓦礫。

これ、頭に当たったらめっちゃ痛いよね……。でも、痛み無し。ほんと異世界保険の力があって良かった。


 むにぃ。


「ひゃっ⁉」

「へっ?」 

 

 突如、可愛らしい声が耳に届いた。と同時に、なんだか、やわらかい? 感触が顔に伝わる。というか、ちょっと息苦しい?


 頬に伝わる、バスタオルの感触と、謎の柔らかな感触……、これは、ま!? まさか!?

 一気に血の気が引いていく。

 俺は、咄嗟に彼女に覆いかぶさって、落ちてきた瓦礫をふせごうとしたんだ。瓦礫は俺の頭を直撃し、なんとか防ぐことはできたのだが、その衝撃で、俺は下にまた倒れ込んでしまい、

 恐る恐る顔を上げる。そこには、小さな谷間が、あった。


  むにぃ、っとした感覚を思い出し、俺の顔が熱くなる。こ、これって、俺、彼女の胸に顔をう、うずめて、


 バチン‼‼


「おぶっ⁉」


 床に転げる俺。頬がじんじんと痛い。一体何が⁉ というか痛い⁉ あれ⁉ 異世界保険の力が効いてない⁉ って、いやいや今はそんな場合ではない⁉


 恐る恐る、彼女の方を見る。


 彼女は真っ赤な顔で、両腕でつつましい胸元を押えている。俺は冷や汗がでる。や、やっぱあの感触は!?


 俺の目線が彼女のつつましい胸元に吸い寄せられ―。


「この、ど変態ー‼‼」


 彼女が素早く俺にかざした手のひらから、豪炎が放たれた。


「ご、誤解だ‼‼ ぎゃああああ‼‼」


 俺は豪炎に包まれながら吹き飛ばされた。壁をぶち破り、場外ホームランのごとく外に飛び出したのであった。


ダメージ階級:C×2(地面落下による体の強打、瓦礫による頭強打)

負担ダメージ:2000


ダメージ階級:A(豪炎)

負担ダメージ:6000

 

 ヒットポイント(HP):348万8000/350万


 ※ビンタのダメージは身体損傷の危険外のため、ご自身負担。



視界の端に表示されたダメージをみながら、俺は空に吹き飛ばされ、進行方向に塔がそびえたっていた。


 ハッと我に返るも、


「いっ、いやあああああああーーー⁉」


 ガガゴン‼‼ 


 俺はまた、盛大な破壊音を響かせ、城にある塔に激突したのだった。

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