第16話 危機
「異世界保険って何?」
俺のその呟きに反応し、突如現れたウインドウ画面。
『異世界保険の概要』
前世の日本という国で加入していた「社会保険」が、女神アリーチェの祝福を受け、異世界用に変換されたもの。下記の保障をムラカミは得る事が出来る。
①身体ダメージの3割を自己負担。
身体損傷の危険があるダメージのうち、7割を軽減。残り3割を自身の体が負担する。
②ヒットポイント(HP)の付与と身体ダメージの肩代わり。
ヒットポイント(HP)があらかじめ付与される。身体損傷の危険があるダメージは数値化され、自動的にHPから差し引かれる。
ダメージの数値変換については、別解説を参照。
③最大マイナスHPの負担制限。
一度の身体損傷で差し引かれるHPの最大負担は、8万HPとする。
別解説
身体ダメージのランクと数値変換の内訳。
※アルファベットはランク、()内の数字はHPのマイナス
G (10)
F (100)
E (200)
D (500)
C (1000)
B (3000)
A (6000)
AA (1万)
AAA(5万)
S (8万)
※HPは課金制
「ななっ、なんじゃこりゃ⁉」
社会保険の異世界版⁉ 俺へのダメージは3割で済む⁉ なおかつヒットポイント(HP)がダメージを肩代わり⁉ 一気に押し寄せる情報を必死に整理していく。
つ、つまり、受けたダメージを数値化し、ヒットポイント(HP)から差し引く。げ、ゲームのRPGと同じってことか?
だとすると、あるはずだ。俺が今までに食らった、ダメージ表示が!!
そう思い、ウインドウ画面をくまなく見ると、
あっ! あった!!
ダメージ階級:C×2(火球)
負担ダメージ:2000
ヒットポイント(HP):349万6000/350万
こんな表示が出ていることに気付いた。そして俺は自分の両足を見る。火傷の1つもない両足。
なる……ほど。
俺のHPという数値が、350万から、349万6000と、わずかだが減っていた。あれ? でも計算が合わないな。火球以外のダメージ分が引かれている。これって……、あっ、そういや。
このお城に衝突する寸前、異世界保険の能力が発動、とか出ていた気がする。だとすると、壁にぶち当たったダメージ分がすでに引かれていたってことか。
「ふむ」
俺は、心を落ち着かせる。
なんとか、なりそうだな。
また火球を当てられても負担するダメージは1000。そのダメージを300万以上あるHPが肩代わりしてくれることになる。ほんと、ゲームのRPGで敵からダメージを食らう仕組みと同じだな。そして、この300万以上ある、RPGでいうところの、規格外で膨大なHPが尽きない限り俺は、怪我をすることはない、はず。……いやでも、そう頭で理解していても、火の玉をばんばんぶつけられるのは勘弁願いたい……。てか、この300万以上の数値は、一体どこからきてんだろ? なんか見覚えが……、あっ。
「ま、まさか、これ、俺の貯金額じゃ……」
す、すっごい合致する。だってほぼ同額なんだよ! 毎月給料日に通帳見ては、増えねえなぁ、って嘆いてたからさ!! ほんと、少ないぜ、俺の貯蓄……。で、でも。今はこれのおかげですごく助かった。貯蓄って大事!!
「ふぅー……」
俺は、小さく息を吐き、気持ちを落ちつかせる。
さてと、とりあえずだな……。
紅蓮髪の美少女に、恐る恐る声をかけた。
「あ、あの」
「………………」
彼女はこちらをねめつけながら無言だった。俺は内心びくびくしながら言葉を紡ぐ。
「その、お、俺、怪我しない、というか。か、体が丈夫でね。と、とりあえず攻撃は一旦やめに―」
「あなた、魔法防御が使えるのね」
「へっ? ……、なにそれ?」
俺が素直にそう聞くと、彼女はとげとげしく言い放つ。
「とぼけても無駄よ。よくもあんな、白々しく慌てた様子が出来るもんね。……騙されたわ」
「いやいやいや‼ ちょっと待てって⁉ 違うって⁉ 何かすごく誤解して―」
彼女が、手のひらから、火球を出した。
巨大な火球。運動会の大玉転がしで使われる赤玉を、激しく燃やしたような、豪炎の球。
これは明らかに、1000以上のダメージだろ⁉ で、でも、くらっても大丈夫だとは思う!! HP300万以上あるからねっ!! とはいえ、怖すぎる⁉
「覚悟はいいわねッ!! 変態!!」
「よくねえええええー!!」
紅蓮髪の少女が、大きな火球を放とうとした時だった。
ピシピシッ!!
と、何かがひび割れる音が響き、そして、
「きゃっ!?」
紅蓮髪の少女の足元、床が、盛大に、一気に崩れた。
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